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Prologue
短編連作小説。
薄暗い室内に、ひっそりと佇む一脚の簡素な椅子。灯りらしき物は見当たらないが、ぼんやりと仄かに明るい。室内は嘘のように広く、徒歩で四半時は掛ろうか。天井は遥か遠く、巨人ですら優々と背伸びを出来るであろう。
その中心の椅子に座すのは、伸び放題の白髪頭に、皺が深く刻まれ、長く白い髭が軒を連ねた初老の男。鮮やかに光る蒼い瞳とは不釣り合いな衣服、元は純白だったであろう法衣も、男と同じように薄汚れくたびれている。
初老の男はぼんやりと虚空を眺め、時折思い出したように懐から取り出した煙草を吸っては、紫煙をくゆらせ遊んでいた。
何処か落ち着いた雰囲気の男は、目鼻立ちがすっきりと整い、老齢ながら中々に良い面構えをしていた。
老いた男はゆっくりと口を開き、誰に告げるでも無く呟いた。
「ふむ……暇じゃな」
そう言って男は、再び紫煙をくゆらせた。その傍らでは、黒猫が静かに毛繕いをしていた。