信長の思惑 堺の難題
永禄11年(1568年)十月
「松永弾正久秀、信長様に降伏致します」
久秀は信長に対して人質と名物と言われる茶器「九十九髪茄子」を差し出して降伏した。
信長は上機嫌になった。なんせ天下三茄子の一つを手にしたからだ。
「あいわかった、久秀、そなたはそのまま大和一国を治めよ」
信長は久秀に任すことにした。
「ははぁ」
久秀は深く頭を下げる。
部屋を出た久秀は賭けに勝ったことを喜んでいた。
「フフフ..織田の後ろ楯は得た。これで大和は完全に私のものになる。もし、織田が弱くなるなら...」
一人不気味に微笑むのであった。
「殿よろしいのですか?」
光秀は久秀に大和を任せることが不安だった。
「なに、問題あるまい。裏切れば滅ぼすだけだ。それに奴はほぼ大和を制しておる、利用しない手はないだろ」
史実と違いほぼ大和を制している久秀を切ることは出来なかった。義秋や幕臣からは文句を言ってきたり、天下の逆賊を味方にするのか等の苦情の書状が沢山送られてきたが全て無視した。
朝廷から書状が届き義秋は内裏に参内し、征夷大将軍に任命され室町幕府十五代将軍になった。これにより、今回の上洛の目的はほとんど達成した。
信長はすぐに畿内の人事を行なった。
京・山城には義秋配下の細川藤孝を配し、摂津・高槻城には同じく義秋配下の和田惟政を入れた。その他、摂津・伊丹城には伊丹忠親、摂津・池田城には池田勝正、河内・若江城には三好義継、河内・高屋城には畠山高政、そして大和には松永久秀を配した。
元三好方も多いが所領安堵で許した為こうなった。
人事の他には領国内の関所の撤廃も決め、民衆の支持を集めた。これにより一先ず畿内は新将軍・足利義秋と信長の元で治安を回復させたのであった。
「信長殿は短期間で三好を追い出し将軍家を再興してくれるとは...この後も頼りにしているぞ。そなたを副将軍か管領に任命したいがどうじゃ?」
「申し訳ありませんがどちらも辞退させていただきます。代わりに堺、大津、草津に代官を置く許可をいただきたいのですがよろしいでしょうか?」
信長は断り、堺などを手に入れようとした。
「そんなことでいいのか?すぐに認めよう」義秋は上機嫌だった。
これを知った多くの人々はみな感心した。一人を除いて。
辞退までの話を聞いた藤孝は一人考えていた。
「堺は軍事物資や資金源になる土地、信長殿は公方様を傀儡にすることにしたのだろうか...」
堺について義輝の時に尼子義久から言われたのを覚えており、信長の行動がどこか似ていると思っていた。
「私も身の振り方を考える頃合いか...」
藤孝は一人思い悩むのであった。
信長も少し浮かれていた。
義秋が堺の重要性を知らず、織田家の物になったからだ。
「まさか、堺の重要性を知らんとはな。これで、軍備を増強できる」
信長は堺に対して、矢銭(軍事費)二万貫を要求した。
堺会合衆は急ぎ集まり協議した。
堺はこの、会合衆によって方針を決めていた。
「矢銭二万貫などふざけた要求をしてきたぞ」
「しかし、幕府が認めてしまったではないか」
「だが、二万貫など払えるか」
会合は荒れた。
ほとんどの意見が信長に抗おうと言う意見だった。
「しかし、兵力が違いすぎるぞ」
「三好三人衆を引き込んだらどうだ?」
男の一人が提案する。
「今の三好家にそんな余力はあるかいな?」
黙っていた宗久が皆が心配してることを言った。
「でも、他に戦力が無かろう」
「織田に一度勝って交渉できればいいのだがな」
「......」
「そういや~今井さん所と繋がりのある大名はどうかね?」
「確かに、織田に負けない軍事力はあるだろうけど距離がね」
宗久は無理だと思っていた。
「今井さん、どこの大名と繋がってるんだい?」
「確か出雲の尼子家ですよ。」
「出雲じゃ遠いな~」
「今井さん、ダメ元で聞いてみてくれんかね?」
「それは無理でしょう。尼子家に何の利益も無いじゃないですか」
宗久は反対したが結局会合衆の多数決で決まってしまった。
「仕方無い。行きますか」
宗久自身が仕方なく行くことにした。
「それでも時間がかかりますよ。矢銭の期限は一週間後でしょ。どうやっても間に合いませんよ」
「そこは俺達に任せてくれ。額が額だから集めるのに一月かかると説明して延ばしてもらうから」
交渉上手な男がそう言って会合は終わった。
宗久は出雲に向かい、交渉上手な男達は信長から時間の延長をもぎ取るのであった。
宗久は念のために二万貫用意しておくように会合衆に伝えておいた。
数日後
今井宗久
備前岡山城に来ている。
なぜここにいるかと言うと運が良いのか悪いのか義久がここにいたからである。
「宗久殿本人が来られるとはいかがいたした?もしや、商品に問題が?」
「いえ、商品は問題ありません。いつも最高の品を用意してくださりありがとうございます。今回来たのは御相談がありまいりました」
「商品に関してではないなら何の用なのだ?」
「はい。実は尾張の織田信長が上洛したのはご存じですか? 」
「知っておる。正に神速の如き進軍で三好を追い出し、京の治安も良くなっておるな。堺、草津、大津に代官を置く許可をもらっていたな。後、矢銭を集めたとか。もしやその件か?」
まさかここまで情報を得ているのに驚いた。「恥ずかしながらその件でございます。堺の会合衆としてはその矢銭は納得し難く、義久様に兵を出して堺を守っていただきたくご相談に参りました」
「無理だな」
やはり無理か..と諦めていた。しかし、
「兵を出すのは構わんが堺が燃えて失くなり、不利益しかない」
そう言われて宗久は驚いた。
「なぜ、堺が燃えてなくなるのですか!!」
「宗久殿、守ると言うことは堺が戦場になり、その影響で失くなる可能性が高いのが分からないか?それに、一度勝ったとしても兵力差もありこちらは補給がおぼつかない。そんな中、敵の主力が来てはどうやっても勝てない」
「しかし、一度勝てば交渉に応じるのでは?」
「相手はあの信長だ。まず、交渉で譲歩することなどない。それどころかより多くの矢銭が請求されるだろう。戦になれば不利益しかない。それでもいいなら僅かに兵を貸そう」
宗久は悩んだ。織田に一度勝って交渉で自治権の維持と矢銭を減らすことを考えていたが、どうやっても無理だと分かったからだ。
「失礼ながらいかほどの兵を貸していただけるのですか?」
「すぐになら九百人。金が結構かかっていいなら三千人。全員鉄砲隊だな。」
宗久はそんなにも出してくれることに驚き、
「三千もの兵を貸していただけるのですか!」大声を出してしまった。
「雑賀衆だ。九百人は俺の部下だが三千人だと雑賀衆を雇うことになる。だから金がかかる。」
「もしもの時は九百人お借りしてもよろしいでしょうか?」宗久は戦になった場合を考えて九百人借りておくことにした。
「わかった。堺が失くならないことを願う。雑賀衆の鈴木重秀にこの書状を渡して協力してもらえ」
と今書いた書状を渡すのであった。
「ありがとうございます。この借りは必ずお返しいたします」
と宗久は急いで堺に戻るのであった。
「戦を選ばなきゃいいがな...」
俺はそんな心配をしながら書類仕事に戻った。
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