第38話 ドラゴンハンター
「……」
「……」
気まずい……。王都に向けて操縦を行っているミキトの隣にはシーナに代わりアリスが座っている、シーナがわざわざ何を目的かワザと隣の操縦席にアリスを座らせたのだが一言も喋らない、沈黙は禁です。
アリスはフルフェイスのヘルメットを被った顔をこちらに向け睨んでいる、心なしか少しヘルメットの下の眼の位置が赤く光っているように見えた。
「王都タノシミダナー」
「……」
やはり何も起きない……アリスは俺が話しかけると外側を向きそっぽを向いてしまう。高所に慣れたのか怯える様子も無く空の景色を見ている。
「ツインテールが好きなのか?」
「……別に」
会話の無い二人の距離を縮めるためにまずは身の回りの物や身につけている物などの事から聞いていった方が良いだろう、小さな質問にこそ解決の糸口がある。その証拠にわずかだがアリスはミキトの言葉に反応してくれた。アリスの”別に”にはホントは好きだけど素直に答えるのが悔しいという感情が隠れているように思える。
「俺はツインテールがいいな」
ヘルメットで見えないが今のアリスの髪型はいつものツインテールからセミロングの銀髪を後ろで一つに纏めたポニーテールになっていてヘルメットから漏れた銀色の髪が太陽の光で反射している。
「……今日ポニーテールなのは偶然よ、いつもはツインテールにしているわ」
「他の髪型も似合うんじゃないか?」
「ま、まあ、私に似合わない髪型なんてないわね」
アリスは窓の外の景色から目を離さないものの、髪型を褒めたことで気を良くしたのか普通に話してくれた。
”チョロイッ! コイツチョロすぎ、攻略難易度低そう……”
少し褒めるだけで調子に乗る事は分かっていたがこれほどまでにチョロイとなると心配になる、押したら堕ちてしまうのでは? と考えるが俺の女性の理想像はグラマスなお姉さんだ、隣に座るロリキャラではない、できないんじゃなくてしないんだ。女性を攻略対象として見るヘルメットの下のミキトの眼は獲物を狙う蛇の様な狡猾さが見えた。
「銀色の髪いいですね~、私も銀色の髪が良かったです……」
アリスの髪色を羨みながら自分の肩甲骨辺りまで伸びた、今はヘルメットの中に隠れている髪を指でいじる。
シーナはアリスを操縦席に座らせた後、後部の座席近くの丸窓から自由に外を見ていたが丸窓からの景色ではやはり物足りなかったのか操縦席で外の景色を楽しんでいる俺達の方に戻ってきたようだ。
「そうかな? 銀色なんて目がチカチカするぞ」
実際、毎回アリスの髪を見るたびに派手に見える、それでいて瞳は白なんだからアリスのキャラクターカラーが白に近くてゲシュタルト崩壊しそうだ。
「……」
「でも銀色って珍しいよなっ」
アリスの視線に気づき後付けで褒めるとアリスは目線を俺から外した。そういえば、この世界に来てクルックスとシストの二つの町しか見ていないけれど二つの町で銀色の髪を生やした美少女はいなかった。王都には居るかな? まだ見ぬ獣人美少女が王都に居ることを願いながらハンドルを握り直す、王都への期待か自然と握る力が強くなる。
「瞳の色も珍しいですよね」
「ありがとう」
続けてシーナはアリスの瞳の色を褒める、女子特有のメチャ褒めだ。アリスはシーナのメチャ褒め攻撃に照れ隠しのつもりかヘルメットのポジションを直しながら素直に礼をする。
「確かに白って珍しいな」
「くどいわ」
「サーセン」
「……ありがと」
俺もシーナに便乗してメチャ褒め攻撃で今の内に好感度上げておこう、そう考えたがミキトの猿真似はアリスにとって不愉快だったのか一蹴されてしまう。全然チョロくないじゃんっ! このギャルゲーのゲームバランスどうなってんの?
上手く好感度を上げられない相手に不満を持ちながら飛行する景色を流し見するミキトにアリスは小さな声でお礼を言ったが外の景色に向いていた意識と飛行音でミキトには届かなかった。
「……」
まあ、いいわ。とアリスは別に聞こえなくてもいい、むしろ聞こえなくてよい、という様にミキトを見ていた。
「……アリスさん」
アリスのミキトに向く視線をシーナが感じ取り、アリスがミキトに向ける視線に秘めた思いに気づいたシーナだった。
「その刀で魔獣とか斬ったことあるの?」
「――っ///! な、ないわ」
外れていたミキトの意識が突然アリスに向き直り、不意を突かれたアリスは顔を反らしてしまった。
「シーナは魔獣は……殴った事ある?」
「ないです」
少し目を後ろに向けシーナに聞いてみるが魔獣は殴った事は無いらしかった。
「あれ? アリス、魔獣に遭遇したことないのか?」
「そ、それは……」
口ごもるアリス、ばつが悪そうだ。
あれ? アリスさん? 何か離陸前に魔獣の事について教えてもらったけど一回も魔獣と遭遇した事が無いのかな?
「知ったかぶりか?」
「~~っ///」
王都の件でもそうだったかコイツ知識があっても経験がないな……旅してたんじゃ無いのかよ……
アリスの怪しい点を洗っていたミキトだったがシーナの警告でそちらに意識が持っていかれる――
「――ッ!? ミキトさんッ! あれ見てください!」
「ん? 何だ……? ……おいおい、マジか」
「嘘……」
三人の会話に突如として現れた嵐、それはミキト達の乗るオスプレイの左手前方約、二キロ先に見えた、二キロ先のそれは獣人もどきのシーナで無くとも確認できるほどの大きさだった。ミキトの目に見えるそれは爬虫類の様な艶のある巨体、大きな翼、そして角、その形はミキトの知っている中ではヘラジカの角に近い大きく広げたような形をしていた。
「何かと戦っているのか?」
巨体に付いた大きな翼はを空に広がり地に影を作っていた、その影の中に小さな光が点いては消え、点いては消えを繰り返し、星の様に光っている。その光は意思があるようにドラゴンに向かっていた。
「……ここは迂回しよう!」
壁は登る物でもなく壊すものでもない、壁は危険な物をこちらに来させない為の物だ、つまり自分の身を守るために壁はある。それをわざわざ登るとか壊すとか何言ってんの? 俺は自分の身の安全を守る!
自分の身の安全を確保するためにアリスとシーナにルートの迂回を提案するが正義感の強い二人はそれを却下する。
「ダメですッ! 助けないと!」
「このまま逃げるつもりなの?」
「……」
二人のヒロインはもう助ける気満々だ、対してヒーローは未だに自分の身が可愛いのでどう行動を起こすか葛藤する。
”いやいやいや、無理でしょ、ドラゴンだよ? 二キロ先に居るのに大きいって分かるドラゴンだよ? 多分火を噴くよ? 強いって絶対。俺、モンスターズハンターズのハンターランク999だったけど今の俺のランクはせいぜい3だよ? 無理だよッ!”
二人のヒロインに迫られ葛藤するミキト、迫られている内容が内容だったら良かったかもしれない。
「ミキトさん」
「ミキトッ」
選択の時が迫る。
「――……シーナ! アリスッ! しっかり掴まっていろよッ!」
ヒーローは立ち上がった、二人のヒロインに支えられて。二人のおかげで真のヒーローとなったミキトは雄々しく叫ぶ。
「変形ッッ! 戦闘機ッ!!」
――グググッ。
ミキトの呼応に答えるようにオスプレイの機体は縮小し始め形を変えていく、操縦席はミキトの座る座席が前となりアリスとシーナの居る操縦席は後ろになる、装甲は角の少ない抵抗を受け流すスリムな形に、大きなオスプレイのプロペラは消えてプロペラの代わりにジェットエンジンとなった。
――キィィィィィィィィィィイイイッッ!
ジェットエンジンはスリムになった機体を高温高圧の噴流により加速させる。
「うっ……ぐっ」
「うんんんんっ」
「…くっ」
ジェットエンジンによって加速された機体は高速飛行をするが飛行時に掛かる圧力が三人を襲う。
「ぐっ……はっ……うっ」
胸にお相撲さんが乗っている感覚、これが近いかもしれないが圧力は胸だけでなく腕、足、首、指先まで襲う、あまりに強い圧力にミキトの握るハンドルはカタカタと鳴いていた。
”重い……意識が……飛びそうだ……”
圧力に頭を押さえられ朦朧とし出す意識、首を動かすのも精一杯で後ろのシーナ達の様子も見ることができない。
”気をしっかり持てッ、もう目の前にドラゴンが居るんだッ”
高速から音速に近づいた戦闘機は既に一キロの距離を取りドラゴンに接近していた。
”これが……ドラゴンか……”
接近した事で見えたドラゴンの咢はゴツゴツとした漆黒の岩肌が見えドラゴンの唾液によって艶を出すナイフのような形の牙が剣山の様に生えている、眼は小さく、赤く光り地獄の獄炎を眼の中で滾らせている。
”近くで見るととても大きい”
全長約一千五百メートルはある、こんな生物がこの世界には存在するのか、いや、もうこれは山だ、生物ではない。翼は空の雲をも裂き、吹き起こす風は木々をなぎ倒している。
――厄災。
ドラゴンにはふさわしい言葉だと今、実感した。
”こんなの一撃で倒さないと無理だッ!”
一撃必殺を決めるために狙うはドラゴンの鱗に覆われた長い首、この一点を狙う。
「うおおおおおおおおおおおおッ!!」
ハンドルを力一杯の腕で固定し、ドラゴンの首に突っ込む。
ビュオオオッ!
「くうううっ!」
ドラゴンとの距離約五百メートルといったところでドラゴンの翼によって生まれた突風によって機体のバランスが崩れ機体が不安定になる。
「うわあああああああああああっ」
音速に入っている機体はもうミキトの操縦では操作できず狙った首の上、ドラゴンの角へと突っ込んだ……
――ビキィィンッ! ガリガリガリガリッ!! ドッ!ドドド……――
角を砕く音と削る音が機内に響いたと同時に衝撃がミキト達を襲う、衝撃によって揺さぶられたミキトの脳は一瞬にして活動を止めた……




