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恋に不器用な俺と彼女のすれ違い  作者: 干支猫
修学旅行が生んだ結果
74/112

074 重なる想い

 

 時刻は間もなく20時を差す頃、月明かりと街灯が照らす草木の中では秋の虫が夜を待って鳴いていた。

 しかし、多くの虫の囁きが耳に入って来ても、目の前の花音の言葉を聞くことに集中している。


「私の気持ちを……返事をする前に、一つだけ教えて欲しいことがあるのだけど、いいかな?」

「ああ、今告白した以上に話せないことなんてない。何でも聞いてくれ。全部素直に答えるから」


 告白の答え、返事を保留にされる。それでも一切焦りがないのは、ここに至っては恐らくもうイエスかノー以外の返事しかないのだから。

 それ以外の話を持ち出されることに多少の疑問を持つのだが、潤にも今すぐではなくとも聞きたいことは他に山ほどあるのだ。なんにせよ今ならどんな問いであれ、少しでも一緒に居られることが嬉しくもある。


「えっとね――」

「――あっ、けどさ、ずっと立ってるのもなんだし座るか?」


 花音は非常口の扉を出たところで立ったままだ。潤は階段に腰掛けていたところから立ち上がっただけ。それでもお互い向かい合ってはいるので、どこか面と向かっているのに気恥ずかしさが生じてしまう。

 それに誘ってみたものの、座るといっても階段に腰掛けるだけなのでムードもなにもあったものじゃない。


 ――――それでも。


「うん、じゃあ失礼します」


 花音は潤の方に歩み寄り、そっと階段に腰掛ける。潤も花音の横に腰を下ろそうとしたのだが、視線を奪われた。

 浴衣の下腹部に当たる裾を腕で触りながら腰掛ける姿勢に思わずグッとくるものがある。そして隣に座ったことで匂いが漂うシャンプーの香りは海水浴の時とはまた違う香り。花音が家で使っているシャンプーだろうと理解する。その香りがまた良い匂いを醸し出していた。


 そんな花音にじっと見惚れてしまっていたのだが、潤の視線に気づいた花音は視線を彷徨わせながら声を掛けて来た。


「あ、あんまりじろじろ見ないでよ。恥ずかしいから」

「お、おぅ。け、けど、良く似合ってる。か、可愛いよ」

「も、もう!ふざけないでよ!」

「ふざけてなんかないって!」

「もういいから!」


 恥ずかしい、くずぐったくも思いながらも妙に伝えたかった。花音も恥ずかしさを隠すことなくじっと目が合う。


 そうして潤も階段にゆっくりと腰掛ける。緊張が再び襲ってくる。自分で声を掛けておきながらなんだが、いざ隣に座るとまた別の感情が込み上げてくる。肩を抱き寄せたい衝動に駆られるのは、花音の方が潤の方にそっと触れているからだ。潤が座ると微妙に距離を詰めるように十数センチ寄せて来たのだから。

 しかし今は何もできない。ぐっとこらえて我慢する。


「そ、それでね、話の続きなんだけど」

「ああ」


 潤の邪な考えを意に介さないように花音は口を開き始めた。抱き寄せたい衝動を、必死に抑えて話しを聞くことに切り替える。


「あのね、私ね、ずっと考えていたことがあるの」

「考えていたこと?なにを?」

「うん、潤が中学の時に私のこと興味ないって言ったことなんだけどね」

「あっ――――」


 ふと衝撃が走る。やはり根本的な原因はこれだったのかと。自分が蒔いた種だ。これだけは先に訂正しておかなければならない。あの発言は本心からの発言ではなく、意地をはっただけなのだと。


「ごめん、それだけは先に謝らせてもらえないか?」

「謝る?潤が?なにを?」

「これから話すよ」

「うん、わかった。じゃあ聞かせて」


 そうして潤は申し訳なさを滲ませながら中学の本音と裏腹な発言をしてしまったことを花音に謝罪した。


「さっきも言ったけど、俺は中学の時から花音のことが好きだったんだ。いつからって言われてもわからないけど、たぶん体育委員を一緒にやっていた時から」

「えっ?嘘!?」


 潤の言葉を聞いた花音は口元を両手の指先で押さえる。


「ただ、あの時の俺は子供……今でも似たようなもんだけど、好きに対する恥ずかしさがあって、あいつらに花音のことを好きだということを当てられて焦ってつい誤魔化そうとしたんだ。それで思ってもいないことをあれこれ口にしちゃってさ。花音は聞いていたと思うけど、あれさ、ほんとはそんなこと全然思ってなかったんだ。ただ、あれから廊下ですれ違っても目も合わないからさ、もう嫌われちまったと思ったんだよ」

「何言ってるのよ!それは私のセリフよ!潤があんなこと言うから私は変わろうとしたのよ!冴えない地味な私を、今ここにいる私にしてくれたのは潤のあの言葉があったからなのよ!?」

「実際、花音は見違えるように可愛くなったよ。ただ、だからこそ、そんな花音に気持ちを伝えてしまったら、まるで可愛くなったから声を掛けたみたいに思われちまうんじゃないかって思ったら怖くて声なんて掛けられなかった」

「何よ!そんなの勝手だわ!私は潤がどんな女性がタイプなんだろうってずっと悩んできたのに、それが原因で声を掛けてもらえなかったっていうの!?」


 隣で怒っている花音のことを見ていると段々と矛盾を感じるようになる。


 今この場に於いて言葉を紡いでいるのは潤の方で、中学の時の発言について謝っていた。しかし花音はその発言自体を怒るどころか、むしろあれが、あの出来事があったから変われたというのだ。その変化自体を肯定的に捉えている様子に見える。ただ、その変化に対する方向性が定かではなかったのだということを口にしたのだった。


 どうも話が噛み合っていないように思えてならない。


 思い上がるようだが、疑問が生じてくる。それも嬉しくなるような。


「――――えっと、あのさ、それはつまり告白の返事と受け取っていいのか?」


 潤の問いを聞いた花音は瞬間その口の動きを止める。まるで壊れた機械かのように止めた動きはギチギチと音を鳴らすかのように潤から視線を外して顔だけ振り向いていく。

 さっきまでその見惚れるような綺麗な顔を見せていたのだが、今はもう後頭部しか見えない。


「えっ?あっ、やっ、あの、その、それは、その、まぁ…………はい。 私も中学の時から……その、潤のことが、好きでした。 ずっと、ずっと、ずっと好きでした…………はい」


 後頭部が返事をする。裏側の顔がどういう表情をしているのかは窺えないのだが、その言葉が聞けるだけで十分だった。


 動悸が激しくなる。自分達はずっと同じ気持ちだったんだと。同じ気持ちを抱いたまま伝えられずに二年間も掛かってしまったのだが、それはけして無駄だったとは思わない。

 ただ、そうは思ってもそれでも二年間も掛かったのは、自分が招いたのだ。しょうもない意地を張った発言のせいで花音を無駄に傷付けてしまったのだと。


 そうして、花音がどうしてこれだけ外見の変化にこだわったのだろうかということを考える。自分の好みに合わせてくれようとしたのだと、思い上がりではなく先程の返答に照らし合わせると理解した。

 去年カラオケで問い掛けたことを思い出す。どうして彼氏を作らないのだと問うたことを。その問いに対する反応全てに辻褄が合う。自分に都合の良い解釈ではなく、それが花音の気持ちの表れなのだと理解する。


 今は背中を見せている花音なのだが、その見た目はすぐに思い出せる。こんなにも可愛くなるまで自分に磨きをかけてくれていたのだと思うと嬉しくなると同時に愛らしくなる。




「――――!? えっ? じゅ、潤!?」

 無性にその小さな背中を抱きしめたくなった。

 そうして花音の背中から両腕を伸ばして優しく包み込むように前に手を回す。

 顔だけ振り返り驚き戸惑う花音なのだが、けして逃げようとはしていない。背後から抱きしめられたことで恥ずかしさが生まれているだけだった。


 花音が振り返った先には潤の顔がある。あまりにも近いその距離に顔を赤らめて再び前を向いて俯いてしまう。


「ごめん、今だけ、こうさせてくれないか?」

「うぅっ……う、うん。 い、いいわよ。 い、今だけ、ね」

「ありがとう。それと待たせたみたいでごめんな。それにこんな不器用な俺を待っていてくれてありがとう」

「ううん、そんなことない。私の方が不器用だったと思うの」


 ずっとこうしたかった。

 身体の温かさを、包み込んだ身体全体で感じる。体中の血が沸騰しそうになる。


 こうしたかったといっても、その抱きしめるという行為は、言葉は同じだが実際はもっと違う。全然違う。卑猥な妄想の中での抱きしめるという行為のことだ。しかし、ことここに至ってはまた違う。純粋に花音が愛おしかった。

 気が早いが、気持ちを伝えて良かったと心底思う。


「このまま話を続けてもいい?」

「し、しょうがないなぁ、いいわ。 それで? 続きって?」


 前に回された手首にそっと片手の平を乗せられる。少しは落ち着いた気分が再び高揚する。


「お、俺さ、花音が変わってからずっと話し掛ける勇気がなかったんだ。いや、違うかな。もっと変わる前から、それこそ中学の時からずっと話し掛けたくても話し掛けられなかったんだ。何かきっかけが欲しくてしょうがなかった」

「そんなの私もそうよ」


 お互いの気持ちを伝えあう。これまですれ違っていたことをお互いが素直に気持ちを伝えることで想いが重なりあう。


 今はもうただただその素直な気持ちを言葉に変えていくだけ。


 今これだけ簡単に言葉にして紡ぐことができるのにどうして今までできなかったのか不思議でならない。それはお互いがお互いの気持ちの向いている方向を確認できたからである。


「あのさ、じゃあもしかして体育祭の実行委員に立候補してたのって?」

「そ、そんなの潤が立候補したからに決まってるじゃない!実は嫌だったんだからね!」

「あっ、ごご、ごめん。 ははっ、いや、でもそれでも一緒にしてくれるぐらいに俺のこと好きだったんだ?」

「ち、違うわよ!」

「違うの?」

「……ち、違わないわよ」

「かわいい」

「う、うるさいな!」


 それまで素直に話していたのに、二年になってからの行動原理を確認すると微妙に冷たく突き放されそうになる。

 わざと寂しそうに振る舞うと、花音は冷たくも温かく素直に答えた。


 どうもこんな姿を見せられるといじめたくなってしまう。


「それよりも! 私も聞きたいことがあるのよ!」

「聞きたいこと?」


 これ以上なにがあるのかと疑問符を浮かべる潤に対して、花音は再び振り返り潤の顔を見る。


「あの花火大会、私がお兄ちゃんと一緒に居た時、潤が瑠璃ちゃんと一緒に居るのを見たの。杏奈ちゃんは花火を見にいっていないって言っていたけど、あれは二人で行ったの?」


 ここまで素直に伝えあっていたところに思いがけない質問が飛び出して来た。



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