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033 疑問

 

「もうお兄ちゃんどこ行ってたのよ!」

「すまんすまん、お前らがあんまりにも楽しそうにして遊んでたからあっちで…………遊んでいたんだ」


 花音と二人で移動して既に二時間ほど経っていた。

 みんなの下に戻ると、丁度全員集まっていたところなので、潤と花音の二人が最後になっている。

 何も気にしない様子で声を掛けて来たのは杏奈で、光汰はにやにやしている様子を見せている。『あっちで花音と遊んでいた』と先程まで自然に言えていた名前を言おうとしたのだが、光汰と瑠璃の顔を見て思い留まった。


「(先に説明してからにしようか)」


 瑠璃は複雑そうな表情をしていたのだが、潤と目が合うとにこりと微笑まれた。微妙に居た堪れない気分になるのだが、潤からすれば瑠璃には花音のことが好きだということは前もって伝えてある。好意を向けてもらえる気持ちは素直に嬉しいのだが、不義理なことはしたくない。


「あのさ、俺喉乾いたからなんか飲み物買いに行くわ。そこの海の家で買って来るけど全員分いるか?」

「じゃあ私オレンジジュースよろしく!」

「あっ、それなら私も行くわよ?」

「いや、さっき足を攣りそうになってただろ?いいよ、休んでてくれ」


 飲み物が見当たらないので当たり障りないだろうと思い提案すると、いの一番に杏奈がオレンジジュースを所望する。続けて花音が一緒に行くと言うのだが、歩き方から見てまず大丈夫だろうと思いながら、今一緒に来て欲しいのは別の人物だ。足のことに触れて休んでいるように伝える。


「えっ?花音ちゃんそうなの?」

「う、うん。まぁ大したことないわよ?」

「だめだめ、それなら潤が買いに行くから任せたらいいのよ。じゃあ私メロンソーダ」

「おいおい、言い出しっぺだけどひどい扱いだな」


 凜が心配そうに声をかけるのだが、花音は問題ないという様子を見せる。潤の思惑通りといえば聞こえは悪いが、花音は休んでおくことになった。


「まぁここで花音ちゃんに何かあればお前学校の花音ちゃんファンから恨まれるぞ」

「へー、浜崎さんってそんなに人気あるのね。まぁこれだけ可愛いからそれもそうかもね」

「私は迷惑しているんですけどね」


 真吾が加えて花音にもしものことがあればと冗談で口にすると、それまでゆっくりしていた雪が感心しているのだが、当の本人は迷惑そうにしていた。


「―――じゃあそういうことで行って来るけど、お盆を借りれてもこの人数分俺一人じゃさすがに持てないから瑠璃ちゃん手伝ってもらっていいかな?」

「えっ?……あっ、はい」


 全員分の希望を聞いて買いに行こうとして、ここで目的の相手である瑠璃を誘った。瑠璃は一瞬びっくりした様子を見せるのだが、潤と目が合うとしっかりと返事をしてすぐに買いに行くことを了承する。



 そうして二人で近くの海の家に向かって歩いて行く。海の家は潤達が場所を取っていたところから数百メートル先にあり、持ち帰り用の窓口は列が出来ている。


「先輩?」

「ん?」


 どうやって切り出そうかと迷っていたところなのだが瑠璃の方から先に声を掛けて来た。


「何か言いたいことがあって私を付いて来させたんですよね?」

「わかる?」

「はい、顔に書いてありました。私がどれだけ先輩のことを見ていると思ってるんですか?」

「い、いや、そんな風に言われるとちょっと言いにくいな」


 瑠璃の言葉を受けて、わざわざ瑠璃を付いて来させてする話の内容が花音のことを下の名前で呼ぶことになったことだということに多少の罪悪感を覚えてしまう。


「そんな言いにくいことなんですか?花音先輩と何かあったことが?」

「えっ!?」

「わかりますよ、だってこの状況で私と話すことといえば花音先輩と何かあったってことですよね?覚悟しています。言って下さい」


 列に並びながら話をしているのだが、瑠璃の表情は至って真剣な表情をしている。瑠璃は潤と花音の間に何か進展があったのだろうという想像を付けている様子を見せた。


「そうなんだ、瑠璃ちゃんには先に話しておかないとと思ってさ」

「……はい」

「あのさ、俺、浜崎のこと、花音って呼ぶことになって、花音も俺のことを潤って呼ぶことになったんだ」

「……へ?」


 瑠璃に来てもらった目的である話の内容をありのまま伝えると、瑠璃は間抜けな声を放つ。


「いや、だから、お互い下の名前で呼ぶことになったんだって」

「なんだ、そんなことですか。私はてっきり付き合うものだとばかり思ってましたよ」

「いやいやいや、そんな付き合うとかそんなわけないじゃないか!」

「そう?ですか?」

「えっ?」

「いえ、なんでもないです」


 瑠璃の言葉を受けて慌てて否定する。ほっと安堵の息を吐く瑠璃の様子を不思議そうに見る潤なのだが、瑠璃は慌てて口を噤んだ。


「まぁ、別に名前で呼ぶのなんて親しくなればよくあることですから、そんなことなら私は気にしないですよ?」

「そうか?」

「はい。けど、確かに何も言われないままお互いそんな呼び方をしていれば付き合っているのかと勘ぐってしまうので、そんなことでも私に対して気遣ってくれる先輩のことがまた好きになりましたけどね」

「あ、ありがと(くぅ、可愛いな……それに)」


 屈託のない可愛らしい笑顔を向けてくる瑠璃を心底可愛いと思うのと同時に、身長は瑠璃の方が20センチほど低いので見下ろすように話すのだが、肌をあまり露出しない程度の水着姿のその胸に思わず目がいってしまった。


「先輩」


 腕をぐっと引かれて、何か言いたそうにしているので、少し耳を傾けて瑠璃の方に近付ける。瑠璃は潤の耳元で囁くように声を掛けた。


「今、先輩私の胸を見ていましたよね?」

「なっ!?いや、まぁ、その……」

「先輩、だけですよ?見て良いのは」

「(そう言われてもまじまじ見るのはさすがに)」

「やっぱり私は先輩のことが好きなので、ただ見ているよりもこれからはもっとアピールしていくことに決めました!」

「っつ――」


 思わず否定したくなることでも事実なので否定できずに顔を赤らめて戸惑いながら言葉を探すのだが、言葉が見つかる前に瑠璃は意地悪そうにこれからもっと積極的になるという宣言をしたのだった。


「次お待ちの方ー」

「はーい」


 瑠璃の突然の言葉を受けて声にならない声が出るのだが、そこで潤達の順番になり、海の家の従業員から声を掛けられる。

 飲み物と合わせて、ついでにいくつかの食べ物の注文をするその小さな背中をじっと見つめてしまっていた。


「(こんなに可愛らしくて良い子がどうして俺のこと好きになってくれたんだろうな)」


 初詣の日に告白されて以来、定期的に好意を向けてくれる瑠璃に対して可愛らしく思うのと同時に申し訳なさを同居させながら、進展したばかりの花音との関係に発展をもたせることが可能なのか、それとも…………。


 考えることに正解はないのだが、揺らいでしまった気持ちに自覚を持つのを精一杯振り切ろうとする。



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