第44話 許すマジカ
「許す☆マジカ♪」
「は?」
「何でもない」
睡眠時間が短かった為か変なテンションが発症してしまい、隣のアリスに聞かれてしまった。
ちなみに許すマジカは”許すまじ”を変えたもので今もシーナの脚を見せないように足を組んでいるアリスに対する”許さねぇ”って意味です。
「許すマジカって何?」
「何でもねぇよ運転中だから話しかけんな」
「許すマジカってなんですか?」
許すマジカについて聞いてくるアリスはどうでもいいと割り切れたがシーナから聞かれたら教えない訳にもいかない、説明しよう。
「許すマジカとはどうしても許せない相手に使う究極魔法です。この魔法は己の怨を込め、言葉にして相手を倒します」
「許すマジカ……そんな恐ろしい魔法があるんですね」
「え~、うん。あるよ……」
天然のシーナは俺の口から出た嘘を鵜呑みにする。
ここまで来ると悪いやつに騙されないか心配になる。
「許す……ふふっマジカ……」
「えっ」
「ゆるっ……んふふふっ、マジカっ……」
肩を震わせ笑いをこらえるアリス。
普段笑わない奴が笑う姿は正直不気味だった。
「あっミキトさんアリスさんを笑わせましたね! 許すマジカっ!」
「んはっ……シーナっ、んふふっ……やめて……」
魔法少女の呪文によって悪は苦しむ。
「おいおい、シーナ、ダメだろう? アリスをいじめちゃあ……許すマジカ!」
「んふっ……やめっ、あはははははは!!」
魔法の呪文はアリスの精神を破壊する。
魔法の呪文”許すマジカ”によって悪は滅びた――
「はぁはぁ……もうっ! やめなさいよシーナ、お腹痛いじゃない。許すマジカ!」
「アリスさんも使ってるじゃないですか」
「許さないわよ~、許すマジカ~」
「キャー、助けてくださ~い!」
トラクターの中で女子同士の会話の花が咲く。
「あとミキト……さっきの事、許すマジカだから」
脚が短いと言ったことに対してだろう、シーナに向けることは無い無表情で魔法の呪文を唱える。
アリスの心には殺意という名の花が咲いていた。
「あの魔装兵器……間違いねぇ! あいつだ!」
斥候として帰路につく軍を待ち伏せていた男は先頭の馬に乗る男の後ろの見覚えのある魔装兵器を見て声を上げる。
「あの時の魔装兵器じゃねぇか……だが今回は上手くいきそうだ……」
何か目論見があるのか男は口の端を吊り上げて笑いながら軍隊の兵力を把握し、森の奥に消えた。
「おっ休憩かな?」
許すマジカから二十分後、前を行くライン・オーガスのトラクターの中まで届くほどの大きな号令により隊が道中で静止する。
「休憩か……ポチッっと」
ウィィィ……――
運転席近くのトレーラー開閉ボタンを押して牽引しているトレーラーを開く。
運転中トレーラーの中で揺られていた重傷者の安全確認も行いたいと思っていたので一旦降りて確認しよう
とノブに手を掛けて高い運転席からステップを踏んで地に降りた。
ドチャ。
最悪……ぬかるんでるじゃないか……
降りる前、少し地面が柔らかいな、と思っていたがミキトが立っている地面はぬちゃぬちゃと水を吸って靴に絡んでくる。
ぬかるみはミキトが立つ場所以外にも前方、後方の地面もぬかるみ歩兵は足をとられ疲弊していた。
「雨降ったか? いや、それでもおかしい……」
そう、おかしいのだ。
確かに道はぬかるんでいるがそれ以外は雨などによって濡れた痕跡が無い。
明らかにこの状況は人為的に作られていた。
(もしかして……窃盗団――)
この不可解な状況とライン・オーガスから出発前に聞いた窃盗団、ミキトの中で解が出ると同時にライン・オーガスの声が辺りに走った。
「敵襲ーー! 魔兵!隊の周りを固めろッ! 術者は支援!」
「敵襲! 魔兵前へ! 敵襲ーー!!」
迅速な行動と的確な指示を隊に命令するライン・オーガス。
しかしライン・オーガスの声が後ろまでは届かないらしくライン・オーガスの隣にいた伝令係が馬でライン・オーガスの言葉を繰り返しながら後方の隊へと向かった。
「何処だッ!?」
ライン・オーガスの号令で周囲を確認するが窃盗団らしきものは見えない。
何処だ? 何処にいる?
森の奥を注意深く目を凝らしても人影は見えない、しかし次の瞬間、敵がもうすぐそこまで迫っている事に気が付く。
「クーレ」
黒いローブを頭から纏った低い声が隊に向けられた。
ピシィ……――ピシピシ。
「うわああ!」
地面から固まる音が走ってきたとミキトが注意を足元に落とした時にはもう遅く、脚が凍り始めていた。
黒いローブの人影から発せられた呪文によりぬかるみ道のど真ん中に居たミキト、第一軍はぬかるみ道から氷道となった道中で完全に足元を固められた。
「動かねぇ!」
ぬかるみ道を固めた氷はミキトのくるぶしをガッチリとホールドしてミキトの自由を奪う。
「くそっ」
「待てっ動くな! 今溶かす」
「敵は何処だッ」
「まだ目視できん! 気を付けろ!」
自由を奪われたのはミキトだけでなく後方の大半の兵士達、馬も足元の自由を奪われ混乱していた。
ミキトのセミトレーラーのタイヤも凍り運転不可能となっている。
「ミキトッ!」
「ミキトさんっ」
外の異変を感じ取りアリスとシーナが顔を出す。
「……助けてください」
動く首だけを後ろに回し助けを求めるが直ぐに降りようとするシーナをアリスは腕で制止した。
「危ないわ、シーナは此処で待ってて」
「でも……」
「大丈夫よ。私、結構強いのよ?」
あの~早く助けてください……
お互いを心配し合うその姿は恋人同士がわが身を犠牲にと恋人をかばう様に見えたが今はそんな呑気に百合ワールド展開している場合じゃないっ! 早く助けろっ!
この危機的状況(俺が)の中でイチャイチャしているカップルを見るとクリスマスに見るカップルの三十倍は腹が立った。
「おい、早く……――」
「「炎の矢、敵を射ち、穿て! フランムサズィータ!!」」
ヒュンッ、ヒュンッヒュンッヒュンッ。
業を煮やし怒鳴るようにアリス達に助けを求めると森の奥から綺麗に整った詠唱が聞こえ炎の矢が雨の様に飛んできた。
雨の様に、だがその炎の矢は鋭く空気を切り音を立てながら敵を穿とうとする。
「ッ! フロントガラス!!」
右手を前に突き出し襲い来る炎の矢に対抗する。
ドッ。
何かが刺さる音が目の前で聞こえた。
「あ、あ、危なかった……」
ミキトの目の前に召喚したフロントガラスに炎の矢は刺さりながらも燃えて熱風が顔を撫でていた。
その矢に実体は無く、炎で形を作られているようだ。
「しまった……シーナ! そこのボタンを押してくれ!」
咄嗟の事で自分の事しか見えていなかったミキトは後ろのトレーラーで寝ている重傷兵に気が回らなかった。
幸い、攻撃は喰らっていないようだったがこのままでは危険な事は明白だ。
ウィィィ……――
運転席に備え付けられているボタンをシーナが押してトレーラーは閉まり始める。
このトレーラーが重傷兵を守る絶対の砦となる為これで一安心だ。
だが他人の心配よりも自分の心配だ。
きっとすぐに繰り出されるだろう次の攻撃に警戒し身を縮める。
「敵は何人かしら?」
「アリス……」
いつの間にかトレーラーから降りてミキトの隣に立っていたアリスが敵の戦力を尋ねてくる。
「何?」
驚いたと目を見開いてアリスを見るミキトにアリスは少し戸惑いながら視線を合わせる。
「何でもない、俺の背中はお前に任せたぞ」
「何言っているのかしらこの馬鹿は……後ろは車でしょ。敵は前よ、何処に目が付いてるの?」
「許すマジカ……」
こういう戦闘の最中仲間が駆けつけてくれた時はこんな事言うもんだろ? これだから女は。
「でも……まあ、少しだけ守ってあげるわ……」
ミキトのノリについていけなかったアリスはミキトに聞こえない小さな声でミキトのノリにのった。
「動ける魔兵は森の中の敵を殲滅せよッ!! 術者は魔兵を遠方から支援するんだッ」
隊長のライン・オーガスの声が隊全体を引き締める。
それと同時に動ける魔兵、足元の氷から抜け出した魔兵が散と森の中の敵に向かっていく。
「アリス、足元の氷を溶かしてくれ」
「分かっているわ、フランム!」
ボウッとアリスの手から火が出てミキトの足元を固める氷を溶かしていく。
「後は大丈夫よね? 私が先行して敵を倒すわ、ミキトは援護を」
「えっ闘うの?」
「逃げるつもり?」
完全に逃げるつもりだったミキトはまさか先行して敵と衝突する事になるとは思わず顔を引き攣らせた。
隣のアリスはノブレス・オブリージュの体現者という様に使命を全うしようとしている。
「分かった……後ろは任せろ」
先まで背中を守ってくれ、と言っていたのに立場が逆になってしまった……まあいいか。
「行くわよ」
「承知いたしました」
頭を守るヘルメットを召喚し、お嬢様の後ろに付く従者は意を決して森に足を踏み入れた。
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