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第43話 道中

「終わった……」

治療を開始して五時間、正確に全ての負傷者の傷を見て処置をしたとは言えないが火傷、中軽傷を負った兵士の殆どは看ることができた。

重傷者はトレーラーの中で寝かせ、言い方は悪いが”収納”した。

本当に言い方が悪いし言ってはダメな事だろうが開いたトレーラーの中で寝かされた重傷者はまるでおもちゃ箱の中に綺麗に並べられた人形のようだった。

 トレーラーの中には二十五人ほどの重傷者が収納されていてそれに付き添う様に衛生兵を三人配置した。


 

「眠い」

 薄寒さと眠気を感じながら暗い空を見上げる。

空には元世界の都会では見られない綺麗な星空が広がっていた。

元世界では都会の光が強すぎてきれいに輝く星を目視できないだろう。

 今この地の光は野営している兵士が焚いた火が点々と存在するのみで地上の光よりも星の光の方が強いのではと思えてしまう。


「ふぁ~あ、早く寝よう……あれ? 開かない」

襲う睡魔に対抗できずトラクターの運転席で寝ようとトレーラーを牽引するトラクターのノブに手をかけ引くが開かない。


「やっぱりか……」

予想はしていたとミキトは外からパワーウィンドウ越しに中を覗く。

そこではアリスとシーナが頭をドア側に置き中央で足を重ねて寝ていてミキトの覗くパワーウィンドウの下ではアリスがお行儀良く手を組んで寝ている。

「他を探すか……」

大きなトラクターの運転席と助手席だとしても二人で寝るのは少し窮屈そうだったがシーナとだったら構わない、といった寝顔で熟睡しているアリスを羨みながら寝床を探し始めた。




「うん、ここでいいや」

何処か寝れる所を、と彷徨うミキトに襲い来る睡魔はミキトの都合を考えず容赦なくミキトを眠りへ落そうとする。

襲い来る睡魔の魔力はミキトの未熟な精神力では抗えずミキトの身体活動を制限していく。

そんな攻防、いや、防戦一方のミキトが落ちそうになる意識の中で見つけた寝床は大きく開いた空いたトレーラーの一角だった。


「おやすみ……」

スッと空いた一角に血を流す重傷者と川の字で並び”収納”されるミキト。

トレーラーの狭い一角で眠りについたミキトは消毒液の匂いと血から感じる鉄の匂いに抱かれながら眠りに落ちた。




――「ミキト、起きなさい」

「……うるさい」

締まりのある凛とした声がミキトをたたき起こす。

この声はアリスだ。


お母さんっ! 今日は土曜日だから学校無いんだって! 早く起こすなよ!


起こしに来てくれたのがシーナだったらもっと清々しい朝だっただろうに……と起き始めの苛立ちをアリスにぶつけた。


「あと三十分……」

「もうみんな出発の準備ができてるわ、早く起きなさい!」

と仰向けの状態のまま頑として目を開かないミキトの耳元で叫ぶお母さん。


うるせーな、お母さんの”もうできた”は”もうすぐできる”なんだよ……


世のお母さんは朝食できてるから早く起きなさいと呼び掛けてくるがそれは巧妙な罠だ。

絶対に朝食が出来ていない事の方が多い。


きっとおアリスさんの出発の準備ができたってのはこれからできるって事だ。


という訳で十五分は時間があるはずだ、それまで起きない。

「起きなさい! ミキト!」

「やめろ、揺らすな……」

いくら耳元で声を出しても起きないミキトに次の手段として身体を揺すってきた。

身体を揺する際にアリスの顔が俺の顔近くにあるのためかアリスの髪が顔を撫でる。


「ん……」

こそばゆい感触に目を細く開いてしまったが俺の視線はアリスの顔から直ぐに下、アリスの胸に落ちた。


「揺すってるのに揺れてない……あっ」

寝ぼけた頭は思考を言葉にしてしまう。


「フンッ!」


――ボッ。

「ッ! ぅぐ……ぐぐ」

アリスの肘がミキトの腹に鉄槌を下した。


(寝起きがこれか、まあ、こんな起こされ方もまた一興……)

腹部に走る鈍痛に悶えながら暖かな日の差す朝を迎えた。





「オーガスさん、もう出発ですか?」

「オガタさん、昨夜はありがとうございます。直ぐに出発させていただきます」

数人の幹部にあたるだろう兵士に指示を出しているライン・オーガスの元に向かい出発の確認を取る。

ライン・オーガスの顔は睡眠を取ったからか昨日よりも明るい表情で昨夜のお礼をしてきた。


「重症を負った兵は自分が輸送するので直ぐに出発できます」

「本当に……ありがとうございます」

これ以上感謝できないと頭を深く下げるライン・オーガス。

「いえいえ、俺に出来ることがあれば」

なるほど……こんなに感謝されるのは初めてで今まで自己犠牲やら率先行動とか嫌いだったが認められる、感謝される事はとても気持ちがいいものだと今、気が付いた。

うん、また気が向いたら善行をしよう。



「それにしても……全く……次から次へと……」

「どうしたんですか?」

明るかった表情から一変、曇った表情になったライン・オーガスは何か考え事を始めた。

「いえ、実はこの先の道中で負傷兵狙いの盗賊が出たという報告が上がっていたもので……」

どうやら盗賊が負傷兵を狙う理由として戦いの帰路について身心共に疲労している負傷兵が狩りやすいからだと言う、更に兵士や国に個人的な恨みを持つ者が集まるため人数も多いとの事。


「また盗賊か……」

転生初日とクルックスでの盗賊との出来事を思い出しこの世界は本当に治安が悪い事が確定した。


この世界何なんだよ……盗賊とのエンカウント率高すぎ問題。


「なに、相手はただの盗賊。残りの兵でも十分戦えます。オガタさん達の安全は保障します」

不安の色を示した俺の顔を見て勇気づける様に安全の保障をする。

「ありがとうございます」

ライン・オーガスの実力のほどは知らなかったが目の前に立つ男の顔は自信に満ちていて頼りがいがあり、ミキトに安心感を与えてくれた。


「では直ぐに出発しましょう」


約数分後、ライン・オーガスは馬に乗り兵に号令をかけ王都へと出発した。




「眠い……」

そして出発から十数分後、ミキトは睡魔に襲われていた。


「眠いけど寝ちゃダメだ……」

前を馬で走るライン・オーガスとその他数名の兵士に焦点を合わせて睡魔に対抗しようと目を見開く。

 車の運転をしながら寝てしまったら居眠り運転で即事故&逮捕だ。

それだけでなく今、このセミトレーラーが牽引しているトレーラーの中には二十人余りの命がある。

人の命を預かっている身としてもドライバーとしても居眠り運転は出来ない。


「大丈夫ですか? 無理しないで眠たかったら仮眠取ってくださいね」

シーナがひょこっと左端の座席からミキトの顔を見る様に顔を出してくる。

「大丈夫さ、心配してくれてありがとうシーナ」

女の子からの優しい言葉は男を奮い立たせる不思議な力がある様で直ぐに眠気が消えた。


「そうよ、事故でも起こされたらたまらないわ」

と隣に座るアリスから自分の身を案じている様な声が聞こえてくる。

「あっそ」

するっとアリスの言葉を躱す。


朝からお前と言葉を交わすわけねぇだろ。


朝一の肘鉄の件を根に持っているミキトだった。

 

「何でお前が隣なんだ……」

「悪いかしら? シーナの為よ。あなたシーナの脚とか胸を舐める様に見たんでしょ、今回もシーナがあなたの下衆心から守るために私が隣に座ってあげたのよ」

と部分部分が守られているいつもの装備のアリスが応える。


(下衆心ってなんだよ)


そのアリスの隣、左端のシーナの服装はフリルの付いた白シャツ、黒いフリルスカートで腰にピンクのブランケットを三角に折って腰に巻いていた。

ちなみに俺はまだ昨日のフルアーマードボディジャケットを着ている。


「今も見てますよね?」

「そんなに見ていないって」(確かにこの服装だと脚が見えるよな……)

右端の運転席からもシーナの健康的美脚がチラと見えていたがその全貌は見えない。


 (おおっ? おっ)

少ししか見えない脚はチラリズムによる効果と元ある魅力でミキトの眼を釘づけにする。

「見てるじゃないですかっ」

「前見なさい、ボケ」

「……」

シーナの脚をこれ以上俺に見せない為かアリスは脚を組み俺の視線を絶つ。


邪魔だなぁシーナの脚が見えないだろうが。


「脚、短いな」

憤りを覚え、アリスの幼児体型を馬鹿にしたが実を言うとそこまで脚は短くなかった。


「……後で殺すから」


隣で予告殺人を宣告するアリスの眼は本気ガチだった。


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