交渉
長江寺に、幕臣細川藤孝を上座に双方代表者三名が左右に分かれて座る。
「それでは尼子家と毛利家の交渉を始める。私が進めさせていただく細川藤孝だ」藤孝はそう言って交渉を始める。
まず、互いに代表者の名前を言っていった。
毛利側、毛利隆元 福原貞俊 国司元相、
尼子側、尼子義久 亀井秀綱 中井久包
まさか、現当主の隆元が来るなんて...三人とも驚きを隠せなかった。予想では隆景あたりが来るであろうと思っていたからである。
「まず、尼子側、要求と差し出すものを申せ」
「はっ、まずこちらが要求するのは毛利家の石見からの完全撤退と不干渉です。差し出すのは毛利家次男吉川元春と口羽通良です。」
「次に毛利側、申せ」
「要求は吉川元春と口羽通良両名の解放と五年間の不可侵です。差し出すのは石東、石央からの撤退です」
これはまとまったように見えるが実際は違う。
尼子は石見からの撤退という事で石東、石央、石西全てから撤退するよう要求してるのに対して毛利は既に落とされている石東とほぼ失っている石央を手放すと言っているのだ。
「これは、呑む事は出来ませんな。石東は既に我らの物。石央もほぼ我らがとっている。交渉などせずに攻めとった方が早いですな」と秀綱が言うと
「石央はまだ我らがおります。そう簡単に取れると思われては片腹痛い」そう言うのは国司元相だった。
「そうですか、では交渉は必要ないとお考えか?」久包が言うと
「いやいや、幕臣にまで来ていただいて何も決めないとは幕府の面目を潰すようなもの。ここは交渉を続けませんと」福原貞俊は穏便に済まそうとしている。
「しかし、我らとしても譲られませんがそちらに別に差し出すものがあるのですか?」秀綱が追求するとさっきまで黙っていた隆元が
「それなら我が子を不可侵の間人質として出そう」まさかの発言に全員が驚いた。
「殿、何をおっしゃるのですか!!」元相は大声をあげる
「そうですよ殿、人質に出た貴方ならどうなるかお分かりの筈ではないのですか!」貞俊も言うと
「我らがこれ以上差し出せるものが無い以上仕方があるまい」と言った。
尼子側そっちのけで言い合いをしていたので俺は二人に「秀綱、久包、悪いが条件を変えるぞ」一つの提案をする。
「それではもう一つ提案しましょう」
そう言うと向こうは一時的に静かになった。
「石央、石東と安芸の国の有田城、猿掛城、松尾城までを頂きたいと思います。その代わり先ほどそちらが要求されたことに関しては受けましょう」
「なんだと!」毛利側三人は驚く。その三つの城は吉田郡山城を守る為には絶対に必要な城だからである。
「石見の足掛かりを残すか、居城の守りを残すかはそちらにお任せします」
「それでは交渉にならんではないか!」元相は叫ぶ。
「我々は元々交渉に応じなくてもいいのですが?二人を処刑した後攻め懸かればいいのですから」秀綱が言うと、隆元が一人考えていたが「申し訳ないが一度持ち帰り協議したい」と言ったが
「それはできません。これ以上幕臣である細川殿を引き止めるのは申し訳ない。三好もいつ公方様に牙を剥くか分からない状態ですし。それに、あなた方が代表者として来ている以上帰るのであればこの交渉は終わりとさせていただきます」俺はそう言って無理やり残らせた。
「では、三人で話したいのでしばし時間を頂けないか?」と言ったのでどうぞと言い、しばしの休憩に入るのであった。
互いに別室に行き話をした。
「若、何をお考えなのですか?」部屋に入ってすぐに秀綱が言ってきた。
「そうですよ、なぜ有田城、猿掛城、松尾城とそれまでの城を取るのですか?」久包も言ってくる。
「吉田郡山城を落とすためだけど」と言うと「毛利はすでに山口、周防を手に入れておるのですぞ。今さら吉田郡山城を落とす意味など無いでしょうが」久包は言う。
「いや、意味がある。毛利がまだ居城としているからだ。もし、居城を落とされてみよ。毛利は居城を守る力は無く脆いと国衆などに思われたらどうなる?」と二人に問うと
「なるほど、大内と同じ目に遭わせるのですかな」秀綱も久包も分かったようだ。
「そう、月山富田城を攻めて追い返された大内と同じように国衆に調略をかけて味方に引き込む。その為に吉田郡山城を落とす」
俺はそう言って話を終えた。
一方毛利側では。
「交渉とは名ばかりで脅迫ではないか!」元相は憤慨している。
「二人が相手に捕らわれていなければなんとかなるのですが。いっそ、見捨てる事も視野に入れるのは」貞俊が言うと
「ならん!!それは絶対ならん。二人は必ず助ける」隆元が言う。
「しかし、先程の条件どちらも呑めるものではありませんよ」貞俊は言うと
「どちらがまだ良いと思う」隆元が問う。
「大殿が居城を変えるのであれば義久が言ってきた方が良いですが・・・」
「わかっておる。安芸の国衆が毛利から離れる可能性があるのであろう」隆元は父(元就)や隆景ならどうするか考えていた。
「石見を諦める...」
「致し方ありませんね」貞俊も承知する。
双方戻ったことにより交渉が再開されたが決まるのは早かった。
毛利は石見から完全に手を引くことを決めたのだった。それにより交渉は成立し幕府、尼子、毛利代表者三人(藤孝、隆元、義久)が署名をしそれぞれ保管することになった。
「これにて、此度の尼子と毛利の交渉を終える」藤孝が言うと両家頭を下げた。
「秀綱、かの者を連れてきてくれ」
「よろしいので?」
「藤孝殿がいる場で証明した方がよかろう」
「わかりました。しかし、殿は」
「父には説明している...一応」
そういって人を迎えに行かせた。
「隆元殿少々御時間を頂けないでしょうか?」
毛利側は警戒したが「構わないが何事か?」
隆元が言うと「藤孝殿、申し訳ないが幕府、尼子、毛利に、関わる話をしたいのですが」
藤孝は少し考えたが話すことにした。
「三人で話をしたいとはどのような用件か」隆元が言うと「幕府も関わるということがどういった件で」藤孝が聞いてきた。
「藤孝殿は以前、公方様に話したことを覚えておいでですか?」
「忘れるわけ無いだろ、お主が公方様に喧嘩を売ったことであろう」藤孝は思い出し苛ついている。
「はい、その件でございます。毛利にも伝えておき力になって貰うべきと思いましたので」
「藤孝殿、その件とは一体どのような内容なのでしょうか?」何も知らない隆元が聞いていく。
御所での話したことを話していき、聞いた隆元は思案する。毛利に利があるかどうか。
尼子は毛利との戦が無ければ参戦すると言っている。その間に攻めこむことが出来るが幕府から敵対されてしまう。しかし、幕府にそこまでの力は無い。でも、成功した場合一気に立場が逆転する。思案し続けていたが結論を出した。
「その時は毛利家も一度矛を納め公方様に御味方致します」と言った。
「さて、そろそろ着いたかな?」と言うとドタバタ音が聞こえる。
「殿!」元相が飛び込んできた。
「何があった!」隆元が驚いて聞いてきた。
「通良が!」といい掛けると外から秀綱と久包につられて口羽通良が来ていた。
「殿、此度は申し訳ありません」と通良は膝をついて頭を下げる。
「口羽殿はお返しします。元春殿は石見の明け渡しの際にお返しします。」と伝えた。
「よう、無事だった!元春も無事なのか?」と隆元が通良に聞いていた。
「元春様は治療を受けた上で共に監視されておりました。今回は私だけが返されることになり申し訳ありません」と涙声で謝罪していた。
その後毛利側は口羽を連れて帰っていった。
数日後、石見の明け渡しで元春を連れて行ったが傷は治りすんなり引き渡しは済んだ。
その時、元就本人が来ていたと聞いて驚いた。
これで、毛利は元春と五年間の不可侵と尼子は石見を完全に手に入れたのであった。
毛利隆元と始めて邂逅しました。この巡り合わせが今後の大きくなる?予定です
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