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100 意外な関係性

 

「えっ?マジで!?」


 席を外している間に起きたトラブル。潤は教室に戻って来るなり、雰囲気で何かあったのだろうということはわかったのだが、裏手で花音と雪に事のあらましを聞いていた。

 喫茶店の方は営業を止められないので凜と真吾が中心になって切り盛りしている。周囲の客も驚き戸惑っていたのだが、少しの時間を要して落ち着きを見せていた。


「えっと、じゃあとりあえずお兄さんを探しに行くのか?」

「どうしようかな…………」


 潤としては顔を合わせないといけないのか、合わしたくないのか。それも修学旅行以来なのでどういう顔をしたらいいのかわからない。

 花音に聞くところによると兄とは連絡を取っていないらしい。正確には一方的な連絡はくるらしいのだが、修学旅行の件があったので当分許すつもりはないらしいのだ。


 それでも悩む様子を見せるのは困っているところを助けられたこと。どうしてここに姿を見せたのかはわからないが、どこからか情報を仕入れて帰って来ていたのだろう。目的もきっと当たっている。花音の姿を見に来たのだということはシスコンぶりからも理解出来た。


「放っておけばいいんじゃない?」

「「えっ?」」


 そこに雪が口を開く。放っておいてもいいものなのか。


「だって、話を聞く限り、勝手に来て勝手に首を突っ込んできたんでしょ?それに、あなたたちもうすぐ休憩時間だってさっき凜も言っていたし、二人で文化祭を回るんでしょ?ならあんなやつ放っておいて遊びにいきなさいよ」

「(あんなやつって)」


 雪の言葉に若干棘があるのが引っ掛かるのは元カレだということからだろう。そういえば花音の兄、奏も元カノが潤達の学校の卒業生だということを言っていたなということを朧げにだが覚えている。


 多少関係性は気にはなるのだが、花音も態度を崩していないので部外者の潤が気にしても仕方ない。


「じゃあ、せっかくだから甘えるか?凜も俺達が一緒に出掛けれるように取り繕ってくれているみたいだし。まぁ劇の宣伝って名目だけどな」


 花音はメイド服から制服に着替えるのだが、潤は劇の少年の服に着替えなければいけなかった。


「そう、ね。雪さんはどうするんですか?」

「あー、私はもうちょっとここに居て、奏が帰って来たら掴まえておくわ。だから遠慮なく遊びに行っておいで」

「いいんですか?その?お兄ちゃんとは……」


 花音は微妙に口籠ってしまう。


「いいのいいの、気にしないで。昔の話だし、そんなこと気にしてたら後悔しか残らないわよ。もうなんともないんだし」

「(後悔、してんだ……)」


 言葉尻からなんとなくそういう印象を受けた。


「わかりました、お願いします」

「いいんだな?」

「うん、人の厚意には甘えるようにしてるから」

「それでいいのよ。年長者には存分に甘えなさい」

「はい、ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 色々と思うところはあるのだが、雪は一応関係者ではあるので、このまま裏手で待たせてもらうことになる。


「じゃあ、私着替えて来るわね」

「お、おお」

「どうしたの?」

「……いや」


 教室の裏手に設けられている隅で話している花音が今着ている服はメイド服。希望としてはこのまま一緒に回りたいのだが、花音のメイド服姿がより多くの人目に触れること、それはそれで嫌だ。

 仕方ないがここは諦めるしかないかと、息を吐いたら花音は潤に近付き、そっと耳打ちする。


「もうっ、そんな顔しないでよ。そんなに見たいの?メイド服なら洗濯に持って帰ることになっているから、今度潤の家で着てあげるわよ。だから今日は我慢して」

「――えっ!?」


 一瞬何を言われているのか理解できなかった。

 目の前には顔を赤らめている花音がいる。「ごめん、もっかい言ってもらってもいいか」と聞くと、「何回も言わないわよ、ばかっ」と恥ずかしそうに言われる始末だったが、それはそれで悶える。

 膨れっ面を見せてそそくさと更衣室に向かってパタパタと走って行った。


「(やべっ、家でメイドコスプレとかマジかよ)」と。実現の可否については不明だし、まだキス以上のことはしていない。妄想が一気に膨らんでしまっていた。




「あれ?花音ちゃんは?」

「ああ、今着替えに行ってるわ」


 裏手に凜が戻ってくる。少しばかりの疲労を滲ませているのは、花音が抜けた今でも十分にフル稼働しているぐらい忙しかった。


「そっか、じゃあ潤ももう休憩に入って良いわよ」

「おぅ、サンキュ」

「あっ、あと忘れる前に言っておきたいんだけど、休憩が終われば潤にお願いがあるの」

「お願い?」


 交代で休憩を取っているのを凜の配慮で花音と潤は同じ時間に割り当てられていた。


「うん、響花ちゃん休憩取る時一緒に回ってあげて欲しいの」

「響花と?」

「ほら、響花ちゃん最近目立ってるじゃない?今日は裏方に回ってもらったけど、休憩を取る時一緒に回る相手がいないみたいでさ。一人で回るにはちょっと危ない気もするし」

「まぁ……そうだな」


 凜が言っていることもわからなくもない。

 俺達以外に響花と誰が行動できるのか。凜と真吾は今日一日忙しくしている。響花のことだから一人でも気にしないだろうとは思うものの、周りが今の響花を放っておかないのだ。


「わかった。じゃあ帰って来たらそのまま響花のところに行くわ」

「ありがと、響花ちゃんには後で話しておくから」

「ん、頼む」

「それじゃあ休憩楽しんで来てね。花音ちゃんと」


 凜は明らかに含みを持たせてニヤつきながら再び表に出て行く。何をふざけてんだよと思うが、実際楽しむつもりは満々だ。


 そして数分待つと花音が教室に姿を現した。


「はぁはぁ、お、お待たせ」

「どうしたんだ?そんなに息を切らせて。それに珍しく髪の毛もちょっとボサついてるけど?」

「う、うん、今すぐ直すわ!早く潤に会いたくなって」

「っつ~―――!」


 誰かに聞かれてたらどうするんだよと思うが、なんて嬉しいことを言ってくれるんだ。

 文化祭の気分も相まって物凄く気分が高揚する。


「さすがに、今の言葉は嬉しかった」

「ど、どうしたの?妙に素直ね?」

「俺なりの誠意だよ」

「うん、嬉しいわ」

「じゃあ行こうか」


 手早く髪を解かしている花音に抱いた気持ちを言葉にして伝えてあげようと思えるのが今できる精一杯の愛情表現だと思えた。

 周りに人がいないからそんなことが言えるのだが、ここを出ればもう近過ぎる会話はできなくなる。



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