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何とか許してもらえたようだ。
彼女達も動き出した。
「申し訳ございません。勇者様。少し驚いてしまいまして」
なるほど。おそらく、勇者なんて呼ばれていたんだ、今までのオラは急に触ったりはしなかったんだろうし、知識も多そうだから、尻尾のことも知っていたんだろう。
料理ののった皿を持つ人が続々とやって来た。テーブルの上に置かれたのは、人数分の柔らかそうな、フワフワのパンと具沢山のスープ、何かのハムであった。おや、ルイーズさんのみ違うテーブルで食べるようだ。よく見るとそこにあったのは、こちらに比べ、質素に見える料理だった。それを疑問に思っていると、
「勇者様、ではお召し上がり下さい」と皇女様が話しかけてきた。
オラは一旦疑問を流し、食べることにした。すると、手が止まらなくなった。それらの料理の旨さもあるが何よりも腹が予想以上に減っていたらしい。結果、何度もおかわりを頼んでしまった。
彼女たちはそんなオラの様子をじっと見ていた。
食事の後は、彼女たちに色々聞くことにした。
「えー、リース、様、まずはなぜオラが勇者と呼ばれているか、お聞きしたいんですが」
「そうですね。では、勇者様は『ステータス』はご存知ですか」
ステータスは………うん。覚えている。そのことを伝えると皇女様は言った。
「それでは、ステータスはお目覚めになった後、ご覧になりませんでしたか」
ステータスを見るには、専用の道具やスキルが必要な筈だが…?疑問に思っていると答えてくれた。
「勇者様は万能鑑定のスキルをお持ちですので、ご覧になられるはずですよ」
万能鑑定?…確か、スキルの使い方は頭でそのスキルと用途を思い浮かべるんだよな。それなら、試してみよう。ええと、使うスキルは『万能鑑定』で用途は、自身のステータスを視る……………本当に、見えたよ……
目の前に出たオラのステータスはこんなものだった。
[アルン・カティナ Lv64 職業 勇者、農民、??? 体力200 力250 魔力300 技130 速さ230 守備230 魔防240 幸運500 スキル 勇者の力(万能鑑定、天賦の才能)、農耕、各種中級魔術、真剣、救命結界]
本当だ………勇者とある。しかも勇者の力とスキルにもある。オラが……勇者?正直、未だに心の何処かでオラが勇者というのは冗談なのではないか?と思っていた。しかし、現在、ステータスを見て、それはまぎれもない真実なのだと叩きつけられた。それと、勇者というだけあって数値も異常だった。大体の人はLv30にもならないし、なったとしてもオール2,30が関の山らしい。つまり、オール三桁とは、とても異常なことなのだった。
あと、職業で???とある場合は未発現の職業で、何かしらの目標を達すれば名前がでる。そうして、でた職業の効果は凄まじいらしい。
「勇者様?ご覧になれましたか?」
……………………………。
「あの、勇者様?」
……ハッ!呼び掛けにも気付かない程、茫然としていた。慌てて答える。
「す、すいません!はい、あの、視れました」
「そうですか。それではお分かりになりましたか?」
「はい。………オラが、勇者であることは、分かりました」
「安心致しました。……ところで、ステータスの中で分かりづらいスキルなどはございますか」
「そうですね。勇者の力というスキルは職業の勇者によるもので農耕スキルは農民によるものですよね」
「はい。お間違えないかと」
「職業の???は未発現の職業ですよね」
「はい。そちらは以前よりございました」
「他にスキルは、各種中級魔術と真剣、救命結界というものがありますね」
「……少々お尋ねしたいことが」
「はい。大丈夫です」
「各種中級魔術スキルは以前からお持ちでいらっしゃいました。ですが、真剣、救命結界というスキルはお持ちでいらっしゃらなかったとお聞きしているのですが。……そうですね。万能鑑定では詳細まで鑑定できる筈ですので、お教え願えませんか」
「大丈夫です。えっと、真剣というスキルは……説明によると『真剣に集中する 思考速度、認識能力二倍』とあります。救命結界は…『内部にヒーリング効果(大)の付いた結界を張る』とありますね」
「そうですか。……………その他にはお分かりにならないことはございますか」
「あー、ではオラは記憶をなくす前は何をやっていたんですか」
「……そうですね。民達の脅威を退け、民達を救っておりました。勇者の名に恥じぬその行いは皆から大変救われておりました」
一瞬彼女は詰まったように見えた。だが、それは気のせいだったようだ。彼女は続けた。
「一月程前でしょうか。王都にて勇者様のレッドドラゴン討伐の記念パレードが行われておりました。我々は一週間程、滞在する予定でしたが急報が入り、直ぐに王都を出ました。その急報とは、神が造り出された地『ダスト』に魔王軍が侵攻したというものでした。我々はダストに向かい、魔王軍を撃退、魔王の元に攻勢を仕掛けることになりました。そして、五日前にこのマギイールの地に着いた我々は、魔王と闘い、これを倒しました。ですが、魔王の最期の攻撃が勇者様を襲い、勇者様は倒られました」
なるほど。それとダスト?ダストは………そうだ。確か、神話で伝わっている場所だ。オラの故郷、ゼアン村に来た神官様が話してくれた。
昔々世界が造り出された頃、創造神はその世界の管理者として、自身の力を分けた三柱の神を生み出した。そして、一番に造り出された神には空を、二番に造り出された神には海を、三番に造り出された神には地を、それぞれ任せた。最初の頃は上手くいっていたそうだ。しかし、切っ掛けは伝わっていないが空の神と海の神との間で争いが起こった。その神同士の争いは空や海、果ては地にまで甚大な被害をもたらした。地の神は空の神と海の神を説得しようとした。だが、その神らは争いを辞めなかった。空と海の神は、自身の力を自らが管理する生物に分け与え、代理で争わせることにした。しかし、神の代理人たちは他の生物を見下し、遂には地の生物も手に掛けた。地の神はそのことを二柱の神に訴えたが、聞き入れられなかった。そこで地の神は創造神に相談した。創造神は、神を造り出したことで半分以上の力を失っていたが、地の神と協力することで神の代理人や神にまで対抗できる存在を造り出した。それが『勇者』である。『勇者』は、神の争いに介入し、代理人らを倒し、神の力を封じたが、一柱の神は完全に封じられず、代々受け継がれる魔の存在を生み出した。それが『魔王』であった。魔王と戦うために『勇者』も受け継がれていく様になった。いつの日か、魔王を滅ぼすために。
確か神話はこんなだった筈。皇女様にも確認したが、合っているそうだ。それで三柱の神が造り出された所がダストであると伝わっている。
「勇者様、ご質問は以上でしょうか」
「そうですね。今はこれで大丈夫です」
「それでは、勇者様。お聞きしたいことがあります」
「はい。大丈夫ですよ」
「有り難うございます。では、勇者様はこれよりどうするおつもりでしょうか」
「どうするつもりか、ですか。そうですね、まだ、決まっていませんが、どうにか記憶を取り戻したい、と考えています」
「まだお決まりになっていないのなら、我々と行動を共にいたしませんか」
「着いていけるのなら、着いていきたいです」分からないことも多そうだから。
「いえ。勇者様がよろしいならばこちらは何ともありません。我々はこれから王都に戻り、魔王討伐を報告しなければなりません」
「はい。分かりました。…改めてよろしくお願いします。」
「いいえ。勇者様、こちらこそよろしくお願いいたします。」
王都か、行ったことがない、いや、行ったことがあるようだけど、覚えていないのだから、オラとしては行ったことがないのも同じだった。
オラは王都への期待を胸に出発する準備をするのだった。