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リース様に剣を教えてもらった後、皆の所に戻り、食事をする。
次にある村まで子ども達を連れて行くことになった。
ただ、アーノン村を襲った魔物がどこにいったのか分からない為、騎士達が先行して村を回る人手を出すことになった。
当然、騎士達は護衛がいなくなることを言ったがリース様達が押しきった様だ。
「そろそろ出発いたしましょう」
リース様の一声で出発した。
馬車にはルイーズさんが操る馬車にはオラ達が、もう1台の馬車には、従者の人達と子ども達が乗った。
昨日までより警戒しつつ、進んだが、若干遅くなりつつあること以外には何事もなく、進めた。
今日の夕食中、戻ってきた騎士の報告を聞いた。この先の村も壊滅していたそうだった。
「………そうか。ご苦労、ゆっくり休んでくれ」
リース様はそう言う。
「………今、ご飯、ない………」聖女様がそう話す。
そうなのだ。マギイールにはあまり物資が無く、1週間分と少しの保存食しか持ってきていない。
どうするべきか、皆で悩む。
結果、良い案は出なかった。取り敢えず、このまま子ども達を守りながら進むことになった。
魔物の軍勢も話題に出たが、どうやら、マギイールからどんどん離れていっているようだ。
警戒を密にしながら、休む。
翌日は村は見えていないが、暗くなる前に休むことにする。野営の準備をしていると、音が近づいてきた。警戒しつつ、音を待つ。その正体は、先に出た騎士であった。
騎士から報告を聞いた。その報告は、先の村を越えた先にある魔王との戦いにて人族の前線拠点であった町、ファストまで向かおうとしたが、その途中に魔物の大群の姿を見たというものだった。
「………皆、どうする?」リース様が周囲を見渡す。
しばらく皆黙っていたが、何人か考えを話す。しかし、考えはまとまらないまま、完全に日が暮れ、明日以降に響く為、警戒しながら取り敢えず次にある村まで進むことに決めた。
魔王という存在は勇者と同じく、代々受け継がれている。
今代の魔王は20年ほど前に現れた。その場所はこの国、ライアエル王国の最東端、ブラックマウンテンであった。魔王誕生が発覚する以前から此処には魔物が集まっていた。
長らく、原因不明のままだったが、規則正しく動く魔物の大群が数々の村を滅ぼし、魔王誕生が発覚したのだった。
そして、ブラックマウンテンに近いが、その防壁の強固さや人の頑強さからとある都市が唯一20年前から残っている。それが、ファストだそうだ。
そのファストに魔王軍全盛期、オラ、勇者が魔王との戦いに参戦するまでの様な、魔物の大群が向かっているそうだ。
オラは寝袋にくるまりながら、リース様達から聞いた話を思い出していた。そこで、ソニア達と出会った頃のボロボロの外見、表情とアーノン村の惨状が浮かぶ。
オラは延々とそのことを考えていた。
「はい、それまで。お疲れさまです。勇者様」
オラは一昨日から続けている剣の訓練をしていた。
そこで、リース様に今まで考えて考えて考え抜き、それで思い付いたことを伝える。
「リース様………一つ、おねがいしたいことが、ございます」
「勇者様?どうなさいましたか?…ですが、そろそろ朝の準備が………」
「ああ、すいません。今すぐにどうこうという訳ではありません」
「それなら、お聞かせ願えますか」
「ありがとうございます。それは、ソニア達、子ども達のことをお願いしたいのです」
「……申し訳ございません。勇者様、それは、別行動をする、という意味に聞こえたのですが」
「すいません、お願い、します」
「その、勇者様は、どうするおつもりですか」
「………それは」
「もしや、ファストのことですか」
オラはリース様の顔を見つめ、深く息を吐く。
「………はい。そうです」
「勇者様は、ファストに向かい、どうなさるおつもりですか」
「その、オラのステータスを見た限りだと、オラは強いんですよね。それなら、魔物とも戦えると思うんですが」
「そうですが…………失礼ですが戦った記憶はありますか」
「それは…………覚えていません」
「勇者様といえど、そんな状態で戦えば確実に無傷では入られません」
「はい。……分かっています」
「それならば、何故?」
「……アーノン村のことが頭から離れません。だから……」
「ですが………」
「すいません。リース様、分かっています。オラはまだまだ弱いと。それに以前のことを何も思い出していませんし、オラは死ねないとも思っています。危なくなったら逃げますから。だから、お願いします」
オラは頭を下げる。リース様は黙っていた。
すると、スーエル様の声が聞こえた。どうやら、オラ達が戻ってこないため、探しているようだ。スーエル様と合流し、戻る。
朝食を食べる。リース様は、聖女様、魔導士様、スーエル様やルイーズさんと話している。どうやら、先程のことを話している様だ。
朝食後、騎士達から訓練で借りていた予備の剣をそのまま、持っていきたいことを騎士達に伝えた。彼らは何故、こんなことを頼むのか、疑問に感じている様だったが許可をとれた。
リース様達が話しかけてくる。
「やはり、行かれるおつもりなんですね」
「……すいません」
「いえ……皆と話したのですが、勇者様一人で行くのは反対だ、ということになりました」
「ですが、オラは………」
「はい。ですから、我々も同行することに致しました」
「え………」今、何と言った?
「いやいや、危ないですよ!」
「それは勇者様にも言えることです。それに、我々は勇者様と魔王の闘いも微力ながらお手伝い致しました。勇者様程ではありませんが、場数を踏んでおります」
確かに、リース様はオラよりも剣は上手かった。だが……
「その、子ども達は……」
「はい。子ども達は騎士や我々の従者に任せます。我々程ではありませんが彼ら彼女らも戦う術は身につけておりますので。それに…………」リース様は他の方を見る。
「……戦うのは、得意ではない。…でも、私は……治癒ができる………皆、治す……」聖女様が言う。
「フランも武器は扱えません。ですが、攻撃魔術や支援は得意なのです」魔導士様が言う。
「自分は騎士です。ですから、人々の盾になるのは自分達の役割です」スーエル様が言う。
「ボ、ボクも行きたいです。ボクは魔物を倒すことは出来ませんが魔物の弱点を知ることが出来るから」ルイーズさんが言う。………ボク?
「勿論、私も同じです。だから勇者様、一緒に戦うことをお許し下さい」リース様もそう言う。
………本当は、まだリース様達が来る必要はないと思っている。だが……
彼女達の表情を見る。それは、決意した表情だった。おそらく、オラも同じような表情をしているんだろう。
なら………………
一人一人の顔を見ながら、深く息をする。リース様、アンジェ様、フラン様、スーエルさん、ルイーズさん………
「………皆様、いや、皆。オラに力を貸してください」
オラは頭を下げる。
皆は顔を見合せ、真剣な表情になり、「喜んで。勇者様、アルン・カティナ様!」と言ったのだった。
私、ソニアは勇者であらせられるアルン・カティナ様に救われました。昨日の夜、勇者様は私の頭を優しく撫でながら、その神から与えられた端正な顔を歪めながら、アルと呼んで欲しい、とおっしゃられました。勿論、そんな呼び方を私ごときがするのはおこがましいと考えました。
ですが、そう思っていると、彼は今にも泣いてしまいそうな年下の子どもの様な表情をしながら私に謝りました。
私は、慰めなければ!と一瞬思いましたが彼は勇者であることで躊躇しました。私が躊躇したせいか、彼は謝り続けていたのです。
寝る所は、馬車になりました。私達が外にいると、もしもの時、逃げられないそうです。
それから、勇者様達に守られながら進みました。
勇者様は誰かと一緒にいることが多いのですが、それでも一人になると、決まって思い悩む様な顔をします。そんな彼に、私は声をかけることが、できませんでした………
「アルさんの、勇者様のお力になるにはどうすれば……」
私はいつからかそう考える様になりました。
ある時、朝から勇者様は思い悩む表情をしておりました。気になりながらも、私は声をかけられませんでした。
その後、皇女殿下方と話した勇者様は晴れた顔をしていました。
そして、勇者様達だけで先行する、と話しました。
騎士様達は驚き、反対するのですが反論され押し黙ります。
ふと、周りの子達を見ると、不安そうな顔をしています。
その不安を取り除こうと話しかけます。そうしていると、勇者様が話しかけてきました。
「ごめんね、ソニア。俺達は先に行くよ。だからさ、騎士達の話を聞いて、危ないことはしないでね」
「いいえ!勇者様に謝ってもらうことなんてありません!」
すると、小さい子が勇者様に話しかけます。「勇者様、行っちゃうの?」
勇者様や皇女殿下様方は、よく私や小さい子達に話しかけてくれました。だから、小さい子達は彼らに懐いていました。だから、不安になったのでしょう。
勇者様は謝ります。「ごめん、ごめんね。ソニア達の言うことを聞いて待っていてね。すぐに帰ってくるから」
それを聞いて、思い付いたのです。私が出来ることを。
私は勇者様達が帰って来るまで小さい子達を不安にさせないようにしよう、そう誓いました。
だから………お待ちしておりますから、早く帰ってきて下さいね、勇者様……アルさん!