幕府からの使者 信長への手土産
永禄十年(1567年)九月
歩き巫女から信長が稲葉山城を落とし美濃を征したと報告が来た。
「やっと落としたか。これで、天下を狙ってくるだろうな~」
と思っていた。
「多胡重盛と横道正光を、呼んでくれ 」
と小姓に指示した。
それからしばらくして重盛と正光はやって来た。
「お呼びとのことで罷り越しました。が如何されましたか?」
重盛が聞いてくる。
「二人に、織田に行ってもらいたい。名目は美濃攻略の祝いの品を持っていってもらいたい。その上で織田家の様子を探って来てくれ」
「祝いの品は何を持っていきます?」
正光が聞くと
「清酒四樽と干し椎茸に鉄砲五百だ」
と言うと驚いていた。
「殿、鉄砲は戦略物資、まずいのではありませんか?」
重盛は言ってくる。
「なに、もう販売しているから問題ない。旧式だし。それに送れば信長なら勝手に察してくれるさ」
と言うと不思議そうな顔をしていた。
「兵太夫いるだろ」
と言うと兵太夫が来た。
「はっ、何にございましょうか?」
「重盛と正光について織田に行ってくれ。お前は織田信長の顔を知っているからな。どういう反応をしていたか見てきてくれ」
「殿の護衛はどうしますか?正永も正保もまだ帰ってきておりません」
と俺の護衛を気にしてくれた。
「弥之三郎に頼むから問題あるまい」
と言い、兵太夫も行くことになった。
「ああ、忘れるところだった。書状も持っていってくれ」
と渡した。三人は織田に向かうのであった。
永禄十一年(1568年)二月
俺の目の前に珍しい人物が来ている。
将軍の代理と言ったので上座を譲っている。
「此度参ったのはそなた達相伴衆に指示を出すために来た。今、亡き将軍義輝様の弟義秋様が朝倉に居られる。尼子家は直ぐに軍を派遣し、上洛し三好を下し義秋様を迎える準備をせよと、義秋様からの命令じゃ。すまぬがの...」
と、ため息をついて藤孝殿が言ってくる。
「お断りします」
俺はそれだけしか言わなかった。藤孝もやっぱりかとぼやいた。
「幕府とは先の一件で手を切らせていただきました。もはや従う事はありません。これは尼子家列びに家臣一同の総意にございます」
と言った。先の一件とは石見の事だ。
「そうであろうな。結局謝罪もしておらんかったしの。怒りはごもっともだ。義秋様にも、その事を伝えたが聞き入れられず今回に至ったのだ」
と、ため息をついて上座から降りた。
「義久殿に、席を返します」
と言い、俺が上座に行った。
「それで、朝倉が動かないからといって我が家以外にどこに行かれたのですか?」
「越後の上杉に近江の六角、紀伊の畠山と大和の筒井だな」
と、ため息をついていた。
六角や畠山などは裏切っているからだ。筒井は俺が松永殿に派遣した雑賀衆のせいで痛い目を見てるから動けないし、上杉は北條と武田で手一杯だろうしな。俺は一人思いながら聞いてみた。
「それなら織田を頼られては?」
「織田か、朝倉殿が毛嫌いしていて使者を出せなかったな」
と藤孝は言う。
「なら一筆書いてお渡ししときましょう。やる気になるはずです」
と言ったら嬉しそうに書状を持って帰っていった。
一方その頃織田家についた三人は物凄い視線の集まるなか広間に座っていた。
信長が来た時物凄い重圧を感じた。
「なんなんだ、この威圧は」
重盛は感じた事もない威圧に怯えていた。
正光と兵太夫も感じていたが、似たような威圧を普段体験する事があったのでそこまで怯える程ではなかった。
信長は三人を観察していた。
前の一人は駄目だな。後ろの二人、俺の威圧でも平気とは何者だ。重臣、家臣達を見ても平気なのは五郎左と一部しかいない。
信長は威圧するのを止めた。
「面をあげよ」
と言い三人は頭をあげた。
「尼子からの使者と言ったが何の用だ」と、信長は少し威圧しながら言った。
「あ、尼子家重臣、多胡重盛といいます。こ、此度は主、義久様より美濃平定のお、お祝い事を...」
と、怯えながら言っていたので話にならんと思い
「もうよい。貴様だとまともに話が出来ん。後ろにいるそのほう、答えよ」
と信長は威圧しながら言った。
「はっ、尼子家家臣、横路正光と申します。隣にいるのは同じく家臣、望月兵太夫にございます。此度は我が主、尼子義久様の命により、美濃攻略のお祝いをお持ちしました。年を越してしまいましたのは距離があり仕方なきこと故、ご理解して頂きたく存じます」
と二人とも頭を下げる。
信長は威圧しているのに普通に話せることに少し驚いた。
「ほう、美濃攻略が西国まで届いておるか。して、何を持ってきた。」
と聞くと
「はっ、我が領地で作っております清酒四樽分と干し椎茸、鉄砲五百丁にございます」
それを聞いて信長も含め一斉に驚いた。
「なんだと!鉄砲が五百だと!」
熊のような大男が大声をあげる。
「権六静かにせい!」
信長が言うと静かになった。
「まことに鉄砲を五百丁も持ってきたのか?嘘ならその首を送り返さねばならん」
入ってきた時と同じ威圧をするが二人はそこまで気圧されることはなかった。
「まことにございます。ご確認下さい」
と正光は自信満々に言うと
「今すぐ荷を持ってまいれ!」
と家臣に指示をし、広間に近い広場に持ってこさせた。
一つ一つ確認させ、驚きを隠せなかった。
鉄砲が本当に五百丁もあるからだ。
「何故鉄砲を送ってきた」
威圧を掛けたまま聞く。
「我が主からの書状です」
と兵太夫が信長に差し出す。
それを奪い取り書状を読む。
そこには
「恐らくこれを読んでる時は鉄砲の数に驚き、我が家臣から奪い取って読んでおることでしょう。まずは美濃平定おめでとうございます。これで、天下を目指せる足掛かりが出来たことでしょう。恐らく、足利義輝の弟義秋から上洛せよと沙汰があるでしょう。貴方のことだ、これを利用して天下を我が物にしようと考えておいででしょう。天下布武。天下を武で布く。貴方にしか出来ない事でしょう。その鉄砲は先行投資です。貴方がこれを使い京を治められるか見てみる事にしてみましょう。
それと、我が領地にを手を出せば容赦はせん。
全力で潰すので御覚悟を...
尼子出雲守義久」
と書いてあった。
信長は一瞬動揺した。自分が考えていることが書いてあるからだ。
「その者達、大儀である。ここでゆっくり休まれよ。五郎左、宴の用意をいたせ!この者達を労おうぞ」
そう言うと広間を出ていった。
残された者も出ていき、残された三人は信長の、小姓に部屋に案内された。
「正光殿、望月殿、なぜお二人はあの威圧が平気だったのですか?」
重盛は不思議だった。
「似たような威圧を感じることが多かったからですね」
と二人とも言う。
「あんな威圧を放つ人がいましたか?」
と重盛は考えてみるが出てこなかった。
「義久様ですよ。特に裏の仕事を指示される時はあんな感じですから」
と兵太夫は、言う。
「殿は晴久様が亡くなる前の時から物を深く考え過ぎるとあのような圧を放つことがありましたから」
と正光は言い、重盛は義久がさっきのような威圧を放つことに恐怖した。
「私は二度と織田家への使者は遠慮したいです」と本音を言っていた。
一方信長は一人考えていた。
「...ここまで俺を理解した奴は居なかったな..」ボソッと言うのであった。
信長を理解していた父信秀や義父道三はもう居なかった。そんな中、自分の考えを理解している義久が遠くにいて敵になりかねないことを残念に思っていた。
「殿、宴の準備が出来ました」
と小姓が呼びに来た。
「わかった、すぐ行く」
と言って宴に行くのであった。
信長の天下取りがここから始まります。果たしていつ義久と会うことになるでしょう
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