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恋に不器用な俺と彼女のすれ違い  作者: 干支猫
修学旅行が生んだ結果
83/112

083 遊園地デート

 

「ったく、なんでいきなり遊園地デートなんだよ。普通のデートもまだしてないのに」


 自宅で文句を垂れ流しながらだらだらと外出用の服に着替える。

 黒の綿パンにピンクのTシャツに白のシャツを羽織る。それでもそれなりに気を使うのは普段より気合が入っていた。


「ふぅ、さて行くか」


 そうしてリビングで軽食を口にしていそいそと玄関を出ようとする。


「早速遊園地デートなんてやるね」

「真吾と凜に無理やり誘われたんだよ!」

「ふぅん」


 のんびり寛いでいる杏奈は今日も暇そうにしていた。


「じゃあ行って来る」

「行ってらっしゃーい」


 ひらひらと手を振る杏奈はいつもの調子だった。様子から見て花音と付き合ったのをそれほど気にしていないみたいで一安心する。


 茶色を基調としたスニーカーを履いて玄関を出ると、花音がインターフォンを押そうとしていたタイミングだった。


「あれ?待ち合わせは駅だっただろ?」

「うん、けどなんか早く会いたくなったからこっちに来ちゃった」

「(こいつぅぅう!)」


 花音の服装は遊園地だから動き易いように白のスニーカーに深い青のデニムのショートパンツ、白のTシャツがはみ出すように深い赤のトレーナーを上から重ね着していた。


「その格好……それに――――」


 上から下までじっくりと眺めてしまう。


 今まで見た花音の私服よりもまた違う意味で女の子らしくなっている。


「えっ!?変かな?」

「いや、めちゃくちゃ可愛い!そんなボーイッシュな服も似合ってるって。なんていうか、ただボーイッシュなだけじゃなく女の子らしさも保っているっていうのがまた良い!」

「も、もう馬鹿なこと言わないでよ!びっくりするじゃない!」

「いや、だってほんとのことだしさ」

「もういいから行くわよ!」


 前を歩きながら照れる花音が面白いのだが、別にふざけているつもりもない。かなり可愛い。可愛すぎる。

 それに、昨日も気付いていたのに言いそびれたのだが、胸元にあったネックレスがまた嬉しさを高めた。贈り物を身に付けてくれることがこれだけ気分が高まるのだと思うとまた何か贈りたくなる。


 恥ずかしさから前を歩いていた花音に潤も少し早歩きして横に並ぶ。すっと手を繋ぐとチラッと見られた。


「凜達の前だと恥ずかしいから繋がないわよ?」

「ああ、俺もちょっとそれは恥ずかしい」


 知り合いにこんなところを見られるとどんな気分になるのだろう。世の中で堂々と手を繋いでいる人たちに対して感心してしまう。




 ――――そうして一時間少しかけて現地集合の遊園地に着いた。


 大型プールと併設しているその遊園地は夏が一番混んでいるのだが、土曜日なので本日もそれなりに混んでいる。人気ジェットコースターは結構並ぶことになりそうだ。


「おーい!おはよう花音ちゃん!」

「おはよう凜」


「おはよう」

「ん、おはようさん」

「どしたどした?元気ないな」

「いや、元気がないというより、正直勝手がわからん」

「別に普段通りでいいと思うぞ?いつもの潤を花音ちゃんは好きになったんだろ?」

「まぁ、そういうことらしい。ってかそんな言い方されてもどうしたらいいかわからんって」

「ならいつも通りにしてなっ!」

「――いったいなぁ」


 真吾に背中をバシッと叩かれる。いきなりの不意討ちに驚くが、おかげで助かった。どうやって楽しませようかと考えてしまっていたのだが、いつも通りでいいのだと思うと肩の力も抜ける。

 最初はダブルデートだと言われて戸惑ったのだが結果的にこれで良かったのかと。よくよく考えればいつも通りにするならただ四人で遊びに来てるだけなのだから。


 そうしてフリーパスチケットを購入する。一部の別料金以外はこれで乗り放題だ。

 そういえば花音ってどんな乗り物が好きなんだろうと思い、凜と園内地図を見ているところに視線を送ると目が合った。


「ねぇ、潤はどれに乗りたい?」

「俺?俺はなんでも良いぞ。特に苦手な乗り物はないしな。一応基本的に好きなのは絶叫系だな」

「あっ、そうなの?」

「あー、でもお化け屋敷で本物の人間が脅かしてくるやつ、入ったことないけどテレビで見た限りではあれはダメだ。あんなもんびっくりするに決まってるだろ」

「わかる。私もあれ無理。あれお化けじゃなくてただのドッキリよ」


 潤と花音の話を聞いている凜と真吾はそれが面白いんじゃないかと二人して言っていた。全く共感ができない。


「花音は他に苦手なのあるのか?」

「特に……ないかな?」

「ほんとか?」

「ほんとよ!大丈夫!」


 微妙に言葉に詰まる様子を見せたので何か隠している気がした。再び問い掛けても答えなかったので少し気にはなったのだが本人が大丈夫というなら大丈夫なのだろう。


「じゃあ最初はやっぱりジェットコースターから行くわよ!」

「いきなりだな」

「なに言ってんのよ!遊園地の花形じゃない。それに混んで並ぶの時間が勿体ないし」


 そうして凜が張り切って先頭を歩いて行く。

 一瞬花音がジェットコースターのような絶叫系が苦手なのかと思ったのだが、どうもそうでもないらしい。普通にして凜の横で並んで歩いている。


 まだ開園間もないので予想通りジェットコースターもそれほど混んでいなく、すぐに乗ることが出来た。

 中々に素晴らしいと言えるほどの速さと高さの出来に満足する。隣で乗っていた花音は若干引いてはいたのだが乗れないという程ではなかった様子で、乗り終わると「なんでこんなのみんな乗りたがるんだろうね」と文句を言っていた。


 そうして乗り物を手当たり次第乗っていく。ぐるぐる回るやつは三半規管が揺らされて少し酔う。急流滑りは全員がかなり楽しんで乗っていた。


 そんなことをしているとすぐに13時を回っていた。


「もうこんな時間なんだな。いい加減そろそろ飯にしとこうか?」

「そうだな、適当に売店で買って食べる感じでいいか?」

「別にそれでいいわ」

「私もー」


 そうして屋外テラスで簡単にサンドイッチやポテトなどを摘まんで食べていく。


「昼からはどうするよ?」

「私お化け屋敷に行きたい!」

「えーっ!?」

「俺もそれは遠慮しとく」

「うーん、じゃあこっからは別行動にしようか。それなりにみんなで楽しんで乗れただろ」

「それで、いいぞ」

「あー、でも帰る時は一緒に帰ろうね!」

「もちろんよ」


 昼からの予定を簡単に立てる。

 ここまではダブルデートとは言ったが四人でただ遊びに来ているようにしか思えなかった。


「じゃあまた連絡するから」

「おお」


 14時頃、園内の行動を二手に分かれることになる。真吾と凜は先に食べ終えてたのしそうにお化け屋敷に向かって一直線に歩いて行っていった。


「さて、俺達はどうする?」

「そうね、ちょっと乗り物に乗り過ぎて疲れちゃったから散歩でもしない?」

「そうだな」


 二人で園内を歩き始めると、ただ並んで歩くだけなのだが、隣を見てみるとどこか変な気持ちが浮かんでくる。


 楽しそうに周囲を見る花音の横顔を見ているだけでどこか満足感に満たされていく。


「なに?」

「いや、花音が俺の彼女なんだなって」

「ま、またバカなことばっかり言って!」

「かわいい」

「うるさい!」

「だって、本当のことだし」

「そんなことばっかり言ってふざけてるともうデートしないから!」

「うぐっ」


 照れる様子が可愛いので調子に乗っているとさすがに言い過ぎたみたいで微妙に拗ねてしまう。

 しまったと思うが口にした言葉は取り下げられない。なんとか挽回しないとと思い周囲に目を送ると丁度良いものが目に入った。


「あっ、あそこ!」

「えっ?」

「ほら、タピオカドリンクって書いてあるぞ。遊園地内にもあるんだな」

「すごい!飲みたい!」

「女子ってタピオカ好きだよなー」

「えー?だって美味しいわよ」


 話題を逸らせると同時に機嫌を取り戻せたのでとりあえず安堵する。


「えーっと、なになにタピオカミルクティーとタピオカフルーツティー。なぁ、どっちがいいんだ?」

「うーん、どっちも美味しそう。どっちにしようかなぁ」


 中々決めかねている花音はどっちにしようか迷う。


「すいません、これとこれ、一つずつ下さい」

「えっ!?」

「いや、そんだけ迷うなら片方俺が買うからさ。交換して飲めばいいんじゃね?」

「いいの?」

「まぁ、花音が喜んでくれるなら、俺はそれで満足だしさ」


 言ってて恥ずかしくなるのだが、別に建て前じゃなく本音である。ただ、前に杏奈と一緒の時に一度飲んだことあるのだが、それほど美味しいとは思わなかった。嗜好の問題だろうが。


「嬉しい!ありがと!(潤のこういうさりげない優しさが好きなのよね。あー懐かしいな。口では文句を言ってたりするけど、いつも最後は優しかったし)」

「そっか」


 急にこれだけ喜ばれるとこっちまで恥ずかしくなる。


 タピオカティーを受け取り近くのベンチに腰掛ける。


「まぁ遊園地だからって、ずっと乗り物乗ってばかりじゃなく、こういうのもありだよな」

「うん、楽しいわ。 はい、じゃあ交換」

「お、おぅ」


 一口飲んで落ち着いていると花音も同意する。そして手に持つタピオカミルクティーを差し出して来た。

 自分で交換して飲むと言ったのだから当然の流れなのだが、この近い距離で交換することに恥ずかしさを覚える。

 ただ、花音は自然に振る舞っているので気にしていないのか。ならここで自分だけ意識するのは負けた気分になるので平静を装いながら交換した。


 当たり前のことなのだが、ストローに口をつければ間接キスが成立する。修学旅行のあの夜にキスをしているので今更間接キスもない。だがあの時は物足りなかった。こんなことでも微妙な気分にさせられる辺りどうかしているだろうと思いながら、気持ちを誤魔化して一思いに口をつけて飲む。


「ぶっ、けほっけほっ」


 勢いがついていたので思った以上にタピオカを吸い込んだことで一瞬驚く。思わず咳き込んでしまう。味が悪いわけじゃないけど、やっぱり苦手だなこれ。


「ふふっ、汚いわね。なにしてるのよ」

「けほっ、いや、これ結構吸えるのな」

「そりゃそうでしょ。それを味わうのも魅力の一つなのだから」

「そっか」


 ただの失敗を笑顔で見られる。それだけなのに嬉しくなった。

 花音は鞄からハンカチを取り出し、潤の口周りをそっと拭き取る。


「これで四回目だね」

「何が?」

「キス……間接キスだね」

「なっ!?」


 その屈託のない笑顔でそのセリフはズルいだろ!意識したのを振り払ったのにどうにかしてしまいそうな気分になってしまう。


「なに高校生にもなって間接キスだなんて言ってんだよ!」

「ふふふっ」

「な、なんだよ!?なに笑ってんだよ」


「うそつき、だなーって」


 そう一言だけ言って足を揺らして立ち上がる花音がどういう意味でそれを口にしたのか潤には理解できなかった。

 わかっているのは何かを見透かされたような感じだったということだけ。



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