魔物退治はただのストレス発散です(仮題)
息抜き程度の物語です。
さらーっと読み流し推奨。
いろいろとツッコミ不可(笑)
ペチャ
ペチャペチャ
ペチャペチャペチャ
ペチャペチャペチャペチャ
「あらあら、大勢で御越しですわね……」
「お、お嬢様~~か、囲まれました~」
「貴方はあの一か所空いている隙間から逃げなさい」
「え?でも……」
「さっさとお行き!」
バシッ
持っていた扇子を振り上げたらちょうどお腹のあたりに当たってしまったようで蹲っている。
「い、イタイデス。お嬢様」
「あら、この程度でイタイと言っていると彼らの攻撃を食らったらどうなるかしら」
にやりと口元を上げると私の後ろでブルブル震えているだけだった騎士見習いの子(一応私の護衛らしい)は一目散に安全な場所に逃げていった。
「あらあら、根性のない人。到底騎士どころか兵士にすらなれませんわね」
扇子を広げて口元を隠す。
私の位置から安全な場所にいるその他大勢の皆様がいらっしゃる場所(騎士見習いの逃げ場所)まで数十メートル離れているからまあ大丈夫でしょう。
騎士見習いを見送っている間に、私は低級モンスターに周囲を完全に囲まれた。
普通の令嬢だったら今頃気絶して騎士たちに助けられている頃ね。
騎士が助けてくれればの話だけど。
まあ、私は普通の令嬢と違うから気絶なんてしないけど……
むしろ、ワクワクしているわ。
剣ではダメージをあまり与えられない低級モンスター・スライム。
プルプルしていてゼリーみたいなのよね。
大きさは手のひらサイズから小型犬くらいのサイズまで様々だけど、お腹が空いてるときに見かけると無性にゼリーが食べたくなるのはなぜかしらね。
スライムは殴り続ければ消滅させることが出来るけど、かなり体力を消耗するのよね。
一体一体駆逐するのも面倒ですし、ここは魔法を使いましょうか。
うーん、それともバクダンで一気にぶっ飛ばそうかしら?
微・小・中・大・特大どれがいいかしら。
攻撃方法を決めかねている時、ちらりとスライムの軍勢の奥に見えたのはキングスライムが頭上に乗せている王冠。
キングスライム。それは名のごとく、スライムの王であり究極のレアアイテム保持者!
倒せば確実にアイテムを落としてくれる素晴らしい子。
しかも1個や2個じゃなくて十個単位で落としてくれるのよね~
ということはバクダンは却下ね。
バクダンだとアイテムごと粉砕しかねないわ。
「炎攻め、水攻め、風攻め、氷攻め、土攻め、落雷……どれがいいかしら」
扇子を閉じ、ぽんと軽く叩くと柔らかい素材でできていた扇子が鉄仕様に変化する。
「そうね、まずは『ファイア』」
扇子(鉄扇?)を前方に振ると前方にいたスライムが炎に包まれ消滅した。
炎が消えた後には数個の小さな宝箱が出現する。
「次は『アクア・アイス』」
続いて右方向に扇子を振るとスライムを大きな水の塊に閉じ込め続けて氷漬けにし粉々に砕いた。
氷が太陽の光に反射してキレイね~
氷がすべて消えると先ほどより少し大きめの宝箱が数個出現。
「続いては『カッター』」
左方向に軽く扇子を振るとスライムが綺麗に真っ二つに割れていく。
割れ目から大小さまざまな宝箱が数個出てきた。
「『トラップ・ホール』」
後ろを振り返りながら扇子を振ると巨大な落とし穴にスライムが落ちていく。
必死に穴から這い上がろうとするところに土砂を掛け生き埋めにした。
あ、まずい。
埋めちゃったらアイテムを取り出せなかったわ。
うーん、今後は気を付けましょう。
「さて、雑魚は片付きましたわね。あとは……貴方だけですわよ」
にっこりと微笑みながら一歩一歩近づく私にキングスライムがジリジリと後退していく。
だが、人間の1歩とスライムでは速度が違う。
ほんの数秒でキングスライムの前に立ち
「軽めの~~~『サンダー』」
雷を浴びさせるとキングスライムは一瞬のうちに大きな宝箱に早変わり~♪
早速宝箱を開けると超レアアイテム『天使のシズク(体力回復&魔力回復・MAX)』が20個ほど入っていた。
他のスライムたちが落としたアイテム(主に薬草、たまに武器素材)を拾っていくとかなりの数が集まってホクホクです。
明日、ギルドに半分持って行って換金しなければ……
大量のアイテムをいつも持ち歩いている魔法鞄(収納無限大)に詰め込んでいると後方から馬の駆ける音と私を呼ぶ声が響いてきた。
振り返ると顔色を真っ青にさせている兄が馬に跨っていた。
「エマ!怪我は……怪我はないか!?」
馬から颯爽と降り立った兄は私の体をペタペタと触って確認をしてくる。
「私は大丈夫ですわ。大丈夫じゃないのは……」
ちらりと遠方にいる方々に視線を向ける。
兄もそれに気づいて視線を向けるとピシリと固まった。
「え、えまちゃん?きょうは、いったい……」
「王子様、王女様の(突発的思い付きによる)ピクニックに無理やり連行されました」
遠方では煌びやかな衣装を纏った子供たちを大勢の騎士(ざっと30名)が護ってこちらを凝視している。
ふっ、あんだけ大勢の騎士がいながら誰一人として私を助けようとはしませんでしたけどね。
まあ、そういった意味では騎士見習い君が一番騎士らしかったのかしら?
「ま、まさか……これぜんぶ、えまちゃんか?」
私が立っていた場所周辺をぐるりと見回した兄は首がギギギとなりそうな動きをしている。
まあビックリするわよね。
落雷の跡があったり、明らかに掘り返した跡があったり、大小さまざまな水たまりがあったり、草花が一部燃えカスとなっていたらね~
「ええ、仕方なく私がやりましたわ。だって驚きのあまり立ち尽くしていた私を誰一人として助けようと駆けつけてくれませんでしたもの。騎士見習いのジール君以外は」
「そのジール君は?」
「あまりのへっぴり腰だったので彼らの護衛に回しました」
煌びやかな団体を指さすと兄はカチコチに固めた体をほぐした。
「ああ、うん。なんとなく現状は分かった。わかったけど、たまには大人しく守られることをしようね。エマちゃん」
「あら、何も言わなくても(一応無理やり連れてきたとはいえ)王家の客扱いであった私を護るのが騎士のお仕事ではありませんの?あの方たちは私を置き去りにしましたのよ?大量発生したモンスターの群れの中に!」
私の訴えに兄のこめかみに怒りマークが浮かんだ。
「置き去りにした?第二の王家と言われ、王家を……このサングリア国を陰日向に支えているエリトア家の令嬢を?」
「だからそう申し上げているではありませんか。あ、その時の記録はここに」
胸元に付けているブローチを指さすと兄は深いため息をついた。
「生まれた時から規格外だったけど……ねえ、エマちゃん」
「はい?お兄様」
「君はまだ7歳なんだからね?」
「ええ、私はこの間7歳の誕生日を迎えました」
「うん、普通の7歳児は魔法をバンバン使わないし、モンスター相手に歓喜しないからね?」
「でもお兄様。せっかく魔法が使えるのに魔力を眠らせるのは私の体的にも悪いですわ。体内に魔力をためると病弱になるのはすでに医学的に証明されているでしょ?使えるモノは使って効率よくしなければ!それにモンスターはお薬や武器の材料を落としてくれるのよ?」
「うん、エマちゃんが言いたいことは俺はよーくわかるよ?でもね、モンスター狩りはうちの領地内だけにしようね?普通の7歳児はああだから」
兄は私を抱き上げると大勢の騎士に護られている煌びやかな子供たち-王子と王女-のもとに向かった。
王子と王女は大声で泣きながらお気に入り(かなりの美形の)護衛騎士(王子は女性騎士に、王女は男性騎士)にしがみ付いていた。
「えー、だってここはモンスターがうじゃうじゃ発生する(初級冒険者の訓練所)って国民全員が知っている場所じゃない。それなのに『おい、光栄に思え。僕たちと遊ぶ権利を与えてやる』と我が家にアポなしで押しかけてきて、誰でも一目でわかる(老眼の人でも読めるほどでかい文字で書いた)『実験中につき立入厳禁』という忠告文を無視して工房の扉を破壊して、ようやく成功しそうだった(国王様依頼の育毛剤の)実験中の器材を全て壊して私を無理やり連れ出してここにきたのは王子と王女(とその護衛騎士達)よ?モンスターが出るってわかっているのにここに連れてきたのよ?私は一言も行くなんて言っていないのに無理やり(荷物のように担がれて)連れてこられたのよ?うちの執事達が止めに入ると『王族である僕たちに逆らうのか!』って脅して私に付き添おうとしたうちの護衛を『来るな!こいつなら僕たちの護衛騎士だけで十分だ。お前らは邪魔だ』って足止めしたのよ?(こっそり隠れて護衛してくれている)それなのにモンスターが発生しても大人たち(護衛騎士)は誰一人として私だけ助けてくれなかったんだもん。自分で自分の身を守るしかないじゃない!(我が家の護衛には出てこないように合図を送ったのでお咎めなしでお願いね)」
私の訴えに王子と王女の護衛騎士たちの顔色がどんどんと悪くなっていった。
多分兄には言葉には出していない部分も分かったであろう。
「あーうん。エマちゃんの訴えは分かった。あとで父上と母上に報告しようね」
「その必要はないと思います。だってこのブローチ、録画しながらお父様がいる部屋の鏡やガラスに映し出せるようになっているもの(今現在も継続中)」
「は?」
「えーっとね。私が私の意思に反して無理やり誰かに連れ出されたら、自動的にお父様がいる部屋の鏡やガラスにすべて写るようにしたって。お母様がブローチにそういう細工をしたってプレゼントしてくれた時に教えてくれたの」
多分お母様は私が誘拐された時のために施したのだろうけど、まさかすぐに使うことになるとは思っていなかっただろうな。
「えーっとつまり、今現在この状況を父上が見ていると?」
「うん」
「たしか、今日って……陛下の付き添いで鏡の間で大勢の人を集めての謁見だったよな」
「さあ?私は詳しいことはしr……」
『エマー!無事かー!?』
突如、私が髪に結んでいるリボンの先についている飾りからお父様の声がした。
「お父様?」
キョロキョロと兄と共にあたりを見渡すが父の姿を見えない。
『今、エマに渡したリボンに付けた飾りの宝石(魔石)を通して音声魔法を使っている。それよりも怪我は?怪我はないかい!?』
「ええ、私は大丈夫です」
『今すぐ屋敷に戻りなさい。国王陛下には十分にオハナシしておくから』
「はい、わかりました。あ、そうだ国王陛下にお伝えください。『ご依頼の品は全てゴミと化しました。文句があるのならご自分のお孫さんにどうぞ』と」
『わかった。あれはね~材料が希少なものだらけだから二度と作れないよね~』
「ええ、作れたとしても十年後ですね。必要な実が次に収穫されるのが十年後ですから」
『うん、国王陛下と王太子殿下にはそれも含めてしっかりオ・ハ・ナ・シしておくよ』
「あ、それから」
『まだなにかあるのかい?』
「ご所望のレシピ集もすべて灰にされましたとお伝えください」
『……は?』
「私が尊敬しているタール先生から伝授されたレシピ(主に王妃様と王太子妃様ご所望のスイーツ系)を纏めて献上するように言われたので用意しておいたのですが……どこぞの誰かさんが竈に放り投げてしまったんです」
『……わかった。よーく、よーくオ・ハ・ナ・シしておくよ』
父からの通信はそこで途絶えた。
ふと視線を上げると王子と王女の護衛騎士たちの顔色が真っ白。
王子と王女はそれぞれのお気に入りの騎士にしがみ付いてこちらを見ようともしない。
しがみ付かれている騎士二人は絶望の表情を浮かべていた。
この二人は私が取り残されるとわかるとすぐに救助に向かおうとしてくれたのだが、王子と王女がそれを阻止した(しがみ付いた)ため私を助けることが出来なかったことを後悔しているのがありありとわかった。
彼らは自分が動けないとわかるとすぐに他の者(部下)に私を救出するよう指示を出すも、誰一人としてその場から動こうとしかなかったんだよね。
きっと二人は帰城後、自分たちがどのような処分を与えられるのかちゃんとわかっているのだろう。
他のお人形さん騎士達とは違って。
「お兄様、お父様から早く帰るようにとの事ですから帰りましょ?」
兄はすばやく愛馬に跨り私を抱えると我が家へと急いだ。
王子と王女には護衛騎士が大勢いるから大丈夫だろう。
うん、先ほどのスライム殲滅で低級モンスターたちが少しずつだけどこちらに移動してきているけど大丈夫だよね。
だって、護衛騎士大勢いるもの。
王子と王女だけを護衛対象にしている彼らがいるんだもの。
「エマ、今日いた護衛騎士たちは張りぼて騎士連中(いいところのお坊ちゃんで顔だけの人達)だから低級モンスターでも苦戦するかもしれないね」
「あら、ならちょうどよい実地訓練になりますわね。護衛対象を護りながらどう戦闘し、護衛対象を無事に安全な場所まで連れて行くか。後日騎士団長に報告が上がるわね」
「彼らがちゃんと業務を遂行できればね」
「低級モンスターくらいでは死にはしませんわよ。せいぜい軽い切り傷程度ですわ。まあ、心はバッキバキに折れると思いますけど」
「……これで少しはマシになればいいんだけどね」
私達が帰宅した数時間後、父が晴々とした表情で帰宅した。
「エマ~!今日の戦闘はかっこよかったぞ。たまたまご一緒していた隣国の外交官殿もエマの才能を褒めていたよ。中等科を卒業したら留学しないかという話まででちゃったけど断っちゃった」
「え?お父様、今なんと?」
「今日の戦闘……」
「その先です!」
「隣国の外交官殿も」
「もっと先!」
「留学断っちゃった?」
「そう!なんで勝手に断っちゃったの!?」
「えー、だってエマはずっと父様の傍にいてくれるんだろ?」
「お父様のバカー!私がずっと隣国にいる錬金術師のタール先生に憧れている事知っているのに~!なんで断っちゃったのよ~!!せっかくタール先生に会えるチャンスが~~~~~~!!!」
父のお腹(ちょうどいい位置に父のお腹があるくらいに父の背は高い。決して私の背が低いわけではない!)をポカポカ叩いて喚いていると母がにっこりと笑みを浮かべた。
「そうね~エマちゃんが中等科を主席卒業できたら私から隣国にいる私のお父様にお願いして留学の手続きをしてあげるわよ」
「お母様ほんと!?」
「ええ、中等科を主席で卒業できたらね」
「うん、わかった!私頑張る!」
父のお腹を叩いていた手を高々と掲げて宣言すると父は情けない顔をしながら母を見つめていた。
「リリー、エマちゃんは僕たちの大切な一人娘なんだよ?」
「隣国には私の父と兄たちがおりますから大丈夫ですわ。むしろ彼ら以上の護衛がいて?」
「うっ……たしかに義兄さんたちなら任せられる。でも~」
「なに、情けない声を出しているのです。それでもこの国の騎士団のトップに立っている人なんですか!?それにエマが中等科を卒業するのは数年先ですのよ?それまでに他に興味を持たせればいいだけでは?」
「それはもうすでに実行しているけど、魔法と錬金術以外に興味示さないんだよ」
項垂れる父に母は呆れたように私を見ていたが、私は興奮していて気づかなかった。
「あ、お父様」
「ん?」
しょぼくれて母に慰められていた父に王子と王女にしがみ付かれていた二人の騎士のことを話しておいた。
父曰く、今日王子と王女の護衛騎士としてついて行った騎士たちは後日、試験によってその処罰が決まるという。
どういうことかと聞くと、
「そろそろ昇級試験の時期なんだよ。エマちゃんも学校で学力テストの時期だろ?」
「ええ、みんな必死にノートを見せてくれと言ってきますが軽く躱しています」
「あー、僕も学生時代に経験あるな~」
「で?」
「え?」
「昇給試験がどうかしましたか?」
「ああ、今日のことで直接処分するのは王家としても外聞が悪いんだよ。大勢の護衛を連れて行きながら無理やりとはいえ連れてきた客人を危険にさらして自分たちだけ安全な場所にいたという事が知れ渡ると」
「すでに大勢の人が(謁見の間で)見聞きしているのに?」
「あー、うん。エマちゃんの活躍で謁見の間にいた人たちは皆エマちゃんに夢中だったからあの現場に王子と王女や護衛騎士がいたこと忘れていたんだよね~……」
あら、じゃあ王子と王女(+護衛騎士達)の失態ってことにできないのね。
「あ、でも王子と王女には1カ月間お茶会禁止(=外出禁止及びおやつ抜き)、家庭教師倍増(=今までサボっていた分を取り戻す)で手を打っておいた」
「1カ月では懲りないのでは?(1カ月でサボっていた勉強を取り戻せますの?)」
「今回はだよ。また同じことを繰り返すようなら……ねえ?」
急に室内の気温がぐんと下がった。
これは父の怒りによるものだ。
父の怒りが沸点に達すると周囲の気温を急激に下げる。
父は水と氷の魔術師でもあるから無意識に魔力で周囲の気温を下げるのである。
「まあいいですわ。話を戻しますわ。この度の護衛騎士達の昇級試験がなんですの?」
「一応、低級とはいえモンスターから王族を護って帰還したことを踏まえての実技と筆記の試験があるんだけど、実技で今日のエマちゃん以上の実力がないと判断された者達は即刻退団ってことで折り合いを付けた」
「よく納得しましたわね」
「それだけのことをやらかしたってことはわかっているってことだよ。彼らの親が」
にっこりと微笑む父と母、そして兄に私はそれ以上何も言わないことにした。
唯一つだけ。
「私を助けようとしてくれた3人だけは騎士団に残してくださいね」
「さあ、それは彼ら次第かな」
「お父様!」
「何事にも平等にだよ。彼らをあからさまに贔屓しているとバレたら今後の彼らの仕事にも支障をきたすからね。それに彼らなら確実に残るよ。父様が保証する」
「でも、近衛からは外すんだよね?」
にっこり笑顔の兄に父は小さく頷いた。
「彼らは今回の護衛チームのリーダーだったからね。処罰なしにはできない。だが、彼らならすぐに舞い戻ってくるさ」
1カ月後。
私を助けようとしてくれた3人は無事(?)、国境警備隊に任命された。
護衛騎士の二人は中隊長に、見習いのジール君も正式な騎士に叙任され小規模単位(5~6人くらい)の小隊長に任命されたという。
国境警備隊は荒くれ者が多いという。
国境警備隊で成果を上げれば王都への返り咲きも夢ではないがそれを知る者は少ない。
なぜなら、王族警備の近衛よりも国境警備隊の方が軍の中では評価が高いからである。
幾重にも守られた王都を護る能力(戦闘力)よりも国境で第一線で活躍している者の方が能力が高いのは必然である。
ちなみに父も若い頃国境警備隊に配属されていたのである。
そのお陰で母と出会えたとよくのろけ話を聞かされている。
父と国王と宰相は3人を将来の軍部の上層部に就けるつもりだ。
その為の修行の一環であることを彼らは気づいているらしい。
父から任命書を渡された時、彼らの瞳は絶望ではなく闘志に燃えていたという。
彼らが再び王都に戻ってくるのはそれから数年後。
私が国立魔術学園中等科を卒業する年だった。
その年は、何ともおかしな年であった。
まるで物語を見ているかのような茶番劇が繰り広げられたのであったがそれはまた別の話。
私と言えば、中等科を主席卒業したので憧れのタール先生がいる隣国への留学の切符を手に入れた。
隣国は母の祖国であり私の憧れの国。
錬金術の研究が盛んな国である。
タール先生はそこの王宮付錬金術師様。
幼い頃、母の親族に会うたために出かけた隣国で出会った私の初恋相手。
別れ際に渡されたタール先生の研究ノートに書かれているモノを中等科を卒業する日までにすべて作ることが出来たら弟子にしてくれるという約束を胸に研究し続けていたのである。
研究ノートに書かれているモノは9割方作ることは出来た。
すべてを作ることは出来なかったけどタール先生は私を弟子にしてくれた。
すべてを作ることはできなかったけどいいのかと聞いたら、半分近くは間違った調合で書かれていたという。
それに気づいて自分なりに研究してあったから合格だと。
たしかに研究ノートの通りに作ると性能が違ったりしたから自分なりにレシピを弄った。
若い頃に錬金術を習っていたという母に相談しながらだけど。
先生はそれも見越していたという。
「エマは基本は出来ているからきっと大丈夫だと思ったんだよね。リリー様の娘でもあるからね」
隣国のアカデミーに留学してから知ったのだが、母はある意味こちらでは有名人だった。
母はストレスがたまると、憂さ晴らしをするために自分で作った道具を使ってギルドの依頼をこなしていたらしい。
しかも、魔物退治を中心に。
その話を聞いて、私は母にそっくりだとおもった。
うん、私もソレをやっていたからね。
王子と王女の相手をする度にストレスが蓄積していってね、月一でギルドの依頼をこなして鬱憤ばらしをしていたんだよね。
家族には内緒で。
たぶん、ばれていたと思うけど。
タール先生に弟子入りしたとき、
「ストレスはためないこと。適度に息抜きしなさい」
と約束させられた。
約束を破ったら即破門するとも言われたのでこの約束だけは厳守している。
けど、やっぱりストレスはたまるもの。
タール先生は人気者なのでその弟子になった私にやっかみが発生するのである。
軽く無視する事もあれば正々堂々喧嘩を買ったりする。
仕掛けられる数々の妨害で研究が進まずストレスが溜まってしまい息抜き=魔物退治をしている。
先生は私が魔物退治をしていることを知りつつも「まあ、何事も経験だね」と静観されている。
ギルドの冒険者の間では『さすがあのリリー様の娘さんだな~』と言われているらしい。
母は冒険者の間で伝説の魔術師扱いだ。
母にそのことを聞いたら「あら~、まだ覚えている人がいるのね。今度遊びに行こうかしら」とウキウキしていた。
その後ろで父が何とも言えない表情をしていたが最終的には諦めの表情を浮かべていた。
私の留学は一応3年という期限付だ。
3年は長いようで短い。
タール先生のもと、錬金術と魔術を極めようとおもう。
貴族令嬢である私に残された限られた自由な時間だ。
3年後、私は親が決めた相手に嫁ぐのだから。
と思っていたのだが、気づいたら家族全員が母の祖国に移住し、私はアカデミーで知り合った男性と恋愛結婚することになった。
そして、数年後サングリア王国が地図上から消えていた。
一体サングリア王国では何があったのだろうか。
風の噂ではあの王子と王女が原因らしいが、詳しいことは知らない方がいいらしい。
最初は『恋愛ジャンル』で書く予定だったオハナシ。
だけど誰も恋愛しないので『ファンタジー』で。
実際はファンタジーとも違うと思うけどσ(^_^;)アセアセ...
連載物の題材にしていたのだが無理だと判断したので短編で。
しかもヤマナシオチナシツヅキナシ……orz
誤字脱字は見つけ次第訂正予定。