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034 よくある展開

 

 海の家で飲み物と合わせてポテトや焼きそばなどのいくらかの食べ物を買い終えて瑠璃と二人でお盆に乗せ、みんなのところに向かっている。


「あっ、そういえば先輩」

「ん?」

「私は気にしないと言いましたが、あんまり逐一報告されるのも私だから良いんですけど、相手によっては気を悪くすることもあるから気を付けた方が良いですよ?」

「まぁそうだよな、その辺って俺よくわからねぇんだよ。言った方がいいのか言わない方がいいのか…………」

「そんなの黙っていれば良いんですよ。嫉妬するにしても、好きになった方の弱みですから。まぁ先輩がいろんな人と付き合いたいというなら話は別ですけどねー」


 歩きながら話すのは、わざわざ瑠璃と二人きりのシチュエーションを作ってまで話していることだった。

 瑠璃の潤に対する気持ちは二人だけしか知らないはずなのでみんなが居る前で話しにくかったから気を遣ったためで、瑠璃もそれはわかっている。

 別に複数の女性と内密に関係を発展させたかったわけではない。


「そ、そんなわけないだろ!俺なんかを好きになる子の気持ちがわからないんだって!」

「それ!それです!先輩のことを好きな私の目の前ですぐそういうことを言うところ!」

「あっ、いや、ごめん」


 慌てて女子の気持ちがわからない自分の不器用さを反省しつつすぐに謝罪の意を述べると瑠璃は責めるような目つきをして今この場面、この状況について言及した。


「いつもすぐ謝りますけど、本当に悪いと思ってますか?」

「思ってるって」

「じゃあ一つだけお願い聞いてください」

「え?」


「今月末のことなんですけど―――」

「―――まぁ、わかった(別にいいよな、これぐらい?)」


 責めるような目で見られたので気持ちを込めた謝罪をしていることを伝えると、それまで厳しめの目つきで潤を見ていた瑠璃はすぐさま表情を綻ばせて笑顔で潤にお願いをしたのだった。


 そのお願いを悩みながらも了承する。




「お待たせしました」

「結構長かったんだな」

「はい、お客さんが集中していて」


 みんなのところに着いて頼まれた飲み物をそれぞれに配る。瑠璃のお願いが脳裏を過るので目の前に集中しきれないでいたので、そんな潤を花音は不思議そうに見ていた。


「(まぁ別にいいか、今の俺がしたらいけない理由なんてないんだからな)」

「おいおい、聞いたぞ?」

「何がだよ、ってかこんな中肩を組んで来るな、暑苦しい」


 考え事をしていたところ、光汰が肩を組んで小さく話し掛けて来る。話の内容が見えないので光汰のにやにやしている顔を見てあまり良い気はしないのだが、だいたいは想像がついた。


「おっと、俺もそんな趣味はねぇよ」

「もしかして花音って呼び始めたことか?」

「おっ?もう慣れた感じだねぇ。それに察しが良い。前に聞いていたよりかなり進展してるんじゃねぇの?」


 組んでいた肩を外したのだが、それでもまだ小さめに話す。


「さぁ、な。どうなんだろうな、俺にはわかんねぇよ。ってか、俺がいない中でその話を知っているってことは花音が口にしたんだよな?」

「ああ、凜ちゃんが花音ちゃんにお前と二人で何してたんだーって話を聞いててさ」

「―――ちょっと待て!どうしてお前も下の名前で呼んでいるんだよ?」

「えっ?いやだからお前と花音ちゃんが下の名前で呼び合う話をしていたから、俺だけ苗字で呼ぶの仲間外れみたいでよそよそしいじゃん?花音ちゃんも俺のこと光汰君って呼んでくれることになったし。それにもちろん真吾のこともだぞ?」

「お前ら…………」

「なんだよ」


 恨めしそうに光汰を見るのは、これまで越えられなかった呼称の壁を光汰と真吾は何事もなくひょいと乗り越えたのだから。光汰のような誰にも憎まれない明るい性格をしているのならそれもそれほど難しくはないのだろうかと思ってしまう。


「お前の性格が羨ましいよ」

「おお、よく言われるぜ!」


 潤と瑠璃が買いに行っている間に光汰たちは休憩がてらどこで何をしてといった話をしていたのだが、その中に花音と潤の呼称の話があった様子で花音は特に意識した様子は見せずに淡々と話していたのだというのは光汰の談だった。


「(むぅ、俺だけが意識しすぎたのか?瑠璃ちゃんも気にしていないようだしな)」




 その後はそれまでと違い、全員で海を満喫する。その中には雪も混じっており、途中から女子たちは持って来ていたボールでビーチバレーを始めたりもしていた。


 そんな様子を潤と光汰と真吾の三人は浜辺で腰を下ろして眺めている。


「あのさ」

「どうした?」

「普通に見れば俺達ってかなり美味しいんじゃないのか?」

「まぁ、その気持ちはわかる」


 光汰の静かな問いに対して潤も真吾も同意する。それが差す事を詳しく聞かなくても理解できるのだから。

 それは、目の前で天気の良い砂浜できゃっきゃっうふふとビーチバレーを楽しんでいる美少女達を眺めながら話しているのだから。


「で?これからどうするつもりなんだ?」

「知らん、なんも考えてねぇよ。ってか、そんな打算的にどうしようかなんて器用なことできねぇって」

「知ってる」


 微妙に笑いながら話し掛ける光汰に俺の性格を知ってるだろと辟易する。


「何の話だ?」

「あれ?もしかして真吾は知らないのか?」

「だから何の話なんだって」


 主旨を話さず抽象的に話す内容は潤にはそれとなくわかっている。これまで光汰と散々話してきたことなのだから。光汰と潤のやりとりについていけない真吾は二人の顔を交互に見やる。

 どうしようかと思うのだが、真吾とは親友と呼べる位置にある。それにここまで聞かれている以上話さないのもどうかと思ったので真吾にも話す事にした。



「―――ったく、なんだよそれ。薄々そうじゃねぇかと思っていたけど、俺が思っていた以上にややこしい話だったんだな。そんなことならもっと早く教えてくれよな」

「おいおい、考えてもみろよ。お前に話して凜に伝わったらどうなるよ?絶対余計なことするだろ?」

「まぁ否定はできない。俺も含めてな」

「だろ?それにこれまで接点がなかった俺が花音と急に親しくなってみろよ。一体どんな僻みを受けるか。場合によっては色々とややこしい話になるって」

「まぁお前一応表面上は瑠璃ちゃんと付き合ってることになってるんだからな。今でも大概だけど、そこに花音ちゃんと噂になってみろ、そりゃあひどい目に遭うだろうな」


 真吾にこれまでのいきさつを話したのだが、真吾は話されなかった寂しさを覚えると同時に話されなかった理由を理解する。



「男同士固まって何の話してんの?」

「いやぁ、雪さんほんと綺麗っすねって話してたんすよ!」

「ふふっ、ありがと。けど軽薄な男はタイプじゃないのよ。そうね、潤君ならいいわよ?」

「またそんな冗談を言って。もう何回目っすかそれ」


 大人の余裕の笑みを浮かべる雪に対して媚びへつらう光汰なのだが、雪の言葉を受けて慌てて口を押える。少し離れたところでは杏奈が面白くなさそうに潤達の方を見ていた。




 そうして陽が傾き始めた頃、遊び疲れたこともあって帰り支度を始める。全員で民宿に戻って車に乗り込もうとしたところ―――。


「あれ?おかしいわね」

「どうかしたんですか?」

「んー?エンジンが掛からないのよ」


「「「えー!?」」」


 車にキーを差し込んでもエンジンが掛からない。キュルルと音を立てるのみで雪が何度キーを回しても一向にエンジンが掛かる気配を見せなかった。


「ちょっと待ってて、叔父さんを呼んで来るわ」


 雪が叔父を呼びに行き、一旦全員で車を降りる。


 民宿の待合で待っていると、十数分で雪と叔父が一緒に戻って来た。


「ダメだ、ちょっと今日中には無理そうだ。今修理屋に連絡したが来るのは明日の朝になるそうだ」

「ごめんねみんな、迷惑をかけて」

「いや雪さんのせいじゃないですよ」

「そうよ、悪いのはオンボロを貸したお父さんなんだから」


 叔父は明日の朝に修理屋が来ればなんとかなるだろうという程度に思っている。雪は責任を感じて申し訳なさそうにするのを慌てて雪のせいではないと伝えると他の面々も同様の声を掛けていた。


「それでね、申し訳ないんだけど、今晩ここに泊まることになってもいいかな?もちろんそれぞれ親御さんには連絡してもらう必要があるんだけど?」


 車が動かない以上、移動手段の確保ができないので雪と凜の叔父の民宿に泊まる運びとなった。



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