冒険者組合
それから俺たちは何の問題も起こらずに町まで帰ってきた。
途中でシャルが目覚め、顔を赤くして慌てて背中から降りた。
さらにもう一度ゴブリンが現れた時に試したミーナの魔法、その効果があまりに絶大で自己強化と相手の弱体化をかけた上でゴブリンを殴ると一撃で倒せた。
その結果、ミーナの俺を見る目つきが柔らかいものに変わったこと、くらいが道中の出来事だった。
「それにしてもあなた、服汚いわね」
ミーナが早速シャルに絡んでる。さすがに止めないとと口を挟もうとすると……。
「せっかくだし、冒険者組合に寄ったあとはうちに寄って行きなさい。服も私のお下がりでよかったらあげるわよ」
そういったあと、恥ずかしげに顔を背けるミーナ。
「あ、ありがとうございます」
「そうだ、ハクも一緒に来るといいわ。くるわね?」
「あ、あぁ……」
ミーナのその勢いに押されて了承してしまう。でもさすがに貴族の家だと緊張してしまいそうだ。
ただ、俺の返事を聞き、本当に嬉しそうに騒いでるミーナを見ると今から断るわけにもいかなかった。
そして、俺たちはダンジョンから一番近くの町まで帰ってきた。
メルカリの町。
ここはダンジョンへと向かうもので賑わいを見せていた。
近くにダンジョンがあるということで高い壁に囲まれて、中に入るためには、この町の南北に設けられた門から入るしかない。
そして、そこの門には中に入るための行列ができていた。
その最後尾に並び、身分証となる冒険者証を準備しておく。
しばらく待ちようやく、俺たちの出番となり、順番に冒険者証を見せていく。
しかし、シャルの冒険者証を見て怪訝そうな顔を見せる。そして、ミーナの番では逆に仰々しい態度で頭を下げていた。
こう露骨に態度を変えられるのもどうかと思うが、シャルの服は浮浪人と言われてもおかしくないし、ミーナは貴族だから仕方ないか。
とにかくもう気にしないことにして町中を歩いていく。
石畳が引かれた通路。コンクリート造の建物が立ち並ぶ中を目的の建物に向かって進んでいく。
剣と盾の描かれた看板が掲げられた建物、そこが冒険者協会の建物であった。
建物の中は受付のカウンターがある以外は酒場と同じだった。むしろ元酒場が冒険者組合作業もしたと言ったほうがしっくりとくるかもしれない。
すでにダンジョンから帰ってきていた人らが酒をかっくらっている、その間を通り受付に行く。
「ようこそ、冒険者組合へ。本日はどのようなご用でしょうか?」
「この魔石を買い取ってもらえますか?」
受付のお姉さんに手に入れた魔石と冒険者証を渡す。
「パーティメンバーの方の冒険者証もいただけますか?」
それを聞いてシャルも自分の冒険者証を恥ずかしそうに渡す。
「そちらの方も……」
お姉さんがミーナに促す。
「い、いえ、私は……」
断ろうとするミーナを止め、小声で言う。
「(せっかくだし、出しとけば?)」
「(で、でも、そうすると報酬も三等分されてしまうわよ)」
向こうが等分に分けてくれたらパーティ内のいざこざがなくなるというものか……。
「(いいよ、このあと家に寄せてもらうお礼ってことで)」
「(ハクがいいならそれでいいわよ。シャルはどう?)」
「(私もいいですよ)」
ひそひそ話が終わり、ミーナも冒険者証を渡すとお姉さんが奥へと入っていった。
「お待たせしました。こちらの冒険者証をお返ししますね。ハクトールさんとシャルロッテさんは今回の魔石で冒険者レベルが上がっております。お金はこちらです」
お姉さんが冒険者証と銅貨十一枚渡してきたので、それらをかばんにしまってから冒険者組合をあとにした。