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087 文化祭の出し物

 

 教室に戻るとすぐに五時間目の開始が迫ることを告げる予鈴のチャイムが鳴る。そのため花音たちには呼び出された事情を話す時間がなかったのだが、そもそも誰が聞いているとも限らない教室の中でおいそれと簡単には話せない。


 既に席に着いている花音にスマホのトークアプリで一言『ごめん、昼休みの話だけど、あとで話す。ただちょっと長くなるかもしれないからなんとかして今日一緒に帰れないか?』とメッセージを送る。

 返事を待つのだがすぐに返事が来ない。花音がちらっと後ろを振り返ったことで目が合った。少し照れが見られるように思えたのだがすぐに前を向いている。どうやらメッセージ自体は見てくれたようだった。


「どうしたの?なんか嬉しそうね」

「ん?いや、別になんもないぞ」


 嬉しくもなる。


 これまでおいそれと気軽にできなかったメッセージのやりとり。それを気軽に送れるようになっている。

 一緒に下校なんて実現できるかどうかはわからない。しかし、仮に付き合っていない友人関係で同じ内容でも返事を待つことに焦りと後悔を覚えて気持ちは返事を待つことに終始しているだろうと。そんなことになれば授業の内容なんて絶対に頭に入って来ないはずだ。

 それが今は彼氏彼女の間柄。例え返事がなくとも気にならない。それは先程振り返った花音の表情を見ただけでも容易に受け取れる。


「(あとはまぁどうやって口実を作るかだけどな)」


 別に友達同士で帰ることは普通のことかもしれないが、花音のモテ具合を考慮すると事を慎重に運ぶに越したことはない。


「(一緒に下校か)」


 中学の時は中学校から家の方向が違うので叶わなかったその願望。夢というには大げさかもしれないが早くもそれが叶うと思うと気分が高まる。本当なら毎日登下校を一緒にしたいぐらいだ。


 そうして花音のことで頭の中を埋め尽くされていると、五限目を終えるチャイムが鳴る。


「(やべっ、全然聞いてなかった)」


 結局どちらにせよ授業の内容は全く頭に入っていなかった。


 そして六限目までの短い休み時間では花音と話すことは叶わなかったが、スマホには返事が来ている。


『わかった、ちょっと気になるけど私も一緒に帰りたかったから誘ってくれて嬉しいな』

 そうしてハートマーク付きの猫のスタンプが貼られていた。


 想像以上の破壊力に悶え死にしそうになる。


「(やっべ、付き合ったらこんな感じになるのな)」


 にやにやが抑えられずにその休み時間は机に顔を突っ伏して身動きを取れずにいた。

 隣の響花は午後になればクラスメイトの反応も落ち着いており、容姿が変わっても過ごし方は変わらず読書に耽っていた。ただ一つだけ違ったのは隣で机に突っ伏している潤に視線を送る回数が普段よりもいくらか多いということだけが違った。



 すぐに六限目が始まるのだが、六限目の内容は文化祭に向けてのホームルームに変更されている。


 朝と変わらず凜と真吾が前に立ち、文化祭の出し物の最終決定をしようとしていた。


 しかし、意見が二極化して大きく分かれてしまっている。

 潤も花音も積極的には発言をしていない。どちらかというと静観している。響花に至ってはホームルームだというので堂々と本を読んでいる辺りさすがだなと逆に感心してしまう程ある意味自分を持っていた。



 そうして進められている話の内容は、最終的に残った候補のメイド喫茶と演劇だということは一限目に既に決まっている。その男女比率は圧倒的にメイド喫茶に男子で演劇に女子という具合だった。


「男子は女子のメイド姿が見たいだけでしょ!」

「ちげぇよ!実益を兼ねるとその方がいいに決まってんだよ」

「その実益を上げるのに普通の喫茶店じゃなくメイドの時点で透けて見えるわよ!」

「だとしても演劇なんかしてどうなるんだよ!どうせ誰もが知ってるありきたりな内容だろ!」


 意見は男女で分かれて平行線だった。教室が喧騒に包まれる。


「ああっ!もううるさいっ!こんなんじゃ全っ然決まらないわよ!」


 バンッ!と大きな音が教室に響き渡る。凜が教卓を力一杯に叩いたのだった。


 シンと静まり返る教室の中、真吾が横ではけらけらと笑っているのがどこか真剣さを欠けさせていても、それが険悪な感情を生まない程度の丁度の良い中和剤の役割を果たした。


「あのさ、凜の言い方きつかったけど、クラスがまとまらないと楽しくないと思うんだ。せっかくみんなで文化祭をするんだ。目一杯楽しまないか?」


 そこでこれまで黙っていた真吾が積極的に口を開いた。それは普通のことであり全員わかっていることなのだが納得ができないので話がこじれてしまっていた。


「けどじゃあどうやってまとめるんだよ」

 当然の質問がクラスメイトの男子から飛び出す。

「ならこんなのはどうだ?」

「えっ?」


「演劇とメイド喫茶を合体させるんだよ」


 突然の提案で意味がわからず教室がざわつく。真吾の隣の凜も真吾の発言に驚き目を丸くしていた。


「どういうことだよそれ」

「慌てるなよ。まぁ聞けって」


 そうして再び教室が静まり返る。


「結局のところ、実益の上がる喫茶店ならメイドじゃなくてもいいんだよな?それと女子は演劇をしたいと。ならさ、文化祭は二日あるんだ。一日目は仮装喫茶ってことにして、二日目は劇を中心に展開すればいいんじゃねぇか?もちろん仮装は劇上の役割に扮してだけどな。そうすると劇の宣伝にもなるし丁度良いじゃん。ただ、それでもどんな話でどんな配役になるかは知らんがな。でも別にあくまでも仮装だから劇の配役の人が必ずしもその配役で喫茶店に従事しなくたっていいじゃん。これなら別にお前ら男子がメイドになって喫茶店も出来るしな。それも意外と面白いんじゃね?」


 最後は笑いながら言うと、静まり返っていた教室の中が再びざわつき始める。


「おい、どう思う?」

「ありなんじゃないか?」


「私もそれ楽しそうだと思うな」

「いいねそれ、やってみたい!」


 これまで少しばかりの剣呑さを孕んでいた教室の中が、同じざわつきでも前向きな肯定的な意見に変わっていった。


「けどさ、それって大丈夫なのか?実質二つやるってことだろ?」

「別にいいですよね先生?」


「ん?ああ、お前らがやれるっていうなら別に構わんぞ。ただ、もちろんその分大変だろうがな」


 担任の許可も下りたのだが、微妙に不安な空気に包まれているのはそれが実現可能なのかどうなのかということだった。


「さすが真ちゃんね!良いこと言ったわ。これならいける気がする!」

「だろ?けど、実際どうするよ?」

「それについては任せて!ね、潤!」


「は?」


 突然話を振られてわけがわからない。どうしてこの状況で俺に話が飛んで来るんだよと。


「何人かは知ってると思うけど、私の家はケーキ屋で潤がバイトに入っているのよ。だから喫茶店のメニューについては私に任せて!色々と仕入れるから」

「おい、それと俺がどう関係あるんだよ」

「それは後で話すわよ!いやぁ、潤がいて良かったぁ」


 話しの内容が見えないどころか、そもそも俺の意思は無視するんだなと思う。しかし、こうなると凜と気安い関係の潤には抵抗のしようがなかった。何を企んでいるのか知らんが溜め息を吐いて諦める。そんな一連のやり取りを横目に花音は口元を押さえて笑っていた。


「確かに喫茶の方はそれでいけるかもしれないけど、じゃあ劇の方はどうするの?普通の話にするの?それとも何かオリジナルにするの?オリジナルだとかなり大変じゃないの?」次には女子の方から質問が出た。


「それについても任せて!ね、響花ちゃん」


「――――へっ?」


 次に話を振られた響花は話の内容は耳には入ってきていたのだが、クラスメイトの視線を一身に集まるのに対して、遅れて読んでいた本から視線を上げて周囲を見渡し困惑してしまっていた。



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