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記憶喪失勇者の快適生活  作者: 太祥太
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6

「では、勇者様。出発いたしましょう」

「分かりました」


オラたちは王都を目指し、マギイールを出た。馬車が二台用意してあり、片方にオラ達が乗り、もう片方には、皇女様や聖女様の従者や護衛である騎士達が乗り込んだ。今知ったが従者や騎士達もいたらしい。オラたちが乗っている馬車はルイーズさんが操り、もうひとつの馬車は騎士達の一人が御者となった。


オラは最初ルイーズさんのことをルイーズ様と呼ぼうとしたが、とても恐縮されそう呼ばれたくなかったようなので色々試し、ルイーズさんに落ち着いた。オラの心の中でもルイーズさん、なのは他に思いつかなかったからだ。


奴隷というのは、この国では犯罪奴隷と商売奴隷に分かれている。ルイーズさんはその内、商売奴隷であるらしい。商売奴隷とは、借金などの理由で生活出来なくなったり、それか悪徳商人により何処からか拐って奴隷にされたりする者のことらしい。商売奴隷には、この国で嫌われている亜人族も多いのだとか。

犯罪奴隷とは、犯罪を犯した罰として奴隷になった者のことだ。その為、危険の多い職場に配属されやすいらしい。

そんな奴隷は、とある物を身に付けている。それがルイーズさんも身に付けている首輪だ。その首輪には、主人から逃げない様にする効果がついているらしい。


移動中、ふと、あまり皇女様以外の方と話していないことに気づく。とりあえず聖女様と話すことにした。何か適当な話題は……

「あのー、聖女様、アンジェリット様はどうして聖女と呼ばれているんですか」

「……………」聖女様はこちらを向いたが何も話さなかった。

「…その、アンジェリット様……?」

「………アンジェ……」

「えっ。…………」確かに聖女様はアンジェが愛称だと話していた。

「その、アンジェ、様?」

「……何?勇者様」ホッ、返事をしてくれた。

「いえ、アンジェ、様はなぜ聖女と呼ばれているのかな、と気になりまして」

「……私は…セラフィ教会の神官だから……」

セラフィ教会?……ああ、セラフィという名前であると伝わっている地の神を信仰しているところか。そういえば、オラが神話を聞いたのもそこの人だった。

ただ、教会の神官だから、聖女に?なることなんてあるのか。


「ええと、神官だから、聖女様になったんですか」

「……違う……治癒魔術が得意だったから……」

つまり、治癒魔術が得意だったことと神官だったから、聖女になったのだろうか?そう確かめてみると、頷いてくれた。


ずっと気になっていたことがある。

「すいません、あの、オラが魔王との戦いに参加したのは勇者だから、だというのは分かるんですが、なぜリース様やアンジェ様達が一緒に来たんですか」

「ああ、それは我々も勇者様には及びませんがある程度の実力はあると自負しているからです」

どういうことだろうか。

「まず、私は勇者様には及びませんが剣が得意です。アンジェ様は勇者様がお聞きになった通り、治癒魔術の凄腕です。フラン殿は、希代の魔術の天才であると言われています。スーエル殿は盾の使い手でその実力は我が国にも伝わっておりました。……ルイーズは、奴隷でありますが索敵や探知能力に優れています」

なるほど。魔王との戦いに参加できる実力があるのか。


そういえば、オラの覚えている限りだとオラは武器を扱ったことがないのだが……果たして扱えるのだろうか。

そう考えていると、どうやら日が落ちてきたためにそろそろ馬車を停めて、野宿をするそうだ。

オラの心配していることを伝えると、馬車から降りて、剣を振るってみることになった。

オラは、剣を借りて振ることにした。元々、オラが使っていた剣は魔王との戦いで折れてしまったらしい。


馬車から離れ、息をゆっくり吸って吐いた。そして、剣を構える。…あれ?何か自然にできた?

構えた剣を降り下ろす。切り上げ、薙ぎ、袈裟斬り、突きといった様に動かす。

うん。結構、自然に動けている。オラは剣を使った記憶はないのに………これは勇者だからか、それか以前も剣は扱っていたらしいし、扱い方は何となく覚えているからなのだろうか。

周りの人にもどう見えたか聞いてみたが、以前より鋭さはないが、剣術としては上出来だそうだ。やはり、以前よりは下手になっているらしい。


夕食を食べながら今後の予定について話した。

ちなみに夕食は野菜とベーコンのスープと黒パンだった。

今日はこのまま休み、明日早めに出て、近くの村を目指すのだそうだ。


オラは食事の後、寝ようと寝袋をもらおうとした。が、全員から止められた。どうやら馬車で寝てくれと言っているらしい。ただ、流石に一人で馬車一台を占領する訳ではないようだ。皇女様や聖女様と一緒に寝ることになるらしい。………いや、それだとオラは眠れない……そのことを話してみる。


「眠れない?ですか。ですが寝袋よりも格段に寝やすいと思います」

どうやら、馬車で寝るのが嫌だと言っているのだと、勘違いしているようだ。

「あー、そのー、そういう訳ではなく、リース様やアンジェ様と一緒に寝るのが……」

「申し訳ございません。我々と寝ることをご不快に思うのなら、我々は寝袋で…」

「あ、すいません。そういう訳でもなく、あー、うーん、その、リース様やアンジェ様と一緒に寝るのが、恥ずかしいという意味なんですが」

皇女様は呆然とした。やがて動きだし、

「恥ずかしい、ですか?」

「はい。そうなんです。だから、寝袋を貸していただけないかなと」

「そ、そういうことでしたか。ですが……勇者様が寝袋でお休みになられるのは少し……」

「すいません。無茶を言っているのは分かっているんですが……」

「いえ、無茶をおっしゃっている訳では……」

「その、すいません。お願いします」

「………その、勇者様が構わないのでしたら。ですが、せめて馬車の近くでお休みになってください」

「すいません。有り難うございます」


オラは何とか馬車で寝ないことを許してもらえた。安心して、寝袋をもらい、言われた通り、馬車の近くで寝ることにした。どうやら、この馬車には、魔術が付与されていて何でも馬車内や馬車周辺の温度を一定に保つらしい。

オラは寝袋に入り、眠った。



翌朝、オラは物音で目を覚ました。皇女様や聖女様の従者の方々が食事の準備をしている。

今までに野宿したような記憶はないが、結構良く眠れた。やはり、記憶にはないが野宿は元々、旅の間に何度もしていたらしいから、慣れていたのだろうか。


朝食後、移動を再開した。そういえば魔物を今までに見かけていない。そのことを聞いてみると、どうやらこの馬車のおかげらしい。それは先の温度を保つものの他に魔物避けの魔術が付けられているからだそうだ。


道中は昨日と同じく、オラがずっと緊張していること以外には特に何の問題もなく、順調に進んだ。そうこうしていると、次の村が見えた。見えたのだが……………


その村は何というか、ボロボロになっていたのだった。

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