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109 暗闇の中で

 

 外はいつの間にか大粒の雨が降り出し始めていた。


「なんだかお客さん増えたみたいね」

「ああ、たぶん雨が降り出したからだろう。通り雨だろうから雨宿りも兼ねて観に来たんじゃないかな?」


 潤の両親が話すのは、体育館の中に立ち見の客がいること。


 そんな中、舞台上の劇はいよいよクライマックスを迎えようとしている。




 ――――その日、王城は燃え盛る火の海に包まれていた。



 城に取り残されているのはマリア王女と魔女エコフーラ。



『本当に良かったのね?』

『はい、もう王家には辟易しています。これでわたくしがアラベルに助け出されれば命の恩人を無碍には扱いませんわ』

『……そうか。あぁ、それとね』

『はい?』

『いえ、もうマリアに掛けた呪いは解いているから安心していいわよ』

『えっ!?よろしかったのですか?』

『ええ、やはりワタシとマリアは良く似ているわ。そっくりと言って良い程にね』

『わたくしが…………あなたと?ふふっ、確かにそうかもしれませんわね』

『まぁあまり長話も出来ないわ。そろそろ行かないと間に合わなくなるので、早くアラベルのところに行っておいで』

『はい。あなたも無事に生き残るという約束は守って下さいよ?』

『ええ、安心して。ワタシは魔女よ。心配なんて無用よ』


 そうしてエコフーラは燃え盛る火の中に一人で取り残された。



 場面は移り変わり、マリア王女はアラベルの元に辿り着く。

 そこもまた火に囲まれているのだが、何故かアラベルを中心に火は巻き起こっていない。アラベルは床に横たわっていて気絶していた。


『まさかこれほどとは。エコフーラってもしかして、凄い魔女だったのでは?――それよりも今は――――アラベル!アラベル!起きて下さいませ!』

『――……っう、ううっ、……こ、こは?』

『安心してください。ここはエコフーラが張った結界の中なので火は侵入してきません。とにかくじっとしていてください』

『そうだ!エコフーラは!?』

『彼女は一緒に居られないからと言って別の場所で避難していますわ』

『ダメだ!早く止めないと!』

『えっ?それはどういうことでしょうか?』

『彼女は死ぬ気だ!』

『――!? そんなまさか?』

『ボク行って来る!』

『――お待ちください!』


 アラベルは火の中に飛び込んでいった。マリアは追いかけることが叶わず、その場で動けないでいる。


『ああっ!アラベル、アラベル!どうか、ご無事に戻って来て下さい…………』


 ただ無事の帰りを待つことしかできないでいた。



 エコフーラは王女の処遇をどうするのか悩んでいたところでマリアとアラベルの過去を知り、より苦悩した。

 そんな中、魔女が王城に侵入していることを国の司祭によって勘付かれることになる。そのため、エコフーラは王女に呪いを掛けた事を大々的に触れ回ったのだ。


 そして逃げ延びる為、城に火を放った。


 という口実である。

 それはエコフーラが独断で行った事であり、司祭にその存在を知らせて王城内を混乱の渦に巻き込んだのだった。



『くそっ!どこだ!エコフーラッ!』


 アラベルは火の中を突き進み、大声を上げてエコフーラを探し続ける。



「きゃ!」

「雷か……。相変わらず苦手なんだな」


 外で鳴る雷に体育館の中は驚きの声がいくつか上がった。

 雪も隣の奏に思わず引っ付く。


「だって怖いものは仕方ないじゃない!」

「いいよ」

「えっ?」

「久しぶりにお前にくっつかれるのも悪い気しないしな――――いてっ!」


 雪は奏に肘打ちをして恥ずかしそうに離れた。


「(ったく、全っ然変わってないわね!)」

「(ま、今更……な)」


 お互い声を発さず舞台上に視線を戻す。




「(あー、びっくりした。今日は晴れだって予報だったからそんな降り続けないだろうけど、雷かぁ…………。――っと、集中集中。ここからあたしの出番で一番大事な場面なんだから)」


 舞台上に姿を現そうとした響花も雷に驚いていた。



 そして――――。



『ふぅ、全く。アナタにも困ったものよね。そんなに声を張り上げてはワタシがしたことが全て無駄に終わるじゃないの』


『……エコフーラ。じゃあ、やっぱり…………』


『ええ、そうね。時間がないから手短に話すわ。ワタシはここで消えることにするわ』


 エコフーラがその真意をアラベルに伝える。そうでないとアラベルが納得しないのはこの数ヶ月の付き合いながら知っていた。


「(さて、これでやっと魔女も退場ね。アラベルへの恋心を伝えないまま終わるのよね。ほんとまんまあたしみたい)」


 響花は心の中で笑ってしまっていた。ここまで自己投影してしまっていたことに我ながら笑えて来てしまった。


『君が死ぬことなんてないよ!』

『(っと、また余計なこと考えちゃったわ)……そういうわけにはいかないの』

『どうして!?』

『王女と…………幸せになってね(はぁ、こんなに好きな人の幸せを願うことって胸が苦しくなるのね)』

『ダメだ!ボクは君が幸せになることも必要だと思う!!』


『ありがとう。そういってくれるだけでワタシの心はいくらか救われるわ。アナタに会えて良かった――――(本当に潤に会えて良かった。これだけ短い間にこんなに色々と経験させてくれたんだもん)』

『――――ダメだ!行くな!(これでエコフーラは火の中に消えていく。あとちょっとだな。って、響花?)』


『(ほんとうにエコフーラはこのままでいいの?けど――――)』


 エコフーラに扮する響花は立ち止まり、アラベルに扮する潤をじっと見つめた。潤は予定と違う場面を迎えてどうしたのかと困惑する。視線の先の響花が寂しそうな顔をしているのだから。


 舞台袖で見ている花音に凜や六反田達も響花がどうしたのかと思い、心配そうに見ていた。


 そして一歩、エコフーラはアラベルに向かって歩き出そうと足を踏み出す。


『(ううん、やっぱりダメ――)』

「――きゃあ!」


 瞬間、館内から悲鳴が聞こえた。


 ――エコフーラがもう一歩足を踏み出したのだが、響花は退場のために再び振り返ろうとした。その瞬間、本日一番の雷が鳴り響いた。

そして体育館の電気が落ちて辺り一帯が暗闇に包まれる。


「今の近かったぞ!」

「停電か!?」


 ざわつき始める体育館。教師が「落ち着いて下さい!大丈夫です!すぐに非常電源に切り替わりますから慌てないでください!」と声を掛けていた。


「きょ、響花?」

「ご、ごめん」

「いや、もしかして雷苦手?」

「う、うん」


 舞台上ではエコフーラに扮する響花は予定では火の中に姿を消すはずが、アラベルに扮する潤に抱き付いてしまっていた。


「いいよ、怖いものは仕方ないよな(こういうとこはやっぱ普通の女の子なんだもんなー)」

 潤は震える響花の肩を優しく掴み、そっと頭を撫でる。

「ってかこれ復旧するのかな? あっ、あのさ?さっきのって?」

 そして同時に疑問を投げかけたのは、劇の予定に無い動きを響花がしたから。


「…………」

「どうしたんだ?――――んん!?」


 瞬間、唇に柔らかな感触を得た。そして、その感覚はすぐに離れていく。

 まだ体育館は暗闇に包まれており、響花の顔がはっきりと見えないのだが、何が起きたのかは肩を抱いている感触で理解できた。


「――えっ?響……花?」

「ご、ごめんなさい!」

「えっ?いや……え?――えっと……」


 しどろもどろになる。謝られても思考が追い付かない。心臓がバクバクしているのはわかっているのだが、一体どういうことなのか。

 先程までは背中に回されている響花の腕を、ただ雷を怖がっている女子だというので特に意識していなかったのだが、こうなると意識してしまう。


 そこで体育館の電気がパチパチと点き始めた。ざわついていた館内は電気が点いたことで安堵の息に包まれるのだが、すぐに再びざわつき始める。

 客席の視線は電気が点いて徐々に舞台上に戻ってきているのだ。そこには冷やかしの声も見られ出す。


「(ヤバい!そういや劇の途中だった!)」


 思わず忘れてしまっていた。自分達は今劇の最中で、しかも大事なクライマックスの場面だということを――――。


 事態が上手く飲み込めない。予定外の響花の行動に戸惑い、予想外の雷による停電が起きたのだ。

 思わず舞台袖に居る六反田に視線を送ると六反田は目を輝かせており、何故かガッツポーズをして明らかにそのまま劇を続けるようなジェスチャーを潤に送った。



『(え?マジで?このまま続けるの?)――――エ、エコフーラ?』


 早打ちする心臓の鼓動を感じながら、仕方なしとばかりにそのまま劇を続けざるを得ないのだが、花音は心配そうにその様子を見ていたのだった。



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