第一章の8 新たな仲間?
クロユリ・ミンジャスは錬金術師である。
とはいっても卑金属から貴金属を作るなどといった方向性とは少し違う。
ファンタジー世界らしく、魔法に近い存在のようである(本人に言ったら怒られそうだが)
「先ほどは驚かせちゃってごめんなさいっス」
「では、改めまして。クロユリに何か用っスか?」
割れた窓を片付け、少々開放感の出た部屋の中へと案内された。
部屋の中にはベタではあるが本のびっしり詰まった本棚や液体の入った容器などがある。意外なことに花なども飾ってあり中央のテーブルは綺麗に片付いている。
服についた汚れを払い、
衝撃でずれていた眼鏡も本来の位置へと戻してあるようだ。
今までの成り行きをクロユリに伝える。空に落ちて、騎士になって、宣戦布告の領主争い、街へと移動で仲間探し...。文字にするとハチャメチャ具合が更に際立つな...。
「なるほど、事情は分かったっス。」
「だけど今のままじゃお断りッスね。」
マジっすか。断れるのも想定してたけど断られるのが早いっす。
「そこをなんとか!お前が頼りなんだよ!」
「オワリ達に協力した所で私に何の見返りがあるんすか?」
「見返りならきっと用意する!そうだな... ...と、とりあえずちょっとまってくれ、やっと辿り着いた頼みの綱なんだ。そこまで簡単に離すわけには...!」
「オワリ気持ちは分かりますが、あまり無理を言っては...。」
今の状況的に頼れるのは彼女だけだ。何か考えろ俺...。
「安心するっス。クロユリ言ったっすよ?今のままならって。」
「へ?」
自分でも驚くほど間抜けな声が出てしまった。
「焦りすぎっスよ、オワリ ちゃんとこっちの頼みさえこなしてくれれば仲間になってあげてもいいっス。人の話は最後まで聞くってお母さん教えたっスよ?」
「お前に育てられた記憶は無いが、ごもっともで...。」
「それにお前、俺より明らかに年下じゃねえか!何歳なんだよ!」
「16歳ッスよ?年下のお母さんだっていいじゃないっスかー。」
何か妙に馴れ馴れしいな!
それに年下の母親ってそれこそフィクションじゃねーか。
「で、その頼みってのはどんなことなんだ。」
外れた話のレールをカルミアが元に戻す。
「ああそれはっスね。ガルラ山の方に行って、アガパ鉱石とカサス草を取ってきて欲しいんスよ。」
「ガルラ山って言うのはそんなに危険な場所にあるのか?」
俺はカルミア達に尋ねる。
「まあ多少モンスター達は出るが、そんなに危険な場所では無いはずだ。」
「そうなのか。クロユリは今まで足らなくなったらどうしてたんだ?」
「今までは街に居た顔見知りの人たちにお願いしてたっス。でも今回の領主争いで街を去っちゃって。今までは購入してた分があったんスけどついに在庫切れってわけなんスよね。」
「頼んでる俺達が言うのもなんだが、それなら別の人に街で頼めば良かったんじゃないのか?」
「それはそうなんスけど...。訪ねて来てくれる人たちも今まで居なかったですし、それにこの小屋もそろそろボロが出てきたんで移動したいんスよね。」
「追加ってわけじゃないッスけど、フリシアっちのお家に住ませて欲しいっス!勿論どっかに行くときはちゃんと外に行くっスよ?太陽は苦手ッスけど。」
「って言ってるが、フリシアカルミアどうだ?俺としては彼女を助けてやりたいし仲間になってもらいたい。」
ある程度話がまとまってきた所で二人に話を振る。
俺には最終決定を下す権利は無い。なんたってあそこの屋敷はフリシアのもんだし。
「私は構いません。お部屋ならいっぱい余ってますし、それに錬金術師さんが居てくださったら屋敷の安全性も増しますし。」
「安全性が増す?」
「お前、錬金術に関しての知識も無いんだな。全く日本ってのはどんな国なんだ。」
俺からしたら魔法もドラゴンも居ない。それが日常だったんだけどなぁ。
「それなら私が軽く説明するッス。」
「錬金術は基本的に自然に存在する微精霊に呼びかけるッス。」
「4つの微精霊って言うのは、火、風、土、水の4つッス。そして私達自身には魔法使いなどとは違い魔力は持ってないっス。あくまで依代と言の葉に頼るっス。」
「依代とは簡単にいうとさっき取ってきて欲しいと言ったお花や鉱石っスね。そういうものを正しく調合して1つの塊にするっス。言の葉は魔法で言う所の詠唱っスね。」
「そして出来ることは魔法とは少し違うっス。錬金術はどちらかというと事前に準備をして仕込むものが多いっス。例えば依代と言の葉で土の精霊たちの力を借りて暫く、物や人を守るゴレームを作ったりっスね。」
「他には時間経過や何かをきっかけに発動するようなものっス。例えば...。そうっスね。あ、丁度良い短剣を持ってるっスね。それで私に斬り掛かって欲しいっス。」
「は?そんな事出来るわけねえだろ。」
「いいからいいから早くするっス。それとも私が信じられないっスか?ちゃんと仕込んだものが発動するッスよ」
「恨みっこなしだからな!」
そういって俺は手にした短剣を思っきりクロユリに振り下ろした。
カランッ。
短剣は足元へと転がっている。
窓からの突然の突風に体を持って行かれる。
更にはクロユリの体の前には土の壁が出来ていた。
「これで理解してもらえたっスか?まあ罠として使ったり守りとしても使えるんスよ。」
彼女を守っていた土の壁はバラバラと崩れ落ちていく。それに足元に落ちたはずの土は跡形もなく消えている。
「これで錬金術の説明は終わりっスよ。オワリ。あ、なんかこれダジャレっぽいっスね。」
「ダジャレというかオヤジギャグだな。今ので分かっただろオワリ。何で安全性が増すのか。」
「つまり、ゴレームに守りの壁、色々なトラップを貼ったり出来るってわけか。わりいな俺のせいで話が長くなっちまった。」
つまりクロユリが仲間になってくれるだけで監視カメラに警備員、ワイヤートラップに、頑丈な壁に可愛い女の子まで付いてくるということだな。
「じゃあクロユリの依頼を受けてくれるって事で良いんスね?」
「ああ、フリシア達の了解も貰えたしその依頼しかと受けたぜ!」
「で、そのガルラ山ってのはどうやって行くんだ?」
「ガルラ山だったら近くまでドラゴン便が出てるはずですわ。」
おお、飛行機にも2度しか乗ったこと無い俺がドラゴン飛行船か。
早速、クロユリの依頼を受け大樹の上の飛行船乗り場へと向かおうとする三人。
小屋の入り口へと向かおうとしたその時、クロユリから声がかけられた。
「あ、言い忘れてたッスけど、今回は急ぎで依代の材料が欲しいので私も同行するッス!しっかりと"か弱い乙女"を守ってくださいね?オワリ。」