第48話 魔装兵器
「まだ戦闘は終わっていないのか……」
精神的な疲労と肉体的な疲労によって息が上がったミキトは戦闘の続く森の中に目を凝らして状況を把握する。
「ひとまず車のとこに戻ろう」
今、ミキト達は強敵の鹿の獣人を倒しアリスは魔力切れで倒れ、シーナも肉体を酷使したのか少し二の腕が震えていた。
このことから一先ず車に戻り、態勢を整えることにした。
「俺が担ごうか?」
「いえ、大丈夫ですよ、それにミキトさんに担がせたら大変な事になりそうですし」
「そうか……わかった。じゃあ、行こう」
シーナの大変なことが分かりかねたが任せることにした。
(本当にイケメンだな)
倒れたアリスをシーナがお姫様抱っこで運びその横で俺が敵の攻撃に注意を払って護衛する。
シーナのお姫様抱っこは優しくアリスを持ち上げ運んでいたがその一挙手一投足は少女漫画のイケメン主人公のそれだった。
それにアリス自身の体重は軽いと思うが着こんだ甲冑が重くてもしかしたら俺には運べなかったかもしれない。
任されて持ち上げられない、なんて醜態を晒してしまったかもしれなかったのでシーナに任せてよかった。
「良かった……無事に着いた」
他の兵士が戦闘を繰り広げる森の中をこそこそと敵に見つからないように車に戻る事、約十分。敵の攻撃が来ないか心配していたが何事も無く車に戻ってこれた。
「シーナここにアリスを避難させろ」
鍵が掛かっていないトラクターのドアを開けてシーナが運転席にアリスを座らせる。
「どっこらしょっと……」
さっきまでアリスをお姫様運びで運んでいたイケメン少女漫画主人公シーナのババ臭い台詞に評価が下がってしまった。
ババ臭い台詞……-20000点。
「うう~んっ」
シーナが抜けた声を出しながら身体の力が抜けて上手く座らせることのできないアリスに悪戦苦闘していた。
(おおっ……)
上手く座らせることのできないアリスを座らせようと悪戦苦闘するシーナを手伝うために後ろに回るがミキトの眼はトラクターのタラップで背伸びして上下しているシーナのお尻に釘付けになる。
(良いお尻だな~)
セクハラ課長の様な台詞を呟く。
綺麗なお尻……+20000000000000点。
仕方がない事だ、何せそこにあった尻は今までで見た事も無い程綺麗に形が整い引き締まっていた。
これも獣人もどき特有の筋肉がなせるものなのだろうか。
(うん、最高)
後ろからわしづかみにしたい衝動に駆られるがそんな事をしたら天国の後に地獄がやってくる。
(いや、今は戦闘中だぞ? 何考えてんだ俺っ! 落ち着けっ)
高ぶる己の欲望を無理やり抑えシーナにアドバイスする。
「……横倒しで寝かせればいいんじゃないか?」
「そうですね」
振り返えらずミキトのアドバイスを素直に聞き入れるシーナはアリスを横倒しに寝かせるために運転席まで乗り、こちらにお尻を突き出すがミキトには刺激が強すぎたのか鼻の奥から何かが流れ出てきた。
「ミキトさん? 大丈夫ですか?」
アリスを寝かせ振り返ったシーナの先ではミキトが険しい表情で鼻血を垂らしながら両腕を組み、立っていた――
「で、今の状況は劣勢なのかな? 優勢なのかな?」
「わかりません……」
アリスを寝かした後、自分達もトラクターの中に乗り込み退避した。
鼻に丸めたティッシュを詰めて鼻を膨らましたミキトがキリッと冷静に戦況の分析を行おうとしている。
「くそっ。敵の総数は? こっちの戦力は?」
こっちの兵士は約三百人、もし盗賊が五千人いたら勝てる見込みは無いぞ……
少ない情報から勝利への道を模索する。
トラクターの周りには数人の魔装兵と魔術師のみで守りを固め、隊長ののライン・オーガスは自ら前線に出向いたのかこの場に居なかった。
「車で敵を撥ねましょう!」
「それは……無理かな」
提案としてシーナが物騒な案を上げるがそれは出来ない、人としての倫理観と車のドライバーとしてあってはならない事だからだ。
そしてその他にこの案を受け入れられない問題点がある。
「今、後ろには二十人ほどが寝ているだろ? その状態で車を変形させたらどうなると思う?」
「あっ。そうですね……すみません……」
そう、今俺達の後ろのトレーラーの中で二十人程の重傷者が寝かされているのだ。この状態で車を変形させたらどうなるか分からなかったがもしかしたら二十人ぎゅうぎゅうになって車に乗ることになるかもしれない。
不確定要素が多すぎる。
「う~ん、どうすれば……」
悠長に車の中で作戦会議をしていられる時間は少ない。しかし良い案が出てこない……。
ヒュィィィィイイッ。
「……飛行機?」
その時、案が浮かばず項垂れるミキト達の乗っているトラクターの上空からこの世界で初めて聞いた車以外の機械音が響いた。
その音は何かを噴出している様な音と金属が空を飛ぶ際に生じる空気摩擦の音だった。
「もしかして……あれが魔装兵器?」
音の正体を確認するためにパワーウィンドウを開けて首を出して空を見上げる。
見上げた空にはメタリックな光沢を持つ装備を太陽の光に反射させ、飛翔している十人の影が見えた。
が見えたと思ったらその影は森の中に飛んで行ってしまう。
「……カッケエエエエッ!!!」
異様な光景に暫し声を失ったが後から感情が爆発する。
「あれが魔装兵器! メッチャカッケェェェエエ!!」
今は見えない魔装兵器を見て声を上げる。
魔装兵器……常々聞いていたが実際に見ると鳥肌が立った。
SFの世界のロボットの様な装甲に少年の様に目を輝かせる。
「魔装兵器! 乗りたい! かっこよすぎるぅぅぅうううう!!」
「……?」
私には何がカッコいいのか分からない、と異様なテンションのミキトを見ているシーナだった。
そんな子供の様にはしゃぐミキトとそんなミキトをかわいそうな子を見る目で見守るシーナの前に飛翔していた影の一人が降りてくる。
「大丈夫ですか?」
シュウウと音をばらまきながら地に降り立つ人影が声を掛けてきた。
声を掛けてきた操縦者が纏った魔装兵器は精巧な前の開いたスカートの様な装甲に四基の銃身、二本の剣が装備され骨をむき出しにしたような金属の脊椎の様な背中部分に装者を固定する為の物なのかロックボルトが八つほど付いていた。
しかし肝心の操縦者の身体は装甲で守られずラバースーツと武器を収納するベルトを腰に巻いているだけと守りが薄かった。
そして魔装兵器を操る者は顔を守るためかヘルメットのような物を被り顔は見えなかったが声と身体をピッチリと覆うラバースーツのシルエットが女性らしい身体つきを強調していたので直ぐに女性と分かった。
「ザ・ロイヤルだ!」
「助かったぞッ!」
それを見て守りを固めていた兵士たちの歓声が沸く。
兵士たちが沸くのは助けが来たからではない。
”ザ・ロイヤル”その組織は十人で構成されたエリートで全員が魔装兵器を所持するエストラス最強の機動部隊。
並みの兵士が持つことを許されない魔装兵器を装備し国を守る。
まさしくこの世界のヒーローとも呼べる存在が目の前に降り立ったのだ、沸かない訳が無い。
「あれっ? 貴方はシストで会った……」
「えっ? 会いました?」
背中のロックボルトが外れて自由になった体を魔装兵器から離し、安否の確認にトラクターに歩み寄ってきたラバースーツの女性が運転席に座るミキトを見て話しかけてくるがミキトにはヘルメットを被り銃身が付いた兵器を持つ女性の知り合いなんて知らない。
何かの間違いだ、そう結論づけながらラバースーツでクッキリと形の分かる大きな胸を見ていると魔装兵器の操縦者は被っていたヘルメットを脱ぎ今一度ミキトの顔を確認した。
「セグウェイのお姉さん!」
ヘルメットを脱いで目線が合うより前に長くてストレートの金髪から生えている狐耳を見て思い出した。
シストに着いた次の日にアリスを怒らせ締め出された俺は車をセグウェイにして観光していたんだ。
そしたらいきなりえらい美人さんが俺に声かけて来たもんだからすごく印象に残っていたんだ……
「正解。セグウェイのお姉さんです」
優しそうなたれ目が優しく微笑みながらミキトを見ている。
その眼からは友愛、慈愛、敬愛全ての愛が篭っているのでは、もしかして女神様なのでは? と錯覚させる。
「あのっ……」
「ちょっと待ってね。今仲間が森の中で戦闘に入ったみたい、私も行かないと」
名前を尋ねようとしたミキトに安全確認が終わったセグウェイのお姉さんは森の中をジッと見つめながらミキトの言葉を遮る。
「仲間、他の九人ですか?」
「そうよ、私の仲間。リリーガーデンの大切な強い仲間よ」
とまるで我が子を自慢するかのように話した。
「リリーガーデン?」
と隊名を聞き脳内で日本語変換される。
”百合庭園”なるほど……そう言う事ですね。分かります。
女性だけのエリートによって構成された隊、その十人で始まる三角関係、師弟愛、同性愛……
いけない妄想が名前から連想される。
(十一人目としてリリーガーデンに入れてくれませんかね? ベンチでもいいからっ!)
甘い香りを纏った女性たちが百合の咲く庭で微笑みながら談笑しているのが見える……そしてその花の中心にいる自分……異世界転生チートハーレムやれやれ系オラオラ系最強鈍感主人公ミキトがいた……
「何かいいことでもあったの?」
「……今ありました」
口元が緩み緩んだ表情を覗き込むセグウェイのお姉さん。
距離を見誤っているのかラバースーツに包まれた胸が当たりそうだ。
オオオオォォオオーー!!
そして男達の野太い雄叫びがここまで飛んでくる。
戦況が好転したのか窃盗団を退けたのかここからでは分からなかったが魔装兵器を有す隊、リリーガーデンの登場で軍の士気が上がったようだ。
「窃盗団なんて直ぐに撃退できるから安心して」
森の奥を見つめるミキトが怯えているように見えたのかセグウェイのお姉さんはミキトの肩を抱き寄せ頭を撫でる。
(んほほぉぉぉぉおおおおおおっ! 母性が溢れてるぅぅぅうううう!!)
抱き寄せられ密着したラバースーツからぬくもりを感じる。
女性の高い体温と柔らかさが安心感を与えてくれた。
(おっぱいで世界は平和になるって力説していた奴が居たが……その通りです)
ぬくもりを感じながら思う。
思えばシーナはガードが固くて手を出そうものなら骨を折られると分かっていたしシーナのお父さんのヤンにも釘を刺されているからやましいことが出来無かった……しかし、今! そんな事は知らない! ただ目の前のぬくもりを感じるだけだッ!
そしてアリスは……アリス? あの幼児体型の奴か? 眼中にない。
(戦闘とかどうでもいいや)
闘いの中で癒しを全力で感じながら少しだけ森の中で起きている戦闘に意識を向けておいた。




