091 演劇の演目
翌日、朝のホームルームでは凜が響花から受け取った台本のコピーを全員に配り終えていた。
冒頭部分には簡単なあらすじが書かれており、六限後のホームルームで内容の確認をするからそれまでに読める人は中の方も読んでおいてほしいとのこと。
一限目から六限目が終わるまでの間、クラスメイトの何人かは休み時間の度に響花が考えて来た内容に目を通している。
そしてそこかしこで、どうだろうな、ああだろうなという風に話し合っている姿が見られた。
――――そして午後のホームルーム。
教壇には先週と同じように凜と真吾が立つ。
「みんな読めたかなー!?一応最後まで読めてない人のために簡単に内容の説明をするよ。まぁ最後までって言っても正確には最後はまだないけどね」
響花が凜に預けた演劇の演目タイトルは『恋を知らない魔女が王女を呪う』となっていた。
「えっとね、それで内容の方は――――」
――――もう何百年も昔の話、とある王国には綺麗な王女がいた。王女の下には毎月求婚に訪れる男性が多くいる。そしてその全員が貴族などの地位のあるもの、もしくはその子息。王には王女の他に息子がいるので跡目についての不安はない。どの男性と婚約するかは王女に一任していた。しかし、王女はその誰をも断り続けている。
それは、幼き頃に出会った男の子のことが忘れられなかったからだった。
その男の子は、王城の庭師の息子で王女と同じ歳。
幼い王女が庭で遊んでいるところで偶然王女と出会い、すぐに仲良くなるのは王女が飼っている犬が庭師の息子を気に入ったから。その出会いをきっかけとしてそれからしばらくの間は庭で犬を口実にして遊ぶことになるのだが、庭師の息子は王女のことを『王女』という立場にある少女だということを知らなかった。そんな間柄の時、子供ならではの小さな約束、『大きくなったら結婚しようね』という約束が結ばれる。
それから程なくして庭師は暇を出されることになった。理由は庭師の息子が王女をかどわかしているという噂が王城内に広まったためだった。
実際はそんなことがないのは王女と庭師の息子だけが知っていること。しかし王女がどれだけ声高に訴えたとしても聞き入れてもらえるはずがなく、庭師は息子を信じていたのだが、息子自身も状況自体どころか、そもそも質問の意味がわかっていなかった。
そして少年の父は、栄誉ある王城の庭師の職を解かれ王都から離れて生きていくことになり失意のどん底に落ちていく。
庭師の息子の少年もわけがわからず王都から出て行くことになる。王女だということを知らない少女と会えなくなる寂しさはあったのだが、まだ状況を理解していないその時点では父の仕事が替わるという程度の認識で素直に受け入れていた。
しかし、日に日にやさぐれていく父の姿を、歳を重ねる度に、大きくなるごとに理解と共に情けなく思えてくる。少年はその頃には農作物を育てて王都で販売をする仕事に従事していた。
そうしていつからか病に臥した父を看病する日々が続くことになる。
そんな中、十六の歳のある時、いつものように王都で農作物の販売をしていると、ある噂を耳にした。
それは、深い森の中にいる魔女が特効薬を作ることができるという噂だった。少年は父の病を治すために森の中に入って行き無事に魔女と会うことができたのだが、魔女は特効薬を作るのは構わないが条件があると持ちかけられる。
その条件とは、詳しく教えてもらえなかったが王国に恨みのある魔女が王家に呪いをかけるというものだった。それに協力をするということ。
少年はしばし悩むことになるのだが、王城の元庭師であった父が王家に対する恨み言を口にしているのを思い出した。あの優しかった父があれほど豹変したのだ。きっと子供だった自分にはわからない何かがあったのだ。それならば王家に呪いがかかってもいいだろうと考える。
そして魔女は少年と共に旅の夫婦ということで少年は厨房、魔女は侍女として王城の住み込みで働き始める。その後数か月働く間に少年が王女と再会することはなかったのだが、魔女は目的の王女と出会うことになる。王女は魔女から呪いの宣告をされるのだが、何故か王女はそれを素直に受け入れた。魔女はその様子を少しおかしく思うが強がっているだけだろう思っていたのだが、王女には畏怖の念が存在しない。なぜこんなにも素直に受け入れるのだろうかということが気になり、もう離れても良いはずの侍女を続けることにして観察をすることにした。
それから数日、観察を続けることで理解した。王女もまた王家に恨みをもっているということを。自分達はある意味で似た者同士だったということを。
魔女は王女に掛けた呪いをどうしようかと迷い始める。悩んだ結果、相談しようと王女を少年の下へ連れて来た。少年はそれまで魔女の言う通りに協力者として行動を共にしているだけだった。
そして、連れて来られた王女は少年を目にする。成長したとはいえ少年は昔の面影をしっかりと残していた。対して少年の方はというと、王女のことをどこかで見たことがあるという程度で誰なのかということをすぐには思い出せずにいた。
そうして話をする内に、王女は少年のことをいつかの庭師の息子だということもすぐに理解した。そして同時に少年の目的、それが父の復讐であると。
徐々にではあるが少年もまた、王女が幼い頃に一緒に遊んだ女の子であることを思い出した。
王女と少年の過去を聞いた魔女はさらに悩み始め、そして結論をだす。
このまま王女の呪いを解かずに王女と少年が結婚する未来を作るために手を貸すことにした。それが王家にとっては呪いを受けることと同義の意味を持つと。
しかし魔女は尚も苦悩する。
王女と少年を結婚させるために動こうとしていたのだが、少年が与えてくれる懐かしい人の優しさに触れたことで、いつの間にか自分も少年のことを好きになっていたことに気付いた。
このまま少年を連れ帰れば当初の目的は達せられるのではないか。それに、少年に惚れ薬を飲ませれば一緒にいられるではないかと考え始める。
――――話はそこで終わっていた。
「面白いんだけど、これ結末が書いてないじゃない」
「あー、それ私も気になってたのよねー。響花ちゃん、これ最後どうなるの?」
凜が後ろの席に座る響花に声を掛けるとクラスメイトの視線は響花に集まる。
「うーん、そこなんだけど、実は悩んでるのよね。良い魔女として終わらせるか、悪い魔女として終わらせるか」
「そこは普通良い魔女だろう」
クラスメイトの男子が声を飛ばす。
「まぁ普通はそうよね。けどオリジナリティを出したいならそこで悪い魔女として少年と結ばれる未来になったらそれはそれで面白いんじゃないかな?意外性って意味で」
同じようにして女子が意見をだした。
「つまり、早い話がどっちに転んでも大丈夫ってことよね?まぁラストはまた決めるとして、大筋はこの流れでいいかな?」
凜が決を採る様にして教室中に声を掛ける。特に反対意見が見られないので演目はこれでいくことに決まった。
「さて、じゃああとは配役ね。メインどころは王女と少年に魔女、あと王様と庭師にいくらかの重臣ぐらいかな?他はなんとでもなるでしょ」
そうして早速配役を決める流れになった。




