御手紙公方と信長
永禄十二年(1569年)十月
御手紙公方こと、足利義昭からの書状が来た。
「殿、公方様からなんと」
「副将軍にするから信長を討てだとさ」
「たしか報告ではそこまで亀裂はなかったのではないか?」
「恐らく何かあったのだろう」
さて、どうしたものか....
「殿、重秀が戻りました」
誠秀と一緒に重秀がやって来た。
「殿、お久しぶりです」
「重秀よう戻った。しかし、その様子だと何かありそうだな」
「はい。雑賀衆頭領として今回来ました。」
「雑賀衆頭領として?鈴木左大夫は亡くなったのか?」
「いえ、引き継いだだけです」
「それで、頭領として来たと言うことは契約についてか?」
「はいその通りです。契約を解除してもらいに来ました」
周りに居た者は驚いた。
「織田包囲網に組する為か」
俺が確認すると
「ええ、本願寺からの要請で雑賀衆全軍を雇いいれると。そして、我ら門徒にとっては大事なことなので参加することにいたしました」
「そうか...雑賀が燃え尽きてでも戦うつもりか。わかった。許可しよう」
「ありがとうございます」重秀は伏して礼をした。
「ただし、雑賀が燃やし尽くされた時は我が領地に帰ってこい。お前達の領地は残しておこう」
「よろしいので?もはや戻る事もないかも知れませんぞ」
「その時はその時だ。達者でな」
「ははぁ」
重秀は帰っていった。
「殿、領地の件よろしかったのですか?」
久経は心配したが
「雑賀衆の腕はまだ必要だ。生きて戻れば受けいれるさ」
俺は対織田を考えていた。
一方毛利家では
「公方様から信長を討てと書状が届いておる」
元就は頭が痛くなった。この前対応を決めたばかりであったからだ。
「それに、石山本願寺が村上水軍を使った物資の援助を求めてきております」
「殿、石山本願寺からの要請受けましょう!」
「そうです殿、仏敵信長を討ちましょうぞ!」
元就も隆元も頭を抱えている。
安芸の国は一向衆が多い土地だった。その為家臣の多くが一向衆だった。
「皆静まれ。まずは様子を見よう。本当に石山本願寺が立ち上がったならば援助をしよう」
「ははぁ!!」
「これで、我々は織田の敵となるか...」
隆元は一人思い悩むのであった
元亀元年(1570年)一月
御所
足利義昭
「これまで信長の言う通りにしていたがこれ以上はそうはいかんぞ...朝倉は味方すると来た。浅井も味方になるであろう...。
本願寺も雑賀衆を、雇ったりして準備をしている...後は尼子、上杉、武田さえ動けば信長など敵ではない。私は公方なんじゃ。私が一番偉いんだ。信長の好きにはさせん」
義昭は密書をどんどん書いて送っていた。信長に知られてるとは露程も知らず。
織田信長
「義昭は手紙を必死に書いているのか」
「はい。各国に密書として出している模様です」
「そうか、しかしお前が密書を持ってくるとはな。のう、久秀」
薄暗い部屋の中でニヤリと笑っている。
「滅相もございません。私は信長様に忠誠を誓っておりますので」と松永もニヤリと笑う。
(嘘をつけ。織田が弱まれば食らい尽くそうとしているくせに...)
「朝倉を攻め滅ぼし、一つ一つ潰してやる。面倒なのは上杉、武田、尼子だな」
信長は特に尼子が不気味に思えた。
詳しい情報が一切入ってこないからだ。送った忍びは誰も帰ってこなかった。
「確か、お主も尼子義久に会っておったな」
と久秀を見る。
「はい。一度茶を共に飲み、部下の貸し借りをした事があります」
「奴についてどう思う」
信長も一度会っているがその時は先を見通すがそこまで厄介とは思っていなかった。
「そうですね、先見の明があり人を束ねるのが上手く多くの人を引き付けるものがありますね。ただし、それは表の顔だと思います」
「表の顔とな?」
「はい。裏は謀略や人が躊躇することをし、自分の大事なものを奪う者には一切容赦をしない男ですな」
と久秀は思ったことを言ってみた。
信長も考えた。久秀の言うことが正しいなら納得することが多くある。
「一つ確実なのは石見に手を出せば尼子家は容赦しないでしょう」
「石見...銀か」
「さよう。尼子家の柱とも言えます。恐らく、朝敵になったとしても渡すことはないかと」
そこまでかと思うたが最悪を考えておくべきだと信長は考えた。
「忍びを出しても誰も戻らんが思い当たることはないか」
「それは忍びを死地に送るようなもの。まず生きては帰ってこれますまい」
久秀はつい笑ってしまう。
「なにゆえじゃ」
「尼子領内は忍びの数が違いすぎます。見つけ次第葬りますからな」
信長は自分の悪手を恨んだ。すでにかなりの人数を送り込んでいたからだ。
「領内を詳しく知るにはどうしたらいい」
その質問に久秀は考えたが
「尼子領内で商売している者に聞くか、堂々と使者として送り込むしかないでしょうな。使者は殺されないでしょうし」
信長はこれ以上犠牲は避けたいので久秀の案を使うことにした。
「上洛するよう使者を出そう。その上で観察させるとするか」
信長は使者に丹羽長秀を送ることにした。
重臣であり、細かいことまで気がつくので適任だと判断した。
「早速長秀に向かわせるか」
翌日、長秀は尼子領に向かうのであった。