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恋に不器用な俺と彼女のすれ違い  作者: 干支猫
修学旅行が生んだ結果
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076 修学旅行三日目

 

 朝、目が覚めるとすぐにスマホを手に取った。一応周囲を探る様に確認すると、まだ同室者は誰も起きてはいない様子だった。

 一番に目が覚めたみたいで、そのまま続けてスマホの画面に目を向けて確認しても通知は何も来ていない。


「(夢……じゃないよな?)」


 一度寝てしまったことで昨夜のことが現実に思えなくなってしまっていた。トークアプリを開くと、確認の意味を込めて文字を打ってしまう辺り情けなく思うのだが確認せずにはいられなかった。証拠はすぐ上の文字にあるのに。


『おはよう 起きてるか?』


『おはよう 起きてるわよ?どうしたの?』


 割とスムーズに送れたなと思っているとすぐに返事は来た。内容を伴っていないので返事は疑問形なのだが、続けて文字を打つ。


『あのさ、昨日の事覚えてるか?俺たちってさ……』

 そこまで打って寝る前にしたやりとり、ただおやすみとよろしくを伝えあった文字に目を向けて文字を打ち直す。


『早いな。今日からよろしくな』


 ただそれだけ打って送った。


『なにそれ(笑) 女の子の朝は早いのよ。それにそれ昨日言ったじゃない。 こちらこそよろしく』


 わけがわからない挨拶。既に済ませている挨拶に対して絵文字付きで返事が来た。


 それだけなのに、ただただ嬉しかった。


『そっか。じゃあ、またあとで』

『うん』


 朝、起き抜けでそれだけやりとりするとアプリを閉じた。

 じわじわと幻のように感じた感覚が現実感を伴って甦ってくる。


「(そっか、やっぱ夢じゃないよな)」


 嬉しくて仕方なかった。早く行動を起こしたい衝動に駆られるのだが、だからといって動いた分だけ時間が早送りされるということはない。

 ベランダに出て外を覗くと鳥の囀りが聞こえてくる。朝陽を浴びて軽く伸びをすると妙に気分が良かった。理由ははっきりとしている。

 これまでほとんど送れなかったスマホでのなんてことのないやりとり、そこになんてことないどころか彼氏彼女の間柄を持ち込んだのだから。その返事の早さが二人の関係を物語っているようにすら錯覚してしまう。


「っし!」


 小さく拳を握って、再び実感を得る。覚醒してしまったので二度寝することは叶わず、

 そのまま戻ってテレビを点け、朝のニュース番組を観ているとその音で同室者が徐々に起き始めて来る。


「おはよ、潤早いな」

「おはよ、お前らが遅いだけだっての」

「そうかぁ?って、まだ七時にもなってないじゃないか。どこが遅いんだよ」


 真吾に苦笑いされながらそうして同室者は起床して、ジャージ姿でだらだらぞろぞろと朝食の席に向かう。


「今日で修学旅行終わりなんだよなー」

「そうだな」


 バイキング形式の朝食で当たり前の会話をしながら食事をしていると、他の女子と笑いながら会話をしている花音の姿を見つけた。

 これも当たり前なのだが、やはり男子と違って女子達は髪型や身なりなど整えている辺り意識が違い、花音もまた例に漏れず同じである。

 そうして見ていると、十メートルは離れているのに花音と目が合った。これまで何度となくあった目が合うという状態、その多くでは顔を逸らされてばかりだったのに、今朝は逸らされるどころか優しくにこりと微笑まれた。

 そして何事もなかったかのように女子と会話を再開する。


「っ、やばいな」

「なにが?」


 小さく呟いた言葉を真吾が拾うのだが真吾は理解出来ていない。潤はただ微笑まれただけなのに心臓を鷲掴みにされた気分になる。


 地味で冴えない見た目だった中学の時から好きだったのは間違いない。しかし、今目線の先にいるのはその容姿に磨きをかけて学年一と、いや今では学校一と評される程の容姿を持つ同級生の少女が彼女になったのだ。ジャージ姿は体育で見ていても、修学旅行だという状況がギャップを生み出す。言葉に言い表せない悶々をしたものを感じさせる。


「いや、このオレンジジュース果汁100%だってよ」

「そんなのたまにあるだろ? 変な奴」


 どう思われようとも構わない。そんな彼女が今自分の彼女になっているのだから。別に自慢する気はないのだが、周りが知らないことがさらに妙な優越感を覚えさせた。


 しかし、ぐっと感情を押し殺して普段通りの態度に努めることに終始する。



 そうしてなんとか朝食を乗り越えると、修学旅行最後の自由行動の時間を迎えた。

 潤と真吾以外の同室者は既に部屋を出ており、最後に潤と真吾も部屋を出る。


 ロビーにはまだいくらかの学生達の姿があり、その中に花音と凜と響花の姿もあった。


「もう、遅いよ!何してたの!」

「すまんすまん、真吾のやつが気張っててな」

「おい潤!それは言うなよな!仕方ないだろ、出るもんは出るんだからよ!」

「下品だわ真ちゃん」

「俺じゃないだろ!潤だろ!」

「いや、何してたって聞かれたからさ、つい」


 三人は普段通りの軽快な掛け合いをしているのだが、残る二人、花音と響花は朝から何を言ってるんだとばかりに呆れられる。


 そうして潤達も五人でホテルを出た。




「――――さて、最終日にしてやっと五人で行動できるな」


 バスの最後列で揺られながら真吾が口にする。左の窓際から潤、真吾、凜、響花、花音と座っていた。変に隣同士で座らなかったことにどこか安心する。今隣に座ると、それだけで緊張する自信があった。


「まぁそれも滅多にない良い思い出になるって!」

「……そうだな」


 凜が軽く答えるのだが、確かに昨日は色々あった。それもただ良い思い出ではない、最高に良い思い出、二度と忘れることのない思い出になっただろう。これから先のことなどわからないが、今はこれで良い。

 そんなことを考えているとスマホのバイブを感じたので画面を確認する。通知された相手を見て思わず焦り、画面を真吾に見られないようにこっそりと角度をつける。


 バイブはメッセージの通知で、花音からのメッセージだった。


『私達二人の思い出はこれからゆっくりと作っていこうね』と笑顔のスタンプが添えられていた。


「(ヤバい、この不意討ち卑怯だろ)」


 窓際に片肘をついて手の平を顎に当てチラッと車内を見渡すように目配せしたあとに花音を視界に捉えると、にこりと微笑まれた。


 思わず顎に当てていた手の平を口元に移動させ隠すようにする。絶対に緩んでいる。ゆるゆるに緩んでいる。頬が吊り上がる感覚がある。


「(ってか、いきなりこんな積極的になるんだな)」


 昨日に続いて主導権を握られている実感があるのは、先程の笑顔を見たから。


「まぁでも三日目の予定を時間は短くても水族館にしてて良かったな」

「そうだな。 (くっそ、何で俺だけ! 絶対にやり返してやるからな、覚えてろよ! けど、恥ずかしがらせるのってどうしたらいいもんかな?)」


 潤は花音の行動一つで自分だけが照れるのを悔しく思い、何故か花音を恥ずかしがらせることを目標に修学旅行の三日目に臨むことになった。



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