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110 演劇の果てに

 

 ――――結果的に劇は大成功に終わった。



 魔女エコフーラはアラベルに思いの丈を打ち明けたのだ。

 アラベルとエコフーラが抱き付く予定などなかった。しかし、その後に続いた展開は、状況的にそうすることが一番自然な流れで、一番納得のいく終わり方だった。潤もそれ自体には納得している。


 舞台袖の六反田が涙を流して喜んでいるのは、後で聞いた話しなのだが「エコフーラが最期に報われた気がするわ!」とのこと。

 どうやら、一人寂しく最期を迎える事無くアラベルという理解者を得て、そして恋を知ったこととその気持ちを伝えられた事に凄く納得してしまったらしい。


 クラスメイトも突然アドリブが入った展開に誰もが驚き戸惑っていたのだが、劇を終えた響花が「あー、実はやっぱり演じてみて、真に迫るとちゃんと気持ちを伝える方が良いと思ったのよねー」と軽く口にしていたのでそれぞれが納得してしまっていた。



 ――――ただ一つだけの真実が闇の中に潜んでしまっているのは、潤と響花しか知らない。



 そして劇の結末は、エコフーラとアラベルの今生の別れの後に予定通りアラベルとマリア王女が合流を果たして将軍に助け出された。そして王女を助けた功績と王女の気持ちがアラベルにあるということを国王に告げて、渋々アラベルに爵位を与えて辺境の地で穏やかな日常を送るということだった。

 アラベルの父の病に関する特効薬については、エコフーラと共に過ごした部屋に既に置かれていたのを置手紙と一緒になって見つけた。

 その手紙に書かれていた言葉はアラベルへの感謝とマリアへの謝罪の言葉だった。



 そうしたことがあって劇は幕を下ろした。




 ――――その後。


 文化祭は売り上げやアンケートなどによる総合的な評価により、見事優勝を果たすことになって凜を始めとしてクラスメイトは大盛り上がりだったのだが、それ以上に気になることがある。


 後夜祭として、グラウンドでは生徒と教師だけで大いに盛り上がっている中、潤はこっそりと響花に声を掛けて文芸部の部室に呼び出していた。


 どうしても確認しなければいけないことがある。



「――――勝手に入って良かったの?」

「ああ、大丈夫だろ。ここなら誰も来ないしさ」

「なんかその言い方やらしぃ」


 真面目に話す潤に対してどこかおどける響花。


「ふざけんなって!どうしても人目につかないところで話がしたかったんだ!」

「あたしは話す事ないけど?」

「俺があるんだよ!ってか誤魔化すなよ!」


 いい加減にして欲しい。


「もうっ、そんな大きな声出さないで欲しいなぁ」

「んなこと言ったってさ。お前……」


 今から口にすることが合っているかどうか。気のせいなら自分が恥ずかしい思いをするだけだ。だが、気のせいなんかじゃない気がする。


「わかってるわよ…………キスのことでしょ?」

「……ああ」


 どういうつもりでキスをしたのか。もし、考えている通りならそれには応えることができない。

 そう考えていると、カタンと廊下で音が鳴った。


「――!?」

「……はぁ。誰も来ないんじゃなかったの?っていうよりも、花音ちゃんもそんなところで立っていないで入って来たら?」


 音に対して驚く潤だが、響花は音の原因が何かを知っているようだった。


「――ごめん、潤がどこかに行く姿が見えたし、響花もいないから気になって…………」

「……花音、もしかして、聞いた?」

「……うん」


 最悪の事態だった。花音に聞かせるつもりはなかった。響花に確認したらここでずるずるいかないように終わらせるつもりだった。


「……えっと、私が聞いていても、いいの?」


 申し訳なさそうに俯き加減に話す花音に、潤もまた申し訳なさしか込み上げて来ない。この場をどう伝えたらいいのか。


「はぁ。やっぱりその様子じゃ二人は付き合ってるのよね?」

「「えっ!?」」


 響花は溜め息を吐きながら確認する様に声を掛けると花音は視線を彷徨わせた。


「えっと、違うの――」


 花音が否定しようとしたところで腕を伸ばして続けようとする言葉を制止する。


「ああ、そうだよ。俺と花音は付き合ってる。間違いない」

「えっ!?じゅ、潤!?いいの!?言っちゃって!?」

「まぁ、響花なら大丈夫だと思う。ってか、ここまで花音が聞いてしまったら、言っておかないと今から響花に聞きたいことをちゃんと聞けない気がするからさ」

「……それって、さっき言っていたキスのこと?ねぇ?どういうことなの?」


 明らかに不安そうな目で潤を見る花音。その顔からは動揺が窺える。


「それは――」

「あたしが言うから潤君は心配しないでいいわよ」


 どうやって話そうかと思いながら口を開いたら響花が遮るように言葉を差しこんできた。


「あのね、劇の停電した時にね、あたしが潤君に抱き付いていたじゃない?」

「う、うん」

「あのときにね、あたし、潤君にキスをしちゃったんだ」

「――えっ!?」


 響花の言葉を聞く花音は驚きを隠せない。潤と響花を交互に見やる。


「それって……、やっぱり」

「うん、あたし潤君のこと好きになっちゃってたみたいなの」

「……そう」

「けどね、本当はこの気持ちを伝えるつもりはなかったの。これは本当。信じてって言っても信じてもらえないかもしれないけど…………」

「ううん、響花はこんなことで嘘をつく子じゃないって知ってるから…………」

「ありがと。うん、けどね、劇を通して潤君と接するうちに、なんだか段々と苦しくなってきてね、魔女の役をしている間に気持ちが抑えきれなくなったの……」


 言葉に詰まる響花。


「…………」

「…………」


「………………こんなの……初めてなの」


 震える声でそう話す響花の目には涙が溜まっている。


「じゃあ、やっぱり響花が変わったのって……」

「うん、まぁ後になって気付いたことなんだけど、潤君が花音ちゃんのこと好きなんだなーって思っちゃったらつい、ね。あたしのこと見てくれないかなって」

「……そっか」

「けど、もう遅かったみたいね。……はぁあっ、ほんとあの作品書き上げたこと後悔するなー。あれがなかったらまだもうちょっと時間を掛けて気持ちを落ちつけられたのに」


 振り返り、窓枠に手を置く響花がどういう顔をしているのかわからないが、その背中を見て潤は何も言えないでいた。どう声を掛けたらいいのかわからない。隣に立つ花音に視線を向けると、花音は戸惑いながらも顔を小さく振る。その行動が差す意味はわかる。何も言わなくていいのだと。花音に任せればいいのだと理解する。


「――あのね、響花」

「……なに?」


 背中だけで答えられる。未だに声は震えている。


「ごめんなさいは言わないわ」

「言われても、どうしたらいいかわからないから言わなくても良いわよ」

「そうよね」


 そこで響花は潤と花音の方を向き直る。その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。


「ねぇ、あたしどうしたらいいのかな?ほんとこんな気持ちになるなんて思ってもみなかったな。人を好きになるのって、こんなにも辛いことなんだね」

「……うん」


 震える声で話す。


「――あたし、潤君のこと好きでいちゃダメなのかな?」

「ううん、そんなことないわ。誰かを好きになることに良いも悪いもないもの。許可なんて必要ないわ」

「けど、潤君には花音ちゃんがいて、花音ちゃんも潤君が好きで――――」

「それでいいじゃない!」


「――えっ!?」


 響花は戸惑いつつも目を丸くする。


「もしかしたら私と潤が別れるかもしれないわよ?」

「は?そうなの!?」

「もしかしたらの話よ!潤は黙ってて!」

「いや、だってそれは聞き捨てならない話だから――」

「うるさいな!いいから黙って聞いててってば!」

「――ぐっ、わかったよ」


 唐突な話に潤の方が気が気でなかった。確かに響花のことは可愛いと思うが、花音と別れるつもりは全くない。俺が振られるならまた別の話なのだが。


「――ぷっ!なにそれ?別れるつもりもないのに別れるのを待てってこと?」

「まぁ、そういうことね。あとは私より響花のことを潤が好きになれば、まぁその時は仕方ないわね」

「いいの?そんなこと言って?」

「だって、お互い好きでいるから一緒にいるのよ?」

「えらい自信ね」

「まぁお互いずっと好き合ってたんだからね。それがわかったのは最近だけど……」


 自信満々に答える花音に対してどこか恥ずかしくなる。それは確かに事実である。


「そうなの?」


 呆気に取られる響花は確認する様に潤を見る。


「まぁ、そうみたいだ」


 肯定することが恥ずかしいが、それ以外に答えようがない。


「……そっかぁ、じゃあ潤君に一つだけ聞かせてもらおうかな?」

「俺?なにを?」

「そんな大した話じゃないわ」

「そう?」


 何を聞かれるのかと思い、ドキドキする。


「あのね」

「…………」

「もし」

「もし?」


「もし、花音ちゃんよりも先にあたしと知り合ってたらあたしのこと好きになってくれてたかな?」

「はぁ?」


 これはどういう意味の質問なんだろう。額面通りに捉えるのなら、花音と付き合うどころか知り合うのが早ければ響花と付き合っていたかどうかということなのだろうか。


 言葉の意味を何度か咀嚼してみても同じ解釈しかできない。


 恐る恐る隣にいる花音に視線を向けると、花音と目が合った。妙にきつく見られている気がするけど、どういう感情なのか理解できない。


「いいわよ、正直に答えてくれて」

「そうか?」


 正直に答えていいなら正直に答えよう。


「まぁ、正直に答えるなら、そりゃあ響花はもちろん可愛いし、話も合うし、一緒にいると落ち着くし、もしかしたらだけど、響花のこと好きになってたかもしれないよな?あっ、けど可愛いってのは後付けで、別に前の響花でも俺は気にしないけどな」


「(ってか、たぶん花音がいなければその可能性は間違いなくあるよな。けど……)」と内心で瑠璃のことも過ったのだが、思ったままを正直に答えると、目の前の響花は顔を綻ばせて喜んでいた。


 うん、やっぱり正直に答えて良かったと思い、花音の方を見ると、仰天する。頬を膨らませて怒っているのだった。


「――なにそれ?」

「……えっ?」


 どうして怒っているのか理解できない。正直に言えって言ったじゃないか。


「何期待持たせてるのよ!そこは嘘でもついていればいいのよ!」

「いや、だって正直に言えって言ったじゃないかよ!」

「墓場まで持って行くつもりの嘘なら言ってもわからないわよ!」

「んだよそれ!」


 無茶苦茶言うよな。


「じゃあなんだ?墓場まで持って行く嘘ならついていいのかよ!?」

「ダメに決まってるでしょ!嘘なんかつかないで正直に言って欲しいに決まってるじゃない!」

「ならどうしろって言うんだよ!」

「知らないわよ!自分で考えなさいよ!」


 意味がわからん。もう収拾がつかない。今は何を言ってもダメな気がする。

 そんな二人を見ながら響花は下を向いて小さく息を吐いた。そして笑顔で二人を見る。


「あれあれ?もう喧嘩しているの?」

「誰のせいだよ!」「誰のせいよ!」

「ひ、ひどい、傷ついた乙女を二人して責め立てるなんて……おーいおいおい」

「そんなウソ泣きできるならもう大丈夫ね!はい、じゃあこれで話はおしまい!」

「えー?花音ちゃん、ひどいわねぇ」

「ひどくないわよ!ったく、さっきは本気で泣いていたくせに」

「それ、ほんとにひどくない?」

「いいの、響花は強い子ってわかったし。遠慮していると取られそうだし!」

「まぁ確かに油断していると貰っちゃうわね」


 そこに俺の意思はどうなるんだよと思うが、とにかく丸く収まった…………のかどうなのかはわかならいがとにかく良かった。


「まぁ、っていうわけで、今すぐに好きじゃなくなくなるなんて無理だから、しばらくは潤君のこと好きでいさせてくださいな」

「仕方ないわね。早く他に好きな人見つけてよね」

「花音ちゃんが?」

「あなたがよ!」


 あれ?これ収まってなくないか?と二人のやりとりを苦笑いしながら見るのだが、これ以上の介入はできないので、黙って見ているしかできなかった。







 ――――そして、月日が流れ、年を跨ぐ。日付は一月一日。



「ねぇ、何をお願いしたの?」

「んー?願いごとって言わない方が叶うんじゃないか?」


 潤と花音は二人で近所の神社へ初詣に訪れていた。

 お参りは済ませて二人で連れ立って出店の並びを歩いている。


「まぁ、そうよね。私は願い事叶えて貰ったしね」

「叶えて貰ったって?前にか?」

「うん、去年、ここに来て瑠璃ちゃんと手を繋いでいる潤を見たじゃない?」

「あー、あぁ……」

「それでね、今年は潤と仲良くなれますように、ってお願いしたの!だからお願い叶えてもらったのよ」


 笑顔の花音を横目に少し照れはあるのだが「(なるほどな)」と。


「なら俺も同じだな」

「えっ?」

「いや、俺も、花音と仲良くなれる、ってかむしろ付き合えますようにってお願いしたからな。だから俺も願いを叶えてもらったってわけだ」


「そう、なんだ……」


 横で照れる花音が可愛らしい。昨晩のことを鮮明に思い出してしまった。


 そう思っていると、突然花音に腕を組まれ覗き込むように見られる。


「じゃあこれからもちゃんと私を見ていてよね!昨日言ったよね!?」

「当たり前じゃないか」

「うそっ!クリスマス前に響花がバイトに入って来てあれだけ迫られて鼻の下伸ばしてたの誰よ!」

「――なっ!?だ、だってしょうがねぇじゃねぇか!まさか響花のやつがあれからあんなに積極的になるなんて思ってなかったんだし!ってか、それで言ったら花音だってバイトに来たじゃないか!しかもおかげで奏さんまで客で来てしまうしよ!」

「そ、それは凜に頼まれたからよ!嫌なら嫌って言えばいいじゃない!それにお兄ちゃんはしょうがないじゃない!だって……」

「まぁ、奏さんだもんな。それに、俺は嫌って言うか……花音が同じバイトにいるのが単純に恥ずかしいからだって。その、周りの目があるから……。でも、あの新しい制服、可愛かったぞ?」


 クリスマス前にあった出来事を思い出すだけで辟易するが、オーナーと奥さんの戦略は見事にはまったとは思う。

 新しく出来た有名チェーン店に対抗するために講じた作戦、制服の刷新と凄腕売り子の確保。杏奈も引っ張られていたのだが、その時の花音の仕事着、新しい制服は間違いなく可愛かった。


「って、もう終わったことなんだしいいじゃない!とにかく私の願い事叶えてよね!」

「んなもん、こっちのセリフだっての!」

「何をお願いしたのよ!?」

「それ言えないってさっき言ってたじゃねぇか!」

「潤が言う分には良いの!」

「勝手だな!……まぁ、別に言ってもいいけど?」

「えっ?どうしたの急に」

「だって、例え言ったとしてもどうせ叶う気がするから」


「どうして?」と花音は不思議そうに首を傾げる。


「んー、まぁたぶん同じことだと思うからさ。俺の願いは花音が願った事と、な」


「えっ?そんなことないわよ。私は潤が響花や瑠璃ちゃんに目移りしたり浮気しないようにって願ったのよ?」

「嘘ばっかり」

「ほんとだってば!」

「はいはい」

「もうっ!」



 潤は可愛らしく不貞腐れつつも、誤魔化そうとしている花音の手をそっと優しく握った…………。





――――――パチッ!



「――――ふぅ、まぁこんなもんかな?あと、タイトルだけどうしようかなぁ。まぁそれは後で考えるにして、とりあえず読者の方へのあとがきを書かないとね。えっと――――」



『あとがき

  ここまで読んで頂いた方々、本当にありがとうございました。まだまだ至らないことが多くありますが、楽しんで読んで頂けたのなら嬉しく思います。また機会がありましたら他の作品でもよろしくお願いします』



「ちょっと固いかな?まぁいっか。ひとまずこんな感じにしておきましょ。それにしても来週かぁ。こうしてみるとなんか感慨深いわね……っと、忘れてた、タイトルつけるの後回しにしてたんだった。えっと、うーん、そうねぇ。あたしの知らないとこを聞いた感じも合わせると、結局みんな不器用だったしねぇ……『恋に……』…………『恋に不器用な高校生の――――』…………なんか違うな。うん、やっぱ主役を立てないとダメよね。そうね、例えば…………『恋に不器用な俺と彼女のすれ違い』…………。よしっ、これでいこう!――――あれっ?今インターフォン鳴った?あっ!もうこんな時間なんだ!って連絡も来てたし!はぁあっ、書いてるとつい夢中になって時間経つの忘れるのよねぇ。はーい、ちょっと待ってね。すぐいくから」



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