第4話 駐車
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男達との戦闘から三時間後、空はオレンジ色に染まり夜が近づいている事を告げている。周りには再び緑が見え始め林が前方に見えていた。
「車で一泊明かすか」
異世界の林での夜を明かすのは不安があるが絶対に壊れない能力があるから大丈夫だろう。
地面は背の低い草が生え風に揺られている。林は夕日によってオレンジに染められているが奥は葉によって光が遮断されているのか暗闇しか見えない。
「林には入らないで迂回するか」
地図も持たないミキトはどの方角に町があるのか分からない為無暗に林に入らない方が良いと考える。加えて辺りは日が落ちて暗くなってきている。このまま林に入るのは得策ではない。
「……?何だ?」
ミキトの目の端で林の奥で光の玉が動くのが見えた気がした。
「幽霊か?やめてくれよオバケなんて嘘さ、嘘だよね?」
ミキト以外誰もいない車内で確認を取るように独り言する。
いかに絶対壊れない能力がある車でも流石にオバケ無効とかはないはずだ、
最近オバケに会う確率高くなってんのかな?異世界に来る前の峠での人影もそうだしやめていただきたい。俺の心臓は絶対壊れない能力なんて持って無いんだ。
「オバケじゃないのか?」
光の玉はゆらゆら動く動きではなく跳んでいるようにも見えたがもしかしてエルフだろうか?
後をつけて正体を暴きたい衝動に駆られたが林の奥は闇が深く道も悪そうだ。なにより木に愛車をぶつけてしまったら嫌だ。
「明日の朝行ってみるか」
明るくなった頃に車を原チャリにして細い道を散策することにした――
――「――!」 「――」
「うるせえな……なんだ……?」
人の声らしき音に浅い眠りを妨げられたミキトは辺りを確認すると一気に目が覚めた。20人ぐらいの人が車の周りを取り囲んでいたのだ。
皆、顔は険しく臨戦態勢だ。皆、手には木製の槍、棍棒、刀、弓矢が握られている。左手には松明を持ち松明の光が淡く顔を照らしていた。
俺はまたモンスター側のようだ。
二十人の内十九人は女性、内の九人は十五歳にもいかないような女の子だった。そして男は見事な大胸筋を持つ一人だけだった。服装は全員露出が多く身軽そうな服を着ている。男のむき出しになっている発達した大胸筋が女性の胸よりも目立つ。
車を囲む影は警戒しているためかすぐに攻撃しようとする素振りは見せない。
「対話できるよな・・?」
絶対壊れないというチート?能力を持っている(車が持っている)からといって俺は誰これ構わず攻撃する様な短気な奴ではない、争いは好まないのだ。
対話を試みる為にパワーウィンドウの上だけ少し開ける。
「闘うつもりはありません!!助けてください!」
車内から外で警戒している影に呼び掛けたが何故、最後に助けてくださいなどと命乞いしたのか分からなかった。
もしかしたら神の部屋での事から下手に出ることが癖になっているのかもしれない。
「そこから出てこい!」
立派な大胸筋の男が叫ぶ。
「殺されないよね? 出ていきたくない」
勿論変な兵器に乗りながら対話なんて無理だよね、
俺がビビっているわけではない、俺が居なくなった後の愛車が心配なのだ。本当です。
身構えながら意を決して車のドアのロックを解除しドアを開ける、周りを囲んでいた女達は半歩後ろに下がった。車から降りた俺に男が大きな胸(大胸筋)を張って近づいてくる。男の圧力に押され後ずさりしたが逃げることはできない。
三メートルという距離で男は止まった。
「お前は兵士か?」
兵士であるかの確認をしてくる。
「……違います」
深呼吸して落ち着いて答える。
「では山賊か?」
「違います」
俺の身なりが山賊に見えるのだろうか。だだの黒いスキニーパンツに白いワイシャツなんだが。どちらかというとあなたの薄服装が山賊に見える。
ダボ着いたズボンに上半身は発達した筋肉丸出しの裸、その筋肉を締めるように革で作ったのだろうホルスターを付けていてその中に短剣が見えていた。
「詳しく調べさせてもらう」
男の合図で女3人が一歩ずつ近づいてくる。
「え!?あの、すみま「「動くな」 」
背後から平坦な女性の声が聞こえたと同時に背後で短剣を突きつけられていた。前からの接近は囮で後ろからの強襲する作戦だったようだ。格闘技のようなものでもやっているのか女性の力は強く、左手を捩じり上げられ軽々と地面に押さえつけられた。
「ぐぇ、うっ」
地面に胸から落ちて肺の空気が強制的に排出され情けない声が出た。
「その鉄でできた兵器の中を調べろ」
男の命令で残りの女達が車に寄って来る。攻撃を警戒してゆっくりと車に近づく様は虎を狩る狩り人の様な動きだった。
車に触れるほど接近した女性たちは恐る恐る車のドアノブに触れドアを開く。
「操縦席?」
女性達は初めて見る車内をただ見ているだけだったが集まってきた女達の中で一番若そうな女の子が足を布で包んだだけの汚い足で車に乗り込んだ。
(あ~最悪、洗車しないと)
シートに足を乗せて汚している女の子を止められず拘束されている自分の何もできない歯がゆさに腹が立った。
「なんかあった!」
幼い声が車内から飛んでくる。出てきた女の子の手に握られていたのは助手席に置いていたパチンコの景品の印なしビニール袋に入った大量のお菓子だった。
「なんだこれは?」
大胸筋の男はビニール袋に入っていたチョコレートを一つ取り出しまじまじと見ていたが何も分からなかったようですぐにビニール袋に戻した。
「村に連れていくぞ」
男の一言で女達は俺の腕を縄で拘束し歩き出した。
「すみません! 俺の車! グロリアは!?」
車を林の入り口に置いておくなんてできる訳が無い、盗賊に盗まれてしまう。
「ぐろりあ? その兵器のことか勿論、持っていく」
静かに男は答える。
「えっ? どうやって?」
ひとつ言わせてもらうと兵器じゃないです。車です。
しかし誰が運ぶんだ?此処にいる女性たちが轢いて持っていくのか?
「ふっ」
車の輸送方法に疑問を持ったとき男は車のボンネットの下に手を入れた。
(もしかして……)
「う~ぬん!!」
男の大胸筋に太い血管が走ったかと思うと男は軽々と車を持ち上げる。
車は男によって縦に持ち上げられ腹が見えていた。
「村に帰るぞ」
男の一言で女性たちは林の中へ歩き出す。
少しカッコいいと思ってしまったが俺の車落とさないでくださいね?
愛車を不安定に持ち運ぶ男の動向に注目しながら縄で拘束され、連行された。
林の中、拘束され連行されている時に辺りを見ても木と闇があるだけだった。ビニール袋に入ったお菓子を発見した女の子は歩きながらビニール袋に入ったお菓子を物珍しそうに一つ一つ手に取り見ていた。
暗い林の中を30分程歩くと地面が窪んだ一帯が現れた。その窪んだ一帯では小さな光が点の様に光っていて木で建てられた家が建ち並び商店街のようにも見えた。木でできた門は見られず男達が立っていたり巡回しているだけだった。番をしていた男達は俺の車を見て驚いている様子だった。
「こいつを後で取り調べる、牢に入れておけ。」
大胸筋の男は車を持ったまま番をしていた男達に命令した。
「この兵器は、ここに置いておこう。」
そう言い近くに在った大きな納屋へと運んで行き納屋の扉の前に車を置いた。
ズッズンッ
重い音が地面を伝わり地面に響き渡る。
「大事に扱って!! 」
連行されながら俺は愛車の無事を確認する。
俺の愛車はそのままボンネットを男に押され大きな納屋へと駐車されていった。