閑話休題 武者修行二人
閑話休題は時々入れていきます。
また短いのでその日は二話出すことになります
元亀二年(1571年)四月
秋上久家は柳生宗厳のところで修行していた。
秋上久家
あれから三年が経った。今では宗厳殿の門下生の中でも一位二位を争っている。
この三年多くの者と競い武術を鍛えてきた。今では宗厳殿の相手が出来るほどになった。初めて対決した時のことを考えればかなり上達した。それに、この修行のお陰で多くの人物と交流を深めることができた。
北畠具教様、剣聖上泉信綱様、宝蔵院胤栄殿、丸目長恵殿、そして塚原卜伝様。上泉様と塚原様に御相手していただいたが手も足もでなかった。特に卜伝様相手の時、一歩も動かずに負けた。立ち会いの時構えておられなかったので
「構えろ!」と、つい怒鳴ってしまった。
そしたら構えて貰えたが、一瞬で死を覚悟した。卜伝様が構える前は何もなかったが、構えた瞬間、「絶対に切られる!」と分かってしまった。
卜伝様によれば
「相手の力量を見極めるのは大事。しかし、気圧されてはいかんぞ」と笑いながら説明して下さった。
上泉様の相手の時は卜伝様のお陰で動けたが、五太刀で負けてしまった。それでも、五太刀まで持ったのは珍しいと言われた。上泉様からも素質は十分と御墨付きを貰えた。
その、上泉様に三ヶ月間鍛えてもらえたから宗厳殿に追い付けたと思っている。
もうじき免許皆伝の為の試験だ。
これを取り、義久様の元へ帰ろう。
そういえば、幸盛の奴は大丈夫なのかな?
幸盛は興福寺で槍術を習っている。剣より素質があるので御借りしたいと胤栄殿に言われて残った。もう、三年になる。
そんな幸盛は興福寺で他の門下生相手に指導していた。
「ほらそこ、もっと強く突かんか!!そんなんでは敵を討ち取れないぞ!」
幸盛の怒声が聞こえる。
幸盛は興福寺で修行を始めて二年目には門下生の誰一人相手にならなくなっていた。
すぐに、師である胤栄に相手を頼んだ。試合は幸盛の怒濤の攻めから始まった。胤栄は何食わぬ顔で全て捌き、隙をついて攻めてきた。
「うおぉ!」
隙を着かれて体勢を崩しかけるがなんとか持ち直す。そこに胤栄の連打が来て負けた。
「あんたは攻めの時は強いけど、隙を着かれたら脆くなりすぎる。他にも...」
と胤栄の説法並みに長い説明が始まった。
一刻半後
「...せやけど、守り方や返しを覚えることが大切や。わかったかいな?」
「...はい」
やっと長い説明が終わった。
「ほな、私の代理をしなさい」
「...は?」
幸盛は何故と思った。
「攻めの方は私と互角やろ。守りがてんで駄目な訳や。やから、私が居ない時に皆に教え、どこに隙があり、どうやって守るか見極め学びなさい」
と言って戻ってしまった。
それから、ずっと代理をやって来た。
胤栄がいる間は相手をしてもらい技を磨いた。
「一日でも早く強くなって殿のところに戻らなければ...」
幸盛は嘘かほんとか分からないが織田と尼子が戦になりかねないと噂を耳にした。ほんとならお家の一大事。こんなところにいる訳にはいかなかったが、殿に免許皆伝してから戻ると言ってしまったのでその約束は守りたいと思いこれまでやって来た。
幸盛は再度、胤栄に試合を申し込んだ。
胤栄も今の幸盛なら負けるかもしれんと思うくらい上達していることを分かっていた。
試合を承諾するとすぐに行った。
試合は三年前とは違い、幸盛はすぐに攻めることはしなかった。睨み合いが続き先に動いたのは胤栄だった。
胤栄は隙の無い幸盛の守りがどこまで上達したか確かめてみたくなった。
隙をついて攻めると前回とは違いきちんと対処してきた。これには胤栄も「上達したな」と内心喜んだ。
連続で攻めてみたがきちんと守りきっていた。
次は攻めてこいと守りに入ってみたら前回とは比べ物にならない猛攻が来た。これには胤栄も捌くのに苦慮した。
一瞬、一瞬だが胤栄に隙が生まれた。
幸盛はそこを見逃さず一気に攻めた。
胤栄は負けたなと思った。
幸盛はやっと胤栄に勝つことに成功したのだ。
まだ、一勝だが初めて師に勝った喜びはすごかった。
「とうとう負けてしもうたか...」
胤栄は負けてもいつもの様子だった。
「後は日々精進するのみやな...私が教えれることは無くなってしもうたわ」
「それで、これからどうするんや?」
と胤栄は聞くと
「久家と合流して殿のところに帰ります。今までありがとうございました」
と深く礼をした。
「そうか...残って皆を鍛えもらいたかったけどしゃぁーないな」
と言い近くにいた小坊主に何かを取りに行かせた。
しばらくすると一柄の槍を持ってきた。
「これは私の十文字槍。持って行きんさい」
と幸盛に手渡した。
「これで、宝蔵院流槍術免許皆伝や」
「長い間大変お世話になりました」
「ほな、達者でな。宗厳殿に宜しゅうな」
と言い戻ってしまった。
幸盛は荷物をまとめて、久家のいる柳生宗厳のところに向かった。