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天下動乱 信長の死?

元亀元年(1570年)十月

月山富田城

今、俺達は情報集めに奔走している。

「その情報は確かなのだな!」

俺は大声で千代女に確認した。

「歩き巫女達の連絡では間違いありません」

何があったかと言うと第一次石山合戦で信長が討ち死にしたかも知れないと言う情報が入ったからだ。

わかっているのは、始め織田についていた雑賀衆と根來衆が、本願寺顕如が対織田戦に参戦を決め三好三人衆の方へ味方したことにより、織田を裏切り強襲したという。

織田、幕府連合軍は総崩れになり撤退したが、その最中雑賀の鉄砲隊が撤退する信長に鉄砲を撃ち込んだら信長に当たり落馬したそうだ。

落馬した信長は動かず、首を取ろうとしたが家臣に運び去られてしまったらしい。

それ以降信長を見た者はいないらいし。

しかも、織田家から朝廷を通して和議を求めているらしい。

わかっている織田軍の動きは

石山本願寺、三好三人衆の相手に、幕府軍(細川藤孝、和田惟政など)と松永久秀、佐久間信盛などが対応。

朝倉、浅井、比叡山に明智光秀、木下秀吉、柴田勝家などと徳川軍が対陣している。

六角のゲリラ戦には滝川一益が相手をしているらしい。

「なんとしても信長の生死を確認させろ。場合によっては天下が更に乱れるかもしれん。忍び衆も何人か送れ!」

俺は、もし信長が死んだのなら天下を目指すことも考えた。


一方織田家でも混乱していた。

丹羽長秀から信長の命令で「朝廷に和睦に動いて貰え」とのことを最後に信長の情報が全く入らなくなったからだ。

「長秀はなぜ、信長様の安否を知らせないのだ!」

怒号を発しているのは柴田勝家だった。

「他国に情報が漏れるのを防ぐ為とは言え、私達重臣にも内密とは些か不思議ですな」

そう分析するのは光秀だ。

「信長様の命とは言え、何も知らされぬではかえって兵士が不安がるではないですか」

秀吉が言うように実際に信長が撃たれたことは広がっていて兵士の間でも死んだのでは、という噂まで出始めていた。

「将軍義昭様も、頻繁に信長様に会わせろと言ってきてますしね。今は藤孝殿と林殿が押さえておりますがいつまで持つか分かりません」

「柴田様まで知らされないとはどこまで知ってる人がいるのでしょうか?」

「確実なのは近習衆の堀達と丹羽殿でしょう。他で知ってそうなのは林様位ですか。朝廷に隠しだてしてはまずいかもしれませんので」

「今は、命令を守るしかないのか...」

勝家は怒りを押さえて、目の前の浅井朝倉連合の、対応をすることにした。


京 二条御所

「まだ、信長の生死は分からんのか!」

義昭は喜びと焦りの両方だった。

まず、喜んだのは信長が死んだかもしれないので自分に命令する者が居なくなって喜んだが、三好三人衆に負けたことで幕府自体危うくなってしまって焦っていた。

「何故、信長に会えんのか!早くせねば三好三人衆が来るではないか!」

義昭は怒鳴り散らすがどうにもならなかった。


京、本能寺

ここに信長が運び込まれたが厳戒体勢の為忍び込むことも不可能だった。

本能寺は織田勢三千の兵士で完全に守られ、内部の情報は手に入らないようになっている。


「信長様、本当に情報を伏せてよかったのですか?」

秀政が聞いてくる。

「今のワシの状態を知れば敵対する者が一気に攻めかかってくるであろう。それはなんとしても防がねばならん」

「しかし、丹羽様を除く重臣の方は信長様の生死を知りません」

「どこで情報が漏れてるか分からない以上、最小限に留めるしかない」

信長は鉄砲を肩、腹、足に食らっていたが奇跡的に生きていた。しかし、今はまともに動けない、と言うか起き上がることさえ出来ないでいた。

「医師が言うには半年は起き上がることは不可能だろうと言われましたからね」

「動けるまでに一年だったか...そこまで悠長にはしておれん」

「信長様、長秀様が来られました」

「殿、本願寺と三好の方はなんとか和睦になりそうです」

長秀は和議の状況を知らせた。

「浅井朝倉はどうだ?」

「それが...殿が直接来たなら和議を結ぶと」

「よほど、俺のことが気になるか...」

「いかがしますか?」

「その条件を変えることは出来るか?」

信長は、考えていた。

「朝廷を挟んでいるので難しいと思われます。朝廷からも殿の安否を気にする使いがよく来ますので」

「長秀、和議を引き伸ばせ、最後は俺ではなく奇妙を行かせるようにせよ」

「若様をですか!」

「そうだ。しかしそれは最後の手だ。恐らく、奇妙を行かすと言うとワシが死んだか重症なのがバレるだろう」

信長は、最悪バレるのも仕方ないと判断した。その上で時間を稼ぐことにしたのだった。

「分かりました。それと、柴田殿達重臣にはいつ伝えますか?これ以上は限界でございます」

長秀は勝家がいつ突撃してくるか気が気でなかった。

「後、一月持たせよ。そうした後は重臣のみに生きていることは伝えよ。しかし、状態は伝えるな」

「ははぁ」

長秀は出ていった。入れ替わりで小姓の万見重元が現れ、

「殿、尼子の使者が参りました。使者をこの寺には入れず書状のみ預かりました。書状はこちらです」

信長は秀政に書状を読ませた。そして、自分が上洛せよと言ったことを呪った。

「こんな時に最悪な!!重元!すぐに長秀を呼び戻せ!」

半刻後

長秀は、何事かと思い急ぎやって来た。

「殿、何事にございましょうか!」

「尼子が上洛してくる。しかも六万もの兵士を連れてだ!」

信長は書状を長秀に渡させた。

長秀は読んで絶句した。

来年四月には六万以上の兵で但馬、丹波を攻め滅ぼして上洛すると書いてあったからだ。

「殿、このままでは京を奪われるのでは!」

書状には織田と事を構えるつもりはなく、防衛のために連れていくと書いてあったが戦国の世である以上長秀も信長も信じられなかった。

「年内に和議を結び、最低限の守りを残して全軍集めろ。家康にも援軍を頼め!」

「ははぁ!!直ちに行います」

長秀はすぐに行動した。

「まさか、このようになるとは...」

信長はこんなことになるとは思ってもみなかった。


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