新たな部隊と元就の受難
石見を手にいれて僅かだが領地が増えた。
今の領地は八万三千石だ。先ずは約束通り正永と正保に三百五十石ほど与え甲賀と同じ禄にした。
さて、今回常備兵の被害が大きかった。しかし、鉄砲隊の力は見せつけられたはず。これからもっと数を増やさねば...と考えていると久経がやって来た。
「殿、鉄砲鍛治師から連絡です。例の物が完成したそうです」
「ほんとか!すぐに行くぞ」そう言って久経と共に鍛治師達の作業場に向かった。
「完成したそうだな!」俺が言うと
「はい。二通り完成はしましたが、従来の物に比べて重量があるのと長いため装填に時間がかかってしまいます」そう言って物を見る。
一言で言うなら長い。普通の鉄砲の二倍近い長さがある物と1.5倍の長さの物があった。
俺は、「雑賀衆の組頭三人と俊通と忍び衆の木戸と伊賀崎、後杉谷を呼んでくれ」そう言うとすぐに呼びに向かった。
そこへ鍛治師の一人が、「もう一つの指示のあった溝を掘った鉄砲ですが、まだできていません。削るのに時間がかかっています」
「それは後でいい。先ずはこれを試そう」
「とりあえず試し撃ちをしてくれ」と言い鉄砲のための訓練場に向かった。
試し撃ちを見たがやはり重いのと長いためか時間がかかった。そうしてる内に呼んだ八人がやって来た。
「お呼びと言うことですが、何かございましたか?」木戸が聞いてくる。
皆に試しに撃って貰いたい物があると言い鉄砲を見せる。それぞれ反応は様々だった。
「八人でそれぞれ一発ずつ撃ってもらう。撃った感想を聞かせてくれ。」
そう言って撃ち始める。
結果で言うと、長さが二倍ある方はかなりの距離を狙えるが見えない物は撃てないのでお蔵入りになった。スコープが作れたらいいんだけどな..と一人思っていた。
ただし、1.5倍の長さの方は精密射撃には向いたが連続射撃には向かなかった。
試し撃ちの最中に重秀の一言で皆殺気だって的を撃つようになった。
「ここに居るのって全員鉄砲の腕に自信があるやつじゃから誰が一番か競わんか」まさかの発言に皆気配が変わった。
皆、撃ち終わるまで一言も喋らなかった。
結果から言うと三つの鉄砲を使った連続射撃は雑賀衆三人組の独占だった。精密射撃もやはり雑賀衆かと思われたが、俊通と杉谷と重秀の同率一位だった。
ちなみに杉谷とは杉谷善住坊のことだ。望月と合流した中に居たのであった。
これで、信長を狙撃した三人が揃った。
「よし、新しい部隊を作るか。」
俺は、狙撃部隊を作ることにした。
俊通は既に鉄砲隊を任せているから善住坊に任すか。
「善住坊、木戸、道順」
「ははぁ」
「狙撃を専門とした部隊を作る。お前たち三人に任す。善住坊が頭となり部隊を作れ。副将は木戸と道順とする。人数百人。その分少数精鋭とせよ」
「御意」三人は部隊について話し合いに行った。
「俊通、鉄砲隊を三倍に増やし、雑賀衆と同数にせよ」
「承知しました」
これで、部隊についてはいいかな。
一方その頃毛利では。
門司城には援軍を出したが恐らく奪われるであろう。今は尼子が大人しいがいつ約定を破るか...大友と尼子どちらかと完全に同盟か不可侵を結ばねば...
元就は一人悩んでいた。大国大友と勢いのある尼子の二つの勢力に挟まれ不利な戦をしていることに打開策を探っていた。
「そういえば晴久の倅を監視させてたはずじゃが報告が来ておらんな。誰か政時を呼んでくれ」
そういって世鬼政時を呼び出した。
「政時、尼子に送った忍びからの報告が来ておらんがどうした?」元就は聞くと
「恐れながら申し上げます。義久につけた者は恐らく全員始末されたかと...」政時は深く謝罪した。
「なんじゃと!」元就は驚いた。
「何故じゃ!」と聞くと
「尼子晴久には鉢屋衆がついており、その息子、義久には甲賀と、伊賀の忍びがついておりました」
「それは以前報告を受けたが雇われてるのではないのか?」と聞くと
「いえ、雇われてるのではなく召し抱えられておりました。数にしても百人以上の忍びがおります」これには元就も絶句した。
「噂によれば頭領は一人が千石、他の忍びも武士と変わらない待遇だそうです」
「千石じゃと、あの者はそんなにもやっておるのか!」
「はい。噂でしかありませんので確認は出来ておりませんが忍び達の忠誠心を見ると恐らく本当のことかと」
元就は最早情報戦では勝てないと思った。新宮党の時のように内部から崩していくつもりだったがそれができないと知ったからである。
「まて、それではこちらにも多くの間者が入っておるのではないか?」その事に気付いたとき元就は震えた。
「恐らく入ってはいる可能性が高いかと。しかし、大殿や殿の元など重要なところには今のところ入ってはおりません」政時が言うと元就は焦った。
「政時、直ぐに忍びを増やし尼子に対処せよ」
「ははぁ!」政時は直ぐに動いた。
一人残った元就は頭を抱えていた。
「尼子義久一体何者なんじゃ...」
交渉の時に会っている、貞俊、元相、隆元に聞くのであった。
「三人に聞くが尼子義久はどのような男だった」
「抜け目無い者かと。石見の代わりに安芸の城を要求してきました」貞俊は言うと
「人の嫌なところを付いてきます。後は分かりません」元相はそう言う。
「隆元はどうじゃ?」元就が聞くと
「父上に似ているかと。ただ、甘いところがある人物かと」と、答える。
「わしと似とるとは?」
「謀略や調略を主に行い、情報を一番と考えておるようです。甘いと言うのは口羽のように先に人質を返してきたことにございます。ただ...」
「ただ、なんじゃ?」元就が聞くと
「民衆には好かれているようにございます。奪いかえされた川本の民が声をかけたり楽しそうに話をしておりました」隆元は帰りに見ていた事を話した。
「そうか...わかった。下がって良い」と言って三人を下がらせた。
「...謀略や調略、そして、わしと似ておるか」その言葉に元就は自分の師のような存在だった人物を思い出していた。
「一応不可侵を結んでおる。じっくり見極めねば。一度話してみたいものじゃ」元就は一人思っていた。
暗殺三人衆の特技をいかした部隊が出来ました!
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