表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/112

097 最終確認

 

 文化祭前日、大道具から小道具に衣装までなんとか全部作り終えて間に合うことができた。大きなトラブルの一つもなく乗り切れたのはクラスが一致団結した成果だとは思うが、まだ本番を迎えたわけではない。

 この日、劇の最終確認をするために体育館を借りてリハーサルを行っていた。



 場面は魔女が中心となって王城内を混乱の渦に巻き込んだその火の海の中。



『君が死ぬことなんてないよ!』

『……そういうわけにはいかないの』

『どうして!?』

『王女と…………幸せになってね』

『ダメだ!ボクは君が幸せになることも必要だと思う!!』


『ありがとう。そういってくれるだけでワタシの心はいくらか救われるよ。キミに会えて良かった――――』

『――――ダメだ!行くな!』



 そうして魔女は火の海の中に姿を消していった。




「えっとさ、つまり最後の場面は俺が魔女を宥めようとしたんだけど、上手くいかなくて魔女は自害するってことなんだよな?」

「ええ、魔女は結局少年に対して秘めた思いを伝えることができず、それでも少年の幸せを願ったの。ただ、魔女が最期にどんな気持ちだったかってところね」

「ふぅん、そればかりは本人にしかわからないってところか。でもやっぱり別に死ぬ必要はないと思うけどな」


 舞台から降りて、潤と響花は最後に決まった結末の場面をもう何度も繰り返し確認している。


「いいえ、王城内を混乱に陥れたのよ。それで魔女が生きていたら後の不安を煽りかねないから存在を抹消する方が話をしては早いの。有名な魔女狩りがそうね。人は不安に駆られると何をしでかすかわからないから。それが例え魔女がどんな気持ちを秘めていてもね」

「そっか、まぁ響花が言うならそうなんだろうな」

「な、なんであたしが言うとなのよ!?」


 潤の言葉を受けて響花はどこか慌てふためく。


「いや、だってこの物語、この世界の創造主だろ?ならお前が一番この世界のことを想像し易いわけじゃん」

「……そういうことね」

「なんだよ?」

「なんでもないわよ!さ、早く確認して帰るわよ!明日が本番なんだから!あっ、劇は明後日か」


「なんで微妙に怒ってるんだよ。わけわかんねぇ」


 そうして台本通り、内容の確認をする。ここまで六反田のしごきに耐えて頑張ったとは自分でも思う。観客がどう思うかはまた別の問題であるのだが、やれるだけはやったつもりだ。


 そして19時、閉門時間を迎える。

 この日は全学生の帰宅が遅くならないように帰らされるのは翌日に文化祭を控えている当然の措置。


 帰り道、もう自然となった花音との帰宅。二人で自転車に乗るのももう慣れてしまっており、花音も潤の腰回りに自然と腕を回している。


「いよいよ明日ね」

「ああ」

「どうしたの?」

「いや、本当に大丈夫かな?」

「大丈夫よ、自信持って臨みましょうよ」

「まぁ、そうだな」


 花音を家まで送り届け、「また明日」と声を掛け合う。



 ――――帰宅後。


「あぁ、けどやっぱりちょっと不安だなぁ」


 帰って部屋で一人になると考え込む。劇自体は明後日になるのだが、妙な緊張感に襲われる。上手くやれるのだろうか?前評判が先行しているのはダブルヒロインを花音と響花の二人が演じるということが広まって学校中の期待が膨らんでしまっていた。


「…………今、大丈夫かな?」


 そうしておもむろにスマホを手に取る。ここでもまた妙な緊張感に襲われてしまうのは、画面に映し出されている花音の名前。

 常にやりとりはメッセージアプリを通じて行っており、電話をしたことはこれまで一度もなかった。


「ま、まぁただ電話するだけじゃないか」


 少しだけ勇気を出して発信ボタンをタップする。


『……もしもし?』

「も、もしもし?」

『どうしたの?電話なんて珍しいわね』

「ん?ああ、ちょっと気になることがあったからさ。今時間あるか?」

『ええ、さっきお風呂を出たところよ。それより、気になることって?』


 お風呂上がりの花音の姿に妄想が膨らむのだが、膨らんだ妄想をすぐに萎ませた。そんなことを考えるために電話をしたわけではない。


「あのさ」

『うん』

「……劇、上手くいくと思うか?」


 抱えている不安を口にする。


『――ぷっ』

「えっ?」

『なにそれ?いつまで悩んでいるのよ?そんなことで電話して来たの?』

「そんなことって、花音は不安じゃないのかよ?」

『そんなのもちろん不安よ?けど睦子も言ってたでしょ?』

「六反田が何を?」


 役者班のリーダーである六反田が何か言っていたかと思い返すが思い当たる言葉が見当たらない。


『聞いてなかったの?』

「いや、すまん、何て言ってた?」

『えっとね、確か、みんなで創り上げるものだから一人だけで背負うな。一人が責任を感じることはない。失敗すればそれはクラス全員の失敗だ。例え演者が舞台上で失敗したとしてもそれは演者に推薦した私達にも責任があるんだ。演者は私たちの代表で舞台に立っている。裏にいるやつも全く関係ないやつなんていない。って言ってたわよ?』

「あー、それのことか。いや、覚えているよ。六反田って良い奴だよな」

『そうね。だから気負っても仕方ないよ。私達は練習した成果を発揮すれば良いだけだから』

「とは言ってもなぁ…………」


 六反田の言ってくれた言葉は有難かったし、演者を気遣っただけでなく、裏方にも責任の一端を背負わせたかったということもわかる。

 だがプレッシャーを感じることは避けられない。だからこうして不安に駆られて花音に慣れない電話をしたのだから。


『――はぁ、わかったわ』

「えっ?」

『じゃあ今から練習しましょうか?』

「えっ?今から?どこで?」

『流石にもう遅いから外には行けないし、このまま電話でセリフの確認をするってことでどう?』

「あっ、そういう――――」


 一瞬どこで会おうかと考えてしまったのだが、このままセリフ回しを確認することになった。


「場面は、どこにする?花音が決めてくれるか?」

『そうね、じゃあやっぱり一番大事な最後の場面にしましょうよ。魔女が消えた後の』

「わかった」


 そうして台本を手元に置くのは念のため。もうセリフは完全に頭に入っている。


「じゃあいくぞ? 魔女が火の海に姿を消したあと、少年と王女は二人その場に取り残されるのを将軍に助け出された。少年は王女を救った英雄として王女との婚姻を認められると同時に貴族の地位を与えられた後の場面から」

『うん』


「 『まさかキミがあの時の女の子だったなんて。気付かなくてごめん』 」

『 『わたくしはずっと覚えていましたわ。もう一度再会が叶ってどれだけ心を躍らせたか』 』

「 『そっか、それは悪かった』 」

『 『いいえ、それはいいですわ。今こうしてあなたと結ばれることができましたので。ただ――――』 』

「 『ああ、わかってる。あの子のことだよね?』 」

『 『あの子の分もわたくし達は幸せにならないといけませんわ。でないとあの子の魂が報われませんもの』 』

「 『そうだね』 」

『 『わたくしと…………』 』


 あとは王女から結婚の申し出をするだけ。それを少年が受け入れる。


「 ちょっと待って! 」

『 『えっ!?』 』

「 『それはボクに言わせて。ボクと――』 」

『 『…………』 』


 王女の最後のセリフを遮った。理由は明確にはわからないのだが、何故か遮りたくなった。


「 『結婚…………してくれないか』 」

『 『は――』 』 「なにしてんの、バカップル」


 花音の返事を聞こうと思ったら突然後ろから声が聞こえた。


「えっ!?あっ、杏奈!?母さん!?」

「こらっ杏奈、あとちょっとだったのに!」

「いや、もう限界よ。電話でプロポーズってどんだけって話じゃない?」

『杏奈ちゃん!?お母さんも!?』


 部屋の扉が開いており、そこには杏奈とその後ろには母親の姿もある。杏奈と母親は電話の相手は花音だと確認しなくても理解していた。いつからいたのか、どこから聞かれていたのか、定かではないがただただ恥ずかしかった。


「ち、違うからなっ!こ、これ明後日の劇のセリフだからな!」


 危うく雰囲気に呑まれてセリフにないことまで口走ろうとしてしまったのだが。


「す、すまん、花音!ありがと練習に付き合ってくれて!じゃあそろそろ切るな!」

『う、うん、突然アドリブ入れるからびっくりしちゃった』

「ああ、そ、それはすまんかった!ちょっとこっちのパターンならどうなるのかなって」

『ううん、これで安心できた?』

「ああ、助かったよ!(なんか違う意味で盛り上がってしまったけどな)」


 杏奈と母親に聞かせるようにして必死に誤魔化す。なんとかこれで取り繕えただろうという程度の手応えを得た。


「また連絡するから!次はメッセージにしとくな」

『えっ?いつでも電話してくれていいわよ?』

「あっ、やぁ……それはちょっとな」


 ニヤニヤしている母親の顔を見ると迂闊に電話なんてできない。いつまた聞き耳を立てられるとも限らないのだから。今後は可能な限りメッセージの方が無難な気がする


『そこでお前の声を聞きたかいからとか言ってくれてたら嬉しかったのにな』

「えっ!?なんだって?」

『ううん。杏奈ちゃんとお母さんによろしく言っておいて』

「ああ、わかった」

『じゃあ、おやすみ』

「おやすみ」


 そうして慌てて終話ボタンをタップした。


 その後、繰り返し誤魔化すようにして杏奈と母親に劇の説明をした。

 母親は嬉しそうに「まさか潤が主役の一人に選ばれるなんてねぇ。それも花音ちゃんが相手役だなんて。これは絶対に観に行くわよ!」と言うので、何度か伝えてあること、絶対に学校で自分たちの関係のことをばらす様な余計なことを言わないように念入りに釘を刺した。


 溜め息がでる。母親に演技を見られることがもしかしたら一番嫌なのかもしれない。来なくてもいいというのに応じるはずがなく、嬉々としているのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ