表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋に不器用な俺と彼女のすれ違い  作者: 干支猫
巡って来た機会
23/112

023 頼まれごと

 

 体育祭が翌週に迫る頃、学校を終えて家に向かう中で考え事をしていた。


「(はぁ、浜崎に中々言うタイミングがないよなー)」


 潤が瑠璃と付き合っているという誤解が解けないまま日々が過ぎていく。別に伝えようとすればすぐに伝えられる内容なのだが、自分からわざわざその話題を振るのもどうかと思い花音からの発言を受けて否定しようと思っていたのだったのだが、あれ以来花音から潤に対して明確な発言は発せられないでいたのだった。


「もうこうなったら自分できっかけを作るしかないよな。まぁそれとなくこう、『俺も彼女欲しいな』とか目の前で言えばいいか」


 そんなことを考えて家路に着いていたらすぐに家に着いた。

 いつものところに自転車を停めると目の前には見慣れた自転車が置いてあるのが目に留まった。


「あれ?早いな、もう瑠璃ちゃん来ているんだな」


 瑠璃の自転車が家の前に置いてあるので遊びに来ているのはすぐにわかった。

 玄関を開けて小さく「ただいま」と呟くようにして入ると二階から杏奈が駆け下りて来る。


「もう、潤にぃ遅いよ!早く帰って来てよ!」

「はぁ?お前はいきなり何を言ってるんだよ?」

「いいから早く!」


 杏奈は潤の手を引き強引に二階に連れて上がる。思わず階段で脛をぶつけそうになるのを慌てて階段を駆け上がることになった。


 杏奈に連れられて二階の部屋に入るのだが、入った部屋は杏奈の部屋。


「(あれ?瑠璃ちゃんが来ている時はいつも入れたがらないのに珍しいな)」


 そう思いながら、家族しかいない時には普段は割と出入りしている妹の部屋の入口に自分のカバンを置く。

 潤の部屋と違い、女の子らしくピンクを基調とした机やベッドなどの家具がそこそこに取り揃えられており、本棚には少女漫画がいくらか入っている。


「それで、一体どういうことなんだよ?」


 わけもわからず部屋に入るのだが、用件を聞こうと質問をしながら杏奈の部屋のベッドに腰掛けている瑠璃が表情を落としているのが視界に飛び込んできた。


「瑠璃ちゃん?どうかしたのか?」

「…………」


 明らかにいつもと違う雰囲気を醸し出している瑠璃の姿が気になり声を掛けるのだが、返事は返ってこなかった。

 どういうことなのか隣に立っている杏奈を見ると杏奈は瑠璃の下に向かって歩いて行き寄り添うようにベッドに座り何か小さく話している。


「潤にぃに話してもいいよね?」

「……うん」

「自分で言う?」

「ううん、杏奈ちゃんにお願いしてもいいかな?自分から言うのはちょっと」


 かろうじて微妙に聞き取れるのだが内容が見えてこない。何か問題が起きたのだろうということは想像がつくのでとりあえずそのままどういうことか聞くことにする。


 その場にドカッと座り込んでじっと待っていると、杏奈も潤のその様子を見てとりあえず話を聞いてくれる気があることを察した。


「あのね、潤にぃ、明日学校に行くの一緒に行って欲しいの」

「学校に一緒に?なんでだよ?」

「えっとね―――」


 杏奈から瑠璃が抱えた事情を聞いた潤は翌日の登校を自転車ではなく電車で通学することにした。





「―――あいつか」


 電車で学校に向かうのは余程の雨でもない限りそう多くはないのだが、今日は杏奈と瑠璃と一緒の車両に乗っている。


 数駅過ぎたところで杏奈が潤にチラッと目配せをした。


 視線の先には眼鏡を掛けた背の低めの大人しそうな男子学生がつり革を持って立っている。

 それなりに混んでいる車両の中なのだが、前もって特徴を聞いていたので該当する人物はすぐにわかった。


「偶然じゃないんだよな?」

「うん。あっ、ほら、今もこっち見た!」


 潤が視線を杏奈に向けると、同時に杏奈は慌てて潤に声を掛ける。

 潤が再び眼鏡男子に視線を戻すと男子学生とは目が合ったのだが、途端に慌てて視線を外されるのがわかる。


「(なるほどな)わかった、とりあえず電車を降りたら確認してみるよ」


 今は車両の中、それも通勤通学時間なので人が多い。変に声を掛けるのもどうかと思う。



 潤は昨日杏奈から聞いていた話の通りだと、今朝一緒に通学する電車に乗ることで確認が取れた。


 相談の内容は、瑠璃が最近妙な男の視線をよく感じるらしいとのことだった。

 最初は気のせいだと思ったのだが、視線を感じた先を見るといつも決まった男の子がいて学校に着いても常にというわけではないのだが、視線を感じることがあるのだというのだ。

 それは通学の車両を変えても変わらず、気味が悪くなって杏奈に相談したところ女子二人だけでは解決方法がわからなかったので潤に相談したというのが事の経緯だった。



「(けど確認とはいってもどうするかな?まぁ相手の出方を見て考えるか)」


 駅で電車を降りてからある程度人通りが少なくなったら声を掛けることに決めたのだが、相手の思惑がわからない。

 直接危害を加えられたわけではないので、まずは話を聞くことから始めることからに決める。



 そして電車を降りてほとんどの学生は学校に向かうのだが、潤は駅のトイレに立ち寄り一緒の車両に乗った学生の人数が少なくなる頃を見計らう。トイレから出てもその学生は変わらずまだ駅の構内にいる瑠璃を見ていた。


「さて、と。早くしないと次の電車が来るとまた人が増えるしな」


 電車が到着する合間のいまならそれほど目立たずに話を聞けるだろうかと思い、男子学生の背後から静かに近付く。


 逃げられない距離で「おい」と声を掛けると眼鏡学生は驚いて振り返った。


「えっ!?」

「あのさ、ちょっと話を聞かせてもらってもいいか?」

「えっ?いや、あの、話って?」


 突然声を掛けられた事もあり、眼鏡男子は驚きしどろもどろになり目が泳ぎ出していた。


「いやさ、お前がどういうつもりであの子をずっと見ているのか気になってな」

「……あの子って」

「瑠璃ちゃんだよ」

「―――やっぱり……」

「やっぱり?やっぱりってなんだよ?」


 別に怒りの感情を露わにして問い掛けているわけではないのだが、眼鏡学生は少しばかり怯えつつも潤が瑠璃の名前を出すと溜め息を吐きどこか納得がいく様子を見せた。


「お前は一年なんだよな?」

「……はい、僕は…………早川さんが……好きなんです」

「(早川って瑠璃ちゃんのことだよな)」


 早川さんと口にしながら振り絞って声に出すのをじっと見る。俯いているので表情はよく見えないのだが、声は微かに震えていた。


「そっか、けどな、瑠璃ちゃん怖がっているんだぞ?」

「そんな!?」

「だからな―――」

「―――あ、だから彼氏さんに一緒に居てもらったんですね!?」

「彼氏!?」


 眼鏡男子には、瑠璃が怖がっているからそういうことはするなと言うつもりだったのだが、眼鏡男子は潤が言葉を発するよりも早く思い立った様子で少し大きめに声を出した。


「違うんですか?」

「いや……どうしてそう思う?」


 思わず聞き返したことで眼鏡男子は納得の表情から疑問符を浮かべる表情に変わったので否定も肯定もすることなく聞くことにした。ここでの対応次第でこいつは今後も瑠璃に付きまとうかもしれないと思うと否定できずに慎重になってしまう。


「いつも見ていたからわかるんです。彼女が先輩を見ているとき、接している時、物凄く嬉しそうにしています。同じ一年の僕たちに向ける表情とは全然違いました」

「……そうか」


 眼鏡男子が言うことは潤にとっては否定も肯定もできないのは瑠璃が既に潤に気持ちを伝えているからそういうこともあるのかと思う。潤自身には自覚はないのだが。


「それに、もしそれが彼女の片思いなら僕にもまだ可能性があるかもしれないと思っていたんですが、今日こうして僕のことを注意しに来たってことはやっぱり彼氏なんだと…………違うんですか?」


 潤のことを彼氏だと思った理由を話すのだが、潤がそれを肯定しないところを見て首を傾げる。


「(まずい、疑われているな。あぁ!もうしょうがない!) ああそうだよ、だから人の女に手を出すな!」

「ひっ、す、すいません!だ、大丈夫です!それがはっきりすれば僕も潔く諦められますから!!すいませんでした!」


 疑念の視線を向けられたのでそれを覆すために声を出したのだが、自分でも思っていた以上の声量になってしまったので眼鏡男子はたじろいでしまう。

 潤にはそんなつもりはなかったのだが、彼氏だと威圧的に認めた上に手を出すなと釘を刺されたので何度も頭を下げてその場を後にした。



「ねぇ、どうだった?」


 杏奈と瑠璃は少し離れた場所から見ていて、潤と眼鏡男子が別れたのを確認してその場に来る。


「……ああ、まぁ一応解決したよ。とりあえず……歩きながら話そうか。あんまりのんびりしてて遅刻してもな」


 まだ通学途中なので詳しい話は学校に向かいながら話すのだが、話を聞いている瑠璃は最初の一言「解決した」と聞いて嬉しそうにしていたのだが、内容を聞いていると徐々に俯いて頬を赤らめている。恥ずかしさが滲み出ていた。

 対して杏奈は最初は内容を聞いていないので兄もたまにはやるもんだと感心していたのだが、話しを聞いて行く内に徐々ににやにやとしていったのだった。


「へぇ~、じゃあ彼の中では瑠璃ちゃんと潤にぃは付き合ってるってことだよね?」

「しょうがないだろ、あの場ではああ言わなけりゃたぶんまだ付きまとっていたしな。ごめん瑠璃ちゃん」

「い、いえ、私は別に!それにウソの彼氏でも実は嬉しかったりして」

「あっ、瑠璃ちゃん積極的だねー。このこの、可愛いやつめ!」

「も、もうやめてよ杏奈ちゃん!」


 変に不信感を持たれるわけにはいかないので思わずその場しのぎで口をついて言ってしまったのだ。


「(しまった、口止めしておけば良かったか? まぁ大丈夫か、な?)」


 瑠璃もその場限りの嘘だということは理解しているのだが、それでも嬉しそうにしている姿を見て申し訳なく思う。同時に、眼鏡男子の口止めをしなかったことに少しばかり不安に思うのは学校でそれを話さないかどうかが気がかりだった。


 別に噂になったとしても瑠璃が迷惑でないなら構わないとは思うものの、潤の中では一人だけ耳にされると困る人物がいたのが脳裏を過る。



 大丈夫だろうとタカをくくっていたのだが、見事に噂は校内を駆け巡り、放課後潤は直接それを本人から耳にすることになった。



「良かったわね、これだけ噂になれば誰もあの子に対して手を出せなくなるわよ」

「(なんでこんなことになるんだよ)」


 体育祭に向けたダンス練習の休憩中、花音は潤にそう話しかけたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ