晴久の死
時は過ぎ、十月。
凄腕の間者については領内から逃げられたと知らせを受けた。
「見つけながらも始末出来ず申し訳ございません」そう言うのは正保と兵太夫だった。
「逃げられたのは仕方がない。次逃さなければいい。今は領内の結界を強くせよ。領内の情報を漏らさないようにな」と二人に言う。
「ははぁ」と平伏する。
「正永、毛利の動きはどうか?」
「はっ、間者の首を毛利との国境においた為か世鬼衆は鳴りを潜め出しました。代わりに座頭衆と呼ばれるのが動くそうです」
「座頭衆か..毛利のもう一つ忍び集団だったかな?」俺は、思い出そうとしていた。
「座頭衆は四人、その頭は勝一と呼ばれております。しかし、それ以上の情報は全く分かりません」そう言ってきたのは久経だった。
「鉢屋衆の情報か?それと、何かあったか?」
俺が聞くと
「はい。鉢屋衆の集めた情報です。それと、鉄砲が目標の五千丁を越えたとのこと」と報告してきた。
「鉄砲隊を千五百まで増やすよう俊通に伝えてくれ。千丁は父上に、もう千丁は常光に山吹城の防衛用に使ってくれと送っておいてくれ。それと、鉄砲は増産し続けろ。今日は鍛治師達に清酒を持っていってやってくれ。よくやってくれた祝いだと。これからも頼むと伝えてくれ」と指示を出した。
久経は直ぐに向かった。
さて、鉄砲は恐らく日本一持っているだろうな。これで、少しでも毛利に対抗出来るといいけどな。
「毛利の情報は以上か?領内の国衆はどんな様子か?」
「先の役職に対して表だって不満を漏らす者はいませんが、内心不満を持つ者は多くおります。何かあれば破裂する可能性があるかと」と報告してくれた。
「わかった。引き続き監視をしてくれ。皆下がっていいぞ」といい、三人とも下がった。
後、二ヶ月、なんとしても父上の死は避けたい。
十二月二十三日
史実で父が死んだ前日なった。
忍び衆と久経を呼んだ
「結界は完璧か?間者は入っていないか?」
「問題ありません。今のところ確認はされておりません。しかし、座頭衆は分からないため対処が出来ておりません」と三人を代表して兵太夫が言う。
「鉢屋衆の方にも座頭衆を調べておりますが、まだなにも...」久経は報告する。
「久経、父上の護衛は問題ないか?」
「父や手練れが守っているので忍びが入るのは難しいかと」と久経は説明する。
「そうか、わかった。父の元に行くぞ」と久経と向かった。
「父上、用があってきました」と俺は、父晴久がいる部屋に入った。ちょうど七老中が居た。
「何かあったか?」父が言うと
「石見の防衛の強化と毛利との関係について相談しに来ました」
すると常光が「ちょうど石見の防衛について話をしてました。何か考えでもあるのですか?」と言ってきた。
「はい。もし攻められた場合石西、石央の一部を捨てるつもりです。代わりに山吹城を中心に矢筈城、矢滝城、高城、温泉城を改築して絶対防衛戦を張ります」
「石見の半分を捨てるつもりですか!」幸清が怒鳴る。
「守れるところまで守る。石西が攻められた時どうやって援軍を送る気か?山吹城から出せばかえって狙われ分断されるぞ。石西も最低限守るがそれ以上はしない。重要なのは銀山を取られない事ではないのか?」と幸清に迫る。
「常光、石見の守りはお主に任せておる。今のどう思う」と晴久聞く
「おっしゃることは的を射てますが石西を捨てるなど周りが聞けば国衆が離れる恐れがあります」
「秀綱、久包はどうだ」二人に聞くと
「石見は銀が取れるところが重要。石西は防衛しますが必要以上は援軍を出さないで若の言う守りで守った方がいいでしょう」秀綱は言う。
「若のおっしゃる事は分かりますが矢筈城、矢滝城、高城、温泉城を盾にし、補給を山吹城に集中させるのは山吹城を直接狙われるのではないでしょうか?」久包は質問する。
「山吹城は二年前から改築を開始しており、戦で中断しましたが来年には難攻不落の城として出来上がる予定です。防衛面は常光が一番詳しいので聞いてください」と常光にふった。
「若の指示通り改築をしており、兵士は最大二万人以上は入り、籠城も兵糧を最大まで入れておけば二年は補給無しで戦えます」と説明した。城は大幅に改築し小田原城の総構えを手本として作った。ちなみに、今の俺の居城である米子城も総構え元にできる範囲で改築している。もしも、月山富田城が落ちた際の避難先、第二の居城を想定している。
話は戻すが、その為今の山吹城は尼子でも最高の城となっている。知らなかったのか皆言葉を失っている。
「当面は義久の案を使おう。徐々に城の改築を行い、石西まで完全に押さえることとする。」
これで、石見の防衛は決まった。
「それで、毛利の関係とはなんだ?」と晴久は聞いてきた。
「毛利と同盟を結びませんか?」と言うと皆憤慨した。
「何を考えているのですか!毛利は宿敵ですぞ!そうです!毛利と組むなどあり得ん!若は毛利が謀略でのしあがったのを忘れたのですか!同盟などしたら尼子は内部から殺されますぞ!」など、罵声や怒声ばかりだった。
父も完全に怒っていて抜いてはいないが太刀を持っている。
「ふざけた話だが、一応聞いてやる、何のためだ」物凄い威圧で聞いてきた。正直物凄く怖い。
「京を目指す為です。その為に毛利と結びます」
「なぜ京を目指す」威圧はそのまま聞いてくる。
「京を抑え公方様を頭にして天下を治め長き戦乱を終わらせる為です」
「それなら、毛利を潰してから目指せば良いではないか」
「それでは時間がかかりすぎます。毛利の強さは皆様ご承知のはず。長くかけていては終わることはありません」と説得を続けたが誰も賛同することなく、拒否で終わった。
その夜、晴久は一人で酒を呑んでいた。
「天下を治めるか...」義久が言った言葉が残っていた。祖父は一度京に上がっているが単独で京に上がることなどあの頃の尼子では不可能だった。だがもし、今の勢力があったならと考えてしまう。だが、毛利と組むなど自分が絶対に許せないことだった。自分は一度大敗をしているからである。
「御爺様なら、どうするであろうか...」一人で酒を飲み続けていた。
「飲み過ぎたな、今宵は冷える。寝るか」と部屋に戻っていった。
次の日の朝、いつもなら既に起きてくるのだがまだ来ないので小姓が部屋を訪ねると、まだ、寝ているのか布団のなかだった。
「失礼します。殿、既に朝でございます」と起こそうと晴久に触れると冷たくなっていた。
史実通り亡くなってしまったのである。
晴久の死の原因ってなんだったんでしょう?
感想など、ありましたらよろしくお願い致します
誤字報告も、凄く助かってます。よろしくお願い致します