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014 うやむやな結果

 

 瑠璃に告白をされて、その後には潤の家に向かうことになるのだが、気まずくなってしまうとどうしようかなとも思う。

 そんなことを考えて歩き始めるのだが、瑠璃の方から先に口を開いて話しかけてきた。


「先輩?」

「なに?」

「私が告白したからって気まずくならないで下さいね?」


 まさに今考えていたことを先に口にされてしまい少しばかり内心ではドキッとしてしまう。


「大丈夫だよ。それに人の気持ちって変わるものだから瑠璃ちゃんも他に好きな男ができたら遠慮なく教えてね」

「先輩、それって先輩にもいえますからね?先輩も私のことが好きになれば遠慮なく教えてくださいね!」

「うっ!いや、まぁ、その、うん、その時は俺から言うよ」

「約束ですよ?」


 瑠璃の気持ちが他に傾いた時のためにと思って先に伝えた筈なのに、瑠璃から返って来た言葉は伝えた言葉がそのまま自分に向けられたことだったので思わず返事に困ってしまった。

 そのまま横を歩く瑠璃が覗き込む様に見上げて来る様子を見ているだけで可愛らしいと思ってしまう辺りに自分の気持ちが既に揺らいでしまったことを恥ずかしく思ってしまう。


「(早目にはっきりとさせないとな。けど何か取っ掛かりがないことには……)」


 花音への想いというか、瑠璃に気持ちが傾くことがあるなしに関わらず、このままでは良くないと思いつつも、何をどうしたらいいかわからないでいた。きっかけになり得たかもしれないこの間のカラオケの件がもう少し上手く立ち回れたら良かったのにと少しばかりの後悔が過る。


 その後、瑠璃と家に向かって歩く間はそれ以上二人の関係性の話をすることはなく、瑠璃や杏奈の進学の話をするのだが、進学先に関しては「まだ決めかねてるんですよねぇ」と悩む様子を見せていた。


 程なくして家に着くと杏奈と光汰は家のリビングで両親と共にまったりと寛いでいた。


「おぉ、潤、邪魔してるぞ」

「遅かったね」

「……お前ら、何で俺たちをほって帰ってるんだよ」


 そんな姿を目にして恨み言を言うのだが、杏奈は潤の横を通り過ぎて瑠璃と何やらひそひそと話していた。


「ええぇっ!?」


「どうしたの杏奈ちゃん?」


「う、ううん、何でもない!ちょっと瑠璃ちゃんと部屋に行ってるね!」


 突然大きな声を上げた杏奈に対して光汰が疑問を投げかけたのだが、慌てるように取り繕う杏奈は瑠璃を連れて二階に上がっていった。

 その様子を横目に見ている潤も「(たぶんあのことだよな)」と杏奈が驚いていた理由を察していた。その内容が瑠璃の告白なのだろうと思う。


 その後は光汰を連れて潤も二階に上がり、光汰に瑠璃から告白された話をする。光汰も杏奈同様に驚いていたのだが、返って来た言葉は予想の範囲内だった。


「まぁ、別に瑠璃ちゃんでもいいんじゃねぇの?」

「そういうと思ったよ。けど俺は浜崎が好きなんだよ」

「勿体ねぇな。早く返事しねぇと瑠璃ちゃんも他に好きな男ができるかもしれねぇだろ?浜崎とは付き合えるって決まったわけじゃねぇのに。あの子だって可愛いじゃん」

「可愛いのは可愛いよ。間違いなく。けど、それってなんか違う気がするんだよなぁ」


 光汰は瑠璃の可愛さを引き合いに出し、潤もまたそれには同意するのだがどこかに引っ掛かりを覚える。そんな姿を見て光汰は溜息を吐いていた。


「これだから真面目なやつは」

「お前は俺の立場なら付き合えるか?」

「そうだな、俺なら付き合ってから考えるのもありだと思うぞ?」

「そういう考え方もあると思うけど、俺には合ってないんだって」


 光汰の意見を聞いてみるものの、性分じゃないという結論しか出なかった。


「まぁいいや、また何か困ったことがあればいつでも相談してくれ。今日のところは帰るわ」

「そっか、わかった。また連絡するよ」

「あいよ」


 そうして光汰は帰っていった。玄関まで見送ると杏奈と瑠璃も降りて来ている。


「瑠璃ちゃんも帰るの?」

「はい、お邪魔しました。また遊びに来ます」

「うん、いつでもおいで」


 瑠璃もそのまま玄関で見送るのだが、玄関で靴を履く瑠璃と目が合うとにこりと微笑まれた。潤は「(この子杏奈と同じ中学生だよな)」と一つ下のはずなのに何故か余裕を感じるその笑顔に引き込まれつつあった。




 そうしてその夜、歯磨きをして洗面台に立っていると、後ろに人の気配を感じる。


「ねぇ、潤にぃ?」

「ふん?」

「瑠璃ちゃんと付き合ったらいいんじゃない?」

「ぶっ!?」


 歯磨きをしている途中でいきなり不意打ちをされたので吹き出すのをなんとか洗面台だけに留めて慌てて口を濯いで杏奈を見る。


「お前、いきなり何を言ってんだよ!?」

「全部聞いたよ?」


 杏奈が瑠璃と付き合わなかったことを不思議そうにしているのだが、潤は杏奈に不満気な表情を向ける。


「まぁその様子を見ていればわかるよ。ってかその様子だともしかして今日連絡取れなかったんって―――」

「うん、瑠璃ちゃんとお兄ちゃんを二人っきりにさせたかったからだよ。まぁはぐれたのは偶然だし、それにまさか告白までするとは思わなかったなぁ」


 杏奈は悪びれることなく神社ではぐれたあと連絡が取れなかった理由を自白した。潤からすれば杏奈が光汰と二人きりになりたかったからだと思っていたのだが、その予想ははずれていた。それでも杏奈が光汰と二人きりを満喫していたのは確実だろうと思う。


「瑠璃ちゃん良い子だよ?」

「それもわかる」

「そんなにその好きな人の方が良いんだ?」

「まぁ……そうだな。―――ってか、お前には関係ないだろ!?」

「ふーん、わかった。でも私はお兄ちゃんの妹だし瑠璃ちゃんの友達だもん。だから私は当然瑠璃ちゃんの味方をするからね!」


 杏奈が瑠璃を薦めて来るのだが、花音のことを杏奈は知らない。杏奈は瑠璃という自分の親しい人物が幸せになる方がいいのだと思ってる様子を窺わせるのだが、潤はそこで疑問に思い「あのさ」と問いかける。


「なに?」

「いや、お前は俺が瑠璃ちゃんと付き合ってもなんとも思わないのか?」

「えっ?そりゃーちょっとは複雑な気持ちになるけど、別に嫌とかじゃなくて、潤にぃと付き合うのが瑠璃ちゃんなら文句はないよ?そこらのわけのわからない女子に比べたらって意味だけどね」

「そっか、わかった」


 それだけ聞くと納得した。

 杏奈としては瑠璃が幸せになるということと同じように兄である潤のことも考えてくれているのだと思うとそれ以上反発する必要がなかったのだった。




 それからというもの、冬休みが明けて学校が再開すると瑠璃は家に遊びに来ることはあるのだが、必要以上に距離を詰めようとすることなく、時々潤の部屋で一緒にゲームをするというその程度だった。傍から見れば仲の良い兄弟とその友達が遊んでいるという風にしか見えない。


 潤の方も学校が始まっても花音と少しばかり廊下ですれ違った際に目が合うことはあるのだが、お互い口を開くことなくそのまま無言ですれ違うことになる。学内で会話をしたことなどこれまで一度もないのだから急に話し掛けることも出来るはずがなかった。

 潤としては正月の出来事を話したかったのだが、そもそものきっかけを掴めないでいたのだった。話をしたくても、所詮潤からすればただの言い訳なのだが、そもそもその言い訳を何故話さなければいけないのか、話したところで一体どんな意味があるのか、話す理由にすらなり得ない。




 そして穏やかに日々は流れていき、周囲の盛り上がりは2月14日に控えるバレンタインデーの時期を迎えることになった。



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