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第29話 敵

――「エナ!?」

アリスに対峙しているロックコートを羽織った人物の仮面の下には確かにエナの顔があった。


「あなたは……」

「あら~ばれちゃったか~」

エナは顔を隠すそぶりも見せず悪戯がばれた子供の様に笑っていた。

「あなた今日、道場でアイツと勝負した人ですね」

アリスがエナに問いかけるがエナは口端を上げながら笑っている、その笑いは昼に見た笑顔とは違い相手を侮蔑するような笑いだった。

「エナって呼んでね~……なんてな、ふっ、あははっはははははは!!!もうダメだっ、笑えるっ」

エナは口を大きく開け腹を抱えて笑っている

「面白いですわね、本当に……」

アリスは呆れ顔でエナを睨む。


「あれだよっあれ!石板!あるんだろ?」

「知らないわね……」

エナは本に囲まれた部屋の棚を足蹴にしてアリスに”ソロモン”の在処を問うがアリスはエナに対して頑として答えようとはしなかった。

 

 

――「助けに行かないと」

ミキトは少し開いたドアから身体を通してアリスとエナの対峙している部屋に入る。今ミキトはゴーストを発動中の為、アリスにもエナにも気づかれない今の内にエナを拘束す――


――「よ~う、ミキトまた会ったな」

「ッ!」

エナに接近しようとしたその時、エナの首がこちらを向き声を掛けてきた。

”何でだ!?能力で音も気配も姿も見えないはずなのに!”

アリスはミキトが何処にいるか目で探しているがエナは確実に俺の姿を捕らえていた。

”女神さま!?どうなってるんですか!?”

ゴーストの能力を見破られたミキトはヤンキー女神に助けを求めるがいつの間にかヤンキー女神の声は聞こえなくなっていた。


「しっかり見えてるぞ~アリスのキャミソールでも拝みに来たのか~?」

ニヤニヤ笑いながらエナは俺を茶化す様に話しかけてくる。エナの声には敵意も殺意も感じられなく友人と親しく話しているような感じだったが、この状況で親しくに話しかけてくるのは恐ろしいとしか感じられなかった。

「違うね、誰が幼児体型の身体見て喜ぶんだ?」

エナに対して感じる恐怖からくる震えを誤魔化す様に虚勢を張る……が、虚勢がばれているのかエナはニヤニヤ笑いを止めずにずっとこちらを見ている。


「何かの能力で姿消してるんだろうけど見え見えだぜ~? パンツまで見えるぞ? ぷっ、あはははっ」

「くそっ」

ゴーストの能力もエナの前では意味がないようでミキトはゴーストを解除した。


「凄い装備だな~私が来ること分かってたのか~?」

ミキトの黒一色で固められた装備を見てエナは口笛を吹く。


「違うな、エナと目的は同じ多分”ソロモン”を盗むために来た」

この西棟に来た理由を正直にアリスの前で明かす。


「お前もソロモンを狙ってるの……?」

アリスの疑惑の目が俺に向く。

「ごめんアリス、聞いてくれ、訳があるんだ「聞きたくないわっ!!」

アリスに訳を話そうとするがアリスは俺を拒絶した。瞑った目からは涙が零れている。


「シーナもグルなんでしょ?騙してたんだわ……みんな嘘つきよ……信用できない……」

「アリスっ!頼む!聞いてく「うるさいっ!!」


――ドウッ。

アリスの激昂と同時にエナとミキトは本棚に叩き付けられた。


「ぐふぁっ!!」

本棚に叩き付けられたミキトはプロテクターの付いたフルアーマードボディジャケットのおかげで怪我は無かったものの、背中に伝わった強い衝撃で呼吸困難に陥る。


「ゲホっ……いてぇ~」

ミキトが叩き付けられた衝撃によって本棚の本が床に散乱し足場のほとんどを占めていた、アリスは散乱する本を踏みながらこっちに向かってくる。


その姿は怒りを表わしていた――


銀髪は黒く染まりツインテールの解かれた髪がなびいてる。

眼は白から赤に染まり怒気を孕んでいた。

俺に向かう足取りは殺気のこもった様に地を踏んでいる。


「アリス!!聞いてくれ俺は訳あって――」

――ビュッ。


ミキトの視界は横に流れたと思ったら右肩を壁にぶつけていた。


「うッ!」

何をされたのか分からず床を這う。


「ははっまじか~もしかしてソロモンってアリスなの?話が違うよ~」

壁に叩き付けられたエナは体を起こし首裏を掻きながらアリスに近づく。

「――ッ」

アリスはエナに手を払う動作を起こす――瞬間、エナはまた壁に叩き付けられた。


「ぐはっ……痛いな~――殺すぞ」

今までの間延びした声では無く低い声で脅す、その声には明確な殺意が込められていた。


「――ふっ」

昼間の道場での勝負の時の様に一呼吸でエナはアリスの懐に入り込み拳をアリスの鳩尾を狙い、放つ――


「バァーーストォォォオオッ!!」


ドッ……ゴォォォオオンッ!!

拳がアリスの身体に当たる音が聴こえ、遅れて爆風がミキトを襲う。


ミキトは壁沿いで縮こまりながら両腕をクロスさせ頭をガードしながら身を守る、しゃがんだ姿勢でも上半身が衝撃波によって揺れる。

「今の攻撃……魔法か!?」

確かにエナが拳を放つ時、拳から爆炎が吹き上がっているのが見えた。

「アリスっ、アリス!!大丈夫か!?」

離れていても強い爆風による衝撃波が来るほどの攻撃をまともに喰らったアリスは無事ではないはずだ、アリスを探すが爆炎によって発生した煙で二人の姿は見えない。


――ボウッ。

黒い煙から姿を現したのはエナだった、エナのロックコートは少し焦げ仮面は捨てたのか着けていなかった。

「おいってめぇ!アリスに何してんだ!」

煙から出てきたエナに怒号を浴びせるがエナの注意は煙に向いていた。

「何もできてねぇよ」

エナが答えたその時、煙からアリスが歩いて出てきた――


アリスのキャミソールはレースが焦げて無くなり完全に下着だけの姿になっていたがアリスの身体には焦げも傷も見えない、ダメージを受けているのはキャミソールだけだった。


「強すぎるって~」

エナは間延びした声を出しながらもアリスを警戒している。

「何なんだよあの強さ……チートじゃねぇか」

あまりの強さにただ呆然と立ち尽くすミキト――


――「う~ん?何ですか?今の音」

寝室のベットで寝ていたシーナの耳は何か爆発するような音を拾い起きた、音の源を探そうと窓を開けて外に顔を出すと西棟で小さな火が上がっているのが見えた。

「かっ火事ですっアリスさ~ん! ミキトさ~ん!」

二人を呼び起こしにシーナは部屋を飛び出た――



――「コントリーティオ」

アリスは立ち尽くしているミキトと警戒しているエナに向かって右手を向け短く唱える。


――ヴンッ。


「ちっ」

「うおおおっ」

迫る攻撃にエナは右に、ミキトは左と左右に避ける、さっきまで立っていた付近を見ると床に大きな穴が開いていて散乱していた本も跡片なく消えていた。


「あはははっこれソロモン回収とか無理だわっあはははははっ」

エナは気でも狂ったように笑っている。

「おいっ!ソロモンって何なんだよ!」

陽気に笑うエナに苛立ちソロモンについて問うがエナは答えず笑っている。


「これはダメだ~撤退~……お~い!ラーク!!助けろ!」


”ラーク?仲間か?”

エナはこの状況でソロモンの回収は難しいと判断したようで仲間を呼んだ、するとエナの隣の空間が歪みだしエナがさっき呼んでいたラークであろう者が歪みから出てきた。

「エ~ナちゃん♪迎えに来たよ~」

軽い口調でエナに声を掛ける声は若く、猫なで声が耳に障った。

「撤退だ……あと、エナちゃんって呼ぶな」

エナは先程までの間延びした話し方ではなくしつこい後輩をあしらう上司の様な話し方でラークに接している。

ラークは黄色い猿のようなデザインの仮面を被っているひょろっとした体躯の男でフード付きの黒いマントを羽織っていた。

「じゃあ、帰ろっか!」

そう言いラークは左手首を右手で触り何か操作をしている。


「――ッ!? 腕時計!?」

ラークの左手首に巻かれている物は間違いなく腕時計だった。

 シストでも時計は見たが天然革に長針と短針の付いただけのシンプルなデザインの物だけだった。しかし、ラークの着けている腕時計は明らかに合成のゴムで作られたバンドに付いているガラスで守られた文字盤に長針や短針が時を示し、その文字盤を守るように外周を精巧に作られたゴツイ金属のベゼルが見えた。


”あの腕時計……この世界の物じゃない!”

ラークの着けている腕時計は明らかにこの異世界の物とは違う。


「おいっ!その腕時計は何処で手に入れた!?」

ミキトはラークに腕時計の入手先を問うがラークは答えない。ラークの腕時計の針は反時計回りに高速で回転している。


空間の歪みはラークが出てきた時よりも大きくなり歪みはエナも取り込み始めた、エナの身体が歪みだして消えていく。

「また会おうな~」

間延びした声でミキトに別れを告げエナとラークは消えていった――


「何だ……あの腕時計は……」

ハンドスピナーに続き腕時計、この世界に無いはずの物が存在する事に動揺しながらアリスに向き直る。アリスは眼を赤く光らせミキトを睨んでいる。

その眼は殺意と憎しみに支配されていた――





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