山吹城を攻められてる裏で
永禄五年(1562年)七月
嫌な予想通り毛利が攻めてきた。予想外だったのは伯耆の三浦と石西の国衆が一斉に寝返ったことだ。その為毛利は山吹城を直接攻めてきた。
大友に門司城を攻めてもらったとしても恐らく対策をしているだろう。
「殿、準備はできましたが本当に九千五百人だけでよろしいのですか?全軍で向かえば毛利と同数近くになり勝てると思いますが」久家が聞いてくる。
「三浦が裏切ったからな、全軍は出せない。防衛だけならその人数で十分だ。鉄砲隊も全軍いるしな。それに、幸盛の私兵も二千いる。徹底して防衛に徹しろよ。決して出て戦うな。もし敵がこちらよりも少なくなれば出て戦ってもいい。ただし、追撃はするな。よいな」
「わかりました。常光様に確かに伝えます」
こうして援軍九千五百人が向かった。
「さて、俺らも三浦討伐に行くか。なぁ、久経」と俺が言うと
「かしこまりました。すぐに準備します」と言い出て行った。
数日後秀久がやって来た。
「兄上、お呼びだと言うことですがなんでしょうか?」
「お前、全軍で四千人いたよな?」と聞くと
「はい。そうですけど?」
「お前はこの後俺と出陣して三浦を討ったら松尾城を攻めてくれ」
「え?安芸を攻めるのですか!」
そうだと言うと驚いていた。
「俺は今回は強制的に兵士を集めて七千五百人用意する。猿掛城まで攻めるつもりだ。その後朝廷に停戦をお願いする」
今度は朝廷を使って停戦に持ち込んで時間を稼ぐつもりである。
それから二ヵ月後
(永禄五年九月)
三浦はすでに皆殺しにしたので本当はすぐに安芸へ出陣したかったが青田刈りと忍び衆を呼び戻すのに手間取った。
倫久は順調に進んでいたが天神山城と鳥取城に手間取っているらしい。鉢屋衆も暗殺に失敗したそうだ。
その為戻ってくるのに時間がかかった。
「忍び衆、よく戻った。疲れているところ済まないがもう一働きしてもらう」
「ははぁ」正永が答える。
「忍び衆には俺たちが小倉山城を落とすまで情報を封鎖して欲しい。その間世鬼衆や伝令を全員始末してもらう」俺は指示をした。
それから二日後、秀久も合流し総勢一万一千五百人で出陣し、小倉山城に向かった。
小倉山城に着くと周囲を囲み兵糧攻めに見せかけた。俺たちは昼夜問わず戦をした。相手は休む暇もなく応戦したがこちらは交代させながら攻めており、士気は高いままだった。
五日間攻め続けていたがそろそろ相手は限界だと考え総攻撃を仕掛けた。案の定、敵は既に限界だったのか抵抗は弱く呆気なく落ちたのであった。
「秀久、ここからは別行動だ。お前は四千の兵を率いて松尾城を攻めろ。無理に落とそうとするな。犠牲は最小限にして済ませろ」
「兄上、何故落とさなくてもいいのですか?」
「落とした後、五竜城を攻めるか?あそこは小倉山城より攻めにくい所だぞ。松尾城を囲み五竜城の目を松尾城に向けさせておけ。連絡役の忍び衆をつけておく」
「わかりました」
そう言うと行ってしまった。
「さて、次が本番だ!場所は猿掛城だ。気合いをいれていくぞ!善住坊、狙撃隊の練習成果見せて貰うぞ!」
「ははぁ!」
俺達は猿掛城に向かった。忍び衆にはわざと見張りを見逃せと指示をした。猿掛城は吉田郡山城に援軍を頼むであろう。そして進軍する所で待ち伏せし、狙撃隊によって指揮官のみを排除する。それで援軍は断てると考えた。
猿掛城に着いた。予定通り包囲し隆元が釣れるのを待った。
その間夜間は雑賀衆の半分に鉄砲を撃たせていた。時には攻めて相手に休む暇を与えないようにした。五日間行って降伏の使者を出したが降伏しなかった。夜間の鉄砲はそんなに意味がないと考えて止めた。ただし、たまに夜襲をかけて休ませないようにはした。
一方で吉田郡山城には救援を求める使者が来ていた。隆元はすぐに出陣するよう指示をした。
それから三日間、周囲の城や領地から強制的に集め五千人の兵士を用意した。
総大将毛利隆元
副将 国司元相
で出陣した。
この情報は忍び衆によってすぐに義久に届けられた。
「善住坊、お前達の出番だ。しっかり狙撃し相手を黙らせてこい」
「はっ!」
「正永、狙撃隊の援護を頼む」
「承知しました」
これにより、狙撃隊は毛利が通る道に潜み来るのを待った。
数刻後、鎧の擦れる音が聞こえてきた。
援軍と思われる軍が進んでいる。善住坊達は指揮官や武将を狙い構えた。
「今だ撃て!」善住坊の号令で一斉に放った。
流石に百人全員が一弾一殺は出来なかったが多くの者を仕留めた。
「殿!!」
叫び声が聞こえそちらの方を見た。肩を撃たれた武将が落馬した武将を助けて運ぼうとしていた。城戸は「あれは毛利隆元では!」
と言い、装填しようとしていたが敵が向かってきたので
「これ以上は無理だ撤退するぞ!」
と善住坊は指示をした。 善住坊は悔しかった。自分なら一撃で仕留められると思ったからだ。
忍び衆の援護のお陰で全員が無事に撤退できた。援軍として向かった毛利軍も城へ引き返したようだった。
陣営に戻ると善住坊は平伏し、
「申し訳ありません、毛利隆元仕留め損ないました」と謝罪した。
「まぁ、初めて実戦を行ったんだ。今回ので問題点を洗いだし次に活かせばいい」
俺はそう言って肩に手を置いた。
「これからも頼むぞ」と言い城攻めに戻った。
一方吉田郡山城に戻った国司元相は医者を呼んだ。隆元は運が良いのか悪いのか足を撃ち抜いた弾が足を貫通し馬に当たってその為落馬をしてしまった。
「早く、医者を呼べ!早く!」
隆元は意識を失っていた。
医者が来て足の治療と診察している間に、伝令を大殿(元就)の元に送って指示を仰いだ。指揮官ばかり狙われた為、集まっていた者達にも動揺が広がり押さえきれなかった為帰還した。
しばらくすると医者が出てきた。
「殿の容態はどうなんだ!」元相は詰め寄った。
「足の方は生きていくのには問題はありませんが恐らく歩けなくなる可能性はあります。それと意識を失っているのは落馬した衝撃で頭を打ったからだと推測されます」
「殿はいつ起きられるのか!」
「わかりません。こればかりは殿の運次第かと」と言い医者は帰った。
元相は一人絶望していた。
狙撃隊による初めての狙撃。残念がら名のあるものを撃ち取れず...
次回は山吹城で毛利との一大合戦となります
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