越後からの使者 雑賀衆崩壊
元亀二年(1571年)十一月
月山富田城
あれから数ヵ月が経ったが、織田に動きがある報告は無かった。そんな中、遠く越後から使者が来た。
「上杉家家臣、直江景綱と申します。此度は主上杉不識庵様から書状を預かっておりますのでどうぞこちらを」
と書状を渡してきた。
俺は書状を読むと興味深いことが書いてあった。
書状には、
我は先代将軍、足利義輝様には恩がありそれに歯向かった貴殿を許しはしない。しかし、今の将軍足利義昭には何の恩も無く、また我らの状況を知らぬのに織田を討てとばかり手紙を送ってくる始末。我らは今の幕府には従わない。
近衛殿からお主に、協力してくれと書状が届いたが足利義輝公に歯向かった貴殿に協力するつもりは今はない。しかし、近衛殿より頼まれた故、貴殿を見極めた上で決めるとする。年が明け、雪が解けた頃そちらに伺うゆえ首を洗って待っておられよ。
と、喧嘩を売ってるのか、協力しようとしてくれてるのか分からない書状だったが幕府には従わないことには驚かされた。
「景綱殿は書状の内容は知っておられるのか?」
「いえ、知りませぬ」
内容を知ってたら絶対止めただろうな。
「謙信殿は我らを討ちに来るようだがどうなのだ?」
と書状を見せると目玉が飛び出るくらい驚いていた。
「あの方はまたこんな...」
景綱を見ていて一人の人物を思い出した。
細川藤孝殿だ。
あの人も将軍に振り回されていたので重なって見えてしまった。
「相手となるならこちらも容赦はしませんよ」
景綱は溜め息をつき
「恐らくと言うか本当にここにやって来られるおつもりですので、申し訳ないですがよろしくお願い致します」
と頭を下げていた。
「分かりました。用意してお待ちしましょう...。しかし、大変ですね~」
と簡単に労っておいた。
元亀三年(1572年)二月
信長が動いたと知らせが来た。目標は比叡山と紀州だ。
まさか同時侵攻するとは思わなかったから聞いてから驚いた。
比叡山には織田信長、柴田勝家、明智光秀、などが攻め、紀州には
細川藤孝、羽柴秀吉、丹羽長秀、松永久通などだった。
ちなみに久秀は仮病を使って久通を送ったらしい。
「あれだけ、雑賀衆を使ってたから仕方ないか」
孫一は既に紀州に戻っているらしい。まさか、防衛を頼んでいた根来衆が裏切るとは思ってもみなかったのだろう。
「しかし、両方あわせて六万とかよう集めたな~」
今回一番驚いたのは前まで三万足らずの、兵を六万にまで増やしていたことだ。
「殿、毛利家から使者が参っています」
「わかった、直ぐに行く」
恐らく、今回の信長の行動についてだろうなと思っていたが違った。
使者は隆景殿だった。
「お久しぶりにございます。此度参ったのは毛利と尼子の連携に関してにございます」
「隆景殿は織田の動きを聞きましたか?」
「いえ、まだ知らせは来ておりませんが」
そう言うので織田が比叡山と紀州攻めを始めたことを伝えた。
「動き出しましたか」
隆景は今後の動きを予想した。
「比叡山と紀州が落ちれば次は浅井、朝倉と石山本願寺でしょうな」
隆景と同じ考えだった。動員数を考えれば同時に相手できる規模だからだ。
俺は頷いた。
「しかし、比叡山が落とされれば武田が動き、馬..将軍が決起するだろうな」
俺は予想を伝えた。
「しかし、武田が動きますかね?一応同盟国のはずでは?」
「同盟破りで有名ですからな。それに同盟していないで食いやすい所が目の前にありますからね」
と言うと隆景は気がついた。
「徳川を、攻めると思いですか」
「ええ、恐らく攻めるでしょう」
隆景は今なら織田を潰せるのでは?と
「尼子は動かないのですか?」
尼子が盟約を破り動けば京から織田を排除出来ると考えていた。
「盟約がありますからね。それに今動いては馬鹿に変な勘違いをさせますしね」
もう、将軍のことを馬鹿呼ばわりしているのは気にしないことにした。
「もし将軍が追放されたらどうするつもりですか?」
隆景は、一番気になったことを聞いた。
「うちに来たら隠岐に閉じ込めるか九州の大友に送るかかな。大友は帝の勅を無視して貿易を続けているからな。二人揃って朝敵になってもらう」
酷いことを考えると思ってしまった。
「そうですか...もし、毛利に来たらそちらに引き渡しますので好きにしてください」
隆景は幕府には触れないことにした。
元亀三年(1572年)三月
悲惨な報告を受けた。紀州は一ヶ月も持たず、撫で斬りにされたと。
根来衆が、裏切った為に防衛もまともに出来ず、鈴木佐大夫は降伏する為に一人織田に向かったが、降伏は認められられず雑賀衆の見えるところで惨殺されたそうだ。
当然、孫一達は怒り織田に仕掛けたが土地勘のある根来衆のせいで逆に殺られたそうだ。
雑賀郷の村にある村は焼かれ、戦った雑賀衆だけではなく年寄りや女子供まで居る者は皆殺された。
生き残った者は石山本願寺まで命からがら逃げ込んだ。
孫一は負傷したが仲間に守られて生きていたが、土橋は行方不明、岡は殺されたそうだ。
本願寺の顕如からも今回のことにはどうにも我慢できないので決起すると、書状が送られてきた。
久秀殿からも書状が送られてきて、一部の雑賀衆を匿っていると来た。
表向きは久秀直轄の鉄砲隊としているとあった。それでも助かった雑賀衆は五百人も居ないそうだ。
こうして紀伊は制圧された。
その頃孫一は仲間に無理やり連れてこられた本願寺で療養していた。
肩を撃たれ、背中を切られていたのだ。それで、父親である佐大夫の敵を討とうと這いずりながらも織田に向かおうとしていた。
「信長~、必ず、必ず殺してやる!!」
「孫一!!寝てないと駄目だ!傷が開く!」
そんな孫一を見つけた仲間達は孫一を止め、部屋に戻そうとした。
「離せ!離せ~!信長を!信長を~!」
孫一は無理やり部屋に戻された。
「孫一殿の怨みは深いでしょうな...」
別室で孫一の声が聞こえていた顕如と頼廉は二人で話していた。
「まさか、紀州であのような惨劇が、起こるとは...顕如様、我らにも責任の一端があるでしょうな...」
頼廉は雑賀衆を巻き込み多くの者を殺されてしまったことを悔やんでいた。
「亡くなった者は全て御仏の元で安らぎを得るでしょう。我らはあの仏敵を何とかせねば...」
顕如は何としても信長を討たねばと心に誓った。




