第40話 蟠り
「本当に黒い流星の戦士なんですか?」
「分からない、だがドラゴンを撃退できたのはこの人たちのおかげだ、黒い流星の戦士でなくても我々は命を救われた……味方であると見て間違いないだろう」
ミキト達の乗っている戦闘機から離れた森の中で後から追いついた若い甲冑を着慣れていない青年、初年兵だろうか? と何やら話している。その後ろから遅れてぞろぞろと焦げた甲冑をきた兵士が現れる、未知との遭遇に眼を見開き戦闘機を見ている姿がゾンビの様に見えてしまったのは申し訳ない。
「どうします?」
「同行願うか」
突如現れた英雄とも言えない皆目見当もつかない存在に少しばかりの警戒心を持ちながら無精ひげを生やした男は戦闘機に近づいた。
――「近づいてきますよ?」
「そうだな……」
こちらに歩み寄る男に怯えるシーナは外に出していた頭を引っ込め身を守る体制に入る。同じ操縦席に座っていたアリスは怯える様子無く只、歩み寄ってくる男に目を向けて落ち着いていた。
「ミキト、大丈夫よ。あれはエストラスの――」
「名乗らせてもらうッ! 私の名はライン・オーガス、エストラス第一軍の隊長を務めている者だ、貴方の名前をお聞きしたい」
「エストラス……国の軍か?」
アリスの声を遮った締まりのある声で名乗った無精髭を生やした男はライン・オーガスと名乗りミキトの名を尋ねてくる。騎士道精神、なのだろう、きっちりとした名の尋ね方にはこちらもしっかりと答えなくてはならない。
「私の名前は尾形幹人ッ……夜露死苦ッ!」
ミキトは戦闘機の翼から手を掛けて地面に降り立ち、出来る限り声を張り上げて拳を左胸に当て、心臓を捧げるポーズを取りながら名を答える。名前の後に一言話そうと思ったが思いつかずヤンキーよろしく、夜露死苦と挨拶をした。
「私の名はアリス・シスト、宜しくお願い致します」
「カークル・シーナです……」
「――あふっ……おふっ」
二人は戦闘機から降りず操縦席から名乗り始めた、物怖じせず名乗るアリスと怯えながら名乗るシーナ、厳粛な雰囲気の中だったのでミキトはシーナの名を聞いて笑ってしまったが囲まれて警戒しているシーナはミキトの笑った声に気づいていなかった。気づいていたらストマックブローでも喰らっていただろう……助かった……
”やっぱり変な名前だな、笑ってごめん”
失礼極まりないと自覚しながら心の中でシーナに謝っておいた。
――「すみませんが王都まで同行して頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
互いの自己紹介が終わりライン・オーガスは王都まで同行して頂きたいと切り出してきた。
「どうする?」
「別に? あなたが決めなさい」
「……」
どうするか二人に聞いてみるがアリスは我関せず、シーナはだんまり。このパーティはコミュ障パーティかな?
「まったく……えっと、同行させて頂きます」
意見の出ない二人にため息をつき自分の判断でミキトは王都へライン・オーガスと共に同行する事にした――
「じゃあ、行きましょう」
戦闘機を道が悪いのでジープにし、乗り込もうとした時ライン・オーガスとライン・オーガスに引っ付いた青年がジープの近くまでまじまじと観察に来る。
「魔装兵器……だろうか? これは」
「王都では見たことない物ですね……それに形を変える魔装兵器なんて聞いた事が無いです」
この世界に着て何回こんなやり取りを見たか……学習済みのミキトには次にくる質問もわかっていた。
「失礼、これは魔装兵器ですか?」
「いいえ、これは車です」
やはり魔装兵器と検討をつけていたライン・オーガスに魔装兵器とは別物である事を教える。
「くるま……」
ジープを見て呟くライン・オーガスに先程の状況を聞いてみる。
「あれはドラゴンですよね? ここら辺はドラゴンが住んでいるんですか?」
アリスに魔獣の事については少し聞いていた為、予備知識はある。多分、あのドラゴンは超大型だ。
「いえ、この辺りにドラゴンは居ません、ですが数日前からこの辺りに姿を現し始めたと報告を受けて被害確認と防衛を含め出向いたのですが我々では歯が立たず……そこに黒い流星……いや、失礼、貴方が現れ助けられたのです」
「なるほど……黒い流星とは?」
先程の状況を理解し会話の中で零した黒い流星について尋ねる。
「黒い流星、それはおとぎ話の様な言い伝えで”黒い流星の戦士……黒い流星がこの地に落ちる、落ちた星は漆黒、漆黒の星に乗った者は漆黒の姿で魔法とも言えない不可思議な力を振るう”要約するとこのような言い伝えです。最近、流星がこの地に落ちたという報告も受けていたのでもしかしたら……と」
「黒い流星か」
確かに今乗っている戦闘機は黒いメタリックカラーの装甲だ、空を飛ぶ戦闘機は黒い流星と言われても違和感がなさそうだ。
「ですが今回落ちた流星は黒ではなく白だったと……」
「今回? 何回も落ちているのですか?」
「百年に一度ほどです」
ライン・オーガスの”今回”というワードから何回も流星が落ちているのではないかと推測した、ミキトの推測通り流星は今回が初めてでは無い様だ。
「結構な頻度で落ちてるじゃないか……」
黒い流星の戦士疑惑を向けられたミキトは何回も落ちている黒い流星に呆れながら既にアリスとシーナの二人が乗車しているジープに乗り込んだ。
――ガタッ、ゴトッ
「もう少し上手く運転できないのかしら?」
「無理です」
地の悪い道を走る度にジープは上下に揺すられ何回もお尻を座席に打ち付ける、上下に揺れるたびアリスの口から不満が漏れる。
今、ミキト達は森の中から木々の少なくなった地面の悪い道を走っている。森の中は戦闘機が不時着した際にできた直線の道をたどり抜けたが、森を抜けても町は見えず勿論、王都の影も見えなかった。
「しかし、ドラゴンは国の第一軍でも中々倒せないんですか?」
「そうですね……私達第一軍では防衛が良い所です」
”第一軍”と言ったら野球の一軍とかサッカーの一部リーグとかを連想して勝手に強いイメージを作っていたがそうでも無い様だ、いや、ドラゴンが強すぎるのか。
パワーウィンドウを開け白馬に乗って並走するライン・オーガスと話すがミキトには馬の脚しか見えていなかった。ライン・オーガスの率いる兵には徒歩で歩く歩兵、武器や食料を運ぶためであろう馬車がいる。
「大変だな……」
今の速度は人の足にすると早歩きほどの速さだが甲冑を着ての早歩きは辛いものだろう、その証拠にミラーの中に見える歩兵の顔には脂汗が滲んでいる。
「王都までどの位ですか?」
「この状況ですと二日は掛かると思われます」
オスプレイであれば今夜には着いていると考えていたがドラゴンとの遭遇によって計画が崩れてしまい王都への道のりが長くなる。今現在どの辺りを走っているのか知りたかったがヤンのくれた地図には簡単なルートしか記されておらず今、自分達が走っている場所が分からなかった。
「森は出たが相変わらず自然だけか……」
この世界はあまり自然に手を付けないのだろうか? クルックスでもシストでも外に出れば自然が広がり馬車が通るほどの道は整備されていたがそれ以外は自然、何も手を付けられていないありのままの姿で人の住む町と隣接していた。
「そういえば……」
ドアガラスから顔を出し後ろを歩く兵士の一人一人の装備を確認するが誰一人として魔装兵器らしき物を装備、乗っている様には見えなかった。
「どうしました?」
馬に乗っているライン・オーガスが馬上から後ろを確認するミキトに声を掛ける。
「魔装兵器は無いんですか? 国の第一軍なら持っているのでは、と思ったので……」
アリスから魔装兵器は国のエリートしか持てない物と聞いていたのでこの隊の中に一つぐらいは魔装兵器を持っている者がいると考えたがそれらしきものは見えない、ドラゴンと戦うのに魔装兵器無しで戦ったのか?
「……私達にはとても手の届かない代物です……”エンブレム無し”では……」
「エンブレム無し?」
ミキトの疑問にライン・オーガスはとてもそんな物持てませんよ……といった表情で魔装兵器は無いと説明した。
「エンブレム……称号が必要なのか……」
魔装兵器はエリートが持つ物、とも聞いていたがドラゴン退治に一人ぐらいは魔装兵器持ちを連れてもいいのでは? と思ったがライン・オーガスの何か蟠った表情を見て聞かないことにする。
話していて気づいていなかったがジープの揺れは小さくなって馬車道が見えていた、話し込んでいる間に草道を抜けていたようだ。
「何か静かだな……おい、アリス……――」
「静かにしなさい、今シーナが寝ているの」
やけに静かだなと思い声を掛けるとアリスに注意された、ミラーで確認するとシーナはアリスの肩に頭を預け気持ちよさそうに寝ていた。マイペースかっ!
「疲れたのよ……この子人見知りだから」
「知っているよ」
声のトーンを下げてミキトと話しながらアリスはシーナの頭を撫でる。
「ん……」
アリスの優しい撫でに反応して寝ているシーナは無意識に声を出す。
「ふふっ」
そんなシーナを見て微笑むアリスはまるで母親だった、いや、聖母だった。今思ったがアリスって結構お母さんだよな……ご飯作ってくれたりして……割烹着姿のアリスを想像してしっくりときた。
「ちょっと」
「はい?」
「ちゃんと前見て運転しなさい、危ないでしょ」
「……ういっす」
ルームミラーの中のアリスは微笑みながら後ろに意識を向けていたミキトに注意する。その声は先程までの娘を愛でる声とは違い、ちゃんと前方を見て運転しない夫を責めるキツイ口調だった。
”口うるさいというか、なんというか……”
口うるさい嫁を乗せミキト一家は馬車道を辿って王都へと向かう――




