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記憶喪失勇者の快適生活  作者: 太祥太
4/13

3

皇女様って………エエェ……

オラは彼女らが退室したことにすぐに気付かないぐらい呆然としていた。


その後、しばらく経ってから落ち着いていき、段々と現状を受け入れられてきた。どうやら、オラは記憶喪失で、以前は勇者と呼ばれる様な人間だったらしい。まぁ、全くそんな立派な人間だったとは思えないのだが。

ボスッとベッドに倒れこみ、改めて色々なことを考えた。自分のこと、なぜ記憶がないのか、彼女らのこと、そして………ゼアン村のこと、親のことまで色々考えて考えて考えていた。

悩みに悩んで、やっぱり自分のことを知っている人に話を聞いていくしかないと思った。そうすれば、いつかは記憶を取り戻せるだろうし、それにゼアン村のことについても知りたい。一先ずは明日、彼女らに色々なことを聞こう。そう、決めた。



―――――夢を見た。

何故だか見覚えがあるような夢だった。村の光景と子供たち、家の光景、そして、村を焼き、人々を襲う黒い黒い、大きな巨大な影。

〈これって、まさか…………ゼアン、村?だとするとこの影、は?〉

そして、影は目の前に映っていた大人二人に覆い被さり、そして………………………

気づかぬうちに叫んでいた。〈父さん!母さん!〉

ああそうだ。あの二人はオラの……

そして、黒い巨大な影はこちらをゆっくりと振り向いた。

〈こいつがゼアン村を、父さんと母さんを!〉

激情に駆られた。が、その瞬間、衝撃が走り、オラはそのまま意識を失った――――――



目が覚めた。体を起こし、伸ばしていた。久しぶりに動く感じで体は固く感じた。

………なんだろう、さっきまで忘れちゃいけないことを思いだしていたような………おかしな夢でも見たのだろうか。

そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえた。

(コンコン)「勇者様、お目覚めになられましたか」

この声は……ああ、確かリースフェル………うん、皇女様だ。

「お、起きておりますです。皇女殿下」

扉の前で止まっているような気配がした。一瞬の間を置き、「朝食のご用意ができました。お身体の調子はどうでしょうか。動けなさそうでしたらお食事をお持ちいたしますが」

そんなことを皇女様たちにさせたら罰が当たる、そんな風に思ったから慌てて返事をした。「いえ、動けます。大丈夫です。」そう言いながら扉まで走り、扉を開けた。

意外と動けるな、なんてことを考えながら開けたら、そこには、皇女様の顔があった。いや、声がしているから当たり前なんだが。だが、そんなことを考えている余裕が無いほど、案の定の超絶美人さんだった。

皇女様も急に扉が開き、驚いた様で若干身構えていた。ただ、すぐに落ち着き、「勇者様、お身体は問題なさそうですね」と話しかけてきた。

オラはただ頷くことしかできなかった。それを見て心配したのか、皇女様は顔を近づけてきた。瞬間、後退りをし、扉を閉めようと手をかけた所で我にかえった。

困惑しているような表情の皇女様に慌てて言い訳をした。

「す、すいません。いえ、申し訳ございません。オラには一生関わることが無いようなやんごとないご身分の方が近くにいらっしゃったものなので」

皇女様はより困惑を深めている様だった。

「えっとえっと、あっそうだ、朝食!食事の用意が出来たんですよね。久しぶりに食事をする気分なんだ、いや、ですよ」

「………はい。そうですね。五日前に倒られたので食事は長い間摂っていなかったと思います。三日間もお目覚めになられなかったので皆で心配しておりました。」

オラは三日間も寝ていたのか………

「では、動けるようですので食堂にご案内致します。そちらでお食事と他の者の紹介を致しますので」

「は、はい。わかりました」

廊下を二人で歩く。部屋にいた時から考えていたがどうやら木造のそこそこ広い建物らしい。それと、顔ばかり見ていて気付かなかったが皇女様はあまり詳しくはない(はずの)オラでも良さそうな物と分かる革鎧、いや鱗鎧?を身に付けていた。それは派手であったり、装飾品が付いていたりする訳ではなく、実用的な質実剛健という言葉が当てはまる鎧だった。

「あの、皇女殿下、そういえば此処は一体何処なのですか。」

「はい。此処はマギイール……元、魔王の本拠地だった町です。それと、どうか私のことは、リースとお呼びください。以前はそう呼んでおりましたので」

「マギイール?ですか。………有難うございます。皇女殿か、………リ、リース…様」

「様もいらないのですが………こちらが食堂になります。他の者はすでに集まっております」


食堂に付き、テーブルまで案内された。そこには、4人のリーす……皇女様にも引けをとらない美人さんたちがいた。

一人は首が完全に埋まるぐらいの茶髪に同じ色の瞳でなんというか眠そうな、たれた目付きの美人というより美少女の方がしっくりくるぐらいの背丈の白い服に身を包んだ少女だった。しかし、髪や背のことについて考えながらもオラはとある一点から目を離せなかった。それは……少女の……胸部だった。少女の胸はその背に反し、凄い、豊かだった。少女がテーブルに寄り掛かるとグニグニと様々な形に変化した。そのまま、見続けていたが突如、背筋が凍る感覚に襲われた。オラは慌てて見回したが、特に何もなく、あることといえば彼女たちがオラのことを見ていることだった。

「………座らないのですか」

オラは空いてる椅子に座り、そう声をかけてきた彼女を見た。彼女は真っ直ぐ伸びた薄い緑色の髪と瞳をもつ、目付きの鋭い、それでも美人であると言い切れる程の美人さんだった。ただ、先程の胸の……白い服の少女や皇女様よりは、胸部は控えめだった。………駄目だ、さっきから胸に目がいってしまう……

オラは頭を振り、胸のことを頭から追い出そうとした。

そうしていると、鋭い目付きの彼女のある一点に目が止まった。顔付きやその下を見ていたせいか、気付かなかったが彼女の耳は横に細長く尖っていた。そのまま、見ていると、彼女は、「何ですか………この耳ですか。フランはエルフですからこういった耳なんですよ」と話した。

どうやら彼女はフランという名前らしい。エルフって…………ああ、たしか、人族より教養があり、魔術が得意な種族だったような。でも、初めて見た…………

エルフについて考えていると皇女様が話しかけてきた。「勇者様?他の者の紹介をしたいのですが……」

「すいません、こう…リース、様、よろしくお願いします」

「はい。では、まずはそちらの者は、アンジェリット・ケルビム……セラフィ教会の聖女殿です」

アンジェリットと呼ばれた、さっきの白い服の少女は紹介されるとオラに話しかけてきた。

「…アンジェリット………アンジェ、で構わない…………あと治癒魔術が得意…」

「は、はい。オラはアルン・カティナと申します、……あ、アンジェ様」「…知っている…」

アンジェで構わないそうだが………やっぱり気軽には呼べないな………心の中では聖女様と呼ぼう…

「勇者様、紹介を続けてもよろしいでしょうか」

皇女様がそうおっしゃっり、「大丈夫です」とオラは返事をした。

「では、その隣の者は、フラン・マムクート………先程お聞きになられた通りにエルフであり、王国の筆頭魔導士です」

「リース様のご紹介通り、フランはフラン・マムクートです。アンジェ様とは違い、治癒魔術は使えませんが他の魔術ならばそうそう遅れはとりません」

「フラン…様、アルンです。よろしくお願いします」

紹介は隣の人に移った。その人は、短く切った銀の髪と黄土色の瞳の、オラやこの中では比較的背の高いフラン、様……魔導士様より背が高い、鉄鎧に身を包む美人さんだった。

「彼女は、スーエル・アーズ……王国の騎士であり、他国にもその名が轟く者です。おそらく、王国の騎士でも十指に入る実力でしょう」

スーエルと呼ばれた彼女は、慌てた様子で否定した。「いえいえ!その様なことはございません。寧ろ自分は下から数えた方が早い程度の実力しかないと自負しております」

「はあ、ええと、よろしくお願いします。スーエル様」

そう言うと、スーエル……騎士様はさらに慌て、「いえ、勇者様!自分ごときに様付けなどしないで下さい!」と言った。

「えっと、スーエル…さん。…すいません。せめて、さん、は付けさせて下さい……」

「勇者様が謝ることはございません!これは自分の我儘ですので、勇者様が呼びやすいのならばそれでお願い致します!」


落ち着いた後に皇女様が何故か複雑そうな表情で言った。「これで他の者の紹介は終わりましたね。では、その次は…勇者様、他に忘れていそうなことはございますか」

………?まだ、紹介されていない人がいるのに……?その人物は席につかず、今までテーブルの傍で立ち続けていた。オラが食堂に入った時には見えていたが、その時はある物に目を引き付けられていたので、頭から抜け落ちていた。

その人物は、フードを被っていて表情や性別も分からないが、小柄な体格をしていた。

「その……そちらのお立ちになっている方は…?」

そう聞くと、皇女様や周りの方も――――聖女様の表情は読めなかったが――――より複雑そうな、言いづらそうな表情になった。

やがて、皇女様がフードの人に話しかけた。「すみません、ルイーズ…………フードをとってくれませんか」

ルイーズというらしいそのフードの人は一瞬躊躇い、止まったが、おもむろにその手をフードにかけ、そしてゆっくりと外した。


フードを外したその姿は……焦げ茶色の肩までの髪と瞳、聖女様以上に小さい体躯の似つかわしくない無骨な首輪をした美少女だった。だが、そういったことが些細なものに思えるものがあった。それは、フードがあったその部分、頭の上に………………獣の耳のようなものが付いて、いや生えて?いたのだった。

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