京の都 摂関家への接近と、忍狩り
元亀二年(1571年)四月
やっと、京の中に入れたがその変貌ぶりに驚いた。
「殿、此処があの廃れていた京の都なのでしょうか..」
以前来ていた久綱や久経は驚いていた。
「織田の金の力であろう」
俺は油断は出来ないと思った。
俺達は、佛光寺を拠点とした。
「貴方がここの住職か。此度は申し訳ない。滞在する間よろしくお願いします」
と、住職に騒がせたことを謝罪した。
「いえ、我々としてもあんなに寄進していただき感謝の念しかございません」
「それと、頼んでおいたことについていかがでしたか?」
俺は来てすぐに石山本願寺の顕如に会いたいと言うことを伝えていた。そこにいるもう一人の重要人物と共に。
「申し訳ありません。まだ使いが戻ってきておりません」
「そうですか。急かして申し訳ない」
そう言って部屋を出た。
「殿、なぜここにしたのですか?」
久綱は聞いてみた。義久が始めからここに決めていたからだ。
「石山本願寺との繋がりの強化のためだ」
「反織田になるのですか!!」
「いや、それは織田が手を出した時だ」
「それでは、なにゆえに本願寺に通じるのですか!」
久綱は焦った。下手をしたらすぐに織田の刺客が押し寄せてくると思ったからだ。
「秀綱が残してくれた縁を取り戻す為だ」
久綱は山科言継と繋がっているが、秀綱は亡くなるまでにある大物と繋がっていた。その縁をなんとしても取り戻したいのである。
久綱は誰のことか分からなかった。
「一体どなたなのですか?」
「摂関家の一つ、近衛家だ」
本願寺からの、返答が来るまでに山科言継に挨拶してきた。
「山科様、お久しゅうございます」
「調停以来よのう。義久殿も元気そうじゃ。毎回贈り物、忝ないのう」
俺は二月に一度の間隔で贈り物として清酒や米、干し椎茸、銀でできた工芸品などを送っていた。
「いえいえ、山科様には御世話になりましたのでそのお返しです」
「そうか、それで誰を紹介して欲しいんかいな
?」
まさか、言ってくるとは思わず驚いてしまった。
「流石に、分かってましたか...」
「そりゃ~あんだけ送られたら誰でも分かるわい」
言継は、当たり前やと言ってきた。
「帝と摂関家の九条様で」
「帝は簡単に予想ついたがなんで九条や?」
言継は帝は予想出来ていたが、九条の理由が分からなかった。
「近衛様とは別の縁がありましたが繋ぎをしていた家臣が亡くなってから切れてしまい、九条様はまだお若く長い付き合いが出来ると思いましたので」
言継は説明を聞いて半分納得したがまだ裏があると思っていた。しかし、これ以上踏み込むつもりもなかった。
「銀細工の特にいいものは私を経由して帝への献上品として渡しておる。かなり細かい細工だったので大層喜ばれておった。ぜひ一度会ってみたいと申されるほどにな」
「そこまで喜んでいただけるとは作った者が聞いたらさぞ大喜びでしょう」
「帝にお会いしてみたいか?」
言継はニヤリと微笑む。
「叶うのであればお願い致します」
と伏して礼をした。
「少々金と時間がかかるがよいか?」
「是非ともよろしくお願い申し上げます」
「三千貫と銀の装飾を用意してくれ。そうしたら会わせられるようにしてみせよう」
そう言われて、僅かに悩んだがこの機を逃す訳にはいかないと思い承諾した。
数日後、頼まれた物に清酒も追加して言継に渡した。
元亀二年(1571年)五月
二条御所
足利義昭
尼子が京に来て半月くらい経ったが一向に幕府に挨拶に来ない。
「尼子は何をしている。何故、幕府に来ないのだ!!」
義昭は大声をあげていた。
「恐らく、前公方の時のことがあるので来ないのでしょう」
藤孝は分かりきったことを伝えた。
「あれはワシではなく兄上がしたことではないか!!ワシには関係ないではないか!!」
藤孝は呆れていた。
「幕府と手を切る」
と、堂々と宣言してそれ以降幕府に全く関わろうとしないにも関わらず手紙を送り続けたのだから、怒りが頂点に達していることが分からないのか、この将軍は...
藤孝は精神的に参っていた。
「藤孝!すぐに尼子の所に行き余の所に来るよう言って参れ!」
義昭の命令に渋々従うのであった。
「もう次何かしでかしたら離れよう...」
藤孝は決心したのであった。
一方の本能寺では。
織田信長は、なんとか起き上がれるようにはなっていた。しかし、まだまともに立つことはできなかった。
「尼子の様子はどうか?」
信長は面倒な時に来た尼子のことが気になって仕方がなかった。
「はっ、家臣に対してはなんの問題もありません。しかし..」
「しかしなんだ?」
「はぁ、尼子義久につけた忍びは全員捕まり送り返されて来ました」
と、帰ってきた時に渡された書状を渡した。
それを見た信長は真っ赤になった。
書状には
「そんなに気になるならご自分で来られたらいいものを。ここは織田の領地ですので無益な殺生は致しません。なので、全員送り返させていただきます。そんなに忍で知りたいのでしたらもう少し手練れを送って下さい。配下が相手にならんと暇をしていますので...尼子義久」
「おい...忍びは何人送った...」
「は、はい。ぜ、全員で三十名です」
運悪く報告をした、堀秀政は今すぐこの場から逃げ出したかった。今まで見てきた中で一番怒っているのが分かったからだ。
信長は怒りが頂点に達しそうだった。一つは義久の挑発、もう一つは自分の領内を他家の(主に尼子の)忍が好き勝手していることだった。
「織田家の忍を全員集めろ...京にいる忍を一人残らず捕らえろ。特に尼子の忍をだ!!」
「と、捕らえた後はどうするのですか?」
政秀は恐る恐る聞いてみた
「決まっておろう。全員首にして義久に送りつけてやるわ!!」
これにより、京にいる忍びは一掃された。
尼子の忍びは堂々と護衛をしている者を覗いて大和の松永殿の所に避難させておいたので犠牲者は無かった。とある情報筋からの情報が入ったお陰だ。
ちなみに送られてきた首は二十ほどあったが丁重にお返しした。
尼子の忍の首が無いことに信長は激怒したと聞いた。




