二度目の謁見と茶と副王
さて、すぐに来いと言われたから来たが、相変わらず公方は遅い。
また、部屋で待たされている。
やっと広間に案内されると今回は義輝が座って待っていた。
俺は口上を延べようとすると
「必要ない。お前が言った事をやらせようとしたが無駄だった」
義輝は、不満げに言ってくる。
「無駄と言いますとどのように」
「若狭は認めたが堺は認めず、越中や加賀については誰も関わろうとはしない。朝倉や上杉もだ」
と不満をどんどん言ってくる。
そりゃそうだろと心の中で思った。
上杉は、武田と殺りあってるところを、仲裁され信濃守を信玄に与えられてしまったし、朝倉は宗滴が亡くなってから一向宗に敗れ関わりたくないと思ってるだろうしな。
「所で尼子はいつ軍を引き連れて来るのか?」
なぜか軍を連れてくることになってた。
「先に申しましたが毛利との決着がついてからにございます。毛利は不可侵を結んだものの虎視眈々と石見を狙ってきております」
と説明した。
「なら、石見を毛利にくれてやれば済む話であろう」
義輝が言ってはいけないこと言った。
これには藤孝も焦った。俺の後ろにおる三人(幸盛、久家、久経)も殺気を出していた。
「そうですか...公方様はそのようにお考えですか...なら尼子家は二度と幕府の命など聞けませぬ!!」
俺は将軍相手に激怒していた。
「なんだと!」義輝は太刀を持つ。
「仲裁に来られた藤孝殿はご存知だろうが、我らは石見を治める為に大内、毛利と戦い多くの者の血を流しながら手に入れたもの。それをただ引き渡せとは将軍であったとしても許せぬ!我らは帰らせて頂く。御免!!」
そう言って広間を出ようとすると義輝が太刀を抜こうとしていた。それを家臣細川隆是と和田惟政が必死に止め、俺達の前に藤孝が出て来て頭を下げた。
「申し訳ない。大樹は詳しい事を知らぬゆえ言ってしまわれた。悪気は無かった」
など弁明していたが聞くに耐えられなかった。
「藤孝殿、貴方の顔に免じて不可侵の約定は守るつもりです。しかし、此度のことは決して許せませぬ!」と言い御所を出た。
「殿、鉢屋衆に将軍を殺す許可をください。今すぐあの首を取ってきます」久経が言う。
「今なら連れてきた兵士達で討ち取れます。許可をください」久家や幸盛も言う。
「殺す価値もない。あんなのはいつか殺されるだろう」
俺は激怒しながら久秀との約束していた茶を飲みに行くのであった。
久秀と約束していた建物の所に着いた。
久秀と約束している事を伝えると中に通された。
待っていると久秀ともう一人男がやって来た。
茶室には俺と久秀ともう一人の男の三人だけだった。
まさかと思ったが予想取りの人だった。
「こちらに居られますは我が主、三好長慶様にございます」と久秀が紹介してくれた。
「初めまして。久秀が茶器を頂いたとか誠に忝ない」丁寧な挨拶をしてくれる。
「これは失礼しました。尼子家当主尼子義久にございます」と俺も挨拶をする。
久秀が茶をたてていると平蜘蛛茶釜と九十九髪茄子、そして天目茶碗があることに驚いた。
「ほぉ、これをご存じなのですか?」久秀が聞いてきた、
「音に聞くだけだがそれが平蜘蛛の茶釜に、九十九髪茄子、それと、長慶殿がお持ちなのは天目茶碗ではないですか?」
と言うと「その通りでございます」と久秀が言う。
茶器の話をして茶を頂いていると長慶が
「大樹に何を言われたのですか?だいぶ荒れておいででしたが」
と言って来たのでさっきの事を伝えた。聞いた長慶は笑っていたが途中から頭を抱えていた。
「大樹も天下泰平の為に動いていただきたいのに...まだ三好を潰すことを言われているのか」
「尼子家は幕府に恩があって従ってきたが今回の件で手を引くことにしました」
と長慶に伝えた。
「恐らく、毛利に対して尼子を討てと言ってくるでしょう。なので、五日後には帰国します」長慶も納得していた。
「その方がいいでしょう。どうかお気をつけて」と言ってくれた。
長慶と久秀と話せたことはいいことだった。
俺達が宿に戻ると藤孝が来ていると言われ会うことにした。
「藤孝殿、我らは五日後に帰国します。恐らく義輝は毛利に我らを討てと指示を出すでしょうし」藤孝は驚いた。
将軍を呼び捨てにしたこと、そして、自分が指示されたことを言い当てたからだ。
「予想の通り大樹から、毛利家に対して指示をしてこいと言われた」
藤孝は持っていた書状を見せた。中身は見なかった。
「此度の件は本当に申し訳なかった」
藤孝は平伏し頭を下げる。
「大樹には私が説明するので、どうか考え直してもらえないだろうか」
「それは石見を毛利に与えろと...」
「そうではなく、幕府と敵対することです。先ほど松永弾正の屋敷に行かれたようだが、どうかお願い申し上げる」
と藤孝は言ってくる。
「私は大樹が謝罪しない限り、二度と幕府に協力はしない。藤孝殿、石見は我らにとってそれだけ重要な場所であることを知っていてもらいたい」俺はそういって部屋を出た。
部下に五日後に帰還する事を伝え準備をさせた。
それから五日間幕府からは何もなかった。
帰国するために長慶殿の所に挨拶をして来た。京を出て若狭までは久秀が着いてきた。
若狭に着いて船に乗り込むと藤孝がやって来た。
「今さら何のようですか?」とわざと冷たく言ってみる
「申し訳ない。大樹を説得するのに時間がかかった。毛利の件はなんとか思い止まるように説得をした」「それは尼子を討てという命令書のことですか?」と聞くと頷く。
「そうです。なにとぞ例の件、よろしくお願い申し上げる」と、藤孝は言った。
「藤孝殿、余計かもしれないが幕府から離れられることをお勧めします。それでは失礼する」
と言って船に乗り込み出雲に帰った。
幕府と縁を切って帰ることにしました
次回予定では閑話を挟むつもりです
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