帰還と謀神の最後
元亀二年(1571年)七月末
俺達は出雲に帰還することにした。
信長とは会うことが出来なかったが朝廷との繋がりはかなり深く結ぶことができた。
「さて、目的は達したが帰りほど危ないものはないな」
今は京におり六万もの兵士達がいたから手を出してこなかったが、戻るまでに何かしてくるのではと考えていた。
「忍衆全員護衛に回っております」
「兵士達も集まるように指示しています。織田家には使いをだし帰還することを伝えておきました」
久経は、村井貞勝に連絡していた。
「それでは、三日後出雲に帰還する」
「ははぁ!!」
こうして約三ヶ月の滞在が終わった。
帰りには、織田家から丹羽殿が来て見送ってくれた。
無事に因幡まで着くと倫久が出迎えてくれた。
「兄上お待ちしておりました。義姉上から手紙を預かっております。兄上に直ぐに渡してほしいと」
そう言って書状を渡してきた。
俺は読んでいくと...
「はぁぁぁぁ!!」
「どうされたのですか!!」
久経が聞いてくる。
「子供が生まれていた...」
「はい?」
久経はえっ?ってなっていた。
「だから、俺の子供が生まれていた」
秋からの書状によると前から身籠っていたが俺が忙しく伝えられなかった。七月中旬に出産し、男の子が生まれたと、書いてあった。
「殿、おめでとうございます!!」
「そうですよ兄上!!目出度いではないですか!!」
周りの者も祝いを言ってくる。
「俺としては立ち会いたかったんだがな..」
「兄上、早く帰ってあげて下さい」
「殿、兵士達は私や久家、幸盛達と対応しておきますのでお先にお帰り下さい」
久経はそう言って軍をまとめにいった。
俺は忍衆と共に先に戻り秋の元に向かった。
月山富田城
「秋はどこにおる!」
「殿、落ち着いて下さい!」
俺は秋を探した。すると秋の侍女が来た。
「殿、少し静かにお願いします。秋様は産後の肥立ちが悪くお休みになっています。こちらにいらっしゃいます」
と案内をした。
秋は寝ていた。
「子供はどこか?」
俺は侍女に聞くと、秋様の命で一時的に乳母を付けているという。
子供を見に行ったが丁度眠っていたので後で会いに行くことにした。
その日の夕方、秋が起きた。
秋は周りを見て驚いた。義久が側で座ったまま寝ていたからだ。
「殿」
秋は起きて義久を起こす。
義久はまさか、自分が寝ていたとは露も思わず、
「秋、起きたか...よく眠っておったな」
と言ったので秋は軽く笑ってしまい、
「殿こそお疲れだったのに申し訳ありません。よく眠っておられたのですが起こしてしまいました」
義久は、えっ!って顔になっていた。
その時初めて寝ていたことに気がついた。
「秋、身籠ったなら伝えてほしかったぞ」
寝ていたことが恥ずかしくなり言った。
「申し訳ありません。色々忙しそうでしたので伝えられませんでした。子は...」
「侍女から聞いた。乳母に預けておるのだろう。先程見に行ったが眠っておったのでまだきちんと会ってはいない」
「では、会いに行きましょう。我が子なのですから」
と秋は立ち上がり義久と乳母の元に向かった。
そこにすやすや寝息をたてて眠っていた我が子がいた。
「殿。この子にも、名前をつけて下さい」
秋は言うが俺はもう決めている。
「この子の名前は長寿丸だ」
それを聞いた秋は驚いた。
「殿その名前は父上の幼名ですが」
「読みは同じだが漢字が違う。元就殿と儂の幼名から名付けた。何か問題でもあったか?」
と秋に聞いたが何の問題もなかった。
翌日
客人が来ていた。
北畠具教とその子供と配下だった。
なんと、上洛をした俺達と入れ違いで来ていた。
なので、五ヶ月近くが経っていたのだった。その間全てを察した宇山久信が面倒を見ていたらしい。代わりに、剣術指導も受けたそうだ。
「まずは、謝罪させていただきたい。まさか入れ違いになるとは思いませんでした」
俺は頭を下げる。
「それは、こちらこそです。使いを出さずに申し訳ない」
具教も謝ってきた。
「さて、こちらに来られたということは受けてもらえると言うことでよろしいでしょうか?」
「はい。ここで兵士を鍛え信長の首を取ってみせましょう」
具教は信長から受けた屈辱を返すつもりのようだ。
「分かりました。私の最強の部隊である鬼兵隊の所に参りましょう」
俺はそう言って具教達を訓練所に連れていった。
そこでは十人組手を行っていた。
しかし違うのは全員が鎧を来て木刀か木槍を持っていることだ。
容赦なく実践形式での訓練にしていた。
これを見た具教は驚愕し、
「兵に殺し合いをさせるのですか!!」
と言うくらいきついものだった。
「これが私の誇る最強の部隊の訓練です。兵士全員が一人で同時に十人まで相手をできます」
それを聞いて具教は驚いたがこんな訓練していたら出来るかもしれないと思ってしまった。
「この兵士を私に預けてくれるのですか?」
具教はこれがあれば勝てると思った。
「全員で五千名いますが具教殿には二千名を預けます。もし更に必要なら募集し、一から育てて下さい。私も居なくなった二千名分を集めますので基礎訓練はこちらで行いましょう」
「分かりました。よろしくお願い申し上げます」
具教は深く頭を下げた。
具教の部隊が尼子最強の切り込み部隊になるのは後の話だ。
城に戻ると毛利から急使が来ていた。
元就の状態が危ないが俺を呼んでいるので直ぐに来てくれとのことだった。
俺は秋と共に吉田郡山城に向かった。
城に着くと隆景殿が待っていて、直ぐに案内してくれた
話によると三ヶ月前から床についたままだといい、あと数日だろうと言われていたそうだ。
俺と秋が部屋に入ると元就の子供達や孫達がいた。
「父上、秋と義久殿が来られましたよ」
隆元が元就に伝えると、秋の名前を呼んでいた。秋は涙を流しながら手を握っていた。しばらくすると、元就が隆元に人払いをさせた。残ったのは隆元、元春、隆景、と俺が残った。隆元が支えて元就は体を起き上がらせると
「義久、よう来た。京はどうじゃった。」
「よく再建されておりました」
「そうか、それで尼子は天下を狙うのか? 」
直球で来た。
「それはまだ分かりません」
「嘘を申せ。既に謀略を仕掛けておろう」
一瞬見抜かれてるのかと思ったが
「なんのことでしょうか?私は公家の方に挨拶をしたまでですよ」
「本願寺や大和の松永にも会いに行ったと聞く。織田と対決するつもりであろう」
もう、読まれていると判断して今度はきちんと答えた。
「ええ。織田に従っていたら使い潰されるのが分かりました。我が領地、民を守るにはそれしかないので。我が領地を荒らすなら..誰一人生かして帰しません」
俺は普段見せない裏の顔になっていた。
そう、謀略等をする時の顔に。
その顔を見た息子四人は驚き、元就は
「やはり、鬼か。経久と同じじゃな。いや、ワシもそうなっておったのかもしれんな...」
元就は昔のことを思いだし、
「名将と呼ばれる者は皆、悪徳と背中合わせに生きておる。そう経久は言っていた。お主も経久と同じ道を歩むつもりか?」
「曾祖父がどのような道を行ったか分かりませんが、民の為になら地獄に落ちるのは本望です」
元就は悩んだ。毛利家の為にどのような選択をすべきか。一つはこの場で義久を殺し、尼子と交えて戦に勝つ。もう一つはこのまま、同盟を密にし、共に歩む道。
一つ目は危険が大きい。討ち取るのは容易いが戦では負ける可能性が高い。この十数年で、大きく差を広げられた。
二つ目は尼子との戦と言う危険は少ないが、長い戦に巻き込まれる可能性が高い。
「隆元、お主はどうしたい」
元就は隆元の考えを聞いてから決めることにした。
「私は毛利家存続と民を守れたらいいです」
「それは長く戦が続く可能性があったとしてもか?」
「どういうことですか?」
「尼子が天下を狙うということは、背中を毛利が守ることになってしまう。大友や四国から攻めてくるかもしれん。それでも同じことが言えるか?」
隆元は悩んだ。隆元自身は戦の無い平穏な今の状況を守りたいと思っていた。尼子を裏切っても裏切らなくても戦に巻き込まれる可能性があると言われどう動くべきか悩んでいた。
義久が言うように平穏のために戦うか、それとも中立を保って時代に身を委ねるか。
「今の平穏を守る為なら戦います。しかし、私から攻めることはしません」
「それは尼子の背を守るということか?」
元就はできるだけ威圧して言った。
「はい」
隆元は決意した。
毛利の平穏を守るために戦うと。
「...分かった。好きにせよ」
元就は後のことは残った者達に任せることにした。
「元春、隆景、隆元を補佐してやれ。三本の矢を忘れるでないぞ」
「はい」
「疲れたから少し休む...」
元就は横になり、休むのであった。
それから二日後、皆に囲まれ静かに息を引き取った...。




