織田からの使者
元亀元年(1570年)二月
石山本願寺から兵糧の支援を要請してきた。
なんでも、輸送は毛利に頼んでいるので物資だけを提供してもらいたいそうだ。前金としてかなりの大金を持ってきていた。
「わかった。兵糧は購入ということでお渡ししよう」
「ありがとうございます。御仏の加護があらんことを」
使者はそう言うと帰っていった。
「殿、よろしかったのですか?」
久経が聞いてきた。
「構わん。公方に従う気はないが本願寺と縁を結ぶには丁度いい。織田に対して牽制にもなるしな」
俺は石山合戦のことを考えていた。
一方その頃出雲に向かう一人の男がいた。
丹羽長秀
信長様の命で尼子家への使者として向かっているが尼子領地の因幡に入ってから驚きの連続だった。
田畑は整地され四角く作ってあり、多彩な作物を育てていた。中には一度見たことがある南蛮の物もあった。近くの村で水を貰おうと井戸にいくと不思議な物がついており、領民が動かすと水が出てきた。私は驚き詳しく聞くと尼子義久が考えて鍛治師達が作り上げたそうだ。
その領民に聞けばここ十数年で生活も大きく変わり暮らしが楽になったと言っていた。
他にも国境には多くの関所があったがそれ以降は今のところ一つも無い。道も綺麗に整備されている。城下に入ると商人達も多く活気に溢れていた。ここでも楽市楽座をしていると聞いた。
そして、城を見て私は恐ろしくなった。
(この城を攻め落とすには何年かかるであろう...。)
稲葉山城よりも大きく、城下全てが堀や柵で囲まれておりとても攻めにくい城だと分かった。
私が唖然としている間に囲まれ、いつの間にか後ろを取られていた。後ろを取った男が
「織田家の重臣がこの様な所に何の用だ」
私が織田家の者と気付かれていた。
「なぜ、私が織田家の重臣だと思ったのですか?」
「織田家重臣丹羽長秀、織田の重要人物の顔は割れている」
その事を聞いて驚いた。それは織田に既に間者が多く入っていると言うのと同じだからだ。
「改めて問う。織田の重臣が何用か?」
殺気を込めて言って来た。
「我が主君より使者として参った。尼子義久殿にお目通りいたしたい」
「殿はこの地には居られない。殿は出雲に居られる。お前をこの地を治めている倫久様の所に連れていく。抵抗するなら容赦しない」
と周りを囲んでいた者達と共に城に向かった。
後ろを取った男と城内に入り、一室に案内され待たされていた。
その頃、鳥取城主尼子倫久は先程長秀の後ろを取った藤林正保と話していた。
「間違いなく織田の使者と言ったのだな」
「はい。書状もあるとのことですがそれは義久様本人に渡すよう言われた書状だそうで奪うことはできませんでした」
倫久は何故、織田の使者が来たか考えていた。
「兄上が言ったように上洛せよと言ってきたのかの?」
「時期的に考えますとあり得ることかと。織田は上洛を断った朝倉を攻める準備をしているとの情報もあります」
「急ぎ、兄上に伝えよ。それまで丹羽殿は客人として迎える」
「ははぁ」
正保は急ぎ義久の元へ向かった。
それから数日後
出雲月山富田城
「今、倫久様が対応されておりますが如何しますか?」
「会うしかあるまい。内情を知られたくないから俺が鳥取城まで行こう。護衛に久経と誠秀を連れていく。正保も頼むぞ」
「ははぁ!」
義久が行くまでの間、丹羽と倫久は話をしていた。
「いや、ここまで領民が平穏に暮らせているとは驚きました。」
長秀はここに来るまでに見た光景を思い出していた。
「これも兄上のお陰。私は少し手伝っただけです。織田殿も尾張の民から慕われていると聞きましたぞ」
と言われ、織田家の内情を知られていることに苦笑いをするしかなかった。
そんなこんなで数日後、義久が城に到着した。
少し広めの部屋で会うことにした。
護衛に誠秀と久経がおり倫久と正保も同席した。
「お初にお目にかかります、織田家重臣丹羽長秀にございます。此度は時間を取っていただきありがたき幸せにございます。此度は我が主からの書状を持ってきましたのでご確認をお願いします」
と言い、書状を義久の前に出した。
書状には上洛するようにと、会って話がしたいと書いてあった。
「丹羽殿、わざわざありがとうございます。書状の内容はご存じですか?」
「いえ、上洛に関することと、聞いておるだけにございます」
「そうですか...断れば朝倉のように攻めますか?」
長秀はゾッとした。朝倉攻めは織田家でも最重要機密で重臣や同盟国しか知らないことだからだ。
「まぁーいい。それで、敵情視察はいかがでしたかな?」
少し威圧してみた。
長秀は威圧に少し驚いたが、主君ほどではなかったのでそんなに取り乱すことはなかった。
「敵情視察と言われましても、私は使者として参っただけにございます」
長秀は弁明した。
「そうか。因幡に入ってから色んな村等に寄りながら来ていたではないか。領民から色んな事を聞きながらな」
長秀は恐ろしくなった。領地に入ってから監視されていたことを言われたものだからだ。
「まぁ、いい。さて、書状の返答だが、毛利家と話し合って決めたいと思う。上洛の是非は使者を送って返答したい」
「わかりました。信長様にそのようにお伝えします」
「国境までの道中護衛をつけましょう。正保頼むぞ」
「ははぁ」
これ以上調べさせないつもりか。仕方ないな。長秀は大人しく帰っていったのであった。
さて、とうとう来たか。どうするかな...
「兄上どうされるのですか?」
俺は考えたが
「倫久はどう思う?」
「私は上洛するのはいいのではと思いましたが兄上は違うのですか?」
「御手紙公方から来てなかったら上洛したかもしれんがな。今行くと凄くめんどいことになりそうだから嫌なんだよな~」
「後、上洛するなら、但馬、播磨、丹波、丹後、は取りたいんだよな。最低但馬は」
そんなことを思いながら毛利に今回のことを伝えるのであった。