第41話 勘違い
――「今日はここで野営しますがよろしいでしょうか?」
「構いません」
日が沈み始め、景色がオレンジに染められ始めるとライン・オーガスは馬車道の端で野営をする事にしてミキトの了解を得る。
「お~い? 今夜は此処で野営するぞ」
ジープになった車のエンジンを切り首を後ろに回し後部座席に座っている二人に声を掛けるが二人とも寝ていた。
(うわぁ、汚ねぇ……)
アリスの肩は寄りかかるシーナの涎でテカっていた、粘り気のあるのが運転席からでも分かる。
「……まあ、いいか」
無理に起こす必要はない、それに無理に起こしてアリスに怒られたくもないし……
ガチャ。
「よっと」
高さのあるジープの運転席から飛び降りて音をたてないようにゆっくりとドアを閉め外から鍵をかける。
一応念の為だ。
――「あのっすみませんっ……オガタさん、いいですか?」
ドアを閉めたと同時に後ろから若い声がミキトに話しかけてくる。
この声には聞き覚えがある、ライン・オーガスに引っ付いていた青年だった。声からしてオドオドした物静かな雰囲気が伝わってくる。
「はい、オガタです。何でしょう?」
男と話すのなんてだるいが情報収集の為にも会話してやるか……そう思い振り向くとそこにはいたのは青年ではなく美少年だった……
「あのっ、尾形さんの乗っているその……車? は魔装兵器と何が違うんですか?」
「……」
「……あの?」
「……お、おう。え~と、この車はちょっと特別で俺にもわからん」
オドオドと尋ねてくる目の前の美少年に釘づけになり声が聞こえていなかった。
目の前の美少年の髪は金髪が天然のパーマなのか巻かれて肩に触れないぐらいにとどまっている。肌はアリスと互角と思えるほど白くてきめ細かいが頬の右下には深い切り傷が跡になっていた。眼の色は透き通ったターコイズブルーで空が瞳の中に在るように見えた。
「そうですか……珍しい物だったので新型の魔装兵器かと思ったんですが」
「すまないな」
目の前の甲冑美少年はがっくりと肩を落とす。
自分にもよくわからないんだ、教えられてないし、答えられないんだよ。
不親切なジャージ姿のヤンキー女神が頭の中で笑っていた。
「えっと……君の名前は?」
「あっ! 失礼しましたっ僕、失礼。俺の名前はライン・ノーガスと申します」
まだ少し気弱さの残る口調だったが声を張り自己紹介をした。
「ライン・ノーガス……あれ?ライン・オーガスさんの……息子? さんかな?」
「はい、そうです」
ライン・オーガスの息子なのか娘なのかハッキリしないが多分親子なのだろう、そうミキトが考えていた通り目の前の美少年、ライン・ノーガスはこの隊の隊長、ライン・オーガスの息子だった。娘が良かったな……
「ラインが名字でノーガスが名前か……あれ?」
頭の中で疑問譜が浮かぶ。
あれ?シーナはカークル・シーナで上が名字だよな? アリスはアリス・シストでアリスが名前じゃん? なんかこの世界意味わからんな……もしかしてアリスはシストが名前なんじゃ……
お前はいつからアリスが名前だと錯覚していた? と想像の中のアリスが俺に問う。
「――あっ……え~と、ノーガスさんは魔兵かな?」
この世界の名前事情について考えていて目の前の美少年の事を放っておいてしまった事に気が付き何か話題を探るがこれぐらいしか聞く事が無かった。
「あまり強くはないですけれど、一応魔兵です。それとノーガスと呼んでください、オガタさん」
「おけ」
魔兵、シストの道場でエナから聞いた話だが魔法と格闘術を駆使する傭兵みたいな感じだと思うが目の前の美少年、ノーガスの細い腕は鍛えている様には見えず格闘術を習得している様には見えない。腰には剣が装備されているがノーガスの白い腕とはミスマッチで、剣よりもペンを握っている方がしっくりきそうだ。
「ミキトさんの……職業は何でしょうか?」
「俺の職業は大学生」
「だいがくせい?」
「あれだ……学生よりも上で学者よりも下の者だ」
「?」
俺の職業を尋ねたノーガスになぞなぞの様な返しをしてしまったが正確には大学を卒業していないので俺の職業は高校生だ。
「えっと、そのダイガクセイはどのような学問を学ぶんですか? 魔法学でしょうか?」
「大学生は特に学ばない、講義が終わったら家に帰って遊ぶか友達と酒を飲みに行く」
「……」
ノーガスは大学生の生態をミキトの口から聞いて絶句している、それもそのはずだ、この世界の学生とはエリートの卵、国の発展を担う者など素晴らしい者達だ。
それなのに目の前の男はダラダラと締まりの無い雰囲気を纏い黒い胴、脊椎を守る甲冑の付いた装備に見た事の無い魔装兵器の様な兵器を持っている。
良くも悪くも只者ではないのが分かった。
「……ミキトさんは天才肌なんですね」
「え?」
「本当はこの車は自分で作ったんじゃないですか!? そうじゃないんですか!?」
「え? ちょっ、近い……」
どうやらノーガスはミキトの事を勘違いしてあろうことか”天才”と判断してしまったようだ……
「教えてくださいッ! お願いします!」
「いやいや! 何か勘違いしていない!?」
「お願いしますッ! お願いします!」
(やっべ……コイツ男か? 何か男でもいい気が……はっ! ダメだ! 俺にはシーナがいるんだ! シーナの脚、シーナの脚……)
近い! 近い! 近い! 美少年に迫られたら堕ちちゃうよ!
魔兵には思えないほどの白い肌、ターコイズブルーの瞳がミキトに迫る、ミキトに迫る魅力にミキトの思考は揺すられたがシーナの足のラインを思い出して目の前の自分の性癖を歪めてしまうほどの魅力を断ち切った。
「お願いします!」
が、断ち切ったと言ってもそれはノーガスの魅力だけだ。まだノーガスはミキトに魔装兵器の知識のご教授を頂こうと迫っている。
(何を勘違いしてるんだ……)
車の作り方なんて普通の大学生が知る訳が無い。
ミキトは密着しそうなほど迫ったノーガスの両肩を押して突き放した。
「ご、ごめんなさい……」
「いや、そんなこともあるだろう」
熱中すると周りが見えなくなる性格なのだろうノーガスは我に返り謝ってきた。
「魔装兵器が好きなのか?」
「はいっ! 昔から大好きです!」
「俺も好きなんだ(車が)」
子供の様に好きな物を語るターコイズブルーの瞳は爛々と輝いて、その眼は男の子がロマンを語る目だった。
カタ……。
「ん?」
背にしたジープから小さな音が聴こえ振り返ると白い瞳がジープの窓からこちらを見ていた。
「ミキト……? 何してるの……」
「あ……起こしちゃった?」
「そうじゃなくて……その///」
「なんだ?」
アリスは見てはいけない物、だが魅力的な物から羞恥心に染まった顔でこちらを見ていた。
「……あっ。これは違うぞ、違うんだ」
アリスの顔が朱に染まった理由に気づいたミキトは言い訳をする。
そう、今の状況はジープの影に隠れた美少年と男がもつれ合っている状態だったのだ。更に先程の会話を聞いていたら勘違いされてもおかしくない。
「あっ僕、俺はお邪魔ですね、では戻らせてもらいます」
あっ、こら! 逃げるな! 更に怪しまれるだろうが!!
逃げるように野営の準備に戻るノーガスの背をミキトは追いかけられず、わずかに右手を伸ばした。その手はノーガスを捕まえることは出来ない。
「お前って男が好きなの?」
「違う、俺は女が好きだ」
「でもさっき”俺も好きなんだ”って言っていたじゃない」
「いや……それも勘違いで俺は普通に女の子が大好きだから」
「じゃあ、事細かに好きな女の子の特徴言ってみなさい」
「ああ、いいぞ、言ってやるとも、教えてやるとも」
疑るアリスに俺の潔白を証明する為に性癖を暴露する。
「まず顔! 可愛いか美人!」
「ふーん」
「まだ疑ってんのか……身体! おっぱいは大きい方が良い!身長は俺と同じくらいが良い! お姉さんみたいな女の子なら尚良し!」
「……」
「妹かお姉ちゃんだったら絶対お姉ちゃん派!」
「……きも」
潔白を証明するために性癖を暴露したが潔白を証明するどころか欲まみれの汚い性癖を暴露したミキトに嫌悪感MAXのアリスがジープの中から見下してくる。
カーン、カーン、カー……ン
「……」
野営の為に兵士がテントでも張っているのか杭を打ちつける音が聴こえてきた……




