帝との謁見
元亀二年(1571年)六月末
京の拠点に戻ると山科言継様が顔を赤くしてニコニコしながら待っていた。
「帰ってくるのが遅いので待ちくたびれたぞ」
と酒瓶を持って座っていた...。
「...遅くなってしまい申し訳ありません。しかし、その分手に御持ちの物はよく呑めたのではないでしょうか?」
と皮肉も込めて言うと確かにそうだと答えていた。...酔っておられるな。
「さて、ここに来たのは帝の件でな.....」
「...?」
何も言われなくなったので失礼ながら顔を除くと寝息を立てて寝ていた...。
仕方がないので寝かすことにした。
翌日、昨日の記憶を失くしていた。
「昨日はなんかあったようだが、帝との謁見について伝えに来た」
「僅かな時間だが謁見出来ることになった」
「本当にございますか!!」
「本当だ。謁見は明日だ」
「明日!!」
俺は驚いて後ろに倒れかけた。
「そなたが帰ってくるのが遅いからじゃ。とりあえず伝えたぞ。後、お主を父親と同じ従四位下、修理大夫にしたから、お礼を忘れるでないぞ」
嵐のように去っていってしまわれた。
「....はぁ~!!!」
何だかんだで官位を貰うことになった。
翌日
俺は皇居に来ている。
謁見の間で伏して待っていた。
扉が開く音がし、帝と思うが前にある席に座ったのが分かった。
「その方が尼子義久か?」
「発言を許可する。申せ」
入ってきた時にはいた関白二条晴良が言う。
「ははぁ!源朝臣尼子義久にございます。此度は私の様な者の為に時間を割いていただき誠に恐悦至極に、存じます」
「顔が見えぬ。面をあげよ」
「はよ、面をあげよ」
そう言われ顔をあげた。
「その方の献上の品々誠に見事であった。あれはそち達が作ったのか?」
「尼子義久、答えよ」
いちいち、間に関白が間に入ってくる。
「はっ、我が領地の鍛治師達が作り上げた物にございます」
「まこと見事な物を作るのだな。お主を従四位下修理大夫に任じた。今後は言継を通さず自ら持って参れ。」
「ははぁ!」
俺は深く頭を下げた。
「そなたから余に何か願いはあるか?」
「陛下!そのようなこと!」
晴良が遮った。
「恐れながら陛下!前関白近衛前久様から書状を、預かっております。どうか受け取って頂きたく存じます」
と伏したまま伝えた。
「貴様!発言を許してはおらぬぞ!」
晴良が怒鳴るが
「良い!」
帝が止める。
「近衛からの書状を見せよ」
「しかし陛下、奴は...」
「余は願いはあるかと言いその者が答えた、それだけじゃ。見せよ」
晴良は嫌々ながら受け取り陛下に渡した。
陛下はその場で書状を読まれていたが
「なんじゃと!」
突如驚愕されていた。
「陛下、いかがされました!」
「その方、この書状の内容は知っておるか?」
「いえ、近衛様から預かっただけですので見ておりません」
俺は預かっただけで中身は見ていないと伝えると書状を読むように渡してきた。
書状には俺が説明した南蛮のことや日ノ本の民が奴隷として連れていかれていることなどが書かれており、最後に俺が説明すると書いてあった。
「さて、読んだな。なにゆえに日ノ本の民が奴隷として連れていかれているのか説明せよ」
俺は、前久や顕如に説明したことをそのまま伝えた。
「九州では大友などが積極的に南蛮に奴隷を売っているとのことです。硝石一樽に対して奴隷五十人と聞いております」
「そんなにもか!!」
「貿易を禁止にしては反発は強くなります。奴隷取引のみ禁止にすべきと伏してお願い申し上げます」
「キリスト教も禁止すべきでは?信長が保護しておりますが勅命を出せば...」
晴良はまずそうに言うが
「恐らく、聞くことはないと思います。信長は南蛮人の持つものに凄く興味を持っております。布教を認めることでそれらを手にしております。禁教は返って危なくなると思います」
「なにゆえじゃ?」
帝は直ぐにでもキリスト教を禁止する勅を出そうと思っていた。
「今禁教令を出せば、南蛮の勢力が一気に攻めてくる可能性があるからにございます。今、攻めてこられたら抵抗する術がございません。なので、悔しいですが布教は認め奴隷商売に関わった者や宣教師を皆打ち首もしくは国外追放にすべきと具申致します」
帝は何とかして日ノ本の民を救いたいがその力がないことを悔やんでいた。
「よかろう。その方の考えに乗ろうではないか。もし、大名が破れば朝敵としよう。二条よ、勅命を出す準備をせよ 」
「ははぁ!」
「もし、破る大名がいればそちにも働いてもらうぞ」
「ははぁ!我ら尼子家、勅命が下りましたら陛下の剣となり盾となり朝敵を討ち果たしまする!」
こうして、帝との謁見は済んだ。
数日後
帝こと正親町天皇は勅命を全国の大名に出した。
内容は、
キリストの教えを布教するのをそれぞれの大名が決めることを認めるが、奴隷貿易を固く禁じ、それに関わった者は誰であれ打ち首もしくは国外追放とする。これは大名も宣教師も関係ない全ての者を対象とする。
また、大名が行った場合は朝敵とする。
という勅命だった。
この勅命に、一番驚いたのは大友ではなく信長だった。
本能寺
「...これはどういうことか?」
手が震えていて、物凄く怒っていたのが分かった。
「ちょ、朝廷より出された勅にございます」
「そんなの見ればわかるわ!!どうしてこんな勅が出たのか!!」
村井貞勝は怯えていた。
「に、二条晴良によれば、尼子義久が帝に献策したとのことにございます」
また、尼子義久が出てきたことに怒りが頂点に達した。
「また、尼子義久か!!貴様ら揃いも揃って何をしていた!」
「よ、義久は朝廷から呼ばれたので我らに止める術はございませんでした」
貞勝は、怯えながら答えていった。
「もうよい!あの者を始末せよ!」
「と、殿!それだけはなりません!京には尼子勢六万がいます。もし失敗すれば我らの方が負けまする!」
貞勝は必死に止める。
「糞が!!」
信長は義久がいらんことをするのに我慢ならなかった。
信長が荒れている頃義久の元に意外な客人が来た。