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5-7 終わらない恐怖

「玲仁様」


 次の日の放課後、校門を出たところで天照が追いかけてきた。


「どうでしたか」

「ん?」

「あの後、菖蒲さんの『どうがはいしん』……を現場で拝見されたのですよね」

「ああ、それね。うん。見せてもらって、普通に帰ったよ」

「そうですか」


 最近では天照に露骨に興味を示すクラスメイトも少なくなり、多少は動きやすくなったが、校内で話し込んでいる姿はどうしても目立ってしまう。

 天照は、どうもずっと菖蒲の動画配信に強く興味を持ったようで、しきりにその様子について尋ねてきた。

 ただ、結局菖蒲の秘密を天照に話すことはなかった。特に隠せとも言われていなかったが、わざわざ自分だけにみせてくれた思いを踏みにじってしまうような気もしたからだ。


「本当にすごい踊りでしたね。あんな複雑な動きを簡単にこなしてしまうとは、素晴らしい才能をお持ちですね」

「え、見たんだ。どうやって?」

「提様と猿田彦様に、あの帰りにみせてもらいました」


 すっかり他の巫やその従神したがみと仲良くなっている状況は、ヤオヨロズの望むあり方と矛盾するような気もするが、むしろ少し玲仁の気を楽緩ませてくれる。

 すると、また狙いすましたかのように携帯が震えた。画面をみると、提からだった。


「センパーーーーイ!」


 あれ。通話ボタンを押していないのに声が聞こえる――と思ったら、後ろから提が駆け寄ってきていた。


「センパイ、何で電話に出ないんすか!?」

「いや、背後にいるならわざわざ電話しなくてもよくない?」

「それどころじゃないんすよ。さっき猿田彦に天鈿女から連絡があったらしくて、菖蒲ちゃんが……」

「え、菖蒲ちゃんが?」


 すると路地から人影が飛び出し、玲仁と天照の前に立ちふさがる。


「大変だ! 菖蒲ちゃんとウズちゃんが……また脅迫を受けたってよおおお!」

「おい猿田彦! 肝心なところを横取りしやがって……」


 玲仁と天照は顔を見合わせた。ということは、やはりあの男は犯人ではなかった?


「脅迫って、どんな内容ですか」

「『忠告を無視したな。お前はもう破滅だ。せいぜい己の身を案じ恐怖に怯えるがよい』、だとよ……キキッ、狂気が増してやがるぜ」

「僕らの動きがバレて癇に障ったのかな? それは……まずいね」

「そういえば、あの記者はどうなったのでしょう」

「わからねえ。今は橘さんとも連絡がつかないらしい……一体何が起きたってんだ? ちくしょう」

 

 犯人は別にいるのだろうか? もしくはあの記者が逃げ出して、再び脅迫メールを送り付けたっていう可能性もある。いずれにしろ今玲仁たちの手がかりとなりうるのは、あの記者の存在だけだ。


「で、どうするよ玲仁の旦那。真犯人探すか?」

「おい、お前の主はおれだろ? おれに聞けよ」

「こういうときは玲仁の旦那の方が機転はきくだろう?」

「てめえ……今すぐデッキから外してやろうか!?」

「ふん、俺抜きで旦那に何ができるってんだ」

「なんだと! 生意気な!」


 提と猿田彦が横でわめきだし、玲仁はため息をつく。天照がぼそりとつぶやいた。


「玲仁さん、どうしましょう」

「そうだね……犯人が誰であれ、そのメッセージの様子からすると菖蒲ちゃんにまた何か仕掛けにくる可能性は高いと思う」

「なるほど。ではまず菖蒲ちゃんの様子を見に――」

「がってん承知! ウズちゃんのピンチを救いにいくぜい、提の旦那ア!」

「 全然聞いてなかった……っておいおい何する!?」

「善は急げだぜええ、つかまってな!」

「うおおおおおいいいいいぃ」


 猿田彦がひょいと提の服の襟を棍で引っかけると、そのまま担いで走り去っていってしまった。


「行っちゃいましたね……私たちはどうしましょう」

「連絡が取れない橘さんたちの行方も気になるなあ。橘さんの事務所に向かってみる? 天照のもらった名刺があるから、場所はわかるはず」

「なるほど。それは明暗ですね。すぐに参りましょう」


 橘の事務所、正式名『橘エージェンシー』は、隣駅前に繁華街とは反対側のエリア、雑居ビルが立ち並ぶ通りに位置していた。想像以上に殺風景で、華々しい芸能界とは対極な雰囲気を玲仁は感じた。

 玲仁は名刺に何度も目をやりながら、正確な場所を確認する。


「このビルの三階みたいだ」


 階段を上がると、何の変哲もない普通のマンションのドアに『橘エージェンシー』という表札が掲げられていた。華やかな世界の裏方は、こんなにも地味なのだろうか、と疑いたくなる。


「思ったより……庶民的ですね」

「勝手に……入っちゃって大丈夫かな?」


 ドアが、半開きになっている。中に人はいるのだろうか? 人の家の玄関のような雰囲気なので少し躊躇したが、事務所でいえばロビーに足を踏み入れるようなものだろう……と玲仁は決めつけ、思い切って足を踏み入れる。

 中は、ちらほら貼られているポスターが目に入るぐらいで、あとは雑多に書類やグッズが所せましに壁際に積み上がっている。お世辞にも、綺麗とはいえない。しかし、人の気配はまるでなかった。


「誰もいないのに開けっ放しだなんて……不用心ですね」

「そもそもデスクも少ないし、少ない人数で切り盛りされているんだろうね。この手の稼業は実際の社員は少ないイメージあるよ」

「そうですか……奥もみてみましょう」


 廊下の突き当りに、広めのフローリングの部屋があった。脇には全身鏡なども置かれている。もしかしたらここで踊りや芝居の練習もできるように整えているのかもしれない。


「あ、部屋の中央をみてください」


 広い部屋の中央に、椅子がひとつだけぽつんとあった。玲仁が推測を口にする。


「もしかしたらここに例の記者を……橘さんを拘束していたのかもしれない」

「しかし誰もいませんね。単純に留守でしょうか」

「いや。さすがに誰もいないのに鍵もかかっていないなんて不用心すぎるよ」


 すると、玲仁は全身鏡の裏の隙間に何かが落ちているのを発見した。手のひらにおさまるほどに小さなレコーダーだ。


「それは何ですか」

「音声を録音できる機械だよ。記者とかが取材で使ってたりするのをテレビでみたことあるなあ。もしかしたらあの記者の持ち物かも」

「こんな陰に落ちていたのにお気づきになるとは。さすがです」

「大抵のアドベンチャーゲームは、こういう目立たない場所に手がかりを隠したりするんだよ」

「ではこれは決定的な手がかりかもしれませんね」

「ゲームみたいにうまく行くかな……とにかく聞いてみよう」


 玲仁は再生ボタンを押してみた。すると橘と男の会話が流れ始める。


【川上雅文。週刊サーズデーの記者ねえ】


「これは……橘さんの声です」

「やっぱり録音してたんだ」


 川上という名前はきっと相手のことだろう。つまり記者の名前と推測される。川上が自分に何かあったときのためにあらかじめ録音していた可能性は高い。記者はそういう習慣を常日頃から意識していてもおかしくはないだろう。

 しばらくは橘の一方的な語り掛けが続くが、川上が口を開いて一転、レコーダーから騒がしい音が鳴り始めた。声だけでない、騒がしく物音が混じっている。


【何も見えない――!?】

【橘さん、大丈夫ですか】


「な、何これ。まるで何かの攻撃を受けてるみたいだ……」


 玲仁と天照は顔を見合わせる。再び、耳を澄ます。


【こいつの本名はな、司じゃない。天目一箇神あめのまひとつのかみだ】


 玲仁と天照は、再び顔を見合わせた。


「菖蒲さんの運転手が……従神したがみ!?」

「しかも川上が送り込んだ相手だったなんて」

「菖蒲さんはこのことを知っているのかな? 早く知らせないと、彼女が危険だ」


 菖蒲の連絡先は直接わからないため、提から通じて伝えてもらうしか術はない。


「頼む……すぐつながってくれ」


 玲仁はスマホを耳に当てながら、移動中の提たちが電話に気づいてくれることをただ祈った。




 一方その頃、菖蒲のマンションでは天鈿女がちょうど菖蒲の部屋に足を踏み入れるところだった。

 大きなベッドの上で膝を抱えて座っている彼女の姿がある。天鈿女はそばに腰かける。


「田霧さんの留守電にも伝言を入れておいたわ。返事がくる望みは薄そうだけど」

「橘……何でこんなときに、返事もないのよ。マジいらつくわ」

「彼らに……何かが起きた可能性もあるわね」


 菖蒲は黙っていた。本人もその可能性大に薄々気づいていたのだろう。しかし悪態でもつき続けない限り、不安が膨れ上がってしまうのも事実だ。


「あ、そういえば提さんと猿田彦の二人が、今こっちに向かってるそうよ」

「今さら彼らがここに来たところで、何ができるの」


 菖蒲は語調を荒げる。


「全ては振り出しに戻った。犯人はまだ野放しなまま。私たちはいまだに危険にさらわされている。……ただそれだけよ」

「それにしても、なんのために犯人は私たちにこんな脅迫を続けるのかしらね?」

 

 天鈿女はつぶやく。


「相手が巫であることを前提に考えてみても、ランク上げ目当てならさっさと奇襲でもしかけてもいいはずだわ。それをせずに、あえて辞めろと忠告する。その理由は何なのかしら?」

「私たちを弄んで、こそこそと楽しんでるだけでしょう」


 菖蒲が冷めた口調で答える。天鈿女は唇に手をあて、思考を巡らし続けた。

 ピンポーーーン。

 突然玄関のインターホンが鳴った。おそるおそるインターホンのカメラ映像を確認する。

 スクリーンを覆い尽くすように大きな図体の、司が立っている。


「なんだあんたか……お姉ちゃん、玄関開けてきてくれる?」

「あ、ごめん。今なんか猿ちゃんから着信がきてるわ。菖蒲出てくれる?」

「もう……めんどくさ」


 菖蒲はぶつぶつと文句を言いながら、玄関に辿り着くとロックを外した。扉を開くと、菖蒲の身長の二倍以上はあるであろう司の身体が、そびえ立っている。


「橘は一緒じゃないの? まったく……あれからどうなったのか説明してくれるかしら?」


 司は突っ立ったったまま、微動だにしない。菖蒲は呆れて司に繰り返す。


「ちょっと、何か言いなさいよ」

「……」


 しかし、司は返事をするかわりに、一歩前に出る。菖蒲との距離がさらに縮まり、彼女はよりいっそう圧迫感を感じた。


「そういう冗談、私嫌いなの知ってるでしょ」


 だが司は何も答えず、代わりにゆっくりと腕を振り上げた。同時に、廊下の奥のドアが開き、天鈿女が叫んだ。


「菖蒲、離れて!」

「え?」


常態技能パッシブスキル以心伝身いしんでんしん


 天鈿女が菖蒲の身体にとっさにリンクする。


「きゃあっ!?」


 菖蒲の意思に反して体がひねられ、司の振り下ろした拳が廊下のフローリングを砕いた。木片が舞う中、司の視線はしかと菖蒲をとらえて離さない。完全に獲物をみつめるものの目と化していた。菖蒲は状況が飲み込めず、戸惑いを隠せない。


「司……どういうことなの?」


 司――あらため天目一箇神あめのまひとつのかみは、体を起こすと再び菖蒲に迫る。のそり、のそりと一歩ずつ確実に距離を詰め、その重みでフローリングがみしみしと鳴った。


「菖蒲、こっちに!」


 天鈿女の言葉に導かれるがままに、菖蒲は逃げるように再びリビングへと駆け込んだ。扉をぴしゃりと閉め、距離をとる。その向こう側の動向を警戒しながら、天鈿女が告げた。


「今、猿ちゃんから連絡があったの。玲仁君が橘の事務所でみつけたレコーダーの記録で、司があの記者の従神したがみだってことがわかったって」

「嘘……」


 今まで、決して一年近く菖蒲の運転手として共に過ごしてきた仲間が、記者の一味? 菖蒲はすぐには受け入れがたがった。

 天目一箇神あめのまひとつのかみの巨体が、ドアを吹き飛ばし、のそりと踏み入れた。

 無常にも今目の前で起きているできごとは、天鈿女の言葉とつじつまが合う。


「司……あなたが何者だろうと構わない。でもこれ以上近づくなら……容赦しないわよ?」


 菖蒲が覚悟を決めたように告げる。だが、それでも天目一箇神あめのまひとつのかみは歩みをやめない。


「残念ね……お姉ちゃん、遠慮はいらないわ!」

「ええ」


 天鈿女が、まっすぐ天目一箇神あめのまひとつのかみに飛びかかった。蹴りを入れるが、その屈強な体に対しては、ほとんどダメージを与えられているようにはみえなかった。すぐに腕を一振りされ、軽々と部屋の反対側に弾き飛ばされた。壁へ体を強く打ちつけ、天鈿女がもだえる。


「お姉ちゃん!」


 天目一箇神が再び、菖蒲に向かっていく。あくまで彼女が目当てのようだ。天鈿女が阻止すべく立ち上がろうとするが、全身に痛みが走り思うように立てない。


「菖蒲!」

「やめて……こっちにこないで!」


 菖蒲は後ずさるが、すぐに窓際に追い詰められた。背中ごしに街の遠景と夕陽が映り込んでいる。その綺麗な情景とは裏腹に、菖蒲の姿は絶望の闇覆い尽くされていくように、逆光で暗く沈んでいる。


「ウアア……」


 天目一箇神あめのまひとつのかみが確実に、菖蒲にじりじりと迫ってくる。菖蒲はどうしていいかわからず、その場に座り込む。

 すると突然どこからともなく、声が聞こえた。


「ウズさああああああん」


 菖蒲はあたりを見回すが、それらしき人影は見当たらない。だが、再び耳を澄ますと――


「た、助けてくれえええ!」



 今度は悲鳴にも似た男の声がこだましながら菖蒲の耳に確実に飛び込んできた。


 もしやと思い、菖蒲は振り返った。すると窓ガラスごしに、なんとあの猿田彦と提がへばりついている。ここは地上二十三階。どう考えてもあるはずのない絵だ。


「た、助けてえええええ! 死ぬううう落ちるうううう!」

「ウズちゃあああん! 直接上ってきてやったぜええええ!」


 猿田彦がガラスに提を背負ったまま、バンバンとガラスを叩いている。菖蒲は目をこするがその姿は消えない。どうやら幻ではないようだ。


「バカね、強化ガラスよ? 簡単に割れるわけないじゃない!」


 猿田彦が外で叫びながら、手に持っている棍を窓ガラスに思い切り棍を叩きつけ、割るつもりのようだが、やはりそう簡単には壊れない。


 菖蒲は半分呆れながら、素早く窓の鍵を外した。すると猿田彦と提は中へそのままの勢いで転がり込む。

 猿田彦は何事もなかったように即座に立ち上がると、華麗にポーズを決めた。提はただ腰を抜かしたまま座り込んでいる。


「待たせたな! おいらが来たからにはもう大丈夫だ、キキキキッ!」

「あ、あひゃめさんたすけにきたよおおお、お、おえええ……」


 菖蒲は、呆れたように言葉を返す。天鈿女もあまりの突然のできごとに、ぽかんとその光景を眺めていた。


「……何しに来たのよ?」

「え? そりゃあ、助けに来たに決まってんだろ!」

「菖蒲さん! 僕らが来たからにはからにはもう大丈夫――」


 提の台詞が終わる前に、天目一箇神あめのまひとつのかみは既にそばに立っており、勢いよく拳を振りかざしているところだった。

 渾身のストレートが、猿田彦の顔面に迫る。


「ちょちょちょちょっとタンマあああああ!」


 猿田彦は如意棍でなんとかその攻撃を受け止めたが、凄まじい勢いで後方に吹っ飛んだ。背後にいた提も猿田彦と一緒に後方に跳ね飛ばされる。その勢いのまま、二人は再び窓の外へ飛び出し、宙を舞っていた。


「てめえ人がしゃべってる途中に殴んじゃねえええええ」

「うわああ今度こそ死ぬ死ぬ死ぬぅううううう!」


 提が宙に舞いながら発狂している、猿田彦は、すばやく空中で体勢を整えると如意棍に力を込めた。


「こうなりゃもろともだぜデカブツがああ!」


 すると、如意棍の先端から根が生え、伸びる。すかさず天目一箇神あめのまひとつのかみの腕をがっちりと絡み取り、勢いのままその巨体も窓の外へと引きずり出した。


「猿ちゃん!?」


 天鈿女の叫びも空しく、堤、猿田彦、そして天目一箇神あめのまひとつのかみの三人はもつれながら真っ逆さまに落ちていった。



 空中にいながら、いまだに提は悲痛な叫びを上げ続けている。


「まだ死にたくねえよおおおおおおお」

「慌てんな、提の旦那!」


 猿田彦は絡んだ根をほどき、天目一箇神を切り離す。次に空中でくるっと体勢を持ち直すと、如意棍を真下に投げ飛ばした。ちょうど庭になっている地上で、土が敷き詰められた地面に突き刺さる。


「伸びろおおおおおおお!」


 猿田彦が叫ぶと、如意棍は瞬く間に地中に根を張り、養分を吸収し、ぐんぐん伸び始めた。すぐに数十メートルほどの長さまで伸び、その先端を猿田彦が落下するすれ違いざまに、素早く手でつかんだ。


 提が情けない声を上げている間、猿田彦は棍をしならせながら落下し、地面すれすれのところで静止する。棍棒は大きくしなっている。


「待ってろ提の旦那あ!」


 猿田彦が地面に両足をつき、勢い良く蹴る。すると今度は蓄えられたエネルギーは、反発力となって猿田彦の身体を勢いよく空中へとはじき飛ばす。


「ヤッホオオオオオオイ!!」


 猿田彦はさらに柄から手を放し、自らの体を砲弾のように堤にむけて放っていた。ちょうど提の体を捉えた瞬間に強く抱きかかえ、そのまま数回転して、飛んでいく。

 そして見事、両足で綺麗に着地した。


「提の旦那、大丈夫かい?」

「……」


 なんと、提は仰向けのまま泡を吹き、失神していた。


「この高さじゃ、さすがのマッチョ大男もおしまいだろうな」


 遠くの方でずしん、と地鳴りのような音が響き渡る。おそらく天目一箇神あめのまひとつのかみも別の地点に真っ逆さまに落下したはずだ。


 猿田彦はマンションの上方を見上げた。とりあえずこのデカブツを引きずり降ろせただけでもウズちゃんたちの危機を取り除くことができたか――そう安心した矢先、背後で土埃が舞う。

 猿田彦が振り向きみつめる中、しだいに舞う埃は薄れてゆく。そして奥の方から、一際大きな影がゆっくりと浮かびあがった。

 ぎろりと一直線でこちらを睨みつける、大男。紛れもない、天目一箇神あめのまひとつのかみの姿だった。


 小さなすり傷と埃で体の表面こそボロボロににみえるが、まるでダメージがなさそうだ。


「こりゃ……めんどいことになりそうだぜ」


 本当は一刻でも早く上に戻りたいが、この男を野放しにしてはおけない。提も気絶したままだ。猿田彦は迎え撃つべく、汗ばんだ両手で如意棍を握り直し、構えた。

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