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088 台本作り

 

 ――――放課後。


「なんであたしがこんなことしないといけないのよ」


 明らかに不満たらたらな響花がいて、周りには机を寄せ合って座っている潤と花音に凜と真吾がいた。


「だって響花ちゃんできることなら協力するって言ってくれたでしょ?」

「それはあくまでも凜ちゃん個人に対してだってことで、クラスに貢献するって意味じゃないんだけどな」

「クラスに貢献するってことは私に協力するってことだって」

「ああ言えばこう言うのね」

「特技ですから」


 えっへんと胸を張る凜は得意気な様子を見せていた。


「けど私も響花なら凄く良いの作れると思うの」

「まぁ俺もその意見には賛成だな」

「潤君と花音ちゃんもそれ本気で言ってる?」

「もちろんよ。だって響花に勧められた小説本当に面白いもの」


 花音の発言に潤も同調するように首肯する。


「面白い小説を知ってる人が面白い台本を作れるってわけじゃないんだけどなぁ」

「まぁいいじゃん、やってみたら」

「もう決まったことだし、みんなもやる気だしたみたいだからしょうがなくするけど、どうなっても知らないわよ?」

「もちろん!内容は任せるわ!」

「……はぁ」


 ここに至るまで、響花は何度も溜息を吐いている。


 今こうして話しているのは、凜が提案したことの内容の為であり、演劇の台本を響花が作るというものだった。多くの小説を読み込んでおり、響花自身も少しばかりだが創作活動をしていた。凜も読ませてもらっていたのだが、そのクオリティの高さはかなりのものだったらしい。

 クラスメイトは響花の創作作品までは知らなくとも響花が日常的に読書をしていることを知っている。

 響花自身は「所詮素人の考えたものよ?」と言っていたのだが、それでも凜やクラスメイトからすれば既存のものじゃなくオリジナリティをだせればそれで十分だった。


 そうして潤と花音も含めて話しているのは出し物に関する責任者としてだ。


 潤と花音に対しては担任から体育祭実行委員を務めたのだから辞退していいと言われていたのだが、凜と真吾と響花が参加するのだからこれも参加することになった。

 潤は若干嫌々なのだが、花音が辞退するわけではない。真吾は凜と共に総括する役割を担うので必然として他に男子をあてがう必要がある。そうなると他の男子が花音に近付くことが我慢ならないので渋々引き受けることになるのだが、それもまた凜の計算通りだった。


「(まぁいっか。結局これで少なくとも下校は一緒にできることになったんだからな)」


 結果論ではあるのだが、潤もまんざらではないのは、放課後こうして花音と一緒になって残る機会が増えることになる。そうすると当然花音と下校を共にすることになっても公然とした理由ができたのだから。


「じゃあまぁ台本が出来るまでは喫茶店の方から手を付けていくってことで」

「台本の方はとりあえず一週間ほど時間を頂戴ね」

「えっ!?それだけでいいの!?」

「いや、まぁ一応得意分野だし、話のあらすじや展開を考えるぐらいなら十分よ。細かいところ、細部の方はとりあえず主だった部分をみんながそれで良いっていうなら多少の手直しも込みでもう少し時間をもらうけど」

「ううん!十分よ!」

「そう?なら良かったわ」


 嬉しそうに顔を綻ばせる凜の横で、響花も最終的にはやるからにはそれなりに本気でやる様子を見せていた。




 そうしてその日はそれで解散となる。電車通学は潤以外全員なのだが、花音は潤と一緒になって帰ることになったのは思惑通り。

 凜と真吾はそれを自然と受け入れているのに対して、響花は疑問に思う。凜が「花音ちゃんと潤は地元が一緒なのよ」と一言伝えると「へぇ、そうだったんだ」とだけ返していた。


 ――――帰り道。


 学校を出てすぐに二人乗りはできないので花音は歩いて、その横を潤が自転車を押して歩いていた。


「それにしても本当に大丈夫なんかな?」

「なにが?」

「いや、喫茶店はまだわからなくもないけど、演劇の方だよ。まぁ喫茶店の方もどうかと思うけど」

「まぁ衣装に関しては被服部の子が何人かいるし、演劇部の子もいるから大丈夫なんじゃないかな?でないとさすがにちょっと難しいわよ」

「いや、それもそうなんだけど、台本の方がな。改めて考えると結構無茶なお願いしたなって」

「まぁそれは確かに。私たちも響花に押し付けるだけじゃなく、手伝える事はじゃんじゃん手伝ったらいいじゃない」

「まぁ……そうだな」


 潤の中には響花がこれまでクラスメイトと接してこなかった部分を心配したのだが、自分が橋渡しをすれば多少はなんとかなるか。まぁなるようになるよなと思うことにした。それにできないことはできないと判断するぐらいできるだろうという風には響花のことをそう評している。


「それでさ、昼休みのことなんだけど」

「あっ、あれ結局なんだったの?」

「とりあえずそろそろ乗ったら?漕ぎながら話すよ」

「そう?じゃあ失礼します」

「っと、とと、あれ?前より重くなったか?」

「ちょっと何それ!?失礼ね、じゃあいいわよ!降りるわよ」

「ちょ――!冗談じゃないか!」

「もうっ!」


 花音が自転車に腰掛けて漕ぎ出す瞬間に微妙にふらつかせる。頬を膨らませるのだが、それも可愛く思えた。

 そうして花音は後ろで遠慮がちに座っているのはまだ乗り慣れないため。



「それでさ、あー、実はさ――――」



 そうして自転車を漕ぎながら帰路に着いて、まだ花音には話していなかった修学旅行の一日目の夜の出来事を詳細に話して聞かせた。



「――――そうなんだ、そりゃあ罰も当然重くなるわよ。はぁ、響花も仕方ないわね」

「だよな。けどあの時はそれしか方法がなかったんだって」


 花音はどうして潤が修学旅行であれほどの罰則を受けることになったのかを、話を聞いてやっと理解した。


「まぁいいじゃない」

「えっ?」


 それでも花音はそれを肯定的に捉える。そして潤の腰から前に腕を伸ばしてぐっと抱き付いた。


「だって、それがなかったら私達今こうして二人で自転車に乗って帰るなんてこと出来なかったのよ。――――――って、きゃあ!」


 会話をしていたら突然背後から抱きつかれたのだ。意外なところから精神と肉体に対して思わぬ攻撃を受けたことに驚いてしまい、自転車をふらつかせてしまった。


「ちょっと!危ないじゃない!」

「だって花音が急に抱き付くからだろ!」

「じゃあもうしないわよ!」

「いや、嬉しいからもっとしてくれ!」

「ば、バカじゃないの!?」


 お互いに悪態を吐くのだが、そこには悪感情と相反する感情が同居している。


「「ぷっ」」


「なに笑ってるのよ?」

「いやいや、花音も笑っただろ?」


 二人して笑い合って帰っていく。またこうして軽口をたたき合える事がただただ嬉しかった。


「――ねぇ?」

「ん?」

「このまま潤の家に行っていいかな?」

「えっ!?」

「だって、これからまた忙しくなるでしょ?だから会える時は少しでも長く一緒に居たいなって」


「あっ、そりゃあまぁ、嬉しいし別にいいけど、今日は杏奈も母親もいるぞ?」


 突然の提案だが嬉しさと同時に恥ずかしさも生まれる。改めて考えると、杏奈はまだしも、母親にはまだ何も話していない。そもそも話す必要があるのかどうかはまた別の話なのだが。


「――なっ!?なに考えてるのよ!」

「えっ?」


 何をいきなり焦ってんだと思うのだが、数瞬遅れて潤も理解した。


「ち、違うって!そういうことじゃなくて、母親にまだ何も話してないからどうしようか考えていただけだっつの!」

「えっ?」


 花音はそこで自分の勘違いを理解して赤面させた。


「い、今の忘れて!」

「あほか、無理だっつの!」

「お願い!忘れてって!」

「無理だって」

「もう、バカーーーー!」


 花音の悲痛な叫び声を伴って潤の家に帰り着いた。



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