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第一章の2 ジギタリス卿

カァンッ!


おかしいな俺の手に握られていたはずの木刀は数メートル先に転がっている。

手にはしびれが残ってるなんでこんなに擦れているんだろう。


「はい、オワリの終わりー28回目も俺に触れることは叶わなかったというわけだな」


ヘラヘラとした表情で木刀を回しながらカルミアは俺を見る


「あークソ!何回やってもカルミアに届く気がしねえ チートだチートっ!」


やけくそ気味に俺は呟く。つまりはこういうわけだ。

剣の訓練をカルミアにつけては貰っているが朝から延々と木刀を弾かれ続けている。

どうしてこんな事になったのかというと話は3日前まで遡る。


「貴方、私の騎士にならない??」


あの時俺に彼女は突然こう言い放った。


「き、騎士? 騎士ってあれか?剣でビシッバシッって感じの。」


俺は身振り手振りしながら動揺を隠せなかった。

だって突然騎士だぜ?王道ストーリーに迷い込んでしまったとでもいうのか?


「違うわ、オワリ 騎士は何も剣を使って闘うものだけのことを指すわけではないわよ。実際、カルミアは剣だけはなく多少の魔法や武術なども使えるわ。それに闘うことだけが騎士の仕事ではないわ。誰かを守る剣になる。それが騎士よ。」


でも彼女はそんな俺にスラスラと語る。

ちゃんと俺の眼をまっすぐとみながら。ああ可愛い。


「騎士になるか... 俺は特に得意なことはない。そして身分証も無い、ただの一文無しだ。それでも本当に俺は貴方の騎士?ってのになってもいいのか?」


「ええ、構わないわ。それに貴方の知らない貴方の才能があるかもしれないじゃない?」


迷いのない瞳、態度で自分と向かい合う彼女を見ていて

俺は頭で考えた 確かに俺には戻れるのがいつになるのかも分からない。

それにここは地球上の何処よりも俺が知らない土地なのである。

特に今まで何か誇れるようなものがあったわけじゃない俺の人生だ。

今日だってどうだ?ただ一人暮らしを始めてはじめての週末

新生活で新しい自分になったような気がしていただけだじゃねえか。

そんなところに今回の異世界転移。目の前には捨て猫のような俺を拾ってくれる人たちがいる。

それを断る理由は


「ねえよなぁ」


「よし決めた、俺は自慢じゃないがお気楽主義でね。なるよ、あんたの騎士ってやつに。まだ出会ったばっかりでお互い気の許せる相手ではねえだろうが俺は一生懸命やってやろうじゃねーか!」


勢いにまかせて言ってしまった。が勿論嘘はついていない。

それに俺にも、もしかしたらこの世界に来て何か魔法や特技を得ているかも知れない。


もっと言うなら助けてもらったことを抜きにしてもこんな可愛い娘の提案を飲まない理由がないじゃないか。


...のはずだったんだが、まさか何も身体的にも魔法も特技もスモモも桃も桃の内よろしく何も変わってないなんて


「結局剣の練習以外ねえじゃねえかあああああ!!!」


というわけで冒頭に繋がるのである。

そしてそれから2回を追加 結局カルミアに触れることすら叶わず。


「30回だ。そろそろ休憩にすっぞ」


カルミアは表情一つ変えない。

まるでぐっすり寝てシャワーを浴び終わった休日の朝のような感じだ髪を掻き上げている。


「ったくこっちはボロ雑巾みたいになってるっていうのにカルミアは随分と元気そうだな。」


ボロ雑巾はいいすぎかも知れねえが体のあちこちが痛え

それなのにカルミアの野郎は最初から変わらずの軽い感じで返事をする。


「そりゃそうよーお前とは鍛えてる期間が違う。それに疲れるほどオワリに追い込まれた記憶はねえよぉ」


ようやくと屋敷の中に入り、屋敷のお風呂を借りさせてもらう。

傷に少し染みるが汗が流せて気持ちいい。

その後はまっすぐ昼食の席へと向かう。少し油断すると迷子必須だ。

この3日間を通してお昼は決まって3人で食べている。

他の使用人などは居ないみたいだ。料理もフリシアの手料理!だったら嬉しいのだが

稽古の後も体力が有り余ってるカルミアが作ってくれているようだ。


一昨日は俺も料理を手伝おうと思ったのだがどうにもこの世界の食材や調理器具にはまだ慣れず、ただ手を増やさせてしまっただけの結果となってしまった。


「「「いただきます」」」


三人揃ってのいただきます。


ここで突然だが俺の頭にはてなマーク。あれ俺はなぜ異世界で言葉が通じているのかと。

今更、何を言っていると思われてしまうかもしれないが、ここまでご覧の通りどうにも落ち着いていられる状況ではなかったのである。事は急げ、さりげなく聞いてみることにしよう。


「この国の言葉ってなんていう言葉なんだ?」


フリシアが答えてくれる


「何って貴方も喋れてるじゃない。アザレア語よ」


そう言われるのもそうだわな。まあ異世界転移なんて常識外れの事象の前には外国旅行の一つの壁 言語の壁など簡単に超えれてしまうのかもしれない。


そう納得しないともうやってられない。


「ところで、オワリ、カルミア 騎士の訓練の方はどう?順調?」


眼を輝かせながら彼女が聞いてきた。


「んーまあ順調と言えば順調だろうな。剣を握ったことも無い奴がこんなにすぐ上手くなる手立ては無いってもんだ。」


俺はご飯を飲み込み口にする。

味はあまり転移前の世界と差異は感じない。

むしろこちらの方が美味しいということも言える。

まあおかずも魚料理に肉料理、スープにサラダ。まだ3日ではあるが色々あるようだ。


「まあでもカルミアのおかげで楽しくやれているよ。今まではこんな長閑な所に来たこともなかったし、剣なんて習う機会もなかったしな」


俺の素直な感想。

俺も男だ。ゲームやアニメの騎士に憧れたことは1度や二度ではない。

エクスカリバーを片手に雨の剣士と戦ったことだってある。

フリシアの顔が少し曇ったようにも見えたがなんでだ?


「よっし!飯も食ったし午後の訓練と行くか!オワリ先に洗いもんだ。手伝えー」


俺の手をぐいっと引っ張る

半ば強引に調理場へと連れて行かれる。

今朝言ったとおり意外と料理は出来る方である。勿論、皿洗いだってお手の物だ。

食材と違い、当たり前だが皿洗いはこの世界でもあまり変化は見られない。

強いていうなら液体洗剤が無いぐらいか。

皿を洗いながら雑談をするがカルミアはいつもと変わらない調子に見えた。


「午後の練習は私も観ているわ。なんたってオワリは私の剣、私の騎士様になる人だもの。」


フリシアはお花を見つけた少女のようにはしゃぐ。

彼女はしっかりとしている印象だが定期的に見せるこういう所が可愛い。


「だとよ。オワリ 少しはこれで気合が入ったか?可愛い姫様ご指名の騎士さんよっと」


カルミアから木刀が投げられる。

流石にこれを落とすほど俺は運動音痴でもカンがないわけでも無い。


「へっお前もフリシアの騎士だろ! まあ可愛い女の子が観てくれているんだ。さっきみたいな一方的な戦いをさせるわけには行かねえな!」


木刀を強く握る。いざカルミアへ一太刀をと意気込んだのだが

その瞬間、門が勢い良く開いた。


「さあぁて君たち元気かなー? 突然の訪問失礼するよぉーぅ。」


4人の人影?

第一村人フリシア第二村人カルミア以外の人と初めて出会ったなぁ。

だがしかし、その中央に立つ男は俺に思考時間などくれない。

突然の来訪に驚く間もなく中央の男が言葉を口にした。



「私の名前はぁジギタリスぅ! 突然ですまないが、エクセア領は私がいただくよぉ!」


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