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107 魔女との邂逅

 

 舞台上では潤が演じるアラベル少年の生活の変化が描かれていた。



 これまで王城の庭師としての生活を送っていたので衣食住が充実していたわけではないが、

 苦労をしていたわけでもない。安定した生活を送っていた。


 そんなアラベル少年の生活は突如として一変する。

 住む場所はこれまでの王城の広大な庭にあった小さな木造建ての建物とは変わり、王都から離れた小さな平原の中。こんな場所では日用品の買い物すらままならない。


 そんな中、アラベルは何も知らないまま父と共に作物を育てる仕事を始める。最初は作物が育っていく姿を見ているのが楽しくてしかたなかった。

 しかし、父は楽しそうにしていない。むしろ『どうして俺がこんなことをしなければいけないのだ』といった小言が多くなる。


 そんな父は日に日に酒に溺れていき、生きていくために賃金も必要となる。

 数年経った頃、少しばかり成長したアラベルは父がいなくても作物を育てて王都への販売を一人で行えるようになっていた。


 楽しかった作物を育てることもその頃には日常のことになり、精神的にも成長したアラベルは記憶の中にあった生活と今の生活の違い、そして父の姿の違いを比べるようになっていく。


 その頃には父は働かなくなっていた。アラベルが一人で出来るようになったこともあり、家から出る回数が減っていく。


 更に数年後、父が病に臥した。


 病を患ったことで気弱になった父はベッドから起き上がることもほとんどできなくなり、その頃にはあれだけ飲んでいた酒も飲めなくなっている。そしてアラベルに毎日『こんなことになってすまない。父さんがもっとお前のことを守ってやらなければいけなかったんだ』といった謝罪をする日々を送っていた。


 アラベルとしては父に育ててもらったことには感謝をしているので、今度は自分が父を守る番だと思っているので弱気の父の言葉を否定的には受け止めていない。

 それでも気になるのは父が口にするアラベルへの謝罪以外の言葉。時々寝言のように口にする『王家の人間め……何故信じてくれないのだ』といった言葉の数々。それを聞いたアラベルは、父は王家に何か恨みでもあるのかと考え始めるが、聞いても要領を得ない。理由も王女がどうたらと意味がわからないので何かできるわけでもない。確認しようにも一介の平民が王城に入るなどということはよっぽどのことでもないと叶わないのだ。




 そして十六の歳、アラベルはいつものように王都に作物の販売に行っていた。


『いつもご苦労さん。おたくの野菜美味しいんだよな』

『ご贔屓にして頂きましてありがとうございます』

『そういえば最近お父さん見ないがどうした?元気にしているのか?』

『はい、あっ、いえ、父は今病で床に臥しているのです』

『そうか、元気そうなお父さんだったのにな』

『また元気になれば連れて来ますので。ただいつになるか…………』

『そうか、もし魔女にでも会えれば治らない病でも治せる特効薬を作ってもらえるって話だけどなぁ……』

『魔女?……ですか?』

『ああ、知らないか?まぁ噂話程度だしな』


 アラベルは聞いたこともない人物、魔女という存在のことを王都の住人より聞かされる。

 その魔女は王都からそれほど遠くない深い森の中に住んでいるというのだ。ただ、その魔女が住まう森は人が立ち入らない場所で近隣の住人からは迷いの森と呼ばれていた。


『――もし魔女に会えればお父さんの病気を治してもらえるかも』


 そう思ったアラベルは迷いの森に足を踏み入れていく。


「(よしっ、ここまで順調にいってるよな?会場が静か過ぎるのがちょっと気になるけど)」


 潤は練習通りの演技が出来ていることに手応えを感じる。

 観客がどういう風に劇を観ているのか気にはなったのだが、今は信じてとにかく演じ切るしかない。




『それにしてもそれだけの特効薬を作れる魔女なのにどうしてこんなところに押し込められているのだろう――よっと』



 数時間ばかり歩いて、アラベルは森の中で遭難してしまったことに気付く。


『――――しまった、魔女に会うどころか帰り道もわからない。どうしよう』


『あらっ?こんなところに人間がいるなんて珍しいわね。それも若い男の子だなんて』


 途方に暮れているところに後ろから声を掛けられる。

 振り返ると見たこともない女性が黒いローブを纏って不思議そうに首を傾げていた。

 そして思わずその顔に見惚れてしまう。



「(――うん、響花も緊張していないみたいだな。まぁ結構胆が据わっているやつだから俺が気にするだけ無駄だったか。しかしまぁ本番になるといつも以上に映えるな)」


 響花が演じる魔女が姿を現した時、潤が感心したのは響花の舞台度胸。客席は暗くなってよく顔が見えないとはいえ、明るい間に目にしたあれだけの人数の前で演じるのだ。

 潤の方といえば、開演当初は緊張で手汗をびっしりかいていた。時間が経つにつれて徐々に緊張は解けたのだが、響花はここが初めての登場。もし緊張していたらどうしようかと思ったのだが杞憂で済んだ。



『どうしたの?まるで怖いものでも見たみたいになって。こんなところに人がいるなんて思わなかった?』

『いえ、魔女を探して来たんですけど、会えたのが魔女じゃなくて綺麗な人なんだなって』

『――へ?』


 アラベルの言葉を聞いて呆気に取られる魔女。そして一間空けて魔女は大声で笑う。

 それがアラベルと魔女との初めての出会いだった。


 それから魔女にどうして森の中にいたのか尋ねられたアラベルは事情を簡単に説明する。軽く話を聞いた魔女は考えるのは、これだけ若い人間の男の子が森の中にいるのだ。嘘はついていないだろうということで森の中の小屋に案内することにした。


 連れていかれた小屋は話に聞いていた通り、ボロと表現したらいいのか、住めるだけといった場所。



「あれが噂の響花って子なんだな」

「うん」

「遠目にしか見えないけど、めっちゃ可愛くないか?」

「そうだけど、光ちゃんはお近づきになれないよ?」

「わかってるって!ただ可愛いって言っただけじゃんか」

「(杏奈ちゃん……怖い)」


 初めて響花を目にする光汰の感想を杏奈が冷たく一蹴していた。




 舞台上では魔女がアラベルを家に案内して詳しい話を聞いているところ。


『ふぅん、それでワタシに病の特効薬を作って欲しいと?』

『はい、お願いできませんか?』

『できなくもないけど…………そうね、ではワタシに協力してもらいましょうか』

『協力?』


 どういうことなのか、アラベルは魔女から話を聞く。

 魔女が言うには、特効薬を作るためには王城にある聖水で育った特殊な作物が必要であるとのこと。


 そのついでに魔女は王家の人間に復讐をしたいと言ったのだ。


 驚いたアラベルなのだが、復讐の理由を尋ねると魔女は『人智を越えた力を持つワタシを恐れた王家の人間はここにワタシを封じたのよ。こんな不自由な生活を強いられて幾年月、いい加減することがなくてね。しかしまぁ彼等が、人間が到達しえない特殊な力を持つワタシを恐れるということもわからなくもないから大人しくここで過ごしてやろうとは思うけど、せめて王家の人間だけはいくらか痛い目をみてもらおうかと思っておったところなのよ』と話した。


 話を聞いたアラベルは迷う。一度帰ってからゆっくりと考えて結論を出すことにした。

 そして帰宅後、目にするのは目の前で苦しむ姿を見せている父の姿。なんとかしてあげたい思いに駆られる。




『結論は出たの?』

 翌日、アラベルは再び魔女の元を訪れた。

『はい。これで良いんですよね?』


 アラベルは森の途中にある魔女を森に閉じ込めるために封じてある札を取り除いて魔女に見せる。それが答えだった。


『わかったわ。となると、あとは王城に行くだけね。現代ではもうワタシの顔を知る者もいないでしょうけど、怪しまれないよう念のためにアナタとワタシは夫婦関係ということで行ってもらうわ。そんな不安そうな顔をしなくてもそれほど難しい役割は課さないわよ』

『あの?』

『なに?今更怖気づいたの?』

『いえ、一緒に行くことは構わないんですが、父のことをどうしようかと思いまして』

『そのことなら気にしないで。症状を和らげる薬程度ならすぐに作れるわ。とりあえずそれで間に合わせられるはずだから』

『そうですか、わかりました。 あと、あなたの名前を教えてもらえますか?』

『名前、か。そういえば久しく名乗っていなかったわね。ワタシはエコフーラよ。アナタは?少年』

『ボクはアラベルといいます』



 魔女との邂逅を果たしたアラベルはその後一度父の元を訪れて、事情をなんとか濁し家を離れることを伝える。


 そうして魔女と二人、旅の夫婦を装い王城の住み込みで働かせてもらえるように志願した。魔女は見た目の美しさと気立ての良さで侍女として登用、アラベルは父に代わり料理をしていた腕を買われて厨房で働くことが決まる。

 夫婦ということなので、部屋は同室をあてがわれることになった。



「――なぁ、雪はこの話が最後どうなるのか妹から聞いてるのか?」

「まぁ、一応ね」

「呪いをかけられるのは花音なんだよな?」

「そうよ?」

「花音に呪いか……」

「(心配なのはそこかい!)」


 食い入るように見ている奏と雪なのだが、観点が少しばかりズレてしまっている。

 ただ、開演前まで見られていた険悪な掛け合いはいつの間にかそこからなくなっていた。



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