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〈ここは何処だ?…自分は何者だ?・・・駄目だ。何もわからない。〉
「彼」が気付くと濁った水の中を漂っていた。どのくらいそうしていただろうか。時間さえもあやふやな中でフッと周囲の景色が切り替わった。
〈これは…村、か?〉
見えた物は、いくつかの家とその周囲の道を子供らが走り回っている光景であった。日は落ちかけすでに赤色から暗くなっている様だった。すると何か音が「彼」の耳に届いてきた。
〈なんだ、この音?……いや、声、なのか?・・・何故だろう、ひどく、懐かしい、声音だ〉
段々とその声ははっきりとしてきて、聞き取れる様になった。
「おーい、〇〇、そろそろ家に入れー、夕飯の支度を手伝ってくれー」
子供の一人が答えた。「うーん、わかったさー。んじゃ、また明日ー」「おう、また明日ー」
その一人を皮切りに一人、また一人と帰っていった。
そこで風景は途切れ、元の濁った色に戻った。そして、また切り替わり、次はどうやら家の中の光景のようだった。そこに映っていたのは、30歳前後の男女と一人の3,4歳の子供で仲良く食事をする姿だった。その子供はよく見ると先ほどの光景で最初に帰っていった子供だった。
「彼」はその光景を見ていてなにかひどく懐かしい気分に襲われた。〈なんでだろう。何故か懐かしく感じる。この子には見覚えはないと感じるのに強く結び付いているという気がする。それと…この二人には長らく会っていなかった、いや会えなかったという気がする。だからなのか、こんなにも嬉しいと感じるのは〉
三人の食事をする光景に突如ノイズが走り、場面が切り替わる。
「彼」は名残惜しく感じていた。〈ああ、変わってしまった。・・・次はどんな光景だ。〉
そこに映っていたのは、一面の赤色だった。人々が大声で叫ぶ声も聞こえた。
「・・・・・・なん・・・な所に・・・・・・が」「逃げ・・・」「ギ・・・ァァ」「・・・・・・」赤色の他に倒れ伏す人々や逃げ惑う人々が映った 。
〈なんだ、これ………っ!頭が、割れそうだ!〉
「彼」はひどい頭痛に襲われながら、これが実際にあったことだと認識していた。〈なん、でだ。そう、感じるんだ。〉ふと、この後は見たくないと、そう思った。
逃げ惑う人々の中に先ほどの三人が映った。次の瞬間、轟音が鳴り響いた。それと同時になにか大きな影が覆い被さり、子供が突き飛ばされ、一人取り残されるのが見えた。
その瞬間、それまでのものを遥かに越える頭痛が「彼」を襲い、「彼」の意識は途絶えた。
「・・・ゆ・・・さま、・・・しゃさま・・・・勇者様!」
―――声が聞こえる。誰の声だろう。―――
「皆、勇者様が!」ダンッ!ダズダス……………ドスドスドスドスドドッ、バンッ!
ハァハァ・・・「「「「「勇者様!」」」」」
―――たくさんの声が聞こえた。勇者さま?誰のことだろう。……そろそろ起きてみよう……アレ?体が動かない・・・目は開けられるかな?あ、できた……うっまぶしい―――
―――――――――その時の光景は一生忘れない、そう思った。何刻、何日?目を瞑っていたのかと言うほどの光の先に……なんというか、ここが昔聞いた天国という所なのかと思うほどの……容姿端麗、眉目秀麗、美麗、そんな『オラ』でも知ってる言葉では到底言い表すことができない、そんな綺麗でキレイできれいで美しくて…………とにかくとてつもない美人さんたちが寝っ転がっている『オラ』を囲んでいた。