第7話 車⇒バイク
この村の夜は静かで涼しくゆったりと眠れる。牢屋の藁の床とは変わり綺麗な壁紙の貼ってあるこの部屋では床にカーペットが敷かれその上に純白の布が敷かれていた。
「やわらかい」
その上で四肢を投げ出し転がっているとすぐに深い眠りに落ちそうになる。足を伸ばしてまともに寝るのは異世界に来て今日が初めてだ。
豪勢な夕食(村長の手作り)を頂いた後、旅の疲れがあるでしょうからとこの部屋に案内された。
夕食時にはヤンの他には誰も集まらずヤンと俺の二人で豪勢な夕食の置かれた食卓を囲んだ。村長のヤンはなかなかのイケメンで若く、大胸筋がカッコいいのになんで独り身なんだ?
「大胸筋が妻なのか?」
ミキトはくだらない考えを押し殺して明日に備えて眠ることにした。
「明日は遅くまで起きない、この女子が多い村で一生暮らそう。」
そういえばこの村の名前を聞いていなかった、明日聞こう。その後に寄生できそうな女の子を探そう。
思考を停止し目を瞑ると意識がどこかへ流れ出ていくかのように眠っていった――
――「……」
「――?」
なんだ……朝か……?
開かない目を頑張って少しだけ開いて窓の外を確認する。しかし日の光は差しておらず暗闇しか見えない。
「誰だよ……」
まだ寝ていたい気持ちが強く二度寝するために目を閉じた。目を閉じた先には闇が見えていて闇の中に意識が落ちていった――
――「おはようございます!ミキトさん!!」
大きな声が耳に入ってくる。
「~おはようございます 」
元気な声と大きな大胸筋が視覚と聴覚を通して俺の脳に直接グッドモーニングしてくる。朝からキツイ、美少女(妹)の「もう~お兄ちゃん!朝だよ!早く起きないと大変なことしちゃうよ?」みたいなグッドモーニングを所望する。元世界の妹は元気かな?兄ちゃん死んで悲しんでいないかな?”お兄ちゃんは生きてるもん……死んでないもん……”みたいに妄想していないかな?
あ……俺に妹いなかったわ。妹いたもん!本当だもん!なんか悶々とした気持ちになってきた。
「朝ご飯ができています。こちらへどうぞ」
妄想はここで止めて食事を頂くことにした。廊下を歩いて昨日の豪勢な夕食を頂いた部屋に案内される。食卓には野菜が多く健康的な朝食の代表かと思うくらい立派な食事が並んでいた。
「では頂ましょう」
ヤンと俺は木でできた席に着き食事を摂る――
――「この村の名前は何ですか?」
「クルックスだよ」
「クルックス……覚えやすい名前ですね」
名前からして田舎っぽく平和そうな名前だ。
「なぜ独り身なんですか?」と聞きたかったがこれは立ち入った話になりそうなので聞かないことにした。
「村を散歩したいのですがよろしいですか?」
「案内は必要かい?案内に娘をつけよう」
「えっありがとうございます」
え?娘いるの!?おっぱいは大胸筋じゃないよね!?
ヤンに娘がいると明かされ驚いたが女の子とお話しする機会なんて今までなかった俺はワクワクしながらヤンの娘にクルックスの案内をしてもらうことにした。
(もしかして寄生する相手見つけた?異世界に来て村長の娘と結婚して末永く幸せに暮らしましたとさ!?めでたいぞ!!ラッキーだ!”異世界転生したら村長の娘と結婚して長になった件”うん、俺の人生のタイトルはこれで決まりだ)
「どうしました……?」
「なっ何でもないです」
料理を眺めながらにやついているている俺にヤンが声をかけてくるが内心を悟られないように誤魔化した――
――「おはよう、グロリア」
朝食を摂り終えヤンの家の隣に駐車した車の確認をする。車の中には返してもらったお菓子、パチンコ玉、財布が置かれていた。財布はこの世界で持っていても意味がなさそうなので車に置いといた。車は綺麗なホワイトを朝日に反射させて輝いている。
「今日はバイクかな」
確認が終わった所で車をバイクにするため強く念じる。
「バイクになれ!」
車のボディがどんどん縮みホワイトの車体カラーが赤くなってゆく、
「ああっああ~」
元に戻ると分かっていても愛車がベコべコ潰れてゆく様は見ていられない。この能力は俺の心臓に負荷が掛かる。
小さくなった愛車は1000ccほどのバイクになった。
マフラーが両サイドについておりヘッドライトは鋭い目のような形になっている。
元世界のYAMASAKI Ninja1000のモデルと一致していた。
「なるほど念じている時に車種も同時に念じればそのモデルになるのか」
クソヤンキー女神ちゃんと教えてくれ。
「よいしょっと」
バイクのシートに跨りハンドルを握ってみる。大型バイクの運転は久しぶりであるが問題はないはずだ。今日のデート(違う)は成功間違いなしだ。
「あっ!ヘルメット無かった!!」
いや、俺の能力は車関連商品も召還できるんだ!ヘルメット召還できるじゃん!
「来い!ヘルメット!」
右手に黒いヘルメットが召還される。
「準備は万端!いざゆかん!デートへ!」
ヘルメットを装着しバイクシートの下に財布とお菓子が入っていることを確認して待ち合わせに設定されたクルックスの中心部の公園に続く細い道へとゆっくりとバイクを走らせた。